いじめの加害者にどう向き合う? 担任の先生が、生徒やその保護者にできること(いじめ撲滅委員会 代表 栗本顕さん)

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目次

1 はじめに

本記事は、2022年3月13日にいじめ撲滅委員会の栗本顕さんに行ったオンラインインタビューを編集したものです。栗本さんは、心理学の大学院を卒業後、全国の学生・保護者・教員を対象にいじめを中心とした教育相談を行うだけでなく、心理学のコラムなどを通して心理学の魅力や活用方法を紹介する活動もされています。

今回のインタビューでは、いじめの加害者側の生徒・その保護者の方に対して、担任の先生がスクールカウンセラーの方と協力してできることについてお話を伺いました。

2 加害者側の生徒に対してできること

いじめについて話を聞き出すには

いじめについて話を聞き出すには、聞く側の態度、場所、人数について注意する必要があります。

まず、態度についてです。加害者が抱え込んでいることを引き出す事情聴取では、決めつけた聞き方をしないというのが鉄則です。決めつけた聞き方をすると、生徒は「先生は自分を悪者扱いしようとしている」と感じて答えなくなる可能性があります。また、先生側が興奮した状態ではなく、冷静に話を聞くことも大切です。先生が興奮した状態で話を聞いてしまうと、生徒は圧迫された状態となり、本当のことを話さなくなったり、先生が望む答えを答えたりしてしまいます。

次に、場所についてです。生徒から話を聞き出す際には、2つの理由から別室での指導が望ましいと思います。1つ目に、他の生徒がいる環境では生徒が本音を話しにくくなってしまうからです。ただし、生徒にとって別室が「怒られる場所」ではなく、「話を聞いてもらえる場所」として別室に連れていくことが大切だと思います。怒られる前提だと、話を聞かなくなってしまい、生徒もその場しのぎの態度になってしまいます。2つ目に、加害者側の生徒が、他の生徒から「こいつは悪いやつだ」というレッテルを貼られてしまう可能性があるからです。それはさらなるいじめの悪化につながってしまいます。

最後に、人数についてです。担任の先生と加害者側の生徒の1対1の場合、やり取りの中でさらなるトラブルにつながる危険もあります。そのため、養護教諭の先生やスクールカウンセラーなど、加害者のケアに回れる方を含めた2人以上で話を聞いてあげるのが好ましいでしょう。

いじめの悪化防止のためには

「反省させよう」ということを念頭に置かずに、「理解をさせよう」という認識で指導することが大切だと思います。よくある例で、「反省文を書かせる」というものがありますが、先生側が生徒の反省した証拠を手にして安心したいという気持ちが先行しすぎてしまうことがあります。しかし、それは実は本当の意味での反省ではなく、その場しのぎになってしまうので、加害者が「なぜこのような行為を行ってはいけないのか」「なぜ自分がこのような行為を行ってしまったのか」という2点については理解をさせるように指導することが大切だと思います。そのためには、加害者側の生徒自身に「もし自分が被害者だったら」と置き換えて考えてもらうことが大切です。その際に気を付けないといけないのは、「その生徒に実際に被害を受けてもらう」ような形は、ある意味学校側がいじめを肯定していることにもつながりかねません。ですから、被害者の立場を想像させたり、被害者の保護者の立場を想像してもらったりすることが有効だと思います。

いじめの再発防止のためには

加害者側の生徒に、いじめ問題が起きた際は学校側が動いているんだ、ということに気づかせることが大切だと思います。担任以外の先生がクラスに来るようになったり、担任の先生が今までよりも自分たちに声をかけるようになったりする変化があると、生徒側もことの重大さを理解するだけでなく、学校側が何か対策しているのだと知ることで、再発防止につながると思います。

同様に、被害者側の生徒と加害者側の生徒の双方に声かけをしている様子が他の生徒に伝わるようにすることも大切です。加害者側の生徒に対しては、加害者生徒を注意するような関わり方ではなく、最近の出来事などについて雑談する関わり方でかまいません。そうすることで、他の生徒も加害者側の生徒にも被害者側の生徒にも声かけしやすい雰囲気が生まれるでしょう。

いじめ問題を授業などで扱う際には、クラスの中で起きた事件は、直接扱わない方がよいでしょう。被害者視点でいえば、自分が被害を受けた負のことを人前で取り扱われることが負担になりますし、加害者視点でいえば、本当に反省しているのにも関わらず、さらに人前に晒されることが心理的な負担になってしまいます。また、全体で取り上げることで、いじめがさらに顕在化して悪化してしまうこともあるでしょう。そのため、そのいじめに関する別の事例を用いて話すことが望ましいと思います。

