松丸くんが学校教育に思うこと~教科教育はなぜ必要なのか~(【教育技術×EDUPEDIA】スペシャル・インタビュー)

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目次

はじめに

 本記事は、小学館から発売された『松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て』の著者・謎解きクリエイターの松丸亮吾さんにインタビューをおこなった内容を記事化したものです

 今回の取材は2023年4月1日に開催されたリドラボのオープニングセレモニーの後に行いました。

リドラボとは

 

 リドラボは、謎解きクリエイターの松丸亮吾さんが代表を務めるクリエイター集団「RIDDLER(リドラ)」が運営する、これからの時代に必要な「地頭力」を育てることに特化した、小学生のためのひらめき学習塾です。

 子どもの学習意欲を育てるひらめき学習プログラム、仲間と共に問題を解決する協調性が身に付くチームコミュニケーション授業、そしてすべての学びの基礎となる力を鍛える“地頭力”特化型カリキュラムで、子どもの考える力を育てることを目指し、開発されたものです。

 授業は体験型となっており、まるでゲームのように夢中になれる「ひらめき学習プログラム」を中心に設計されています。楽しんでいるうちに地頭力が育っていく、そして自らが進んで通いたくなるような、ワクワクの止まらない教室を目指しています。

「人と比べる教育」の問題

今の学校教育における問題とは何でしょうか。

 

 今の学校教育では、人と比較せず、過去の本人と比べてどれだけ成長したかを見ることが十分にできてないと感じています。

 成績が悪くて落ち込んでいる子に、「そのテスト1年前に受けたら何点だった?」という話を僕はよくします。つまり、三角関数のテストを受けた結果が45点だったとしても、三角関数を全く知らなかった1年前に受けたら絶対このテストは0点だったわけだから、その45点は勉強した証です。むしろ、残りの55点をどうすれば伸ばすことができたかを考えればよいのです。

 「学年で202番だから次は200番を超えるぞ」などというのは、少し目標としてずれているように感じます。たとえば、300人で順位を出したとして、TOP100など順位が高い人は喜びますが、200位から300位の順位が低い人は劣等感を抱いて終わってしまうことが多いでしょう。順位が低い中で向上心が出る人は一握りだと思います。あくまでも能力は過去の自分との比較でしか語れないように感じています

「教科学習」の必要性

今の学校の教科学習に対してどう思っていますか。

 まず、僕は「教科学習」は必要であると考えています

 勉強は、何の役に立つのか説明もないままにやらされていくことが多いので、それで楽しくなくなり苦手になる子がいて残念に思っています。勉強は楽しいに越したことはありません。しかし、苦手意識で「楽しくない」「やりたくない」と仕事を全部放棄していったら、社会人としてうまくいきません。社会に出ると、もちろん楽しいこともありますが、嫌なことをやらなければならなかったり、やったことのないプロジェクトに参画しなければならなかったりします。そのような嫌なことに直面したときに、「もうやりたくない」「嫌だ」と逃げ出す子は社会人になるのは難しいでしょう。

 勉強や教科学習の一つの意味は、嫌なことでも適度に楽しめる力をつけることだと思っています。ゲームのように捉えて学ぶなど、嫌なことへも工夫して取り組む方法を身につけるのも勉強において重要なプロセスなのです。そのため、僕は教科学習や勉強は子どもたちにとって必要なものだと思っています。

学校で非認知能力を高めるためには

子どもの非認知能力を高めるために学校でできることとして、どんなことがありますか。

 学校でできることだと、チームで何か課題解決をしたり、オリジナリティのあるものをみんなで考えたりすることが挙げられると思います

 みんなでクリエイティブなことをすると良いですね。プログラミングをしたり、「こんなサービスがあったらいいな」とみんなで考えたりしても良いでしょう。

 自己肯定感が高い子は、作ったり学んだりしたことを、おもちゃみたいに遊んで、違うものを作り出すのが好きな印象があります。例えば、僕は子どものころ、「文房具バトル」など新しい遊びを考えていました。「消しバト」や「消しピン」と呼ばれる、消しゴムを飛ばして落としたら勝ちというゲームがあります。それだけだと単純で面白くないので、ちょっとアレンジして、組み合わせ自由というルールにしたんです。1つの文房具、または複数の文房具を組み合わせたもので戦い、1つでもパーツが外れたり、床に落ちたりしたら負けという、新しい遊びです。ゲームバランスがよくできていて、絶対にパーツが外れないように1つの文房具で戦う子もいれば、リーチを広くするために、180度に開く定規を組み合わせた風車のようなもので戦う子もいました。小学校で「文房具バトル」の大会を開いたのですが、大会を開くごとに、最強の文房具がコンパスや分度器とどんどん変化していきました。最近気づいたのですが、この「文房具バトル」のパワーバランスは、実は他のゲームにも言えることなのです。新しいことを考えるときも、既存のなにかを参考にしていたり、既存の法則に則っていたりするので、教科学習とはまた一つ違う学びになります

