統計は生徒と共に学ぶもの~竹内光悦先生インタビュー・後編~

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目次

はじめに

 この記事は、2023年11月27日に行った実践女子大学の竹内光悦先生への取材を記事化したものです。統計教育についてお話を伺いました。

 この記事は前後編に分かれており、こちらは後編の記事です。後編では統計の学び方や教える側がとるべき姿勢についてご紹介します。前編では各教科での統計分野の扱い方について紹介しておりますので、そちらもぜひご一読ください。

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https://edupedia.jp/archives/35286

こんな人におすすめ

  • 数学科や情報科の先生
  • 探究学習の指導の仕方に悩んでいる先生

学びの新しい時代

先生はさまざまなデータ分析コンペティションに関わっていらっしゃいますが、作品を見ていてレベルの高まりは感じますか。

 私が所属している団体でいくつかのデータ分析コンペティション(以下、コンペ)に携わり、小学生から中高生、大学生とさまざまな学年での分析結果、作品を見る機会があります。その経験から申しますと、生徒たちは必要性に応じて学び、自らやりたいことに取り組んでいる印象があります。特に、受賞するような生徒は、自分の表現したいアイデアを明確に理解しており、それに向かって行動しています。学校の先生に聞きたくても今持っている教科書に載っていないことも多く聞きにくい状態であっても、例えばインターネットを活用して、未履修のデータ分析に関する知識や技能に関するところでも積極的に情報を得ていることもあります。

 コンペにはさまざまな形態がありますが、多くは何らかのテーマやデータを主催者側が提供して、それらを用いて、各自が分析方針を立て、データ処理・データ分析等を行い、問題解決を提案するなどがあります。例えば、古くからあるのが、「統計グラフ全国コンクール」(https://www.sinfonica.or.jp/tokei/graph/index.html)で、こちらは戦前からあり、文部科学省や総務省が後援しています。また総務省統計局が関係するもので、「統計データ分析コンペティション」(https://www.nstac.go.jp/use/literacy/statcompe/)などもあります。こちらはテーマを決めずに、データを提供し、その分析結果を論文として提出するものです。また慶應義塾大学SFC研究所 データビジネス創造・ラボが主催の「データビジネス創造コンテスト」という大学が主催しているコンペもあります。こちらはビジネスパートナー企業と提携し、データやテーマを提供し、それらのデータ分析力を競います。最初のグラフコンクールは小学生以上、統計データ分析コンペティション以降は、高校生以上が参加条件となっています。

竹内先生は「中高生・スポーツデータ解析コンペティション」(https://hs.sports.ywebsys.net/)など、複数のデータ分析コンペで運営や審査員を務めておられます。

TeachからCoachへ

 「先生が教えられないからやらない」という時代は終わりつつあります。 ネットで聞けば世界中の素人から専門家まで多数の人が質問に答えてくれます。Youtube を見れば丁寧でわかりやすい動画で専門分野も教えてくれます。海外でも moocs などのオンラインツールを用いて有名大学の授業も受けることもできます。このような環境で、「先生が教えられないからやらない」と言われて、生徒が納得できるでしょうか? また近年、自然災害も含め、未曽有の問題が起きています。COVID-19 のときもですが、いかに先行事例などの正解がない中で、いち早くより「妥当な解」を見つけ、進まないといけないことは多々あります。「妥当な解」ですので、直観も時には必要ですが、万人が納得するためにはデータなど客観的な判断材料が必要となります。このようにこれまでの知識や技能が必ずしも「正解」として使えるとは限らない時代になっているとも言えます。今は「teach」ではなく「coach」の時代ともいわれています。先生がこれまでの知識や技能を教えるだけであれば、ネットで見たほうが情報量も多く、わかりやすい場合もあります。これからは単なる過去の知識や技能を伝えるのではなく、先生の経験も活かして、共に考えながら、生徒が自ら考え正解を探せる力を育てることが今後の社会で通用する人材育成が大切ではないでしょうか? 正解のない社会において、先生も生徒と共に学んでいく必要があります。先生は、専門的な統計の知識は無くても得たものをまとめるフレームを知っています。そのため、フレームに合わせながらより良くしていくという関わり方ができるのではないでしょうか。この方法で、生徒も先生自身も成長できると思います。

探究学習でデータ分析をする生徒も多いと思いますが、中学生・高校生でそれぞれどの程度のレベルの調査を目指すべきですか。

探究学習の重要性

 「探究学習」は、自身の学びの動機を見つけることから始まります。まず、今自分が本当に必要とするものは何かを見つけることが重要です。漠然とした社会問題から出発し、それを具体的なゴールに向かって狭める過程で学びます。基礎的な知識は各教科の授業で身につけ、それをもとにして応用力を養うことが探究学習の本質です。目の前にある問題を頑張って解決することがゴールなので、解決が難しい場合でも他の手段を模索できるようになることが重要です。

