「いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか」 内藤 朝雄 著

1 理想論?現実論?

著者は 「いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか」の中で、教師が陥りがちな精神論とは逆方向の発想で提言を行っています。著書の中で内藤氏は「べたべたした人間関係」が学校でいじめがおこる元凶となっていると語っています。

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「みんなが、『あの人、ムカツクね』と言って盛り上がっていると、自分ひとりではそんな気持ちにならないのに、それが『うつって』しまって内側から意地悪な気持ちになってしまう。それは勢いづくととまらない。ひとりになるとそういう自分が嫌になることもある。」(本文261p)

子どもがこう告白したとき、教師または保護者はいったいどう反応・対応するのでしょうか。「ひとりになったときに嫌になるのなら、勇気を出して自分からやめてみよう」「みんなの気持ちが本当に正しいのかどうか、自分の心に聞いてみなさい」・・・。

著者は、こういった個々の心理の問題、教育上の問題としてはいじめの問題を説明しません。いじめを集団の構造上の問題からとらえ、学校(あるいは会社、国家等)の中にいるときになぜ人が「内側から」「怪物」状態へと変容してしまうのか、そのメカニズムを解説しています。その結果、本書は単にいじめ問題を取り上げたのではなく、現行の学校制度、ひいては社会の在り方そのものへの痛烈な批判を含んだ「挑戦の書」ともいうべき様相をみせています。

2 学校的な秩序

「現行の学校制度のもとでは、市民社会の秩序が衰退し、独特の『学校的な』秩序が蔓延している。・・・(略)・・・人々が北朝鮮で北朝鮮らしく、大日本帝国で大日本帝国らしく生きるように、学校で生徒も教員も『学校らしく』生きているだけのことだ。この人道に反する『学校らしさ』が、問題なのである。」(本文26p)

学校が学校らしくあればあるほど、その制度の必然的な結果としていじめは発生してしまうと筆者は考えているようです。そして、学校の中に市民社会のルール(法に反したことをすれば警察に通報される等)が存在しないに等しい以上、そこでは何をやっても損にはならないという雰囲気がはびこり、「ノリ」で人が死に追い詰められるという事態が発生します。富士見中学校の「葬式ごっこ」事件から四半世紀が経過してもなお、同じ類の事件が周期的に起こっていることを私たちは教師としてどうとらえればよいのか・・・・・。

学校は強制的に他人同士をベタベタさせ、共同生活を強いている。

著者がこの新書の中で何度も繰り返している表現です。この表現におそらく多くの学校関係者は疑問、あるいは反感、拒絶といった感情を抱くかもしれません。仲よくすること、他者との共存を学ぶこと、それが学校教育の重要な機能のひとつです。それが無くなってしまっては、学校の存在価値はありません。

しかし、著者があえて何度もこういった強い表現を使っているは、繰り返されるいじめと若者の死に対し、教育界が実効性のある解決策を示してこられなかったという現状に対する訴えではないかと思います。いじめ自殺がメディアに取り上げられないときには、いじめが起きていないというわけではありません。「いじめから逃れるために不登校になり、そのことよって学びのアクセスや自己の将来への希望を断たれた数多くの子どもたちの失われた時間が暗くたちこめている」ことを著者は指摘しています。他人とベタベタできなかったことで、または運悪くいじめのターゲットにされたために、厳しいライフコースを選ばざるをえなかった人たちに対し、未だにこの社会は十分なセイフティーネットを用意することができないままでいます。

3 新しい教育制度

本書の最後で、著者は学校制度を越えた新しい教育制度の提言をしています。学級制度の廃止、教育バウチャーや学校以外の教育機関の活用など、筆者の訴えに関しては熟考してみる価値があると思います。経済格差が広がり、いくら努力しても報われない若い世代がこれほどまでに増えてしまった現代。著者が唱える

“個人が生のスタイルを選択できる「自由な社会」”

という教育制度改革の方向性は、いじめ蔓延の閉塞感を打ち破る処方箋の一つであるかもしれません。本著で述べられている教育制度改革については、現場でできる対処とは別な次元になるので、個々の教師にとって今日明日にできるものではありません。しかし、現場での最大の、最終的な措置である「出席停止」が現実的にはほとんど発動されない(年に数件程度だそうです)ことを考えると、「出席停止」とはまた別の「措置」が必要であることを、現場から声をあげていかなければないでしょうか。

著者は「いじめの直し方」という児童向けの本の中でも、現実的ないじめへの対処法について述べていますので、こちらも是非ご覧になってみてください。

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