1 はじめに
本記事は、兵庫県の教員採用試験を小学校区分で合格された方へのインタビュー記事です。この方は福井県内の大学に在学し、小学校、中学校社会、高等学校地歴・公民の免許を取得見込みです。また、令和2年度(2020年度)に実施された令和3年度兵庫県公立学校教員採用候補者選考試験を大学4年次に受験し、合格されました。
この記事では、教員になろうと思ったきっかけや、教員採用試験に向けた対策の方法、実際に試験で課された内容についてお聞きしています。勉強の方法に不安のある方、兵庫県の試験について知りたい方、どの自治体を受験するか迷っている方にも読んでいただきたい記事です。
2 教員になろうと思ったきっかけ
──なぜ教員を目指そうとしたのですか?
地域活性化に携わりたいと思ったのがきっかけでした。高校生のときに、学校独自の探究というプログラムがあり、その中で地域を活性化させる活動をしました。その経験を通して、地域活性化に携わることのできる仕事に就きたいと思うようになりました。実際にどんな仕事があるのだろうと考えたときに親しい教員に相談したところ、教員という立場でも、地域の活性化にかかわることができるというアドバイスを受けて、教員になりたいという思いをもちはじめました。きっかけは地域活性化でしたが、今は子どもの夢、目標を支えられる教員になりたいと思っています。
──地域を活性化させたいという思いが地元である兵庫県の教員採用試験を受けるきっかけになったのですか?
出身が兵庫県なので兵庫県を受けました。兵庫の場合は兵庫県だけでなく、神戸市という範囲でも受けることができますが、地元は神戸市ではありません。地元を活性化させたいという思いから、地元で働く可能性のある兵庫県のほうで受けることにしました。
──大学は福井県内ということですが、福井県を受けようとは思わなかったのですか?
福井県の教員採用試験も受けようと思っていたのですが、試験日が兵庫県と重なってしまいました。例年通りの日程であれば受けることができました。しかし、オリンピックの関係で兵庫県の試験日がいつもより1週間早くなっており、福井県を受けることができなかったため、兵庫県のみにしました。
──なぜ小学校を選んだのですか?
正直なところ、小中高全部に行ってみたいという気持ちがあります。兵庫県は、小中間の異動は希望すればできますが、高等学校に行こうと思うともう一度教員採用試験を受け直さないといけません。校種がいろいろある中でも、小学校というのは、中学校、高等学校、そして大人になっていくための一番基礎の部分だと思っています。小学校までにも幼稚園や保育園などで身につけた基礎というものはありますが、その基礎を伸ばしたり、新しい基礎をつくったりするところが小学校の魅力だと感じます。さらに、6年間という長いスパンの中で子どもをみることができるというところにも魅力を感じ、小学校に行きたいと思いました。
3 兵庫県の教員採用試験
令和3年度兵庫県公立学校教員採用候補者選考試験の日程・科目
一次試験(集団面接:6月27日、筆記試験:7月12日)
- 集団面接
- 一般教養
- 教科専門
二次試験(8月16~27日のうち指定された日)
- 模擬授業
- 個人面接
- 実技
──今年は出願の方法が例年と違っていたようですが、戸惑ったことはありましたか?
今年はインターネット出願のみでした。そのため、志願書のコピーを取り忘れてしまいました。面接練習のときなどにそのコピーを参考にするので大変でした。
──採用試験の情報はどうやって集めましたか?
地元の大学に通う友達に集団面接や個人面接、模擬授業などについての情報を聞きました。また、兵庫県で教員をしている親戚から聞くこともありました。
4 一次試験の内容・対策
──一次試験の対策はいつごろからはじめましたか?
筆記は3年生の2月ごろから本格的にはじめました。集団面接は通っていた大学の対策講座でやろうと思っていたのですが、福井県の教員採用試験で集団討論がなくなったので、対策もできなくなってしまいました。困っていたときに地元の友人に声をかけてもらい、4年生の5月ごろから集団面接の対策をはじめました。
集団面接
──集団面接について教えてください。
集団面接という名前ですが、いわゆる集団討論です。例年は8人の受験者で討論をしますが、今年はコロナの影響で5人でした。私が実際に討論したテーマは、「感動体験を味わわせることの意義」についてのものでした。今年は若干短くなりましたが、20分ほどの討論でした。集団討論は、面と向かって練習することができなかったので大変でした。本番は対面ですが、練習ではZoomを使ってやっていたので、タイミングや目線が難しかったです。コロナウイルスの影響で集団討論などを行わない自治体もある中で、兵庫県はほかの科目についてもほとんど変更がありませんでした。
筆記試験
──一般教養について教えてください。
一般教養と教職教養が1つの科目になっていて、一般教養が半分ほど、残りのうちの3割ほどが教職教養でした。兵庫県の試験がほかと違うのは、情報の問題が出るところです。情報検定3級くらいの問題が出ます。そこが特徴的でした。教職教養については、教育法規がよく出ていました。
──教科専門について教えてください。
5教科の問題でした。中学校卒業程度の問題なので、高校までの知識が定着していればすぐに解けるようなものです。
──筆記試験についてはどのように勉強しましたか?
