1.1 体を動かす活動によって,楽曲の特徴に気付かせる事例
この実践は文部科学省から許可を得て、文部科学省ホームページ上の「先生応援ページ」より転載させて頂いております。ここから指導案もダウンロードできます。
題材の目標
感じ取ったことを体の動きや言葉で表す活動を通して,歌詞の内容や曲想にふさわしい表現を工夫して歌ったり,楽曲の特徴に気付き,味わって聴いたりする。
題材
本題材は,楽曲全体の構成や曲想の変化を感じ取りやすい楽曲を取り上げ,歌唱と鑑賞の活動を関連付けたものである。歌唱の学習では,「世界中の子どもたちが」(新沢としひこ作詞,中川ひろたか 作曲)を教材とする。楽曲全体の構成はAABAからなり,A部とB部では調が部分的に変化する。 鑑賞の学習では,ロシア民謡の「カリンカ」(楽団カチューシャ訳詞,ロシア民謡)を教材とする。 取り扱う演奏は,楽曲全体の構成がABAからなり,反復される旋律が速度を増していき切迫感を感じさせる部分(A部)と,穏やかな感じがする部分(B部)とが対照的である。
本題材では,感じ取ったことを体の動きで表す活動の展開において,発問を工夫することで聴き取 り感じ取ったことの言語化を促す。そのような言語活動が,曲想にふさわしい表現を工夫して歌ったり,楽曲の特徴や演奏のよさに気付き,味わって聴く学習に効果的に働くことを企図している。
主な学習活動
(1) 題材の展開(全4時間)
(2) 本時の学習(4/4時間)
1目標 体を動かしたり言葉で表したりして,「カリンカ」の特徴や演奏のよさに気付くようにする。
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2本時の展開
- 「カリンカ」のはじめの部分(A部)を4拍子の指揮のような活動をしながら聴く。
- A部のだんだん速くなるところの面白さに気付く。
- A部から中の部分(B部)までを通して聴く。B部は自由に体を動かしながら聴く。
- B部の続きの音楽がどのような音楽なのかを想像する。
- 「カリンカ」全体を味わって聴く。
【指導事例と学習指導要領との関連】
小学校学習指導要領 第2章 第6節 音楽 〔第3学年及び第4学年〕の「B鑑賞」の(1)のウでは, 「楽曲を聴いて想像したことや感じ取ったことを言葉で表すなどして,楽曲の特徴や演奏のよさに気 付くこと。」と示している。また「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」の2の(1)では,「各学年の 『A表現』及び『B鑑賞』の指導に当たっては,音楽との一体感を味わい,想像力を働かせて音楽と かかわることができるよう,指導のねらいに即して体を動かす活動を取り入れること。」と示している。「楽曲を聴いて想像したことや感じ取ったことを言葉で表すなどして」の「など」には,体の動き, 絵,音などで表すことなどが含まれる。楽曲の特徴や演奏のよさに気付くためには,言葉だけでなく, 絵と言葉,体の動きと言葉など他の表現方法と関連付けることが効果的な場合がある。
本事例では,言葉と関連付けながら「体を動かす活動」を多く取り入れているが,体を動かすこと 自体をねらいとするのではなく,音楽を豊かに感じ取るための体験活動であることに留意する必要が ある。これまでの鑑賞の学習においても,楽曲を聴いた感想や思い浮かべた情景などを自由に文章にして 表したり話し合ったりする言語活動が多く見られた。しかし,それは児童が自由に感じ取ったことの みを表出することが多かったため,個々の楽曲を特徴付ける要素の働きなど,共通に学ぶべき内容が 十分に定着しないこともあった。本事例では,鑑賞の学習において,体の動きを取り入れたり,効果的な発問を工夫したりすることを通して,速度の変化など「カリンカ」を特徴付ける要素の働きについて,児童が自ら気付いていけ るような場面を設定した。
【言語活動の充実の工夫】-体の動きの変化をとらえて適切な発問を工夫する-
「カリンカ」のはじめの部分(A部)を4拍子の 指揮をしながら聴かせる。すると,だんだん音楽が 速くなり,4拍子の指揮をするのが困難になってく る。児童は,指揮が正確にできなくなることがむし ろ楽しく感じ,思わず笑みがこぼれる。A部が終わ ったところで,一度CDを止めて,次のように発問する。
「みんなニコニコしているけれど,どうしてかな?」
すると,児童は「だって,だんだん速くなって指 揮がついていけなくなる。それが面白い」と発言する。体の動きを伴うことで,音楽がだんだん速くな ることを実感し,そのことが音楽を面白くさせてい ることに気付いて発言している。その発言は,「なぜ 笑っているのか」という教師の間接的な発問によって生まれている。
次に,この音楽に続きがあることを知らせ,新しい音楽(B部)が聞こえたら指揮はやめて思い思 いの動きをしながら聴くよう指示する。実際に音楽を聴かせ,B部のところにくると,曲想が変わってゆったりした音楽になる。児童は指揮をやめてゆったりした音楽に合うような動き(多くの児童は 腕を横にフラダンスのようにゆっくり動かしていた)を即興的につくって表現している。B部が終わったところで再び音楽を止める。教師は次のように発問する。
「どうして新しい動きは,そういう動き(横揺れ)になったのかな」
すると「はじめの部分とは全然違って音楽がゆったりした感じになるから」という旨の答えが返ってくる。
さらに,この音楽にはまだ続きがあることを知らせる。ここで最後の発問をする。
「次はどんな音楽がやってくると思う?」
すると,児童は「はじめの部分がもどってくると思う」「またゆったりした音楽がくると思う」「新しい音楽がくると思う」と,大別して3つの発言をした。
このように本時の活動では,鑑賞の学習に体の動きを取り入れ,加えて発問の工夫をすることで, 児童が音楽を聴いて感じたことをそのまま言語にして表現できるように工夫した。本時の最後には, 体を動かさないで全曲を鑑賞した。その後,鑑賞カードに「カリンカ」の面白いところをメモしたが, 教師が授業でねらいと定めた「速度の変化」や「曲想の変化」,「旋律の反復(再現)」などのキーワ ードを基に,児童それぞれが感じ取った音楽の面白さが鑑賞カードに書かれていた。
体を動かしているとき(特に即興的に動いているとき)には,児童は直感的に動いていることが多い。言い換えれば無意識のうちに動いている。その際,教師が「なぜそのように動いているのか」を 児童に問いかけることで,児童はその理由を意識的に音楽の中に求めるようになる。
このように,体の動きを手がかりに児童の思考を促す発問を工夫することが,言語活動を充実させるポイントの一つであると考えられる。
引用元
文部科学省ホームページ「先生応援ページ」(授業資料・学習評価等)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/index.htm
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