【吉田研作先生インタビュー 後半】不安定な時代を生き抜くための英語力とは?

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目次

1 はじめに

 本記事は、2023年2月24日に、日本の英語教育の第一人者であり、上智大学名誉教授、日本英語検定協会会長を務められている、吉田研作先生にインタビューを行った記事です。前半(こちらをクリック)は日本における英語教育の変革について概観いただき、新たに求められる英語力について新学習指導要領に基づきお話していただきました。続く後半では、具体的な授業での実践方法やこれから必要な英語力についてお話ししていただきました。英語教育に関わる先生方や保護者など、多くの方に通じる吉田先生からのメッセージも紹介しています。

2 CAN-DOの重要性と授業に導入する具体的な方法

Q. CAN-DOとは

CAN-DOは自信を測る尺度。成功体験から生まれる自信がコミュニケーションには大切

 学習指導要領に基づき、児童生徒が身に付けるべき能力を明確化し、先生が授業を改善できるように導入されたCAN-DOは、児童生徒の学習に対する自信を測る尺度です。通常の授業は評価基準が先生に依存していますが、CAN-DOに基づいたコミュニケーション能力を重視した授業は、単なる言語知識よりも言語知識を活かして何ができるかというパフォーマンスを重視し、生徒自身が評価を行います。先生が「生徒はこれはできる」と思っていても、児童生徒自身が「自分はできる」と思っているとは限りません。大事なのは子どもたち自身の “I can do.”なのです。

 実際にCAN-DOを用いた例として、2005年ごろに日本と韓国、中国の高校生を対象に、当時のGTECの3技能テストを使用した英語力調査があります。生徒の自信を測る尺度として学習にCAN-DOを取り入れることは、当時はまだ定着していない考え方でした。当時の英語教育においては、教科書の内容や用意された題材にとどまる「教室の中のみ」で授業活動が完結することが多く、自分が関心を持った英文を読むことや現実の社会・世界で活きる実践的な力を養うことは重要視されていませんでした。そこで、GTECの平均点が800点満点中600点前後と高いレベルの日韓の高校生を対象に、CAN-DO に関する項目をテストに入れて、試験のスコアとCAN-DOとの相関を調べました。しかし「授業外で、ネイティブスピーカーと自由に会話ができる」という CAN-DOに関する項目には、その約半数が「できない」と回答しました。生徒の英語レベルと自身の習熟度に対する自信に大きな差があることは興味深いと思いました。

コミュニケーションをとりたいという積極的な姿勢が重要

 それに対して、小学校へ英語の授業を見学した際にも興味深い発見がありました。一緒に行った同僚が、授業後に小学6年生の児童に「授業はどうだった?」と聞くと、その子は「楽しかった」と言いました。見学していた授業では、自発的な英語でのコミュニケーションが多くみられたため、同僚がその小学6年生の児童に「授業外でも外国人と自由に英語で話せる?」と聞いたところ「できるよ」(“Yes, I can.”)と答えました。もちろん英語の知識に関しては高校生の方が圧倒的にありますが、自信度は小学6年生のほうが高いということが分かりました。知識量と自信が相関していないことから、コミュニケーション能力は知識よりも、とにかく自分で実践し、通じたという成功体験とそこから生まれる自信のほうが大事だと言えるでしょう。例えば、皆さんご存知のタレントとして活躍する出川哲朗さん。彼は英語が流暢ではありませんが、単語だけでも現地の方々と楽しそうにコミュニケーションをとる姿がよくテレビで放映されています。結局、英語の知識がたくさんあっても自信や積極的な姿勢がない人は話すことができません。英語の知識が豊かであることよりも、必要な情報を得たいという気持ちが強ければ、コミュニケーションをとるのに必要な英語は習得されると言えるのです。改訂された学習指導要領はそのような子どもたち自身の「できる」というCAN-DOを重視しています。したがって、授業では” You can do.”を測るだけではなく、子どもたち自身の” I can do.”が重要であり、自信を持たせることが大事です。

Q. 教科書のCAN-DOリストを授業でどのように活用すればよいか?

教科書の話題から身近な話題へ発展させる

 学習指導要領は、「基本的な生活で必要な情報を身に付ける」ことを目標としています。そのため、まずは、教科書に載っている場面を活用しながら、その場面で必要とされる情報を獲得することができるように授業で実践する必要があると思います。教科書に記載されている一つの場面だけで終わらせずに、生徒自身が日常で体験する場面へ発展させられるような授業をすると、より成果があります。

 生徒が教科書を活用しての学習を個人化できるかどうか、つまり教科書から一歩離れることが重要です。場面設定の一例としては、料理の場面設定「ピザに何をのせる?」が挙げられます。料理に関する語彙や料理をする際に使用する文法などを学びながら、生徒が自分たちで好きなものをのせて、自由にピザを作ります。他には「我が町紹介」という場面設定も考えられます。足利の小学5年生の授業では「足利のいいところ」として食べ物、観光名所、自然というテーマで、それぞれのグループが英語で「我が町紹介」をしていました。 そのように教科書の話題から身近な話題へ発展させることが重要です。

