「猛暑・虫害・土づくり」小学校で植物を育てる ~ 教師も楽しい理科実験

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失敗

 今年、ホウセンカとマリーゴールドを育てるのに失敗しました。(2024年・夏に書いた記事です)
今まで全学年で様々な植物を育ててきて、ほとんど失敗をしなかったので、とても残念な気持ちでいっぱいです。今年は海の日を含めた3連休があって、そこは休日出勤して水を撒いてなんとか切り抜けたのですが、夏休みに入った直後の土日、まだ家に持って帰っていなかった児童の約20個の植木鉢の半分が修復不可能なぐらいにやられてしまいました。夏風邪をひいて、休日出勤ができなかったのが悔やまれます。
今年は7月に入ってから、豪雨に悩ませる地方がある一方で、私の勤務校は晴天が続き水撒きがたいへんでした。

植物を育てるにはとても時間がかかりますし、育てるノウハウもわからなかったし、特に植物に興味がなかったので、教師になりたての頃は仕事として植物を育てるのが辛かったです。しかし、子供たちと農作業をし、失敗を含めて経験を積んでいくうちにだんだん植物に愛着がわくようになってきました。ここ数年は少しだけ楽しいです(笑)。今回の失敗は興味深かったので記事にして記録しておきます。

植物を育てるのがあまり教師の負担にならないように、そしてできるだけ失敗を回避できますように。

小学校で扱う植物は育てやすい?

小学校で扱う植物がどうやって決められているのかについては、よく知りません。例えば学習指導要領3年生理科では、

 「植物の育ち方」については,夏生一年生の双子葉植物を 扱うこと。

と記述されています。何を植えるかに関しての指定はしていません。それぞれの学習(実験・観察)の目的に合ったものを育てればよいということでしょうか。どの教科書を見てもほぼ同じような植物が載っていて、実験や観察の対象として扱われています。「小学校の理科教科書に載っている植物は育てやすいものが選ばれている」と、先輩の先生方からよく聞かされましたし、自分が様々な植物を育ててきた経験からもそう思います。あまり植物が好きでない私でも、失敗をしたことはありません(今年が史上最大の失敗です)。

 12年:サツマイモ・ヒマワリ・ミニトマト(12年は生活科)

3年:ホウセンカ・マリーゴールド

4年:ヘチマ・ゴーヤ

5年:インゲン豆

6年:ジャガイモ・ホウセンカ(但し、実験用として扱う)

あたりが教科書に載っていることが多く、私は今まで教科書に素直に従ってこれらを育てることがほとんどでした。学習園が広いときには、ヒョウタンやナス、ビオラ、オクラ、コメなどを育ててみたこともあります。食べられる植物は子供たちには好評です。

ホウセンカとの戦い ~ 土・虫・暑さ

以前在籍していた学校で一人が植木鉢一鉢を所有して6年間をかけて毎年、植物を大事に育てるという取り組みをやっていました。なかなか良い取り組みです。今年は転勤があったことも影響して色々と事情があったため、一人一鉢は諦めかけたのですが、子供たちが育てたいと言うのでチャレンジしてみました。

「水をあげなくて枯れたら、それは自分の責任だからね。責任をもって育ててください。」

「とは言うものの、水をあげていない隣の植木鉢の土がガチガチに乾いていたら、それはお情けで助けてあげてね。」

と、子供たちには話をしました。

今年の3年生はホウセンカとマリーゴールドを育ててみました。6年生が顕微鏡で気孔を観察するのにも使えます。ところが、これまでになくうまく育てることができませんでした。

