『「批評」の言葉をためる』中学校・国語~読解と実践で理解を深める~・授業実践編

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目次

1 はじめに

中学校の論説文『「批評」の言葉をためる』の授業実践について書いた。『「批評」の言葉をためる』は竹田青嗣氏の『中学生からの「超」哲学入門』を書き改めたものだ。本文中に出てくる「批評」や「自己ルール」などの考え方を、本文の読解とグループワークを通した実践で理解する授業にした。

批評の言葉をためる

  • 教科:国語
  • 学年:中学校3年生
  • 単元:「批評」の言葉をためる(光村図書 国語3)

2 実践内容

単元の指導目標

  • 積極的に評論文(論説文)を読み、多様な考え方を学び取ろうとする。[関心・意欲・態度]
  • 文章から筆者の考えを読み取り、人間や社会についてものの見方や考えを深める。[読むこと]
  • 文章の中の語句の意味を理解し、語彙を豊かにする。[知識・理解]

単元の評価規準

指導観

※学習者観は省略

単元観・教材観

本単元は、竹田青嗣氏の『「批評」の言葉をためる』をもとに、批評の言葉や批評文についての理解を深め、批評的な思考を身につけることを目標に展開する。それに加えて、物事を批評的に見る視点が、自分を理解することにもつながるということも学ばせたい。本文を読解するだけでなく、新聞の投稿欄を読んで批評をしたり、他の生徒と意見を交流することを通して、「批評の言葉をためる」を実践してみる。また、「言葉の力を育てていくために必要なこと」として本文中に書かれている「たくさんの優れた文章や小説に親しむこと」と関連させて、読書の大切さも伝えたい。
『「批評」の言葉をためる』は、学習指導要領の第3学年の「読むこと」、「エ.文章を読んで人間、社会、自然などについて考え、自分の意見をもつこと。」「オ.目的に応じて本や文章などを読み、知識を広げたり、自分の考えを深めたりすること。」に対応する教材である。本教材の読解を通して、批評的な思考がどのようなものなのか理解することで、今後の教材の読解にも生かしていくことができると考える。
 

主な指導方法

全4時間の授業を行う。前半の3時間で「『批評』の言葉をためる」を「批判」「批評」「言葉のキャッチボール」「自己ルール」などのキーワードを、生徒にまとめさせながら読解する。それらの具体例として、又吉直樹氏の『夜を乗り越える』(小学館よしもと新書、2016年6月初版)の一部を抜粋して紹介する。また、本文中の語句やキーワードを日常生活での経験からイメージさせていく。後半の4時間目では、朝日新聞の投書欄をもとに批評文を書かせて、クラス内で意見を交流する。
 

単元の指導計画と評価計画(全4時間)


 

本時の指導計画(4時間中4時間目)

本時の指導目標

  • 自分の意見を「批評の言葉」としてまとめることができるようになる。
  • 他人の意見と自分の意見を比べることで、自分の「自己ルール」に気づく。

本時の展開

評価

  • 自分の意見を「批評の言葉」としてまとめることができたか。
  • 他人の意見と自分の意見を比べることで、自分の「自己ルール」に気づくことができたか。

3 使用した学習プリント

学習プリント

⇒1~3限の本文の読解で使用したプリント。

⇒4限のグループワークで使用したプリント

補助プリント『夜を乗り越える』

本文に出てくる考え方や概念の具体例として、又吉直樹氏の『夜を乗り越える』から引用した文章を補助資料として使用した。具体例を探していたわけではなく、その時にちょうどこの本を読んでいたら、全く同じキーワードが使われていたので、引用した。時間の関係で必ずしも全クラスで使えたわけではない。

「批評」の具体例

難波も『トロッコ』がめちゃくちゃおもしろかったと言っていました。その後、『羅生門』を読んで僕が興奮して「やっぱり芥川おもしろい」と伝えると、難波は「ちょっとベタとおもったけどなあ」と言いました。「予定調和な感じがした」と。「こいつ天才や」と思いました。初めて批評に触れた気持ちでした。僕はそれまで、本を読んでそんなふうに思ったことはありませんでした。(p.31)

