1 はじめに
2016年6月20日に同志社中学校(京都)で行われた公開授業研究会より、矢淵多佳子先生の授業実践です。音読を軸にして、平家物語の『扇の的』の学習に取り組みました。まだ口語文法の助詞・助動詞の働きを学習していない中学2年生に対して、あえて古典文法の細かい説明を省くことで読解を進めていく試みです。
また、同志社中学校ではICT機器の導入を進めており、この授業では電子黒板と教師用タブレット端末が使用されています。
2 授業の流れ
- 漢字テスト
- 百人一首テスト
- 『扇の的』読解
漢字テストの確認
翌日の漢字テストに出題される漢字を、先生が実際にiPadに書いていく様子を電子黒板に表示して確認しました。「おおざと」と「ふしづくり」の違いや、乾燥の「燥」の字など、間違えやすいところを一つ一つチェックしつつ進みます。
百人一首テストの確認
百人一首に収められている歌を2首、ゆっくり読みながら意味と読み方を確認しました。これも翌日の授業でテストします。「滝の音は~」の句の冒頭が「a」段で統一されていることなどに注意しつつ、クラス全員で音読しました。
『扇の的』読解
導入
前回の範囲を丁寧になぞるところから授業開始。
全体の流れを把握する補助として歴史マンガを使用し、前回までに扱った本文全体の現代語訳をおさらいしました。
1回目の音読
先生がゆっくり読むのを聞きながら、生徒たちは意味の区切り目にしるし(<)を打ち、読めない漢字にはフリガナを振っていきます。区切りが分かりやすいように、メリハリの利いた読み方をされていました。
2回目の音読
先生が1行読み、生徒たちは同じ部分を後に続けて読みます。読み終わると意味が分からない言葉にしるしをつける作業に入りました。
先生は作業している生徒の机の間を回り、適宜コメントを挟んでいきます。
一言で解説できるものや多くの生徒が分かっているものについては口頭で解説してクラス全体に共有、少し詳しい解説が必要なものに関しては一旦保留します。
電子黒板を使った語句の解説
生徒たちは「2月18日」に「北風」が吹いているという記述から冬の光景を想像しがちですが、この「2月」は旧暦なので、実際には3月末であることなどを説明します。
音読を通して情景を感じることに主眼を置いた授業なので、「酉の刻」といった時間に関する表現、「くつばみ」という現代の子どもには想像しようのない道具についても画像を使って解説を加えます。「みんなは何年(なにどし)生まれ?」という発問から説明を始め、「正午」や「午後」といった現代語とも絡めて理解を深めました。
古文読解において重要な「ハレ」と「ケ」の概念の説明は、生徒に「晴れ◯○って言葉知ってる?」という問いかけを挟み、「晴れ舞台」という現代でもよく使われる表現を引き出すことで、曖昧な概念を少しでも身近なものにしようと試まれていました。
3回目の音読
先生の範読にかぶせるようにして生徒たちも読んでいきます。
続けて生徒たちに【季節・時間・天候・見物する様子】が分かる部分に線を引かせます。作業が終わった頃合いで何名かの生徒を指名し、電子黒板と接続された先生のタブレット端末を通して生徒の解答を表示しました。
現代語訳を作る
ここまで何度も繰り返し音読し、文章が頭に残った状態で、改めて生徒たちに与一の感情や見ている情景についてノートに書き出させます。そして自分が思い浮かべた情景を盛り込んだ、オリジナルの現代語訳を作ってもらいます。
必要最低限の訳である教科書の現代語訳は、自分で訳し終わった後の確認にしか使いません。
4回目の音読
最後に読解したことを生かしてもう一度全員で音読し、授業終了です。
3 授業資料
4 編集後記
古文は中学生にとってなかなか取り組みにくい科目だと思いますが、細かい文法解説を抜きにして音読を繰り返すという手法は、古文があまり好きではない生徒にとっても受け入れやすい授業形式だと感じました。
(EDUPEDIA編集部 中澤歩)
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