3 加害者側の生徒の保護者に対してできること

よくあるのが、保護者の方にいじめの現状を話して、「家庭でも注意してください」と伝えてしまうことです。しかし、保護者の方からいじめについて注意してしまうと、学校でも家庭でもいじめについての反省や理解をさせ続けることになり、生徒側も「もうわかったよ!」と注意を聞かなくなってしまう場合があります。加害者側の保護者の方には、生徒の家庭での様子と、その保護者の方自身が困っていることを尋ねるのがよいと考えます。加害者側の生徒は、何かしらの心理的負担を抱えているケースが多いです。その負担が学校から来ているのか、家庭から来ているのかを判断することが必要です。そのため、生徒に影響を与えるようなトラブルがないかを聞いてあげることが大切です。

とはいえ学校の先生は忙しいので、保護者の方のケアについては、スクールカウンセラーの方に引き継ぐことが望ましいでしょう。学校の先生には言えなくても、スクールカウンセラーの方には言えることもあると思います。保護者の方にしてみれば、担任の先生に家庭の事情を伝えることで、自分自身の子どもの見られ方が変わってしまうのではないかという不安がつきまといます。中学生であれば、内申点などを気にして保護者の方が担任の先生に相談しない例も多いです。そのため、先生から一線を引いたスクールカウンセラーに保護者の方の相談に乗ってもらうことが大切です。

4 スクールカウンセラーと協力してできること

いじめの悪化防止のためには

まずスクールカウンセラーに被害者・加害者の様子を見てもらうことも大切ですが、クラスや学年の様子を見てもらうことも大切です。多くのいじめは、そのいじめをクラスや学年が黙認してしまっていることが問題です。その状況を専門的な視点で見てもらうことで、根本的な解決につながることが多いと思います。

とはいえ、スクールカウンセラーが決められた時間しかいない学校もあるとは思いますので、その場合では今まで生徒と関わりのない先生にクラスや学年の様子を見てもらうのがよいでしょう。今まで関わりのある先生であれば、どのような先生かを知っていることで生徒がその先生とフレンドリーになりすぎてしまうため、本来の状況把握につながらない危険性があります。

いじめの再発防止のためには

担任の先生は、その生徒と関わっている時間が長く距離も近いため、加害者側の生徒に対して、注意しすぎないこと、心理的ケアをしすぎないことが重要だと思います。担任の先生がスクールカウンセラーと同様の心理的ケアをすることで、特別感がなくなってしまい、生徒側から「ここだから話せる」というような本音が引き出せなくなってしまいます。そのため、担任の先生とスクールカウンセラーで役割分担をすることが大切です。

5 いじめ指導について困っている担任の先生にむけて

いじめ指導では、先生側が悩みを抱え込まないこと、そして決して1人で判断して対応しないことが大切です。1人で判断してしまうと、自分自身の考え方の偏りがありますし、感情的になってしまうことも少なくありません。積極的に専門機関や周りの先生に相談することが大切です。周りの先生に相談する際には、まずはいじめのことを他言しないと信頼のおける先生・スクールカウンセラーに相談してみるのがよいと思います。

先生1人の力ではなかなか難しいですが、多忙を極める中でそれぞれの生徒をケアするためにツールを利用するのも1つの手だと思います。例えば、私が関わっているスクールコンケアというツールでは、生徒の登校時と下校時に、その日の気分をタブレット上で選択してもらうことで、心理状態を把握することができます。また、状態に異変があった場合は、その生徒について先生に通知がいくだけでなく、生徒にも誰かへの相談を勧める通知がいくようになっています。このようなツールや工夫のなかで、生徒全員の様子を把握できるようにすることがいじめの未然防止や再発防止につながると考えています。

6 プロフィール

栗本 顕(くりもと あきら)

1991年千葉県生まれ。自身のいじめ被害経験から、心理学を専攻。大学院在学中から電話教育相談員として現場で経験を積む。大学生時代から現在もいじめの研究を続け、学会発表等を行い、その経験から「いじめ撲滅委員会」の代表を務める。その他、「東京メンタルヘルス」にてカウンセラー・講師・プランナー・いじめ不登校自殺防止コンサルタント会事務局長を兼任。(2022年3月13日時点のものです)

7 関連情報

8 編集後記

いじめの指導の際には、被害者への対応やケアに注目が集まりがちですが、いじめの再発防止などの観点から、加害者に対しても対応やケアが必要という視点を持つことも大切だと改めて感じました。多忙な学校現場の中で、生徒対応や保護者対応などになかなか時間を割くことができないことが多いからこそ、スクールカウンセラーへの相談や、生徒の心理状態を把握するツールなどの利用が非常に有効だと思います。
(編集・文責:EDUPEDIA 編集部 安藝航)

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