「言葉のキャッチボール」「自己ルール」の具体例

それまで僕は、誰ともキャッチボールができませんでした。ひとりで考えひとりで壁にボールをぶつけていました。自分の頭の中で考えがめぐるばかりで答えは出せませんでした。変な人間に生まれきてしまった。もうどう生きていったらいいのかわかりませんでした。/でも本に出会い、近代文学に出会い、自分と同じ悩みを持つ人間がいることを知りました。それは本当に大きなことでした。/本を読むことによって、本と話すことによって、僕はようやく他人と、そして自分とのつき合い方を知っていったような気がします。(p.40)

 

「批評」の題材として使用した資料(新聞記事)『若い世代 勉強って?』

みなさんは日々、どんなことを考えながら勉強していますか。学校での勉強もあれば、学校外での勉強もあるでしょう。勉強の目的や意義とは何でしょうか。そもそも、勉強とは? 学ぶこととは? 自由な切り口でみなさんの意見や思いを(略)お送りください。(朝日新聞「声」欄、5月14日朝刊、5月20日朝刊)

 

上記のテーマで朝日新聞で募集され、掲載された投書欄の記事を使用したので、著作権の関係上、本記事では記事の概要だけ掲載する。「若い世代 勉強って?」で2日間に分けて掲載された8つの投書の中から、以下の4つの立場(A~Eの記号は実践者が追加)の異なる意見を選んだ。その中で、共感した意見とその理由を書かせた。実際に授業で行う際は、朝日新聞の過去記事から本文を探すか、他のところから勉強に対するそれぞれの立場が書かれたものを使用してほしい。
 

  • A.役に立たないが人生を楽しめる(大学生.18)

⇒勉強そのものが面白いという立場。

  • B.漫画家志望 世界描く知識大切(高校生.17)

⇒勉強は将来の仕事に生きるという立場。

  • C.「大嫌い」と言ってられない(中学生.14)

⇒勉強は嫌いだが受験や将来のためにやらなければいけないという立場。

  • D.人間関係も恋愛も学びはある(中学生.13)

⇒学校の勉強以外も学びがあるという立場。

  • E.その他

※他の意見もあるかもしれないので、設定した。

4 生徒のコメント・感想

「若い世代 勉強って?」の意見

Cの意見がどのクラスでも一番多かったが、A,B,D,Eも各クラス2~4人ずつくらいいた。言葉は実践者が多少手を加えた。

A.役に立たないが人生を楽しめる(大学生.18)

  • 小学校の頃を思い出すと勉強に対して、「将来役に立つのかな」と考えたりせず、単に「分かった」という面白さや楽しさを感じていたと思う。
  • 苦手な教科ができるようになった時、「(将来役に立つか分からないけど、)面白い」と感じたことが自分もあるので共感できた。
  • 理科をやっていると好奇心が刺激されて楽しいと私も感じるから、共感した。将来理科関係の仕事につかなければ役に立たないかもしれないけど、やっていて楽しいです。
  • 英語は楽しいからやっている。そうして勉強していたら、英語を使った仕事につきたいという目標もできた。

 

B.漫画家志望 世界描く知識大切(高校生.17)

  • 教科の知識が将来役に立つこともあるという点は共感したし、それに加えて教科の知識を「身につけるために得た力」や経験も将来役立つと思う。
  • 勉強とは一見関係なさそうなスポーツ選手もコミュニケーションのために国語や英語が必要な時があると思ったから、共感した。
  • 私は「映画監督」や「デザイナー」などの発想力や想像力・斬新さが必要な仕事につきたいので、世界のことなどたくさんのことを知る必要があるという意見に共感した。
  • 小学校の先生になりたいと思っている。全教科の勉強はもちろんだが、それ以外の人間関係も学んでおく必要があるので、Bの意見に共感した。

 

C.「大嫌い」と言ってられない(中学生.14)

  • 勉強が嫌いでも頑張っている人はいると思うから、私も頑張りたい。
  • 私も勉強が嫌いで、頭のいい人に生まれたかった。でも、受験生だからがんばらなきゃ!
  • いつもはやる気が出ないけど、テスト前ならやる気が出るから共感できる。
  • 勉強は嫌いだという点は共感するけど、自分は友達に負けて悔しいという思いで勉強をするようになったところは少し違った。
  • 英語が嫌い。ただ、英語そのものが嫌いなのではなくて、英語ができないのが嫌いです。
  • 親や先生に言わされてやることが多いので、勉強が好きではない。

