1 はじめに
この記事は2023年6月4日にNPO法人ROJE EDUCAREER(旧:教育と仕事フェス) が主催した第15回EDUCAREERイベント「比べてみよう、教育キャリア〜春のOB・OG大集合スペシャル〜」を記事化したものです。
登壇者に松尾春来さんをお招きしました。松尾さんは本サイトの母体であるNPO法人ROJEに2015年から2018年まで所属されていました。その後、2019年に株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、2021年よりソフトバンクとの合弁会社であるClassi株式会社に出向されました。現在は高等学校向けの教育ソフトウェアの開発ディレクターとして活躍なさっています。
ROJE第15回EDUCAREERイベント関連記事はこちらからご一読ください。
生徒の反応をダイレクトに感じられる教員という仕事【比べてみよう、教育キャリア~春のOB・OG大集合スペシャル~】第15回EDUCAREERイベント | EDUPEDIA
2 現在の職業について
私は高等学校向けの教育ソフトウェアの開発ディレクターの仕事をしています。私たちディレクターは「チームでものを作るための専門家」だと思っています。私たちディレクターはエンジニアやデザイナーのように直接何かを作るのではありません。そういった方々とコラボレーションするために「このような教育支援のあり方を目指したい」や「先生のこのような困りごとを解決したい」という意志を持ち、組織の中で適切な専門家を巻き込み、その流れを作っているのです。また、コラボレーションしていくための環境や実現していく計画を作っていくこと、そして実際に作ったものを世の中にプロダクト(製品)として提供していくためのプロセスをデザインすることがディレクターの仕事だと思っています。
教育ディレクターはカバー範囲の広い職種だと思います。コラボレーションの専門家なのでチームの運営もしますし、さまざまな専門家が集まるチームの指針も作ります。そのような多様な仕事の中で「何が一番大事な仕事ですか?」と聞かれたら、迷いなく「先生を知ること」だと答えます。私たちが行うことは、先生方が理想の教育を実現する支援をすることや、先生方が困っていることを知り、情報技術やコンテンツの力で解決することです。具体的には、先生に困りごとや実現したいことを伺ってそれを形にしていくというプロセスをコーディネートしています。そして、そのプロセスを作ったあとも、先生方の使った感想や要望を受け取ってさまざまな先生に使ってもらうプロダクトとしてよりよくしていく中長期的な計画を立案する役割も担っています。
民間企業で働くデメリットは、職種や担当によっては生徒と関わる機会が限定的であることです。プロダクトに意見をもらうために、生徒と話す機会を設けることもありますが、私の場合は先生と仕事をしている時間の方が多いです。生徒と日々向き合いたいというモチベーションが強い方にとっては、少しフラストレーションがあるかもしれません。一方で、社会に対してスピード感を持ってインパクトを出せるというメリットもあります。通勤時に、生徒が自社のアプリなどを使っているような会話が聞こえてきたり、先週リリースした新しい機能に喜んでくださっている声をもらったりしたときには、生徒や先生方の日々の生活を変えられていることを実感します。これは民間企業だから感じられることだと思います。
3 教育ディレクターの一日
9:00
始業
先生方からの問い合わせを受け、原因調査の分担を行う
10:00
メンバーと朝会(あさかい)
お互いに困りごとや業務の遅れがないか確認する
10:30
グループ会社の人と定例会議
開発計画や改善についてのコラボレーションをスムーズにするために話し合う
12:30
昼食
午後の学校訪問の準備をしたり他部署とコミュニケーションをとったりする
15:00
学校訪問
週に2〜3校、学校と日々コミュニケーションされてる方と一緒にオフラインやオンラインで学校を訪問し、先生の課題に対する仮説やプロダクトのアイデアに関する感想や要望を先生から伺う
17:00
内容を仲間と共有、整理
問い合わせ、調査結果などを仲間と共有し、先生に返信する
18:00
改善アイデアの検討
「先生からの意見をどう活かしたらもっと喜んでもらえるか」や「どうしたら我々が目指す世界や教育観に近づけるか」などを考える
19:00
退勤
私たちディレクターはこのように、学校を頻繁に訪問し、先生方の課題や実現したいことに向き合い、どう実現するかを考える日々を過ごしています。
4 キャリア選択のきっかけ
