3. 実践指針—当たり前だが大切なことを—
音楽の授業をやる前に、学習の基本的なルールの確認をしました。学級担任をしていたことが役立ちました。
まず、「学校は何をするところでしょう。」と質問しました。
即座に「勉強するところ」とどのクラスも答えが返ってきます。「もう一つあるけれど、何でしょう。」と聞くと、すぐには返答が返ってきませんが、徐々に遊ぶところであることに気付いていきます。
そこで、「学校は、勉強するところ、友だちと仲良くするところ」と伝えて、紙に書いて1年間掲示しておきました。
音楽の授業中、遊びたくなったような児童がいた時、友だちと言い合いになりそうな時、掲示してあることを示して再確認するのに役立ちました。
音楽が息抜きや遊びの時間になってほしくなかったのです。
4〜5月ごろ、誰かしら話していたり動いていたりすることも気になっていたので、静かさの体感をする時間を取るようにしました。音を大切にしてほしいという願いもありました。
「音楽室の中の音を聞いてみよう」とか 「しーんとしてみよう、外からどんな音が聞こえるかな」など声かけをしてみました。
これは、音楽を聴くにも、児童を落ち着かせるのにもとても効果がありました。
この他にも、よく子ども達に言った言葉を記します。
「耳で聴こう、目で聴こう、心で聴こう」
子ども達の演奏発表や意見を聞くときなどよく使いました。
気を付けの時は、足ピタ・せなピン・くちチャック」
足ピタとは足を床にぴったり付けること、せなピンとは背中をピンと伸ばすことです。慣れてくると自分たちから言っていることもありました。
「やればできる、絶対できる、必ずできる。もしできないのならそれは自分の中にやる気が無いからです。これから私はやります。」
チャレンジしようとする活動の時、よく児童に話しました。これは、盲目の電子オルガンの奏者が言った言葉です。ムリー、デキナイ、とすぐ言ってしまう児童にもがんばる力が与えられたと思います。
「音楽は脳によい働きをします。勉強ばかりしていると元気がなくなってしまうことがあるそうですが音楽はそれを防いでくれる働きをするそうです。」音楽は人を幸せにしてくれます」
など音楽のもつプラスの力も伝えました。「音楽は人と人を結んでくれる素晴らしいものですね」子ども達が友達と好い表情をして音楽をしていた時などに実感を込めて言いました。
4. 指導法の工夫
音楽の授業でも、学習を進める上で工夫したことがあります。
音楽当番を名前順に決め、始めや終わりの号令を掛けたり授業の始めにみんなで歌う曲の選択をしたりしました。
曲は、みんなが持っている歌集から選びます。1年間で1回は必ず当番をします。選曲する時にその子の思いや主体性が表れました。季節感のあるもの、好きな曲、曲名で決めたものなど、様々で、どんな曲を選ぶかみんなで楽しみにしていました。季節を感じる曲として、「小さな秋見つけた」「ジングルベル」「お正月」「うれしいひなまつり」他、あまり知らない曲を選んだ場合は、CDで聴いて味わうようにしました。
その時間に何をやるのかが分かるように、黒板の端に「学習のながれ」を毎時間掲示しました。音楽室に入ってきて今日は何をするのかを自分で確認していました。大まかな流れとしては、
1今日の歌
2リコーダー奏
3今日の学習のめあて
ですが、リコーダーの曲名やめあての内容も書いておきました。始めに「発声」を入れることもありました。学習の流れが掲示してあると、最後に振り返りをしたい時にも役立ちました。児童にとって今日の学習すること・学習したことが見え、その積み重ねが自信をもつことに繋がったようです。
また、私がうっかり学習内容の一つを忘れてしまいそうな時、子どもから「先生、○○○は、やらないの?」と言われてしまうこともありました。
また、歌とリコーダーは毎時間扱うようにし、特にリコーダーは抵抗がないように易しく演奏できて楽しい曲を選曲しました。ある程度できるようになってからは、興味のありそうな曲や美しい曲、楽しい曲などを、学年に応じてやるようにしました。
