子どもの主体性がのびる学び(井本陽久先生インタビュー)

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目次

1 はじめに

 この記事は、2022年7月10日に行った「子どものありのままを認めれば、子どもたちは自ら最高に輝く」を理念に掲げ、子どもたちの主体性を育て「子どもたちがありのままに輝くこと」を重視した授業内容が展開される「いもいも教室」の共同代表であり、栄光学園数学科に勤務する井本陽久先生へのインタビューを記事化したものです。子どもの主体性」をテーマに、生徒への声掛けや発問などの実践的なヒントを伺いました。

2 主体性を重視した学習

試行錯誤と思索

 先生や周りの大人が子どもに「自分で考えなさい」とよく言います。そのように言われると、多くの子どもたちは自分で考えて求められている行動をすることは難しいと感じてしまいます。しかし本質的に求められていることは、実は皆さんは生まれながらにしてできています。では、「自分で考えなさい」という指示で本質的に求められていることは何なのでしょうか。

 例えば皆さんが生まれてから、寝返りをしたり歩いたりするのは習ってないはずです。それらはすべて自分のやり方や考え方で試行錯誤をして行っています。実はこれは、ロボットでは難しいことなのです。人間は、人に言われた通りにすることではなく、自分の考え方、やり方で習得していきます。そしてこれが「自分で考える」ということの本質的な部分なのです。つまり、「自分で考える」とは「自分のやり方、考え方でやる」ことです。

子どもがありのままの自分で伸びていく空間

 子どもによって興味関心を持つ分野は違います。そのため同じ体験をしていても、子どもによって試行錯誤が異なり伸びるところが変わりますそれにもかかわらず大人が子どもに対して「数学を伸ばそう」「アートを伸ばそう」と考え強制することは、子どもが自分で伸びていくことを止めてしまいます。大人が強制するのではなく、その子がありのままの自分で生きていける環境を作ることさえできれば、たくましく自分で伸びていくと思います。

3 理想的な学びの流れ

対話を通した学びの形成

 まず先生がすべきことは、子どもたちを「優劣」や「できる、できない」から解放することです。すると着目する点が変わるため、今まで評価していた部分への重要度が低くなります。その結果、学びの本質である自分で学んで自分で習うという「自学自習」の部分が重視され「君にとって学ぶことはどういう意味があるの?」という問いが生かんでくるようになります。するとほかの視点では重要とされていなかった、ある1つの何でもないことにいろいろな感じ方をしている子がいることに気が付きます。そのようなことを拾ってあげて共有することもまた試行錯誤の1つになります。これにより対話を通して同じことを見ても別の人はこう思うのか、こういうアプローチをするのかという他人の視点を知ることになります。子ども一人一人が勝手に思索や試行錯誤をして、それを友達と共有しながら自分を見つめるという作業をする。大人はその様子をしっかりニコニコと見ていてあげます。先生が生徒に対して対話つまり共有する作業を促して自分を見つめさせることが大事です。

4 授業をするときのコツとは

誤答に隠されたヒント

 授業をするうえで、ありきたりな問題のなかでの誤答も重要です。私は、正解に見えるようで実は間違っている答えを「スーパー誤答」と呼んでいます。この「スーパー誤答」を探すために毎回の授業で生徒の解答を見るようにしています。数十人分確認することは大変ですが、普段からリサーチすることが大事だと思います。

 だから若い先生に「どのように授業をすればいいですか」と質問されたときには、やり方ではなく「2週間でよいから、生徒が解いたものを全部見てから授業準備をしてごらん」と言います。すると、驚くほど授業の質が向上します。授業前は生徒の解答を見て、授業中は生徒自身を見る。このように生徒を「見る」ことがものすごく大事です。

 また生徒の解答を見るときには、誤答だけではなく正答も大切にします。正答の中にも先生が解き方を予想していなかった解き方をする解答があります。だから僕は生徒の解答から得た正答と誤答をプリントにまとめ、それを生徒に配ります。このような授業を行うにつれて問題を解くプロセスが面白い、楽しいことが分かるようになります。すると子どもたちはできる、できないに関心がなくなります。

5 生徒への声かけで意識をしていること

褒めることと「外の評価軸」

 褒めることは対象が子どもの言動である限り、叱ることと一緒だと思います。なぜなら、言動を褒められた子どもは次も同じことができなくてはならないと考えてしまうからです。またこれは、無意識のうちに子どもを「外の評価軸」に引っ張り出してしまいます。

 この外の評価軸とは、評価軸が「自分自身」から「他者」になることだと考えています。今の若者は小さいころから無意識のうちに空気を読むことが当たり前になっているため、評価軸が無自覚のうちに「他者」になってしまいがちです。これにより自分を客観的にみることができるようになり、他人からの評価を嘘っぽいと感じてしまいます。

 だからこそ、ポーンと問いを立ててあげて声掛けをしてあげることが大事になります。声掛けとはその子がしていることを言ってあげることです。つまり先生が生徒のありのままを捉えて伝えてあげることがとても重要です。そしてできればそこに「君に興味があるよ」という思いをのせることが大切です。

6 先生に向けて一言

よい授業は試行錯誤から

 よい授業とは一人一人の先生が試行錯誤をして苦しみながら行うものだと思います。また、学校独自の雰囲気に染まるのではなく「自分の思うようにやっていいよ」と先生の背中を押してあげたいなとも思っています。私の授業を皆さんが、逆に私が皆さんの授業方法を真似してもうまくいきません。要するに、自身の経験から生まれるキャラクターやパーソナリティーが大事であり、それは武器になります。自分のキャラクターやパーソナリティーを用いて、自分で考えられるようになったらよいと私は思います。

7 プロフィール

井本 陽久(いもと はるひさ)

栄光学園中学高等学校を経て、東京大学工学部を卒業。現在、栄光学園で数学を教えている。花まる学習会にて「いもいも教室」〔*〕を主宰。長年、生徒と共に児童養護施設で学習ボランティアを続ける他、福島県飯館村にて飯館中学校特別講座を定期的に開催。東京都西多摩郡檜原村では森や川で過ごし自ら考える力を育む「森の教室」も「いもいも」として主宰。

〔*〕「子どものありのままを認めれば、子どもたちは自ら最高に輝く」を理念に掲げ、子どもたちの主体性を育て「子どもたちがありのままに輝くこと」を重視した授業内容が展開される教室

※プロフィールは2022年8月現在のものです。

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9 編集後

先生や親など周りの大人の役割が、子どもを導くというよりも、むしろ環境を準備して見守ってあげるべきという考え方が新鮮でもあり、とても印象的でした。先生のお話を聞き、特に私は「自分らしさ」を大事にしようと改めて感じました。私自身も答えを求めるだけではなく、目の前の子どもと試行錯誤を続ける姿勢を持ち続けたいと思います。(佐藤 幸希)

試行錯誤をして授業を行う大切さを改めて知りました。「生徒の解答を見てから授業を行う」というのは基本的なことですが、忙しさを理由にやらなくなってしまう現状のもったいなさを痛感しました。今一度先生は何を大切にするべきかを捉えなおす必要があるようにも感じました。(上楽 乃愛)


(取材・編集・文責:EDUPEDIA編集部 佐藤幸希 上楽乃愛)

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