子どもたちがだんだん賢くなる「磁石」の授業(宮内主斗先生)

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目次

1 はじめに

この記事は、平成25年12月23日に行なわれた、徹底反復研究会in滋賀で宮内主斗先生がプレゼンテーションされた内容をもとにEDUPEDIA編集部が記事にした内容です。

本記事では、宮内先生の磁石の学習内容を身につけるため、実験による徹底反復での学習方法を紹介します。座学だけではなく「楽しい」実験を生徒との会話を通して行い、学習内容を理解していく宮内先生の授業をぜひ参考にしてみてください。

2 理科の学習の考え方

まず、学習の考え方を一言で表すと「子どもの学びには、3つの外延が必要。」という言葉があります。
子どもが学習内容を本当に学ぶために楽しんで勉強する手段を多様に用意する必要があります。

教科書は外延のひとつであり、座学だけで学ぶことは一を聞いて十を知れの状態です。つまり、反復がないので、子どもたちをすぐ忘れてしまうことになります。
授業づくりで気をつけることは、学習内容(内包)は少なく、教材(外延)は豊かに、ということになってきます。教材を多様にするということの例は、下記のようなものです。

Ex.「ものに重さがある」を10回書く
「髪の毛1本にも重さがある」と実験する。

3 磁石で大切な学習内容は?

実験の授業例に入る前に、磁石の授業で大切な学習内容は、例えば以下のものになります。

  • 磁石は鉄と引き合う。
  • 磁石には2つの極がある。
  • 同極は反発し合い、異極は引き合う。
  • 磁石は鉄を磁石にする。

※これをまとめて、一度の実験で学ぼうとすると失敗してしまいます。

3回の実験

それでは、これより磁石の学習内容を学ぶ実験の実践紹介になります。

4 実験① 磁石のN極につけた鉄は、S極になるか?

これまでの座学での学習を活かして、発問について子どもの意見を挙手で○か×を聞いていきます。クラスの意見を確認してから実験を行い、結果を確認していきます。

ここでの生徒は○の意見の生徒が全員でした。

では、その結果を確認するやり方はどう行うことが正しいでしょうか?
①鉄の先を方位磁針のN極に近づける
②鉄の先を方位磁針のS極に近づける

この際にも必ず子どもの意見を聞いて、実験を始めます。
答えは②になるのですが、先生は子どもの意見の理由を確認し、答えがわかっていながらもどちらが正しいかは一見わからないような反応を大げさに取りながら確認します。このときに生徒の意見を互いに掛けあわせていくことで、クラスで発言する雰囲気、考える空気を作っていきます。先生の指導として、「今の意見を理解することができるひとはいる?」など生徒の意見を生徒に解釈させるなどを行っていました。
そうして、意見を出しあったあと、再度意見を求めると①と②の意見ではなく、どちらが正しいかわからなくなって、答えがどっちつかずの生徒が出てきます。

このように、生徒に常に答えはどうなるのか、その理由は何なのかを考えさせるように授業の流れを組んでいました。その状態で実験を行うと、興味関心を持った状態で実験に取り組むことができるようになるのです。

実験結果は、②になります。実験後には、肝心なその理由をクラス全体で共有します。
鉄が磁力を持ち、S極になるのは一瞬のみなので、一瞬同極同士で反発するだけの磁力を持つことになります。一瞬だけの限定磁石になっているので、すぐに反応を見る必要があり、N極に近づけても方位磁針を引っ張るほどの磁力はないことを確認します。

授業中の生徒とのやりとり

この手を上げた際のやりとりに先生の特徴があります。生徒には必ず意見の理由を聞くようにすることです。この意見を、ほかの生徒に理解しているかを問いかけ、発言した生徒とほかの生徒がコミュニケーションを取るように授業の流れをつくります。

授業の際に、学級経営を行うことになるのですが、自分の気持ちを生徒にも理解してもらえて、友達同士の仲も深まって授業の雰囲気がよくなっていきます。生徒の意見を聞いて、自分の意見を変えた生徒に対しても、相手の意見をきちんと聞いて考えた結果として意見を変えた子どもを褒めるようにしていました。授業以前に、子どもたちが安心して授業を受けて、自分の意見を言うことができる前提を作っていくことが重要になってくるのです。
そのように学級経営と授業の理解度を考慮して、先生の授業の流れは、
発問→生徒の意見を共有→先生の問いかけ→再度意見を共有→実験
という授業つくりになっていました。

また、先生は意見を聞く前に意見を言わせる生徒を決めていました。机間指導を通して、誰がどんな意見を持っているかを知り、授業の流れに最適な生徒に意見を聞くように注意をしていらっしゃいました。

5 N極に付けた2つ目のクリップの先にN極を近づけるとクリップは磁石に近づくか?

では、続いて2つ目の磁石の実験を行い、学習内容の定着を図ります。
この図の状態で2つのクリップの先に、アとイのどちらにクリップが触れることになるかを実験していきます。
まず、同じように生徒たちには挙手でアかイのどちらに振れるか意見を聞いていきます。ここでも上記で触れた先生の子どもとのやりとりの特徴的なポイントは続いています。

