はじめに
前編では、NPO法人エッジの会長である藤堂栄子さんに、「読み書きの集団アセスメント」についてお話を伺っています。こちらもあわせてご覧ください。

この記事では、ディスレクシア当事者団体として25年間支援・啓発活動を継続してきたNPO法人エッジの会長である藤堂栄子さんに、音声教材「BEAM」についてお話を伺います(このインタビューは、2026年9月8日にオンラインで行われたものです)。

ディスレクシアとは、学習障害(LD)の中核で読み書きがすらすらと正確にできない症状です。全般的に知的発達に遅れはありません。
充分な教育の機会があり、視覚・聴覚の器官の異常がないにも関わらず症状が現れた場合に称します。
大脳の仕組みによってそのような症状が出ると考えられています。

音声教材BEAMは文科省の委託を受けて研究開発された教材です。
BEAMの特徴はあえて音のみ。音声は自然で正確な読み方・間の調整・イントネーションまでなおされていること。MP3形式で提供されるため手軽で携帯性が高く、本文を中心に内容理解がしやすい構成で音声化されています。
普段聞いている音楽と同じ感覚で利用できます。
プロフィール

藤堂栄子(とうどう・えいこ)
認定NPO法人エッジ会長。長男が英国留学中にディスレクシアと診断され、日本での支援を求める長男の言葉をきっかけに、2001年にエッジを設立。自身も当事者であり、保護者・支援者・研究者の立場から、一人ひとりに合った学び方を広げる活動に取り組む。エッジの活動を通じて、読み書きのアセスメントや音声教材の開発・普及、教員研修、本人・保護者への相談支援を進めている。
藤堂栄子さんインタビュー
音で学ぶ選択肢を、日本の子どもたちにも
——音声教材BEAMを作るにあたって、最初のきっかけや理由は何だったのでしょうか。
藤堂栄子さん(以下、藤堂):我が子がイギリスに留学したとき、コミュニケーション能力はあるけれど、読み書きが大変だということに気づいてくれて。学校がアセスメントをして、すぐに音声による学びを提供してくれました。それでやる気を起こしたのです。
日本語には、ひらがな、カタカナ、漢字があります。音でちゃんと聞くためには、漢字の読みはもちろん、イントネーション、それから間も大事です。どこに間を入れるかによって、意味や理解も変わってくるのです。そんなに時間をかけずに、均質で質の高いものを提供することが大事だと考えて、BEAMを作り始めました。
音声を「どのクラスにも普通にあるもの」に
——音声の質や「間」にもこだわっているのですね。BEAMを、教室の中でどのような存在にしていきたいとお考えですか。
藤堂:どのクラスにも普通にあるものにしたいです。あるべきだと思うのです。ディスレクシアに限らず多くの子が、「音で聴いて理解する」ことができます。私は、この音声を「基礎的環境整備」だと考えています。例えば、階段の代わりにスロープを設ける。車椅子の人だけでなく、けがをした人や荷物を持っている人も使えますよね。「この人が足が悪いから作ります」ではなく、もともとあるものなのです。
教科書会社には中小企業もいっぱいあって、それぞれが質の高い音声を作るのはとても大変です。どこの教科書も、ちゃんといい音で提供できるようにする。そういうインフラ整備が必要だと考えています。
自分に合う使い方が、学ぶ意欲につながる
——「これがあってよかった」という声や事例を教えてください。また、BEAMはどのような人に合うのでしょうか。
藤堂:本当にいっぱいあって、学校に行けるようになったということもあります。試験のときに音声で聞けます、答えは選ぶことでいいですよ、とすることで、20点だったのが80点になったとか。やる気が変わって、得意科目になっていくこともあり得るのです。
音で学ぶことにつながるという意味では、どの段階でも、誰にでも有効なのです。例えば、単元の前の先取りとして内容を理解することもできますし、試験の前に内容を思い出すために使うこともある。成長に従って合う方法は変わっていきますけれども、音で聞くということには、いろんな使い方があるのです。

教科書の先にある、生涯の学びにつなげる
——教科書に限った話ではないという点が印象的でした。学校を出た後にも、耳から聞けることで選択肢が増えるということでしょうか。
藤堂:そうなのです。教科書なんて、使う本の中のほんの一部なんです。音で学べる、内容がわかるということに目覚めれば、国会図書館の「みなサーチ」や、音で聞ける小説などにもつながっていくのです。
ディスレクシアは、ある時点だけではなく、一生続くものです。私がそうだとわかったのも60歳になってからでした。だから、早いうちに「自分はこういう方法で学べば大丈夫なんだ」と理解して、その手段を手に入れる。それを使って生きていけるし、試験も受けられる。とても大事なことだと思います。
10月のディスレクシア月間に、知ること、伝えることから
——10月のディスレクシア月間にあたって、先生方に伝えたいことを教えてください。
藤堂:10月にディスレクシア月間を設けていて、日本では6つの大きな団体が参加しています。まずは「ディスレクシアというものがある」「うちのクラスにもいる」と気づいてほしいです。読み書きだけに力を入れて、本来持っている面白さや良さ、能力が発揮できないのは、すごくもったいない。そのことに思いをはせてほしいです。
先生方同士で「こういうことについて学んでみよう」とか、「この子にこんなことをやってみたら、こんなことが起きました」と事例をシェアする。それから、ご家族や教員以外の友達にも話してもらう。10月の間に「ディスレクシア」という言葉を3回は使ってみていただければと思います。
LD・ディスレクシア支援に関わる6団体で協力してディスレクシアの情報や啓発イベントを掲載中。
Peatixからディスレクシア月間に登録すると(無料)、2026年ポスター・チラシデータやロゴ、ファクトシートのダウンロード、前夜祭後夜祭への参加が可能。
編集後記
音声の方が頭に入ってきやすいタイプの人はいる。しかし、自分がそのタイプだと気づかず大人になる人もいる。教室の中に「BEAM」があるということ。それは、子どものうちに自分に合った学び方を知るチャンスだ。そして、一度身につけた学びのスタイルは、学校を卒業しても、社会人になっても変わらないだろう。
文責・瀬戸大智 (EDUPEDIA編集部)



コメント