1年生の漢字ができない6年生(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

この実践記事は、岡篤先生が運営されているメールマガジンから引用・加筆させて頂いたものです。

岡先生の学校で実施されている漢字の取り組みをご紹介します。

2 一般児童への取り組み

底上げの漢字学習

基礎・基本を勉強する時間を設け、漢字と計算の学習を行っています。以下が漢字学習の際のポイントです。

1:年2回の漢字月間(下記参照)を設定して集中的に取り組む。

2:全学年で同じ問題に取り組み、9割以上の正解を目指す。

3:上記二点以外の練習の仕方などは各担任に任せる。

(そのまま使える練習プリントは用意するが、使うのは自由とする)

漢字月間とは

漢字月間は全校で漢字に取り組む期間です。その間、漢字に関する掲示を行ったり、漢字歌というコンクールに2年生以上の全員が応募したりします。

この月間を9月と2月に設定し、9月は前学年の漢字のテストを行います。たとえば6年生なら、5年生の漢字です。夏休みにはどの学年も必ず、1学期の新出漢字と前学年の漢字を宿題に出すことにしています。

2月は当該学年の新出漢字のテストに取り組みます。教科書のペースでは復習期間が足りないということで、新出漢字に関しては前倒しして2学期中に学習を終えることにしました。また、市販の漢字ドリルの3学期分の扱いに困るという話も出たので、これは全学年前後期用の漢字ドリルを購入することで解決させました。

前学年の漢字テストを行う理由

当該学年のものだけでなく、あえて前学年の漢字も学習対象に入れたのには、2つの理由があります。

1つは、「覚えたことは忘れる」という前提に立っているからです。いくら小テストで出来るようになっても、学年末のテストでは全然だめだったり、年度末のまとめテストでがっかりするような結果だったりしたということは、担任なら経験があると思います。そこで学校全体で復習に取り組むことで、その状況を少しでも解消しようというわけです。

2つ目は、4月に行っている漢字力調査の結果からです。2年生以上の児童は、1年生の漢字から前学年漢字の定着度を測っています。当然ながら、どの学年でも1年生の漢字の出来が一番良くて、当該学年の漢字が悪いという結果が出ます。つまり前学年の復習をするということは、一番出来が悪い範囲を学習対象にするということでもあります。

自分(岡先生ご自身)のクラスでは、どの学年においても1年生の漢字から全て復習するようにしていますが、学校全体の取り組みはシンプルであることも重要です。そこで前学年に絞った学習を始めたのです。上記に漢字学習のポイントとして紹介した「9割以上」というのは、簡単な問題で目指したのですが、それでも道のりは簡単ではありませんでした。

3 遅れを取っている児童への取り組み

前々学年の漢字もできない児童

この学校ではクラスの授業についていけない児童を対象に、「取り出し」という授業の空いている教師が個別の指導をするシステムがありました。

そのシステムの対象である6年生の男の子は、前学年の5年生の漢字、前々学年の4年生の漢字はおろか、1年生の漢字テストですら9割が取れなかったのです。

その児童は授業態度の悪さや遅刻の多さが原因で、職員間でよく話題に上る子どもでした。しかし6年間普通学級に在籍してきた児童が、そこまで漢字が苦手だとは思いもしませんでした。

1年生の漢字よりも戻るとすると?

それでは1年生の漢字が出来ないとしたら、どこまで戻れば良いのでしょうか。「取り出し」システムでその児童を指導していた先生との話し合いの結果、漢字の部分を作っているのが片仮名であることから、片仮名の勉強をやらせたらどうかという結論に至りました。

しかし1つの懸念がありました。授業態度が悪く、何を言ってもいい加減な返事しかしないという印象のある6年生の男の子が、片仮名なんて勉強しようと思ってくれるでしょうか?

できることは「嬉しい」

結果として、片仮名の学習を取り入れたのは大成功でした。その児童を指導していた先生によると、「出来ることが嬉しい」ようで、今まで一番真面目に勉強をしているというのです。

その児童の授業態度の悪さは、勉強の内容が分からないことから来ていたものでした。だからたとえ片仮名だとしても、自分が出来るものをやらせてもらえて初めて学習に前向きになれたのです。

基礎・基本を学習するために設けられた時間がもう少し有効に使われていたら、6年生になって片仮名を勉強するということはなかったでしょう。もし今のやり方を数年早く始めていたら、今頃あの男の子は少なくとも漢字の一字テストに限っては、クラスメイトに追いついていたかもしれません。

4 編集後記

周りが出来ていることを自分だけ出来ないというのは、学習意欲をなくす大きな原因の一つとなり得るでしょう。そのような場合に、まず自分の出来ることから始めて良いと指導されれば、きっと再び頑張る気持ちが生まれてくるはずです。

学校全体で取り組むことですくい上げられる子どももいるので、この実践で紹介した「漢字月間」のような取り組みは、非常に大切なものだと思います。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 陣内萌)

5  実践者プロフィール

岡篤(おかあつし)先生 神戸市立好徳小学校教諭。
漢字と俳句の実践に力を入れている。学力研という研究会に所属。
●主な著書
『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年 http://amzn.to/X7QQh0
『書きの力を確実につける』 2002年 http://amzn.to/Y8C3Sw
『これならできる!漢字指導法』 2002年 http://amzn.to/Zahyvq
『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』 2008年 http://amzn.to/Yk4gda
『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年 http://amzn.to/WJQFMe
など

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