また、視聴覚機器を有効に使うようにしました。特に、郷土の音楽、アジアや世界の音楽を鑑賞する場合、音だけではなく民族楽器や演奏している様子を想像するだけでなく、視聴するということはとても重要だと考えています。早速、DVDを購入していただきました。じっくり音楽を聴かせたい場合はCDで、全体の様子を感じ取らせたい時はDVDを使いました。
また、オーケストラの様子、楽器を演奏している様子、指揮者の様子などがよく分かりました。指揮者の指揮の振り方をみて、真似をしていることもよくありました。音楽に合わせて指揮をすることで、感じ取ることも多かったようです。
授業では、クラス内での発表や聴き合いも機会をつくって取るようにしました。クラス全員で合唱や合奏をした時は、異学年に聴いてもらう機会もとりました。相手意識をもって練習することは、集中力を高めるようでした。
また、興味がもてる教材として、子ども達に人気ある曲もリコーダーで吹きました。「カントリーロード」「ポニョ」や「キセキ」「羞恥心」などをリコーダーで吹けるように楽譜に書きました。他学年がやっているのを知って、楽譜が欲しいといってくる児童も多かったので、音楽室に楽譜を置いておき、自由にもっていけるようにしました。3年生も意欲的でした。
音楽の記号や音符などは、フラッシュカードを使って、親しめるようにしました。また、楽譜がよめるようにしたい時も、つかいました。
歌うときに歌詞を掲示することがありますが、その時は、毛筆で書くようにしていました。
後ろの席からでも見やすいし、漢字と仮名交じりの文字表現は歌詞の内容理解やイメージすることの助けになりやすいと思います。
そして、歌う時のポイントとなることなどを、必要に応じて書き入れながら授業を進めることもありました。また、学年集会や全校で歌うときには、すぐ活用できるので便利でした。
児童に伝えたいことを4ツ切りの画用紙に書いて示すこともよくありました。合奏の練習をやめるときにも有効でした。
引用元・関連記事
第58回読売教育賞受賞論文 「心に響く音楽を求めて」〜転任校での1年間を振り返って〜 志村恵子先生より引用
「この記事・写真等は、読売新聞社の許諾を得て転載しています」
「読売新聞社の著作物について」
http://www.yomiuri.co.jp/policy/copyright/
「心に響く音楽を求めて」〜転任校での1年間を振り返って〜(志村恵子先生) part1 | EDUPEDIA
「心に響く音楽を求めて」〜転任校での1年間を振り返って〜 part2 | EDUPEDIA
「心に響く音楽を求めて」〜転任校での1年間を振り返って〜 part3 | EDUPEDIA
「心に響く音楽を求めて」〜転任校での1年間を振り返って〜 part4 | EDUPEDIA
「心に響く音楽を求めて」〜転任校での1年間を振り返って〜 part5 | EDUPEDIA
読売教育賞
読売教育賞は昭和27年に読売新聞社が教育の発展の一助にと第1回の募集を始めて以来、わが国最高の教育賞の評価を得ております。
わが国の教育を支えているのは小・中・高校、幼稚園、保育所などの先生、その活動を援助する教育委員会、教育研究所、あるいはPTAや地域社会の教育関係者であることは、申すまでもありません。「読売教育賞」はこうした教育現場で、意欲的な研究や創意あふれる指導を行い、すぐれた業績をあげている教育者や教育団体を広く全国から選び、その功績を顕彰することにより、現場で指導する人々の励みとし、ひいては多様で創造性に富む教育環境づくりを推進することを目的としています。
選考は、実績の有無や年齢、性別などに一切とらわれず、純粋に研究と実践の成果、特に最近の活動を中心に行います。理論研究だけといったものは避け、子どもの成長や地域社会の発展に具体的にどう寄与したか、どのような成果をあげたか、といった点を重視します。
コメント