  • 土が悪かった・・・学習園から取った土が良くなかったようです。連作したわけではありません。肥料を十分に混ぜ込んだはずだし、苦土石灰を撒いて弱酸性を目指しました(適量だったかどうかは不明)。ところが、うまくいかない。植物を育てるには土づくりが成否を分けるのに、この段階で失敗してしまいました。子葉や本葉がやっと出てきたところで成長が止まったままになってしまいました。残念。
    仕方がないので子供たちに「ごめんねー」と謝り全員の鉢から教師の作業でもう一度作り直した土に、根を痛めないように移植しました。すると、1週間もせずに育ち始めました。色もよく、元気になってきました。改めて、「土づくりは大切」。
  • イモムシが、ヨトウムシが・・・ところが、今度は幼虫が付き始めました。セスジスズメという黒色をした蛾のグロテスクな幼虫です。幼い葉が好物であるらしく、前日に点検した時にはいなかったのに、次の朝には本葉をほとんど食べつくすという虫害です。ホウセンカを育てるのは多分、3回目ぐらいです。これまではワンシーズンで1匹ぐらいしか見かけなかったのが、私のパトロールだけで20匹以上を退治しました(子供もパトロールしていたので、もっといたようです)。半分以上のホウセンカが虫害に遭い、4分の1ほどが再起不能となる大惨事です。
    そしてイモムシは猛暑の後、少し涼しくなった頃に生き残ったホウセンカを再び襲いにきました。ちょうど花が咲き始めた頃です。ワンシーズンでこんなにイモムシと闘うことになるとは思ってもみませんでした。
    マリーゴールドも、(犯人は特定できませんでしたが)たぶんヨトウムシにやられました。こちらは4分の3ぐらいがやられました。ここまでやられるのは見たことも聞いたこともありません。こんな事態に備えて、プランターで20株ほどの予備を育てていたので、ほとんど葉がなくなってしまって残念そうにしている子供たちに分けてあげることができました。予備を育てておくのは大事です。
  • 猛暑・・・土と虫の対策をしてこれでやっと育つかなと思った頃に、猛暑がやってきました。「先生は水をあげないからね」と突き放しつつ、毎日、武士の情けで水をあげていました。ところが。今年の猛暑は相当きつく、夏休みに入ってすぐの土日のだけでほとんどのホウセンカがしなびてしまいました。私の体調が悪く学校に水撒きに行けなかったため、2日間水をあげることができませんでした。金曜日の夕方はたっぷり水をあげて帰ったのに。少し葉がしおれることはあっても、ここまで残念な状況は初めてです。こうなってしまうと復活は難しいです。

昨今の暑さでは学校での植物育成は難しいのかもしれないです。1年生の時に子供に買わせる青色のプラスチック植木鉢では保水力に限界があります。

密を避けて子供の植木鉢から間引きしたホウセンカを移植しました。大きいプランターが足りなくなって結局小さいプランター(7L程度)に密に移植したホウセンカもこの通り。密は水分の取り合いになるからダメなようです。

学校で一番大きいプランター(28L程度)で育てたホウセンカ(下写真↓↓↓)は保水力が高く、後述するように元気に育ちました。保水力、大事です。

植物は根の部分が土から上の部分と同じぐらいの張り具合になるとよく聞きます。しっかり根を張らないと大きくなれないのです。

ついでに実験も兼ねて小さい植木鉢(700ml程度)に間引いたマリーゴールドとホウセンカを移植してみました。マリーゴールドは半分ほど生き残りましたが、ホウセンカは1個を残して全滅でした。残った1個も10cm程度しか育ちません。マリーゴールドより小さいです↓↓↓。植木鉢の大きさ(≒保水力)は、大事です。

ヘチマも実験的に同じ植木鉢(700mL程度)で育ててみました。なんとか蔓がネットに巻き付いたものの、とても貧弱で、すぐに弱って枯れていきました。学習園に植えた方は葉が大きくてネットを駆け上がるようにして育ち、棚を覆いつくしています。保水力(大き目の植木鉢)が大事なことがよくわかります。

2年生が植えていたミニトマトも子供の植木鉢ではなかなか育たず、ひ弱い茎で小さい実がなるに留まっています。こちらも苗を植える時期が遅れ、学習園の悪い方の土を使ったそうです。

早い時期に学習園に植えたミニトマト↓↓↓。黒いシートでマルチング(地表を覆って水の蒸発や雑草を防ぐ)もしました。こっちは巨大になって実が鈴なりについているのに・・・。