共同出版や東京アカデミーの参考書を使い、参考書をしっかり読むというかたちでやっていました。問題集を解き始めたのが4年生の4月半ばごろで、それまではひたすら2か月参考書を読みこんでいました。過去問は6月からはじめました。先に過去問を解くというやり方もありますが、私は傾向をつかむのが苦手で、必要ないところでも全部やりたいタイプ、やらないとできないタイプなので、そのような流れでやっていきました。例えば、兵庫県だと教育心理があまり出ないのですが、そこもしっかり勉強しました。全部を把握したうえで問題を解くというのが自分のやる気が出る方法だったので、過去問はラスト1か月でやりました。
5 二次試験の内容・対策
──二次試験の対策はいつからはじめましたか?
一次試験が終わって、7月末ごろからはじめました。福井県は二次試験の日程が兵庫県に比べて早く、大学が開催する対策講座も残り少なかったので、県外の教員採用試験を受験する仲間を集めて一緒にやりました。模擬授業については、実施する自治体が少なく、3人ほどしか集まりませんでした。大学の先生が1人入ってくださり、なんとか対策することができました。
模擬授業
──模擬授業について教えてください。
兵庫県の模擬授業は導入だけでなく、展開のはじめの部分に入るくらいの長さでやらなければなりません。実際に、展開まで入ってくださいと試験官の方に言われました。約12分の模擬授業です。板書もしてくださいと言われました。私は中学校社会、高等学校地歴・公民の免許も取得見込みなのですが、たまたま社会の授業でした。小学校区分で受験をすると、国語、算数、社会、理科のどれかの授業を行うことになるのですが、国語か算数の授業になることが多いそうです。そのため、国語か算数のつもりで行ったのですが、いざもらったお題を見てみると社会でした。面接の1か月ほど前にこのあたりの範囲を出しますというお知らせが出されます。国語だったら物語文と詩の中のどれかといったようなことがわかります。学年はわかりませんが、社会や理科は単元名からある程度学年がわかりました。範囲が広かったので対策が大変でした。実際に模擬授業で個人に課されるお題は試験の直前に渡されます。渡されたお題は、模擬授業が始まる5分くらい前に開けるよう指示があり、3分くらい見ると閉じてくださいと言われました。その後、模擬授業を行う教室に入って実際に行うという流れでした。
──本番の模擬授業はどうでしたか?
子ども役は面接官の方がやっていました。本当の子どもだと思ってやろうとし、積極的に「Aくんお願いします」というように当てました。面接官は3人でしたが、実際の現場で授業をするときは30人くらいいることになるので、見えない子もそこにいるつもりで声をかけました。練習のときに、流れが止まってしまうとだめだと言われたので、なかなか答えてもらえなかったときには、自分の発問が悪かったのだとすぐに思い、「ごめん、先生の発問が悪かった」と言って進めていきました。すると、その後の面接で「模擬授業はすごく対策されたのですか?」と聞かれました。対策はZoomで行っていたため、「実際にはできていなかったが、Zoomでどんなふうにやるとよいかを話し合った」ということを答えました。本番はいきなりチョークをもってやらないといけなかったので、最初の方は手が震えました。しかし、段々気持ちが乗ってくると、こんなふうに進めようというのがみえてきて楽しかったです。面接官の方に本来の自分の姿を引き出していただいた気がします。
個人面接
──個人面接について教えてください。
個人面接は模擬授業が終わったあと、そのままその教室で行われます。模擬授業が15分、個人面接が25分なのですが、40分続けて行われました。かなり長丁場です。内容としては、小中高の免許を取得する予定なので、やはり小学校を選んだ理由についてはきかれました。長いスパンでかかわることができることが魅力だと答えると、その魅力は具体的にいうとどういうことかと追質問をされました。子どもがこんなことをしたときにあなたはどうしますか、というような場面指導についての質問が必ず入ってくるのですが、私は宿題について聞かれました。
実技
──実技について教えてください。
音楽と体育の実技を行いました。体育は器械運動とボール運動で、それぞれマット運動とバスケットボールをしました。音楽は歌唱と器楽で、器楽ではキーボードを選びました。この実技の対策がなかなか難しかったです。体育は独学で、音楽は同じ大学の音楽科の友達に教えてもらいました。指導してくれる人がいなかったことが大変でした。
体育はYouTubeを見てやりました。ポイントは形がきちんとできているかだと思います。当日は側方倒立回転、前転ジャンプ1/2ひねり、伸膝後転を連続でやってくださいと言われました。それを教科書に載っている方法でできるかというところが一番求められていたと思います。練習では自分で動画を撮ってできているかを確認していました。
音楽の器楽については、両手ではなく片手、メロディーだけでした。歌唱も器楽も一番大事なのはテンポを守ることです。試験官の方がストップウォッチをもっていたので、この曲だったら何分以内で歌い終える、弾き終える、ということができているかをみられていたようでした。そのような知識を身につけておくことも必要です。
6 教員採用試験全般
──小中高の免許をもっていることが何か強みになったと思うことはありましたか?
