子どもたちが相談できるように

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この記事は,私が高校生対象におこないました研究を基に構成しております。高校生が悩みを感じる,悩みを抱えている時,どのようなプロセスで他者に相談するかを明らかにしました。高等学校の先生方にはもちろんですが,中学校の先生方に見て頂き,生徒がこういうプロセスで悩みを打ち明けたり,1人で抱え込んだりするということを,普段の関わりや指導に活かして頂ければ嬉しく思います。

目次

1 悩みとは

                       
“悩み”という言葉は非常に身近なものであり,“悩む”ことは人が成長するためには必要なものです。“悩み”という言葉は,心理学の中で明確に定義づけられていませんが,社会心理学や臨床心理学など多岐の分野にわたって取りあげられます。

“悩み”を解決させる方法は千差万別です。その1つとして,他者への相談が考えられます。もちろん,自分で努力して,悩みを解決することは,当人の成長に大きな影響を与えます。しかし,他者に相談することは,他者の意見や考えを取り入れ,解決方法の取捨選択を自分で決定するため,前者同様に成長へ影響を与えるでしょう。

また,他者に相談する,ということは,単に悩みが解決するだけではなく,悩みから生じる不安や緊張を和らげる側面ももっています。自分の考えに同意を得られることで自信が湧いたり,話をすることでなんとなくすっきりした気持ちになったりもするでしょう。気軽に誰かに相談できるということは,悩みを一人で抱え込み,バーンアウトしてしまうことを予防する1つの方法なのです。

2 援助要請行動—Help Seeking—       

       
社会心理学の中に,援助要請行動という言葉があります。これは,自分が解決したいと考えている問題のうち,自分ひとりでは解決できないと感じている問題について,他者に対して「助けて」と頼む行動のことを指しています。この援助要請行動は,大変重要な社会的スキルだと考えられます。先ほど述べた“相談する”ということは,援助要請行動の研究の中でも取り上げられています。
 この援助要請行動を身につけさせるためには,どのような支援が学校で実施できるでしょうか。この問題意識を皮切りに,本研究をおこないました。

  • 援助要請行動生起プロセスモデル

             

高校生19名にインタビューを行い,得られたデータから共通点を探索し,先行研究のモデルに今回のデータを付加していく方法で結果を得ました。簡略化したものを以下に掲載し,モデルを3段階に分け,それぞれを説明します。

  • 図 援助要請行動生起モデル

1 相談する生徒は,誰かと自分に起こった出来事や考えていることを共有したいという思いから,他者とコミュニケーションをおこないます。そして相談しない生徒は,共有したくないという理由から他者とのコミュニケーションを避けるようです。特に,家庭内の出来事や部活動や習い事などの自分の技術に関する種類の悩みについては,誰とも共有したくないという意見が多くみられました。

 共有を望んだ次の段階では,共有する相手を探します。その相手は,アドバイスのような相手の意見を聞きたいのか,とにかく聞いてもらったり,相手から自分の考えについて同意を得たいのかにより相手を決定します。その際,男子は信頼できる相手を,女子は仲が良い相手を優先する傾向にありました。

 共有することにより,その悩みが問題であると気づいたり,問題の大きさを意識したり,共有したことですっきりしたりというように,他者とコミュニケーションをとることによってそれ以前とは状況や考え方が変化します。悩んでいる出来事が問題だと感じた生徒は,その後,他者に解決のための助けを求めたり(援助要請),共有した相手の考えや意見を受け入れ行動を開始したりします。また,他にも問題を放置する,先延ばしにするなどの消極的な姿勢もみられます。
 

3 この研究を通して

   

①教師は積極的に関わりをもつことが必要
高校生は,教師に対して進路や学習に関する悩みを相談することが多いようでした。積極的に面談の場を設けたり,進路指導室でアドバイスしてくれる先生が待機しているというような環境が身近にある生徒には特に,教師に対しての相談がみられました。教師は個別の面接をおこなったり,声掛けをおこなっていくべきでしょう。

②“共有”を優先したかかわりが重要
生徒には共有したくない悩みがある者や他者に自分のことを話すことに抵抗を感じる者もいます。共有を回避する傾向にある悩みを生徒が打ち明けたときには,“共有すること”を優先した態度(傾聴)で接すると良いでしょう。そうすることで,次回以降のコミュニケーションが取りやすくなると考えられます。他者に自分について話すことに抵抗を感じる生徒に対しては,担任以外の先生との交流を設けたり,本やインターネットなど他者との会話以外から情報を得られるような配慮をおこなったりすることも1つの支援だと言えます。

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