それでも、トマトが大好きなカラスがやってきて、実が赤くなったとたんに持って行かれてしまいます(鳥害)。農業って、難しいのですねえ。今回の暑さにやられた失敗から、

植物には十分な土と間引きが必要であり、間引きは肥料や水の取り合いを回避する効果がある。

ということがよくわかりました。水分の供給の重要性を子供たちといっしょに学習できたと思います。

不思議なことに同じように育てても、猛暑の中しなびずにきりっと立っているホウセンカもありました。この植木鉢の主の子供が言うには、「みんなと一緒に行動したので特別なことはしなかった」です。これは、下に黄色い受け皿がついていて、そこから給水するタイプの植木鉢です(底面給水タイプ)。でも、ペットボトルは上を向いたままで、下から給水していた様子はありません。個体の「暑さに対する強さの違い」なのでしょうか。

猛暑の夏が来るまでに

それにしてもこんなに残念な結果になったのは教員人生初です。失敗から学ばないといけません。

  • 諸事情があって種を蒔くのが遅れたのは良くなかったです。昨今は梅雨が明けるや否や猛暑が来るのが普通になっています。プロの農家だって野菜作りがうまくいかずに値上げを招いています。教師は素人なのだから、猛暑対策としてなるべく早い時期に種を蒔くという意識を持って授業を進めないといけませんね。涼しい地方にある学校なら大丈夫かもしれないけれど、暑い地方は急ぐべきです。7月に入ると土日の2日間、水をあげられないことが致命的になります。
  • 種を蒔くのが遅れたせいで7月初めに蕾さえひとつもついていませんでした。本当は7月初めの懇談会中に保護者に持って帰ってもらいたかったのですが、あまりにも育っていない状態で「持って帰ってほしい」というお手紙を出せませんでした。早い時期に蒔いて、梅雨明け前には持って帰らせ、休日も家で水をあげるようにすれば違う結果もあったかもしれません。※ 野菜を植えるときは始業式直後から始めてもいいかも知れません。早く育てれば学期末に実ができて、学校でワイワイと収穫を楽しめます。
  • 土づくりに種まき培土を使う・・・児童数が多いと予算が大きくなってしまいます。予算に余裕があればこんな贅沢もありかもしれません。
  • ペットボトルを使った補給をする。・・・底面から給水するタイプと、上から突き刺して給水するタイプ(↓)があります。休日前にはペットボトルに十分に水を入れることを徹底して指導する。ただし、水がすぐになくなるので、綿などを詰めて水が出にくくし、斜めにさして水圧を下げるなど調節をしないといけませんし、調節はかなり難しいです。

  • Google等で「留守中 水やり タオル」で検索してみてください。試したことはありませんが、毛細管現象でバケツから給水できるそうです。
  • 植物用保水ポリマー・・・ガーデニング好きの方に聞くと、土に混ぜると保水力がアップするポリマー(化合物)があるそうです。そこそこ高いという問題があって、学校予算では難しいかもです。
  • 休日の給水は自動水撒き装置を設置する・・・これも予算の問題が…
  • 土日の前に天気予報を確かめて、雨が降らないようであれば日陰に避難させておけばよかったです。せっかく一人一鉢で可搬性は良かったのに・・・後悔先に立たず、後悔後を絶たず。「猛暑が予想される土日に水をあげられないなら、日陰に移動させておく」というのは、知見として共有しておきたいです。(面倒だなあ)
  • そもそも草丈が大きいホウセンカを育てるには児童の小さい鉢では難しいのかも知れません。大きいプランターのホウセンカが生き残っているのを考えると、保水力の問題は大きいのでしょう。
  • スペア・・・上手く育たなかった子供に、あげられるように予備を露地栽培(学習園で栽培)あるいはプランターで栽培しておく。植物が上手く育たないのは「種や苗や教師の指導の不味さのせい」である場合もあるので、子供ががっかりしたままにならないようにスペアを育てておくのは大事です。

