1.はじめに
この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ、「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。坂本哲彦先生のホームページはこちら→ http://sakamoto.cside.com/
2.この記事で紹介する実践
資料
『小さな雪の物語』「風と少女」 P.22-24 『杉みき子選集 3』所収
著:杉みき子 新潟日報事業者 2006年1月20日
下記は『杉みき子選集 3』のへのリンクになります。ぜひご覧ください。
(3ページ、38行の掌編)
●あらすじ
雪が積もり、日本海に囲まれた新潟県高田市が舞台になっている少年少女の物語。「風と少女」では、激しい雪風の中で道に迷う少女が描かれている。風邪気味の母親に代わり、海辺の町に住む知人へ届け物に行くことになった。凄まじい雪風で身動きが取れなくなった時、少女は海鳥が風に逆らって北に進もうとする姿を見る。少女は、海鳥のその懸命さが生きることそのものだと理解する。
対象
小学校5・6年生 中学校1年生
ねらい
少女の心情の変化を話し合うことを通して、あらん限りの力を出して行動することのよさについて考えを深め、希望と勇気をもってくじけないで努力しようとする心情を高める。1-(2)
3.学習内容
(1)あらん限りの力を振り絞って行動することのよさ
- (無益とも思える前進のためにさえ)全力を尽くせるということ
- 生きる上で重要な事柄であること
(2)希望と勇気をもってくじけないで努力しようとする心情
- 自分が努力していることの自覚
- 自分自身の希望や夢
4.学習過程
① 海辺の町の様子について知る(5分)
※ とても短い小説形式である掌編だけに、状況の説明が端的になっています。子どもにとっては、激しい風と雪に行く手を妨げられる様子が目に浮かぶことが重要です。日頃の生活で経験している東日本や北日本の子どもなら、すっと入っていけるでしょうが、西日本の子どもはその状況が分かりにくいと考えられます。そこで、可能なら、吹雪の様子などを画像や映像で示せるといいと思います。
※ 中学生の場合は、そのことが、逆に心象表現の理解を妨げ、この掌編小説のよさを妨げるということもあるかもしれません。学級の実態に応じて工夫することが必要でしょう。
② 半分ほど渡ったところでの少女の気持ちについて話し合う(15分)
※ 「海鳴りとも風ともつかぬうなりがどろどろとひびく」(P.23 L.9)までを読み聞かせます。ここまでは、比較的状況をきちんと描いており、分かりやすくなっています。
● 発問1:「前へも後ろへもいけない少女はどんなことを考えていたでしょうか?」
※ ①このまま、動けなくて、悪くすると川に落ちるなど命の危険がある。②しばらくは、じっとしておくしかない。③先ほどのバスの主婦の助言にしたがっておけばよかったと公開している。④何も考えられないくらい切羽詰まっている。などの意見が出ます。ここでは、それぞれの考えを意図的に対比して比較検討するなどの活動は行わず、少女が、この時、相当程度困っている、大変な状況であることを共通理解します。
③ 「そしてわかった」とは何が分かったのか話し合う(10分)
※ 最後まで読み聞かせます。場面の状況が大きく変化しますので、しっかり聞かせることが重要です。
● 発問2:「『少女は、足もとのあやうさを忘れてその飛翔をみまもり、そしてわかった』とあります。少女は、何が分かったというのでしょうか。少女の立場になって考えてみましょう。」
※ この活動は、かなり難しいことから、子どもたちの反応が十分ではないことが予想されます。その解決方法は2つあります。1つは、小グループにして、各自が言いたいことを言いたいように話すことができる場と時間を保証して学習を活性化すること、もう1つは、比較的自分の考えをまとめることが容易な子どもを意図的に指名して、3、4人の意見を出させながらそれを丁寧に広げて行くという方法です。
※ 取り組みやすいのは小グループによる話し合いですが、学習を進めたり、深めたりできるのは後者の方です。前者は、担任ではコントロールしにくく、話すことはできても課題に迫る話し合いにはなりにくいからです。
※ ①(叙述に即して)あれこそ(鳥の飛翔こそ)生きていることだと分かった、②無益とも思えるその前進のために、あらんかぎりの力をふりしぼって、ひたすら風にさからい続けることがすばらしいことだと分かった、③鳥たちが一瞬ごとにからだの平衡を失いながらも北へと進もうとしていることが分かった、④まっこうから吹きつける風に突っ込んでいくことがすばらしいことが分かった、などの意見を引き出します。
④ 少女の気持ちの変化を比較して話し合う(10分)
● 発問3:「気持ちが変化した少女のことをあなたはどう思うか?」
※ 答えにくい発問です。子どもの反応がすぐに出ないからと言って、教師が話しすぎてはいけません。沈黙を味わうことが必要です。
※ 「どう思うか?」に対する答えは、「納得‐非納得」「よい−悪い」「賛成‐反対」「何かを感じる‐何も感じない」などがあります。ここはどれでもいいので、子どもたちが感じた想いを引き出します。どれでもいいというのは、どれを出しても、否定的な意見は出ないと思うからです。
※ いろいろな意見を引き出した後、(少しずるいとは思うのですけど、どんな意見が出ようとも……)「少女は、風に向き合う鳥を見て、その力強さ、生きる望み、頑張る気持ちなどをしっかりと感じ取ることができたのですね。」とまとめます。
※ そして、「生きるとは、『無益とも思える自分自身の前進のために、あらんかぎりの力を振りしぼって、希望や夢に向かって突き進むこと』とまとめます。
⑤ 自分の夢や希望、それに向けた努力についてプリントに書く
※ 改めて自分の夢を考え、その夢に向けて、現在何を努力しているのか自分の生活を振り返ってプリントに書きます。
※ どんなことを書いても、それはそれとして認めます。
※ 教師の子どもの頃の夢を実直に語ります。(たまに、教師が自分を悪く見せようとして、中学校の頃、あまり努力していなかったことや、いい加減だったことをあたかもすごいことのように語る人がいますが、それは、ちょっとやめて欲しいです。自分の子どもにだけ語って欲しいと思います。クラスの子どもには、あくまでも、中学校の頃、迷いながらも精一杯生きていたことを伝えて欲しいと思います……。
5、編集後記
人間はいつの時もなにかを必死にやり抜いてこそ結果を残せるものだ、とこの実践は再認識させてくれました。小学生や中学生の時期にはまだ理解しきれないかもしれませんが、この実践が子どもたちの将来に活きることを考えて先生方に実践していただきたいと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 坂本一途)
6、実践者プロフィール
坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。
自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
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