 

D.人間関係も恋愛も学びはある(中学生.13)

  • 「大人でも勉強は大切」という言葉を聞くが、その時の「勉強」は人間関係や恋愛も含まれていると思う。だから、Dの意見に共感した。
  • 学校の勉強だけではなくて、マナーやルールなどの人としての礼儀を学ぶことも勉強に含まれると思うから。
  • この意見を読んで、改めて勉強とは何か考えさせられた。
  • 勉強ができることも大切だけど、人間関係が上手な人の方が社会に出たら有利になりそう。

 

E.その他

  • すべての意見に共感できる部分があった。
  • 自分はBとCの意見にどちらも賛成した。
  • 勉強する意味は、良い高校に行って、良い大学に行くだけ。勉強しなかったら、高校や大学に行けないけど、それでも楽しい人生を送っている人がいるから、勉強する意味はあまりないと思う。
  • 本当に必要なものは勉強で得る「学歴」ではなくて「学力」だと思う。

 

授業全体に対して

  • 共感したり、「確かに」と思うことがあって面白かった。
  • 実際にみんなと話し合って、「批評の言葉」が何か少し理解することができた。
  • みんなの意見を聞いてそれぞれの「自己ルール」は違うんだと感じた。
  • これからは批判ではなく批評の言葉を言えるようにしたい。
  • 自分の意見を改めて考えることができたし、他の人の意見も多く学ぶことができた。
  • 同じCに共感していても理由がそれぞれ違って面白かった。
  • 自分なりの「自己ルール」があったとしても、他の人の意見を聞いて自分の「自己ルール」も変わってくるのだと感じた。
  • みんなの意見や考え方が分かって良かったし、自分もどういう考えか分かって良かった。

5 授業の振り返り

1~3限

読解の手段として主に行ったのが、「批判」「批評」「言葉のキャッチボール」「自己ルール」がどの言葉で書き表されているかを抜き出す作業と、その例を自分で考えさせることだ。まとめの4限で「批評」の実践を行うために、しっかりと上記の言葉の意味を理解してもらうことを意識した。一方で、1回1回の授業で「今日は何を目指すのか」あまり考えていなかったのが、反省点として挙げられる。また、1~3限を通して、同じ作業の繰り返しになってしまったので、やや単調になってしまった。具体例を教師が身近な例で話したり、生徒から引き出してそれを広げたりすると、生徒も話を聞いてくれるし、理解につながっていたと思う。この時間の随所で『夜を乗り越える』の引用を使用した。

4限

教師の説明がメインではなく、生徒が文章を読み、書き、発表する生徒中心の授業になった。生徒の理解のために、教科書以外の資料を探したりと、教材研究や資料作成に時間を費やした。授業では、生徒が自分の想定以上に意見を書いていたように思う。その要因として、2点あげられる。1つ目は、参考となる文章の書き手が同年代の身近な意見だったということだろう。2つ目は、参考資料として意見が書かれてあるものがあることで、近い意見や反対の意見を見ながら自分の意見を少しずつ考えることができたからだろう。「勉強って?」と聞かれるとなかなか難しい問いではあるが、以上の2つによって生徒の書く力を補助できたのだと思う。反省点としては、記述した文章の評価があいまいだった点と文章のフォーマットをあまり決めていず、意見の書き方まで指導出来なかったことがあげられる。

6 関連記事

⇒実際に行った授業準備を7段階に分けて掲載している。

7 編集後記

この実践は、教育実習で行った授業内容だ。これまで単発で国語のオリジナル授業を行ったことは何度もあったが、教科書を使用した授業で本文読解が中心の授業を行ったことはほとんどなかった。教育実習では、「本文を読解して概念や考え方を学び、まとめとして学んだ概念や考え方を別教材を使って実践し、理解を深める」という授業の型ができたのが良かった。EDUPEDIAに投稿して振り返ることができたので、今後教員になった時に、生かしていきたい。

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