実感はないですが、もっているほうが重宝されるよとは言われることはありました。小中間の異動は強制ではないので、ほかの校種の免許をもっているかどうかが試験に影響したということはあまりなかったように感じました。採用試験の際に役立つというよりは、今後の教員人生の中で生かすことができると思います。
──対策の中でやっておいてよかったと思うことはなんですか?
面接の練習は、自分の考えを整理するために役立ちました。大学に入って1年生からこれまでいろいろなことを学んできています。その学んだことを振り返る機会はありますが、意外としっかり振り返ることはできていません。しかも、振り返っていたとしても、浅いことがあります。4年間を経て面接練習をするときにこれまでの学びを振り返ると、あれはああいう意味があったのか、これはここにつながってくるのかと気がつくことがありました。面接練習で人と話して自分の考えをまとめていくということがとても大事だと思いました。実は、面接試験という名の教員としてのトレーニングを自治体は課しているのではないかと感じました。
──後輩におすすめする勉強法はありますか?
先輩に勉強法について聞いてみたときには、いろんな方法でやってみるとよいと言われました。そのため、勉強をしていてなにか違うと思ったらやり方を変えるというのを繰り返していました。これがよいと思った方法でやっていきますが、早いと3日ほどで、長く続いても2週間ほどたつとやはり違うと感じることもあり、そうなったらまた方法を変えて取り組みました。
──コロナウイルスの影響を受けた部分はありましたか?
コロナウイルスの影響で家にずっといる間、自分のモチベーションを高めるために勉強の記録をとっていました。予定と1週間の振り返りを記録してあります。筆記試験の勉強について、この日にこれをやるというのを1週間ずつ書きました。3月末までは学校で皆で勉強していましたが、コロナウイルスの影響でそれができなくなりました。自粛生活を送る中で1人でも勉強していかないといけないと感じ、4月の半ばからはじめました。日曜の夜に1週間分の予定を立てました。日曜はその1週間でどんな勉強をしたかを振り返る日で、それを踏まえて次の週の予定を立てていました。
もちろん予定通りにいかない日もありましたが、割り切っていました。勉強が手につかず、趣味に没頭してしまった日もありました。中途半端もよくないと思い、メリハリをつけて、勉強するときはする、気分転換をするときはするというようにしていました。上手くいかなかったときは、日曜の振り返りで計画を立て直してやっていました。このように計画を立てて記録をとることで自分のコントロールの仕方がわかった部分もあります。週の最初の3日は集中して勉強でき、木金あたりに手が進まなくなり、土曜に焦って慌ててまた頑張りはじめる、ということが多かったのですが、日曜に区切りができていたため、上手く切り替えて週の最初の3日間は頑張ることができるというサイクルができていました。
7 これから教員採用試験を受ける皆さんへ
──教員採用試験を受ける方に向けてメッセージをお願いします。
私から伝えたいことは3つあります。1つ目は、教員採用試験というものは、実は勉強ができる場であるということです。面接の練習のときは過去の自分を振り返って学べることがあります。対策をしていて、試験ではあるのですが、勉強する機会をいただいているのかもしれないと気がつきました。集団討論においては、人の意見を共感的に捉え、自分とは違った意見でも、どのような意図で発言しているのかを考えるようになりました。人としての成長、教員としての成長ができる場が教員採用試験だと感じました。
2つ目は、子どもの前にいる自分を表現しようとするのが大切だということです。面接や模擬授業のときには絶対に笑顔でやろうと意識していました。実際に学校現場に出て子どもたちの前で授業をするときに、しかめっ面で授業をする教員はいません。絶対に笑顔で楽しく授業をしよう、面接の質問に答えよう、という意識がリラックスして臨むことにつながったのではないかと思っています。試験だからと構えすぎるよりも、実際に子どもがいたらどうするかを考えて臨むことが重要です。
3つ目は、教員採用試験に落ちても終わりではないということです。実際、自分にも言い聞かせていました。落ちてはダメだと思うと考えすぎてガチガチになり、笑顔もなくなります。私は教員採用試験を通していろんなことを学びました。ですから、学びの場であったことは間違いないですし、仮に落ちたとしても、講師というかたちで学校現場に入ることができます。そこから自分の教員としての歩みはまた違った進め方ができるので、絶対受からないといけないというのではなくて、落ちたとしても違う学び方があるという心持ちで教員採用試験までの半年間を過ごしました。あまり緊張せず、子どもの前の自分を見せていこう、いろんな学びがあるのだ、ということを楽しみにしながら教員採用試験を受けるとよいと思います。
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9 編集後記
自分自身とよく向き合い、自分を上手くコントロールする術を身につけることの大切さを感じました。教員採用試験に関心をもってこの記事を読んでくださった皆さんが、なにかヒントを得られれば幸いです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 小林)
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