趣意説明と全員成功体験
3年生のクラス担任時、4月12日の初回の体育の授業の様子からお伝えします。
最初の体育の授業で行いたいことの1つに、「趣意説明」があります。
体育とは、どのようなことを学ぶ勉強なのか。
一年の初めだからこそ、明確な趣意を伝えておく必要があると思っています。
そしてもう一つが「全員成功体験」です。
「やればできるようになる」「どの子も素晴らしい可能性を持っている。」
そうした言葉を千度重ねるよりも、たった一度の全員成功体験の方が、遥かに多くのメッセージを子どもたちに伝えることができます。
跳び箱
それをぜひ初回の授業で実現させたいと思い、「跳び箱」を扱いました。
以下、通算1659枚目の通信(翔)より抜粋
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初めての体育がありました。
「体育」と聞くだけで、子どもたちの熱がさらに高まっていくのが分かります。
大好きな教科の一つに間違いないでしょう。
ただ、ただ楽しく体を動かすだけが体育ではありません。
体育で一番大切なのは、丈夫な心と体をつくることです。
丈夫な体は、様々な運動に取り組んだり、できない技にチャレンジしたり、今できることをより速く美しくしようとしたりする中で育ってきます。
では、丈夫な心はどうか。
それは、きまりを守って運動することであったり、使っているものを大切に扱うことであったり、友だちと力を合わせる事であったり、これも様々です。
これらの一番大切なことを、最初の体育の授業で伝えたいと考えました。
2時間目。
子どもたちは、大喜びで体育館にかけていきました。
私は2分ほど遅れて到着。
みんなは、騒ぐでもなく遊ぶでもなく、ウキウキした表情で整列して待っていました。
到着してすぐ、笑顔で淡々と言いました。
今日の体育は、しません。
「えっ?」と静まり返る子ども達。
少し間をおき、先に書いたように、体育とは丈夫な心と体をつくる勉強であることを伝えました。
そして、続けました。
「大切なことの一つに、物を大切に扱うということがあります。」
「先生は今、教室のみんなの着替えのあとを見てきました。」
「色んな人のお陰で与えてもらっている制服が、見事にぐちゃぐちゃに置かれていました。とても、大切に使っているとは言えません。」
「ですから、今日の体育はしません。」
語気を荒げるでもなく、極めて淡々と言いました。
が、子どもたちはさらに静まり返ります。
「ですが、そうではない人もいました。」
「今から名前を呼ぶ人は立ってください。」
そう呼ばれて立ったのは、7人です。
「君たちの着替えは、きれいに丁寧にたたまれて机の上に置かれていました。本当に素晴らしい事です。ですから、体育をやって構いません。」
7人は飛び上がって喜びました。
もちろん、残った30人は次のように言いました。
「着替えを直してきていいですか!?」
次のように答えました。
分かりました。今日は1回目ですから、特別にいいことにします。体育の勉強は、着替えの瞬間から始まっていますから、次から気を付けましょうね。
30人は、勇んで教室にかけていきました。
少々厳しいかもしれませんが、一番最初だからこそ伝わる部分があるのもまた事実です。
意気揚々と、「きれいにしてきました!」と戻ってくる子どもたちを見て、その素直さに改めて感心しました。
その後、全員が体育館に揃った状態になってから、改めて体育を始めました。
最初に聞いたのは次のことです。
跳び箱を跳べない人はいますか?
子どもたちは「えっ?」という顔をしました。
私は笑顔でもう一度同じ質問を繰り返しました。
6名の子がゆっくりと手を挙げます。
その表情は普段に比べてやや曇っていました。
さらに笑顔で言いました。
「わかりました。大丈夫ですよ、跳べなくたって。」
「今から先生が必ず跳べるようにしてあげます。」
それでも、手を挙げた子たちは不安そうな顔をしていました。
他の子も半信半疑といった様子です。
決意の意味も込めて、私は次の言葉を繰り返しました。
「必ず全員跳ばせてみせます。」
そうして跳び箱の授業がスタートしました。
高さの異なる跳び箱を3種類用意した後、全員を集めて跳び箱の基礎を教えていきました。
私はまず、もう既に跳び箱が飛べる子たちに、後ほど行うテストに向けて練習しておく事を伝えました。
31人はその説明を聞いて、一所懸命に練習を始めます。
そして、「跳べない」と言っていた子たちを別の跳び箱の場所に呼んで、練習を始めました。
時間にしておよそ5分。
6人の練習に取り組む姿勢は、まさに真剣そのものでした。
教えられた事を素直に吸収し、ひたむきに達成の瞬間を目指して練習を続ける姿が、本当に強く光って私の目に映りました。
そして、ついにその瞬間はきました。
全員集合。今から、さっき手を挙げた6人の子に跳んでもらいます。
クラス全員が座って見守る中、6人は跳び箱の前に並びました。
表情にも緊張が見られます。
けれどもそれは、朝の会の時のような不安な顔ではなく、「やってやるぞ」といった意欲にあふれた顔でした。
「がんばれー!」
周りの子から自然と応援の声が上がります。
そんな中、まず1人目の子が跳び箱を跳びました。
体育館には大歓声が響き渡ります。
そして、2人目、3人目もと次々と跳んでいきました。
盛大な拍手は、さらに音量を増します。
そして、最後の挑戦者はIさんでした。
元気よく踏み切って見事に跳び箱を跳んだ瞬間、大きな歓声とともにその日一番の拍手が起きました。
跳び箱の開脚跳び、全員達成を成し遂げた瞬間でした。
6人の子たちは、その拍手に包まれて本当にいい顔をしていました。
最後まであきらめずに挑戦
その後、全員に次のように話しました。
「さっき、先生が『全員必ず跳べるようにしてあげます。』と言った時、『それは無理じゃないか。』と少しでも思った人はいますか。いたら正直に手を挙げてごらんなさい。」
笑顔でこう問いかけたところ、半数ほどの子が手を挙げました。
「そうだと思いました。みんなの表情を見ていて、きっと先生の話を半信半疑で聞いてるんだろうなぁと思っていました。けれども、6人は跳びました。自分の足で走って、手で台を突き放して、跳び箱を跳びました。」
「できた理由はたった1つです。最後まであきらめずに挑戦したことです。練習中、みんなは見ていなかったと思いますが、台におしりをぶつけたり、中々勇気が出なかったり、いろんな壁がありました。それでも6人はあきらめませんでした。」
「『もう出来ません。』なんて弱音も言いませんでした。何度も跳び箱に向かって練習して、跳べるようになったんです。これは、スポーツでも勉強でも同じことです。『自分には無理だ。』だとか『出来ないからやめておこう。』と思った時点で成長はストップして、それ以上伸びません。失敗しても、失敗しても、あきらめずに挑戦する人は必ず伸びます。』
全員、うなずきながら本当に真剣な表情で話を聞いていました。
その後、テストに向けて笑顔で練習を繰り返す37人の姿がありました。
跳び箱だけでなく、1年の間、あらゆる瞬間において、苦手な事にも挑戦することの大切さを伝え続けていくつもりです。
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