インターネットと学びの発展

 インターネットの進化は学びに多くの利点をもたらしました。距離や時間を気にせずに情報を得られるようになったり、オンラインでの発表の場が広がりスライドや資料を手元で見られるようになることで表現の幅が広がったりしました。機械の進歩により、ビッグデータの扱いも容易になり、新たな学びの機会が拡大しています。

統計を楽しく学ぶためには

統計分野を学ぶ楽しさを伝えるためにはどのように指導すればよいのでしょうか。

学んだことをどのように活かせるかを示す

 今高校で習う統計は、複雑な計算を扱わない基本的な内容に限られています。そのため、数学を得意としている先生は容易に理解できるものだと感じてしまう方もいると感じます。その点において、「教科書を読めばわかる」といった指導をしてしまうことが危惧されます。生徒が感じている「統計が難しいものだ」というイメージを払拭するためには、生徒が「何か問題があるときにこのようにしたいけれどできないからどうすればいいか」と感じるシチュエーションをなるべく多くする、つまり学んだことがどのように役に立つかを示すことが大切です。

統計を学ぶ一番のおもしろさはどのようなところにあるとお考えですか。

 私は、統計を使うことで見えないものが見えるようになるところにおもしろさを感じています。例えば標本調査で未測定部分がありながら推定したり、過去の情報からより妥当な予測値を計算したり、また集団を性別や年代別に分けることで、全体で見えなかったことが部分集合にすることで傾向がはっきりとしたりと、統計的な問題解決のアプローチをすると、これまで見えなかったことが見えやすくなり、また他者にも伝えやすくなることもあります。さらに統計を扱えるようになると社会を抽象的に捉えられるようになるので、社会全体を俯瞰してみることもできることから、神の目を持っているような気になれます。例えば交通事故の発生数などを全国地図などと合わせてみれば、日本全体の今の交通事故の動きを見渡せることができ、その課題等を知ることもできます。そのように分布の状態を見て集団を科学していけることが統計の良さです。また、統計を扱えるということは、ビジネスパーソンとしての自分ももちろんですが、たとえばダイエットもデータ分析的に行うこともでき、通常の生活をおこなっている自分の武器にもなります。

現場の教員へ伝えたいこと

最後に、先生方にメッセージをお願いします。

 伝えたいことは大きく分けて2つあります。

 1つは、教員は生徒の足かせにならないでほしいということです。先生が「どうせこの辺は無理だろう」や「私には教えられない」といったことを気にすることで生徒がそれを学べなくなることを一番残念に思います。これまでいろいろな統計教育のイベントやコンペに参加して、本当に生徒が自分の力をどんどん伸ばしている姿を見てきました。やる気を持っている生徒は、習っていないことはもちろんですが、目的達成のためにいろいろな知識や技能を求めてきます。そのため、先生が生徒の行動に「無理かな」などと蓋をせずに、生徒がどんどん伸びていけるようにサポートする存在になってほしいと思います。

 もう1つは「習ってないから、教えられない」ではなく、生徒と一緒に学んで、データ分析、統計的センスを磨いていければと思います。統計的リテラシーはもちろんあるべきですが、それらを活用するのは常に変化を起こす社会問題にすべて対応するのは難しいでしょう。先生自身も日ごろから統計的思考力を持ち、統計的に社会問題を解決する癖がついていれば、生徒にとっても頼もしい存在になります。高校までで扱う内容の統計的リテラシーはあまり高いとは言い難いですが、さまざまなことを試して生徒が楽しんで学べる、また先生自身も楽しめる授業をデザインしてもらえたらと思います。最近では、関連の統計教育に関するイベントも増えました。例えば日本統計学会統計分科会(https://estat.sci.kagoshima-u.ac.jp/SESJSS/)では、毎年3月上旬にワークショップを開催し、関連研究の報告や授業事例の報告などが行われています。研究授業もあると思いますが、こういう機会に参加してみてはいかがでしょうか?

先生のプロフィール

竹内光悦先生

鹿児島大学大学院理工学研究科を修了し、立教大学社会学部助手を経て、2004年から実践女子大学人間社会学部専任講師に就任。以降、同准教授、同教授として、現在に至る。

※プロフィールは2023年12月時点のものです。

編集後記

 統計に詳しくない先生でも生徒に教えられることがあるとわかりました。インターネットで学べる時代になっても先生は必要な存在だと改めて感じました。(編集・文責:EDUPEDIA編集部 丸山和音、上楽乃愛)

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この記事を書いた人

先生を目指す学生の方に向けた情報を中心に発信していきます。

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