私は身近に教育に携わる人がとても多く、新卒のタイミングで教育の領域に進もうと決めていました。しかし、教育に携わる仕事はとても多くあり、どれが一番自分にとってしっくりくるかは試してみないとわからないと大学時代に気付きました。そこで、「仮説を作ってそれを基に実際に試してみて、それを振り返る」ことを繰り返しました。
ターニングポイントのひとつは教育実習でした。私は教材に興味があったので、まず「公立学校の先生という立場で教材研究をすることに向いている」という仮説を立てました。実際に教育実習に行ってみると、毎晩遅くまで授業作りをすることはとても楽しく、生徒と一緒に作る授業にも面白さを感じました。そこで、実際に先生と話してみると、「教材研究に時間をかけるのは難しいときもある」と聞きました。その話を聞いて、学校の先生よりも教材会社や大学院など教材にフォーカスできる仕事の方が自分の興味関心に合うのではないかと思いました。このような振り返りを重ねながら進路選択をしました。
最後は民間企業と大学院の2択で悩みましたが、大学院は就職した後でも進学できるのではないかと考えていました。そこで大学の研究室の先生に相談したところ、「それは例えば定食に並んだ皿のように順番の問題でしかない。今決断をしても、今後また他の選択肢を経験するか考えるのだから、今自分にとって最も旬のものに箸をつけるしかないのではないか。」という言葉に背中を押され、民間企業への就職を決めました。
進路に悩むことは新卒入社した後にもありました。入社後に学校向けの教育コンテンツの編集者として新規事業の立ち上げに携わったのち、ディレクターを希望して異動したときもこの「仮説を作ってそれを基に実際に試してみて、それを振り返る」というプロセスから振り返り、ディレクターの方が仕事の幅が広がり、もっと自分でやってみたいことが叶えられるのではないかと仮説を立てました。最終的には「自分がどういう大人になっていきたいか」ということを考え異動しました。もっと日々の視座でも、今後どんな仕事をしていきたくて、そのために今目の前の仕事にどのように向き合っていくかを数ヶ月ごとに振り返ることを通じて就職後も試行錯誤を続けています。
5 ROJEの活動が活かされたこと
ROJEでは主に取材や記事執筆、教育領域の他団体や民間企業との連携に取り組みました。他には、国語科の先生を目指している人や教材に興味がある人が集まって勉強したり、先生も一緒になって授業を作ったりする「ROJE国語会」にも参加しました。また、東京大学で行われる五月祭教育フォーラムにも携わり、打ち合わせや企画なども経験しました。
活動のなかでは、自分が「こんなことをやってみたいな」と思ったときに自分から発信することもあれば、他のメンバーから「こういうことを一緒にやろうよ」と声をかけてもらうこともありました。そのようにさまざまな機会を得られたことが今に活かされていると感じます。
また、やはりROJEに集まる人たちは教育に深い関心がある人たちなので、「教育ってなんだろう」といった問いについて大学時代に喧々諤々したことは仕事に繋がっていますし、メディアという性質により、学生時代からプロフェッショナルの人たちと関わることができた経験も今に直結しています。
6 プロフィール
松尾 春来さん
千葉大学教育学部卒。大学では教育実践開発学について学ぶ。2019年にベネッセに入社し、情報活用能力アセスメント、『Pプラス』STEAM教育コンテンツの編集を担当。2021年よりソフトバンクとの合弁会社であるClassi株式会社に出向し、生徒のコーチング及び校務支援機能に開発ディレクターとして携わる。学生時代には関東EDUPEDIAのプロジェクトリーダーを務める。
7 主催団体
NPO法人ROJE EDUCAREERプロジェクト(旧:教育と仕事フェスプロジェクト)
「一人一人が納得して自身のキャリアを決められる」ことを目標に、大学生向けイベントの企画・運営を行っている、大学生によるプロジェクトです。
私たちは教育業界のキャリアの面白さを広く発信し、多様な教育キャリアと出会う機会を創出することで、教育業界でのキャリアを歩みたいと思う学生を増やし、納得のいくファーストキャリアを選択してもらうことを理念に掲げています。詳細はこちら▷EDUCAREER(旧:教育と仕事フェス) | NPO法人日本教育再興連盟(ROJE) (kyouikusaikou.jp)
8 編集後記
私も民間企業志望なので興味深いお話でした。ディレクターは、学校現場にいないからこそ、学校を定期的に訪問し生の声を取り入れることが大切だということを学びました。現場の声を聞くことは他の仕事でも一番大切になることだと思うので心に留めておきたいです。教員以外にも教育に関われるということをこの記事を通して発信したいです。(編集・文責:EDUPEDIA編集部 丸山和音)
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