3 現場の英語科の先生へ伝えたいこと

Q. 現代社会を生き抜くうえで必要な英語力とは?

言語を身に付け、腹を割って対話する力

 今の世界情勢はかなり不安定です。ウクライナとロシアの戦争、石油、原子力の問題など、グローバル化が進む中でさまざまな危機的な状況や問題があります。それらを解決するためには、国を超えて人間と人間がコミュニケーションをとりながら問題解決をしていくことが不可欠です。世界中の人たちが互いに腹を割って話し合い、さまざまな形でコミュニケーションをとり、理解し合う努力をするしかないと思います。もちろん政府や政治による外交も大切ですが、僕は個人がコミュニケーションをとりあう民間外交は、それ以上に重要だと捉えています。例えば、韓国と日本の関係についてです。若者たちはお互いの文化を非常に尊敬しています。 韓国の若い人たちはアニメなどの日本の文化が大好きだそうです。民間のレベルで人の交流を通して、お互いに相手のことを知ることができる世界が必要です。また、国際交流をするには自分の言葉でコミュニケーションをとることが非常に重要です。私の知人で教え子でもある方が、 中国に行ったときに翻訳通訳ソフトを使えばホテルは予約できるし、タクシーは乗れるし、買い物ができて、何でもできると言っていました。しかし一つだけできないことがあったそうです。それは「友達をつくること」です。結局、コミュニケーションがとれないとお互いを知ることはできないため、自分たち自身がコミュ二ケーション能力を身に付けて会話していくということは今後はますます必要になると思います。

Q. 英語を教えるうえで重要なこととは?

 僕は昔から教員養成に携わってきました。そこで2つ大切なことがあると思います。まずは子どもが好きで、生徒のことを十分に考えることができることです。もう一つは英語が好きであることです。先生の持つ英語に対する思いや熱意が伝わる授業をすれば、生徒は必ずついてくると思います。

 僕が中高生時代に習ったある英語の先生は、厳しかったけれど生徒から尊敬されていました。英語力や英語の知識の量は授業を通して溢れ出ていて「英語が好きだ」「英語は面白い」という気持ちが伝わってきました。そういう先生に習うと、生徒の英語学習に対する好奇心を高めるため、生徒は必ずついていきます。子どもたちのことを十分に考え、英語という言語に今一度、思いを馳せてほしいです。

Q. 英語科の先生に求められることは?教育現場を目指す学生へ

 英語の授業に深みを出すために、英語教育以外の分野を専門的に学ぶと良いと思います。副専攻というかたちを取るかは別として、僕は自分が本当に好きなことをすればよいと思います。僕はもともと専門が言語学ですが、バイリンガリズム 、言語と文化の問題へと専門をシフトしてきました。 バイリンガル教育や心理言語学という授業を英語で教えたりしてきましたが、大学に勤め始めたころ以外は英語の授業を教えたことはほとんどないです。内容を重視しながら英語を学ぶということに関しては、それなりの成果を上げてきたのかなと思います。

 英語はコミュニケーションの道具です。コミュニケーションの道具としての英語を使って、何を伝えるのかが重要です。そのためには単なるコミュニケーションに基づいた英語の形や表現、機能を教えるだけではなく、何を伝えるかという自分なりの信念を何らかの形で身につける必要があります。文学、文化、科学、技術、政治でも何でもよいです。自分の好きなことを学んで英語の授業へ活かして欲しいです。

4 プロフィール

吉田 研作(よしだ・けんさく)先生

1948年京都生まれ

現在、上智大学名誉教授、日本英語検定協会会長、国土交通省航空英語能力証明審査会会長、JACTFL(日本外国語教育振興機構)副理事長。元上智大学言語教育研究センター長、上智大学国際言語情報研究所所長、外国語学部長

その他、「中教審外国語ワーキンググループ」主査、大学入試センター英語四技能実施企画部会部長、英語の資格・検定試験とCEFRとの対応関係に関する作業部会主査、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会小学校部会委員、英語教育の在り方に関する有識者会議座長、外国語能力向上に関する検討会座長、中教審教育課程企画特別部会委員、東京都英語教育戦略会議座長、NPO小学校英語指導者認定協議会会長、Asia TEFL理事、The International Research Foundation for English Language Education 理事などを歴任。

交通文化賞受賞(国土交通大臣賞)、Best of JALT 受賞など。

5 編集後記

 「英語はコミュニケーションの道具であり、道具を使って何を伝えるかという内容が重要である」という先生のお話に感銘を受けました。身近な実生活に基づいたコミュニケーションから現実社会に関することや持続可能な社会に関することへと内容を段階的に発展させることで、具体的な言語表現から抽象的な表現までを場面に応じて適切に使用できるようになり、生徒が自信を持つことができます。自信は学びへ向かう姿勢や人間性を高めることへも作用し、英語力を高めるだけでなく生徒の主体性や協調性などの人間性を涵養することへもつながることを学び、英語教育のさらなる可能性を感じました。

【関連ページ】【吉田研作先生インタビュー 前半】英語教育改革!求められる新たな力とは?

こちらの記事は2023年2月24日時点の内容です。


(取材・編集・文責:EDUPEDIA編集部)

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