100マス計算が苦手な生徒への指導

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~読みか聞かせの効果~364号~366号」から引用・加筆させていただいたものです。
目の動きが良くない生徒に100マス計算を教えるための先生の取り組みを紹介させていただきます。

2 実践内容

100マス計算の「対応」と「指導」

100マス計算が苦手な子の中には目の動きが苦手である場合があります。その子にとって100マス計算をやらせないという「対応」も考えられます。しかし、教師の立場でいうと、子どもが伸びているかどうか、判断するという視点もあります。100マス計算をやめることで目の動きが悪い子の苦痛はなくなりました。これで、「対応」はできていても、計算力を伸ばす、集中力をつける、という「指導」にはなっていません。目の動きが悪い子がいるということは、貴重な情報です。これに基づいて、やめるというのは一つの判断ですが、そこに子どもの伸びは生まれません。伸びを作るのであれば、マス計算ではないふつうの計算をやらせる、などの指導を入れるべきです。もっというと、目の動きが悪い子でもマス計算ができるように「指導」するということも考えられます。

ある生徒の目の動き

私は、目の横への動きが悪い子を担任したことがあります。その子は、自分で「100マス計算をしていると途中で目が違うところに動いて、どこをしているのか分からなくなる」と私に言いました。そんなことを言った子は、初めてです。もしかしたら、そんな風に感じていた子はいたのかもしれません。
それでも教師にいうようなことではない、あるいは、それが普通と思い込んでいた可能性もあります。その時点で私は、目の動きの悪い子がいるということは知っていました。
そこで、その子の目の動きを確かめることにしました。その子を私の方に向いて座らせました。そして、私が人差し指を立てて、その子の顔の前を左から右にゆっくりと動かしました。顔は動かさず、目だけで指を追うように言いました。同じように動いていた目に、明らかに変化がありました。

目が動いてしまう状態とは

目の前を動かす私の人差し指を追っていた、その子の目がゆっくりと左から右へ動いていきます。私の指がちょうど顔の正面にきたとき、つまり子どもの目も正面にきたときに変化が起こりました。私の人差し指と同じ速さで動いていた子どもの黒目が、正面を過ぎようとしたときに一瞬逆方向にもどり、すぐにまた指を追って動き出したのです。

今度は、反対に右から左へ人差し指を動かしてみました。やはり、正面まできたときに、黒目が逆方向に一瞬もどります。これがこの子のいう「100マス計算をしていると途中で目が違うところに動いちゃって、どこをしているのか分からなくなる」ということなのでしょう。

その生徒だけではない

これは、何度やっても同じでした。これでは、確かにマス計算を左から右にやっていくと、どこをやっているか、あるいはどの段をやっているか分からなくなってしまうというのも納得出来ます。
その後、いろいろな機会にさりげなく、遊んでいるようにして色々な子の目の動きを調べてみました。私が、確認した100人程度の中では、3人がこの目の動きがありました。偶然かもしれません、3人とも特別支援学級在席の子どもでした。

しかし、私は、マス計算を子どもが伸ばしてできるようにする、「指導」の方を選びました。

指導の大原則

視線が正面で揺れる子には、100マス計算は苦痛なのかもしれません。少なくとも、視線がスムーズに動く子よりもやりにくいことは確かです。この子たちが、マス計算や点つなぎを苦痛なくできるようにはならないものでしょうか。正直なところ、視線の揺れについては、これ以上の知識はありませんでした。指導によって、改善するのかどうかの見通しもありません。しかし、出来ない子には、スモールステップで乗り越えさせる、練習量を増やしてできるようにさせる、というのが指導の大原則です。これらの場合も、その方向で取り組みを始めました。

100マス計算の超スモールステップ

まず、100マス計算は、数を減らしました。10マス10段のところ、10マス1段でやってみました。すると、「これなら大丈夫」とほっとした表情で言葉が返ってきました。
その次に、マスの左端に書いてある問題にあたる数字を1問ごとに見るのではなく、覚えてしまうようにいいました。1問ごとに左端の問題に目をやるので、視線が大きく動くことになります。その視線が顔の正面を通るときに揺れるのです。問題を覚えておくことで視線の揺れがかなり減るはずです。

さらに、左手の活用も教えました。いくら「覚えろ」といっても、1段で10個の計算をしなくてはなりません。慣れるまでは、何個かおきに問題の数字を見ることになるでしょう。それに、つい忘れてしまうことだって当然あります。そのときに、左手の人差し指で問題の数字を押さえておくことにすれば、少なくともこちらの方はすぐに場所が分かります

指導の結果

やってみると、少しずつですが、着実に慣れていくのが見ていて分かりました。教えたことはまじめに取り組む子なので、いつも左手の人差し指は問題の数字を押さえています。その方が問題の数字を覚えやすいようです。
しばらく練習しているうちに、どんどん計算自体も早くなり、指や声もそれほど必要でなくなってきました。子どもの見る力が伸びたようです。もちろん、計算自体も早くなっています。
これも、易しい問題から解くことで見る力が伸びたようです。慣れてきたら少しずつ点の数や図形の複雑さを増していくと、以前は嫌がってやらなかった問題も抵抗なく取り組み、きれいにできるようになりました。

視線の揺れがあるから、100マス計算を止めるという対応ではなく、視線の揺れがあっても正しく見る力をつけるという方向の「指導」が功を奏したということです。マスの数を減らす、指で数字を押さえるといったことは、「対応」に入るのかもしれません。それでも、あくまで「指導」するための「対応」であって、やめるというものではなかったということです。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。
(2017年7月5日時点)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記

100マス計算ができない生徒に対してやめさせるという「対応」するのではなく、生徒の学力を伸ばすための「指導」をする、という一文がとても心に残りました。今回の記事で書いたような100マス計算に限らず、これからは教師は生徒に苦手な分野を単にやめさせるのではなく、苦手な分野の学力を伸ばすための「指導」の方法を模索していけたらいいのかな、と思いました。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 山本 裕佳)

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