失敗から学ぶ

農業や園芸は経験値がものを言います。土づくりの時点で、どれくらいの㏗がいいのか、肥料をどのくらい入れるのかなど、素人の教員に多くの課題をうまくクリアするのは難しいです。学校に1人は園芸に精通している人を育てるべきだと思います。イニシアチブをとってアドバイスをしてくれる人。離農が進み切った都会では年配の教員でないと知識・経験に乏しく、分かっている人がどんどん少なくなっています。

子供への指示も難しいです。いつも、

「たくさん土を入れないといけないよ」

と指示をするのですが、いつも土の量が少なすぎたり、はり切って土をぎゅうぎゅう詰めに固めて入れてしまったりします。

「満タンに、ふわっと入れてあげてね」

にすると少しはましになります()。満タンにしてもふわっとなら、水を入れるとかさが減りますから。

失敗も学びにはつながりますが、できれば花を咲かせてやりたいと思います。今回の失敗からの学びは、私にとっては有益でしたが、子供にとってホウセンカを育てるのは初めてでしょう。もしかすると、一生に一回きりになるかもしれません(スペアを育てておいてよかったです)。

今後は、猛暑は毎年やってくることを想定して、早く種を蒔いたり苗を植えたりする準備に取り掛かるようにしていきたいです。

植物や天気に関する単元は屋外の自然を相手にしているので、授業の進度の都合に合わせて育ったり、都合よく雨が降ったりしてくれるわけではないのが難しいです。教師が知識を共有しながら、声を掛け合って作業を進めて伝承していかなくてはならないと改めて思いました。大変ではあるのですが、花咲く喜びを教師同士、子供同士で分かち合えるといいですね。

成長を見つめることは楽しい?

最後に、夏休み中に自宅に持って帰ってしっかりケアしたホウセンカを紹介します。

夏休み中には学校が閉まってしまう期間があるため、やむを得ずプランターといくつか残った植木鉢を自宅に持って帰りました。今回の不作を挽回したいという思いもありました。毎朝毎夕忘れずに水をあげ、午後2時辺りからは日陰になる場所で育てたホウセンカが下の写真です。



草丈が80センチ程度まで育ち、花もたくさん咲きました。
日陰になる時間をどのくらいにするのがベストなのかは、まだ少し謎が残ります。持って帰った3つのプランターが、置く場所の違いで下のような結果になりました。

①午後2時ごろから日陰になり始めるものは、旅行で水やりを1日できない日があると、ヘタってしまって危険的な時期がありました。②もヘタっていたのですが、①の方が重症でした。

②午後1時ごろから日陰になるのが上の写真↑↑↑のプランターで一番よかったです。間引いで2本にしようかどうか迷って、結局3本で育てました。他のプランターは間引いて2本にしたけれど、あまり影響がありませんでした。水をしっかりあげることは間引くことよりも重要なのでしょうか。

③午前11時ごろから日影になり始めるものはやや葉の数が少なかったです。①②と比べて75%程度の葉の数です(正確に数えたわけではありません)。

と、日当たりの調節でずいぶん状態が違ってきます。

自宅に持って帰ったこれらのプランターや植木鉢は、2学期が始まってまた学校に戻しました。9月だし日陰に置いておいたから大丈夫かなと思って土日の水やりをさぼると、月曜の朝、再びすべてのホウセンカが倒れていました。金曜日の夕方はたっぷり水をあげて帰ったのに。急いで水を補給したらまた元に戻ったのですが、危ない、危ない。そして、ずっとイモムシがやってきて新芽をムシャムシャ食べます。こんなにイモムシを見たのは初めてです(こんなに暑くて蚊も出ないのに何故かイモムシは元気)。

正直なところ、何が正解なのかわからないほどの猛暑でした。それでも、何とかここまで育てることができ、成長を見つめるのは楽しい作業でした。

子供の成長でも植物の成長でも、そこに関わることができるのはいい仕事です。

自宅にまで持って帰って育てるのはけっこうな時間的負担があます。教師の働き方としてはどうかと思いますが、今回の猛暑での栽培において得られた知見「水分を十分に供給する」「日照時間を調整する」「早い時期に植えてよい状態で持って帰らせる」「土作りはしっかりやる」を少しでも共有できれば・・・。

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