はじめに
本記事は、小学館から発売された『松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て』の著者・謎解きクリエイターの松丸亮吾さんにインタビューをおこなった内容を記事化したものです。
今回の取材は2023年4月1日に開催されたリトラボのオープンセレモニーの後に行いました。
「リドラボ」とは
リドラボは、謎解きクリエイターの松丸亮吾さんが代表を務めるクリエイター集団「RIDDLER(リドラ)」が運営する、これからの時代に必要な「地頭力」を育てることに特化した、小学生のためのひらめき学習塾です。
子どもの学習意欲を育てるひらめき学習プログラム、仲間と共に問題を解決する協調性が身に付くチームコミュニケーション授業、そしてすべての学びの基礎となる力を鍛える“地頭力”特化型カリキュラムで、子どもの考える力を育てることを目指し、開発されたものです。
授業は体験型となっており、まるでゲームのように夢中になれる「ひらめき学習プログラム」を中心に設計されています。楽しんでいるうちに地頭力が育っていく、そして自らが進んで通いたくなるような、ワクワクの止まらない教室を目指しています。
勉強をゲームのように考える
僕はもともと勉強が苦手でした。そんなとき、「IQサプリ」というテレビ番組で出題されていたような、ひらめきで解ける問題に救われました。
突破口がなさそうに見えることに直面したり、何かに行き詰まったりしたときに、「気づいていないだけでどこかに突破口が必ずある」と考えることはとても大切です。僕は、小さいときからひらめき体験を積み重ねてきたため、この思考が刷り込まれています。
僕は対戦ゲームが好きです。対戦ゲームをする際も、「どうすれば次のときに勝てるか」「どうすれば早く上達するか」を考えるのが好きで、それを考える癖が自然とついていきました。そのため、例えば数学の成績がなかなか上がらないとき、「どのようにしたら成績を伸ばすことができるだろうか」と、ゲームに近い感覚で楽しむことができるようになりました。これは、勉強が苦手な子が勉強が得意になっていくうえで力になる方法だと思っています。
成績を上げる方法~地頭力ってなに?~
勉強をたくさんやれば、もちろん成績は上がります。しかし、効率が悪い勉強法もあります。考えることが好きになれば、成績を上げたいと思ったときに、闇雲に勉強するのではなく、成績を効率よく上げる方法を考えて勉強することができるようになります。このように、方法を考えられる人と、とりあえずやりまくる人とでは、成績が上がるまでにかかる時間に明確な差が生まれます。成績を効率よく上げられる人、つまり要領がよい人になれるかどうかは、「地頭力」にかかっています。
「地頭力」とは、考える力のことです。「地頭力」は生まれた瞬間についてる力ではなく、確実に伸ばすことができる力です。
ハードルを乗り越える力をつけるには主体性が大切
僕らはもともと謎解きを作るエンターテイメントの集団であるので、謎解きにフォーカスして子どもたちの地頭力を伸ばす取り組みを行っていますが、「地頭力」を伸ばすために役に立つのは謎解きだけではありません。「地頭力」は単に謎解きをする力ではなく、もっと広い意味でハードルを乗り越える力なのです。
知らなかったことや難しいことにたくさん触れるのが勉強で、それを通して、ハードルを乗り越える力がついていくのだと僕は考えています。だからこそ、勉強は必要であると思っているのです。
それと同時に、ハードルを乗り越える力をつけるうえでは、学校で行うような勉強をするだけでは不十分であるとも思っています。もちろん、学校教育が変わっていく必要もあるかと思いますが、ここに子どもの主体性を引き出せる別のプロフェッショナルが入っていくことも必要だと思います。
まずは子どもたちが自分から何かをやりたいと思えるようにすることが大切です。勉強の問題と言われるとやる気が起きないけれど、謎解きと言われると子どもの主体性が現れてくることもあります。主体的にものごとに取り組み、楽しんで考えることを通して、ハードルを乗り越える力が身についていくと考えています。
謎解きを作るうえで大事にしていること
謎解きを作るうえで一番大事にしていることは、パターンで解くことができないように問題を作ることです。そのため、基本的には子どもたち自身が初見で問題に取り組むことができ、答えがひらめくまでのプロセスを繰り返し体験することができるのです。
謎解きをすることで、「自分で気づけた」「自分で解けた」という経験をし、「自分で何かを考えればアクションを起こすことができる」ということを知ることができます。考えることを楽しめるようになるためには、子どもたちが「自分で気づく」ことが大切だと考えています。もちろん、難しすぎないように配慮はしていますし、必要に応じてヒントを与えながら、子どもたちが自分で気づくまで繰り返し行うのです。
子どものためになりたいという思いが形になった「リドラボ」
僕はもともと子どもが好きです。子どものためになるのなら、僕にできることはなんでもやりたいという思いがあります。そのため、子ども向けのイベントを開くなど、子どもとコミュニケーションできる機会はこれまでも多く作ってきました。地方での講演会の依頼がきたときもなるべく引き受けるようにしています。
講演会の際、親御さんから「どうやったら勉強ができるようになりますか」という質問をされることがよくあります。僕の勉強方法を伝えると、「やっぱり松丸くんは頭の出来が違うんですね」などと言われます。それを聞くたびに、そう考えてしまうのは一体なぜなのだろうと疑問に思っていました。
僕は生まれた瞬間から勉強ができたわけではありません。勉強が苦手だった時期もありました。それを乗り越えることができたのは、頭を使うことが楽しめるようになったからです。そのきっかけは、僕の場合はテレビ番組の「IQサプリ」でした。今の子どもたちの場合、それはリドラボかもしれません。そのようなきっかけを生み出すものとして、明確に教育的な価値がついた、頭を使うことが楽しめる塾は、今のところ他では十分には開発されていないと思います。
思考力を伸ばす以前に勉強に立ち向かうことには、レベル上げする前にボスに挑むというような難しさがあると思います。けれど、頭を使うことが楽しいと思ったらレベル上げも楽になってきて、どんどん子ども自身が成長します。その土台を先に作らないと勉強嫌いの子どもが増えてくると考えられます。
リドラボを発表したときの反響はすごく大きかったです。僕は、リドラボには、謎解きが好きな人がたくさん集まってくると思っていました。また、それは最初のステージとしては悪くないことです。しかし、始めてみると、謎解きという軸ではなく、詰め込み型の教育に疑問を感じた多くの親御さんがリドラボに反応してくれました。地方に住んでいてリドラボに通うことが難しい方などもたくさんいます。この潜在的なニーズはさらに大きなものであると考えると、リドラボは価値のあるプロジェクトであると感じています。
頭を使うという土台を身につけることができる、地頭力の育成に特化したカリキュラムは社会的にも必要なのです。
プロフィール
松丸亮吾(まつまる・りょうご)
東京大学に入学後、謎解き制作サークルの代表をつとめ、さまざまな分野で一大ブームを巻き起こしている「謎解き」の仕掛け人。
監修の書籍『東大ナゾトレ』シリーズは累計190万部(2023年9月時点)に。
現在は「考えることの楽しさをすべての人に伝える」を目標に東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLERを立ち上げ、仲間とともにあらゆるメディアに謎解きを仕掛けている。
著書紹介
松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て | 書籍 | 小学館 (shogakukan.co.jp)
編集後記
松丸さんが、もともとは勉強を苦手としていて、そんなときにひらめきで解ける問題に救われたというお話が印象的でした。子どもたちが自分の頭で考えることを楽しめるようになるような新しい形の教育に大きな可能性を感じることができました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 並木未菜・武村愛雛・千葉菜穂美)
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