先生に特に読んでほしい章3つ

教育界の専門家10人と松丸くんの対談をまとめた、著書『松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て』を通して、先生に特に読んでほしい箇所を教えてください。

 

 もちろん、全部読んでほしいですが、学校の先生に特に参考になりそうなのは第2章、第7章、第8章です。他の記事も非常に有意義な対談なので、学校だけでなく、家庭での子育ての参考になると思います。

 第2章は、ライブ感あふれる授業で全国から入塾希望者が詰めかける、探究学舎の宝槻泰伸さんとの対談です。好奇心に火がつけば子どもが勝手に伸びていくとの考えから、どのようにして学ぶ気持ちに火をつけるかを重視している方です。一人ひとりの好奇心を大事にすることは学校教育では難しいかもしれませんが、ヒントになることは必ずあると思います。

 第7章は、横浜創英中学高等学校の校長で、前任校の千代田区立麹町中学校で行った教育改革で注目を集めた、工藤勇一さんとの対談です。工藤さんは学校の当たり前を変えていく先生で、定期試験や固定担任制を無くしたことで、学力が伸びたという話がかっこよかったです。まだ他の学校があまりやっていないことを大々的にやって、実績を共有してくれている方なので、参考になると思います。

 最後は、第8章の『学力の経済学』を書かれた、中室牧子さんですね。経済学のデータから見る学習方法は今まで当たり前だと思ってたことが全部否定される感覚があります。対談では、教育への思い込みが覆る面白さがありました。

読者へのメッセージ

 リドラでは、小学校向けに、「謎解きやろうプロジェクト」という謎解きイベントを提供しています。学校中に問題を貼って、チームで探検しながら30分で最高50問解くイベントです。このイベントで面白いのが、勉強が苦手な子どもが1位になるのも珍しくないことです。勉強は1つのパラメータに過ぎないことがよくわかります。

 あるとき、この謎解きイベントで1位になったのはサッカー少年がリーダーのチームでした。その子は「僕は問題を解いていないので、他の子たちがすごいんです」と言っていたのですが、後々グループの他のメンバーに聞くと「リーダーが適切な場所に人を配置したり、効率的に回るルートを考えてくれたりしたから、勝てた」と打ち明けられました。サッカーをするときには、周りの状況をよく見て、どうすれば最も効率よく得点できるかなど、いろいろ考えますよね。その考える力やリーダーシップが謎解きの問題にも活かされたようです。僕は、この話を聞いたとき、この子は社長になるんじゃないかと思いました。このような考える力やリーダーシップは、やはり勉強だと測りづらいと思います

 教育を考えるうえで、子どもたち自身がどういう教育を受けたら最も幸せになってくれるかが、僕は大事だと思っています

 また、「勉強熱心な両親のおかげで勉強はできるようになったけど、やりたいことが見つかりません」という方はまだいます。このような親の期待と子どもの気持ちのギャップももったいないです。

 これらを改善するためには、リドラボのように教科学習とは違うアプローチで働きかけている塾が、学校や保護者と情報を共有することが重要だと感じています学校が他の教育機関と連携できたら、もっとすてきな教育があふれた社会になると思います

プロフィール

松丸亮吾(まつまる・りょうご)
東京大学に入学後、謎解き制作サークルの代表をつとめ、さまざまな分野で一大ブームを巻き起こしている「謎解き」の仕掛け人。

監修の書籍『東大ナゾトレ』シリーズは累計190万部(2023年9月時点)に。

現在は「考えることの楽しさをすべての人に伝える」を目標に東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLERを立ち上げ、仲間とともにあらゆるメディアに謎解きを仕掛けている。

著書紹介

松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て | 書籍 | 小学館 (shogakukan.co.jp)

編集後記

嫌なことを楽しく行うために工夫する方法を学べることが、教科教育、ひいては学校教育の良さというお話が印象的でした。学校教育はどうあるべきかについて深く考えさせられた取材でした。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 並木未菜・武村愛雛・千葉菜穂美)

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この記事を書いた人

国語教育と教育格差に関心があります。forSTUDENTを中心に書いていきます。

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