アクティブラーニングで自立した学習者を育成するための目標設定(品川区第二延山小学校研究発表)

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目次

1 はじめに

この記事は、平成29年1月26日に行われた、品川区第二延山小学校の研究発表の内容をご紹介するものです。この記事ではその中でも、学校としての、目標の設定の仕方について紹介いたします。第二延山小学校では、東京大学の市川伸一教授の研究室と連携し、市川教授が提唱する「教えて考えさせる授業」に基づき、授業研究を行っています。教えて考えさせる授業に関しては、こちら(市川伸一教授が提唱する「教えて考えさせる授業」とは?認知心理学から見た習得型アクティブラーニング)の記事をご覧ください。

2 研究主題に至るまで

昨年度までの研究内容

第二延山小学校の児童の実態として、学習規律や、問題解決への生徒の姿勢はしっかりしているものの、自力で解ければよい、という認識が強く、「考えを伝える」「学びあう」という姿勢が定着していない、ということがありました。そこで、「自立した学習者の育成~学習のつまずきから考える指導の工夫~」を研究主題として掲げました。
具体的には、教師の側は

  1. 何を児童に身につけさせたいか、考えさせたいかを明確化
  2. 教えるべきことはきちんと教えて思考の土台を形成
  3. 教えたことを基に考える活動を設定する

ということを目指しました。
また、児童が

  • 教わった内容を相手に伝えることで、自分の理解度を把握する
  • 自分の理解状態を記述的に自己評価することで、これからの学習の見通しを立てる

という姿になることを目指しました。

昨年度までの成果と課題

児童が思考の過程を表現したり、説明したりするようになったほか、学力のばらつきも大きく改善されました。(学年内の算数の標準偏差が、3.7から2.0へ)
一方で、グループ活動が、児童の学びを相互に高める方向に、十分に機能しきれていない、また教える時間が長いと児童の学習意欲が低下してしまいがち、といった課題が明らかになりました。

3 今年度の研究主題

昨年度までの研究成果と課題を受けて、第二延山小学校では『自立した学習者を育てるアクティブ・ラーニングの在り方~「教えて考えさせる授業」における協同学習の研究を通じて~』と設定し、昨年度よりも協同学習の手法に焦点を当てた研究を行いました。

4 目指す教師像とそれに向けた取り組み

授業の始めで、児童がなるべく同じスタートラインに立っているようにする

「教える」段階において、扱う内容の重要な部分を〈知っておこう〉という形で児童にコンパクトな形で明確に示し、説明の中で繰り返し言及して強調する、ということを行っています。そうすることで、児童が扱う内容の重要な部分を意識して授業を聞けるようにしています。また、算数においては抽象的な用語や概念を具体的なモノを用いて説明したり、国語では情報を図式的に整理するなど、習得する内容の中で生徒のつまずきが予想される部分に教材の工夫や説明の時間を長く取る工夫を行っています。

学習における児童のつまずきを把握し、授業展開に生かす

予習で児童がわからないところ、気になるところを明確化させ、教師が授業の冒頭でそれを確認して、当日の説明の仕方に反映させていく、ということを目指します。また、「教える」段階においても、生徒との対話で思考の過程や理由を説明させるなどして、理解の程度を把握していきます。そして、児童のうちの一人を指名して答えさせたら、その意見に賛成か反対かをクラス全員に聞いたり挙手させたりすることで、クラス全体の理解度を把握することができます。そのような児童の反応を、説明の仕方に反映させることが、目標です。

基本的な知識を共有した上で、クラス全体で考えを深める課題に取り組むという授業展開を行う

基本的な理解を確かなものにするために、理解確認の時間を長めに確保し、児童が自分の言葉で習得したことを他者に説明するようなワークを準備するようにしています。少人数のグループ活動により、得意な子どもが苦手な子どもに説明する中で、自分のあいまいに理解していたところが明確になる、また苦手な子は教師の説明とは異なる視点、方法の説明を得意な子どもから聞くことで、理解を深められる、という状態を目指しています。

5 目指す生徒像とそれに向けた取り組み

目指す生徒像は一言で表すと「主体的に学習に取り組む自立した学習者」です。このような生徒の育成のために、それぞれの授業でどのように目標を具体化しているのか、「自立」をキーワードに掘り下げていきます。

学習することの意義、楽しさを感じる

これが何より自立の第一歩です。そのためには、まず学習内容が「わからない」「苦手である」という状態を克服することが大切でしょう。第二延山小学校では、算数では習熟度別の学習を導入する、国語では苦手とする子どもが多い説明文の指導に特化し、学年ごとの学習内容のつながりを明確化する、といった手立てを講じています。
また、そのうえで学習内容に対して自信を持って取り組める、ということが大切です。協同学習において、低学年のうちに「相手の考えを尊重して理解しようとしながら最後まで聞く」「同じ事項においても異なる考え方があることを認識している」というスタンスを育成することを目指しています。もしこれが実現すれば、児童一人一人が自分の考えをしっかり受け止めてもらえる、と感じながら、安心して、自信を持って学習に取り組み、理解した内容を表現できるようになっていくでしょう。

自分が何を分かっていて、何を分かっていないかを把握している

自分の理解を自己認知する、ということですが、これは一人だけの力で目指すのは難しい。そこで協同学習が力を発揮します。「考えさせる」の段階において、他人に説明することで自分の理解の程度に気づく、また授業の終わりに振り返りを行い、わかったことやわからなかったことを明確化する、ということ目指しています。また、他人の意見や説明を自分のものと比較して、根拠をもって他人のいいところを自分の理解に取り入れる、ということを中学年、高学年においては目指しています。もしこれが実現すれば、他人との相互作用の中で、児童の自己認知のレベルを上げていくことができるでしょう。

自分に適した学習方法を検討でき、わからない時の対処方法を知っている

自分のわからなかったことが明確になれば、それはどうやったら分かるようになるのか、を考えられる段階へと移行できます。そこでも、協同学習が力を発揮します。他人へ自分の理解を説明する中で、誤ったところやあいまいなところを指摘される、というような場面に、生徒は必ず遭遇するはずです。そこで、結果だけでなくて、思考過程を重視しないと、理解が深まらないことを認識し、なぜ間違ってしまったのか、わからなかったのかを検証する、といった姿勢に、生徒を導いていきます。それができるようになれば、学習手法を適切に工夫できるようになっていくことでしょう。

6 編集後記

学校を挙げて「教えて考えさせる授業」の型に基づいた研究をなさっているのだと、強く感じました。学校全体の指導目標を具体化して、そこから各学年において目指す生徒像に落とし込んでいく、ということを学校の先生方同士で話し合いながら、作り上げていった、というお話が印象的でした。また実際の授業を見させていただいても、設定した目標に一歩でも近づこうとする工夫が見られました。先生方が、指導目標を設定する際に参考になる内容だと思います。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 新井 理志)

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