アとイの理由を図に表すと子どもたちの意見は、次のようになりました。

N極から遠ざかる理由として、磁石につけた極は前回の学習からS極だとわかるので、そこから一番下の鉄の極はN極になるのではないかという意見です。

一方の鉄に近づく意見としては、2つのクリップをひとつのクリップと見立てることで、N極に近づくのではないかという意見が出ました。

そして、この場面では生徒の意見はアが多数、イが数名という結果になっていました。
ここでの先生の反応は、アの意見に対して「鉄と磁石がくっつくのは、自然なことなのにそっちの意見が少なくていいの!?」と面白おかしく生徒たちに考えを促すように反応していました。このように意見を共有して、再度集計するときはアの人数が減り、イの人数が増え、どちらの意見にしようか悩む「?」の生徒という分類分けになりました。このように、実験の結果がどうなるかわからないようになると、実験への興味が高まった状態でいろんな意見をぶつけながら実験を行うことができていました。

正解はイになるわけですが、ここではハズレのアの選択をする生徒が多くいました。
この流れを受けて、再度反復して授業を行う必要があることがわかります。なので、ここでは先生は実験の理由を詳細には説明しませんでした。

6 S極についているクリップにS極を近づけるとクリップは磁石に近づくか?

そして、その流れを受けて、最後の実験としてS極での実験を行いました。下記のような実験になります。

大きいクリップを用意して、S極に近づくかどうかを考えさせる実験です。これを小さいクリップで実験してしまうと、実験はうまくいきません。この実験は2つ目の実験の結果を受けての実験なので、復習になります。
つまり、結論としてイが正しい結果になるのですが、まだ先ほどの実験の理由がわかっていない生徒たちはアとイのどちらに動くか考えていきます。ここでも生徒の意見を聞くと、まだまだ意見はわかれていました。そこで、先ほどの実験を受けての生徒が「鉄は磁力の影響の強いほうの影響を受けるのではないか」という意見を通して、先生は全体に実験を行わせました。すると、生徒からは感心した声が多く広がり、生徒たちは学習内容を印象的に理解できる結果となりました。

この磁石がS極に近づく理由としては、磁石の学習内容で「磁石は鉄を磁石にする」というものがありましたが、その磁石になることは一時的な現象になります。磁力を持った鉄は「限定磁石」と呼ばれ、わずかな磁力を持った磁石です。このわずかな磁力ということは最初の実験で、方位磁針を近づけることで確認しました。そして、この実験では鉄の磁力より強い「永久磁石」の磁石を近づけると、鉄が磁力の強いほうに影響を受けることがよくわかる実験となっています。この3つの実験を通すことで磁石の学習内容を常に振り返り、考えながら学ぶことができる流れになっているのです。

7 まとめ

もう一度、磁石の学習内容を振り返ると、以下の4点になります。

  • 磁石は鉄と引き合う
  • 磁石には2つの極がある
  • 同極は退け合い、異極は引き合う
  • 磁石は鉄を磁石にする

実験では、今回の学習内容を全て習いましたが、ひとつひとつ実験を行うことで教科書よりも印象に残る授業を展開しました。多様な授業で楽しく授業を行うことが重要になってくるのです。

しかし、ここで重要になってくるのが学習内容を振り返りつつ学ぶには、時間の確保が必要ということです。そのときに考えることは、以下の3点です。

  • 学びがいのある内容はなにか?
  • その内容に、豊かな教材を
  • 学び甲斐のあまりない内容はなにか?

例えば、学び甲斐のない内容は教科書にお付き合いする程度で終わらせ、実験の時間にあてるようにするのです。この点を注意して、学習計画を立てていくことで生徒に理科を楽しく学んで、学習内容を身につけることができる教師力が身についていきます。
宮内先生は、「テストの点数があがっても、学習が嫌いな子どもを増やさないような授業をしたい。」とおっしゃっていました。

8 講師プロフィール

宮内主斗先生 茨城県 小学校教諭
宮内先生は、多数の理科の授業に関する著作を書かれています。
一部の著作をご紹介させていただきます。

『理科教室』

『授業作りの教科書 理科実験の教科書<5年>』(4年~6年生の全3巻)

『クラスがまとまる理科のしごとば』

『教科書と一緒に使える小学校理科の実験・観察ナビ』

また、宮内先生のHPにて宮内先生の理科に関するコラムや著作情報、教員サークル情報を掲載していらっしゃいます。ぜひ御覧ください。
http://homepage2.nifty.com/kmiyauti/

9 編集後記

宮内先生の授業は、理科の学習内容がつながるように、常に振り返りながら実験を予想し、どのような結果になるかを考える内容でした。先生の発問の仕方や生徒への反応も授業を楽しくしようという先生の様子が伝わってくる授業内容で、この授業を受けた生徒は理科が本当に好きになるだろうと思わされました。私は文系なのですが、この授業を受けたら理系になっていたかもしれません。今の理科嫌いの子どもたちにも楽しめる内容だと思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 坂本一途)

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