担任している子どもが入院したら? ~病弱教育からのお願い~

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作成者: 平賀健太郎さん

1 学校に通えなくなった子どもたち

学校の先生やそれを志す学生の皆さんに向けた講義や文章というのは、基本的には子どもたちが学校に通っていることが前提になっていると思います。
今回は突然に学校に通えなくなってしまった入院中の子どもたちのお話です。

思いもしなかった大きな病気にかかり、入院が決まったとき、多くの子どもはショックを受け、嘆き悲しみます。聞き慣れない病名、病状の厳しさ、家族から離れた病棟での生活。それに加えて、

明日からは先生やクラスメイトと遊んだり、勉強したりすることができない

いつになったら学校に通えるようになるのか
心の中では学校のことが気になっています。

2 病院の中の学校教育

長期入院する子どもにとっては、小児病棟が生活の場となるため子どもらしい生活や成長発達の保障のためには、医療とともに学校教育が必要不可欠なものとなります。子どもたちが入院する理由は、小児がんや、腎臓病、アレルギー性疾患、こころの病気、怪我など様々です。

入院中の子どもには公的な教育サービスが用意されており、特別支援教育の一環である病弱教育が中心を担っています(当然、院内学級※では、教員免許状を持った学校の先生が子どもたちに勉強を教えています)。病院の中に学校や学級がない場合でも、特別支援学校の先生が病院を訪問して教育が受けられる制度(訪問教育)も選択肢の一つなので、入院した子どもの教育でご不明な点がある時は、地域の教育委員会等にご相談ください。

※病院の中での教育は、特別支援学校(本校・分校・分教室)、特別支援学級、訪問教育など様々な場所でなされていますが、ここでは院内学級と総称しています。

院内学級で勉強するための手続き

学校の先生でも「そうと聞くまでは、意識したことがなかった」とよく言われますが、病院内で教育を受けるためには、原則は院内学級への転籍という形になります。これは、いったん地元校※から籍が抜けることを意味し、病状が回復して地元校に戻る際には、再び転籍手続きを取ります。

※入院していなければ通う学校(小学校・中学校・特別支援学校等)

3 入院当初からの子ども・家族の不安

子どもや家族が、入院当初から感じやすい不安は、もとの学校とのつながりが薄くなってしまうことです。普段は健康な子どもたちでも、風邪などで数日間学校を休んだ後に登校する日の朝は、少なからず不安や緊張を抱えているものです。入院期間が長期になるとその気持ちはさらに強くなりますし、保護者の不安も想像する以上に大きくなっていることがあります。入院中は一時的に、院内学級に籍が移るけれども、あるいは籍が移っているからこそ、「忘れていない、待っている」というメッセージが伝わると、入院中の子どもや保護者は、安心して治療に専念でき、治療意欲にも好ましい影響を与えます。

4 入院中のつながりを維持するために

【お互いの状況・思いが伝えられる】

もし何か必要なことがあれば、地元校から連絡があるだろう

うちの子どもは転校しているのだから、積極的に地元校に連絡を取ると迷惑な親だと思われるのではないか
保護者の立場では、このような気持ちから連絡を控えられることがあります。

一方、地元校の先生も、入院中の子どもや保護者の立場を思いながら、さまざまな気持ちが働き、遠慮して連絡を控えているうちに、徐々に関わりが疎遠になっていくことがあります。

入院中のつながりについては、子どもが入院する前に抱いていた地元校への感情が影響するので、必ずしもすべての子どもや保護者が積極的なつながりを望んでいるわけではありません。また、子どもの体調が思わしくない時や症状が激しい時は、学校や勉強のことは考えにくく、タイミングや回数などを考慮した働きかけが必要です。地元校から保護者に連絡がなされることは、好意的に受け止められやすいのですが、このような時期に、地元校からあまりにも積極的な働きかけがあると、保護者の気持ちとのズレが生じてしまいます。

ただ、多くの場合、病状が安定した後の子どもや保護者の気がかりの大きな一つは地元校のことです。入院初期に接触が少ないと、時間がたってから連携しようと思っても「今さら連絡すると…」と躊躇する気持ちが働くことがあります。病状が安定するまでは、積極的な連携を控えた方がよいと判断される場合も、その心遣いがある程度、保護者に理解されておくとよいでしょう。また、お互いに都合のよい、繋がりやすい連絡方法や曜日・時間帯が伝えられておくと、ちょっとしたことで連絡する際にも負担が少なくなります。

【地元校から病院へのメッセージ】

クラスメイトからのお見舞いも含めて、寄せ書きや手紙、手作りのお守りなどが届きます。最近ではタブレット端末などでビデオレターを見ている光景も見られます。また、かつて通っていた学校の様子が分かる学級通信や、授業で使われたプリントなどが届けられるのを楽しみにしている子どもも多くいます。

【病院から地元校へのメッセージ】

入院中の子どもから返事を書いてみたり、院内学級で作った作品をクラスに紹介したり、その後も教室に掲示してもらうことで、クラスメイトが「○○ちゃん、入院しても頑張っているんだな」というようなことが実感でき、つながりが深まることが期待できます。

【使用していたものの扱い方】

ロッカーに置いてある荷物は帰ってくるまで同じようにしておく、机や椅子も置いておく、あるいは、育てていた植物に毎日水をあげるなど、自分が使っていたもの、育てていたものが大切に扱われていることを知ることはとても嬉しく、感謝にも似た気持ちにつながるでしょう。

【所属感を失わない配慮】

子どもの入院中に席替えがあり、それに伴って班が変わることがあるでしょう。また、それぞれのクラスには○○係のようなものがあり、入院中にその係が変わることもあるでしょう。
入院治療を終えた一人の男の子が話してくれました。

病院に届けられた学級通信に、クラスの係が変わったことが紹介されていて、○○係に自分の名前も載っていたのを見つけたときは、心が暖かくなったし、みんなに会いたいなぁという気持ちが強くなった。
復学した子どもは、入院中での嬉しかった思い出として、このような「自分が忘れられていなかった」小さなエピソードを語ってくれます。

【クラスメイトの主体的な理解・支援】

入院中の子どももクラスの一員であることをクラスメイトに意識しておいてもらうことは復学が円滑になる要因のひとつです。入院中の子どもを応援し、それを形にするアイデアは、いろいろと考えられます。担任の先生が主導して、入院中の子どもへの働きかけを提案することも大切ですが、クラスメイト自身が、自分が病気になった時の気持ちを想像したり、自分たちに何ができるか考えたりする機会を設けることによっても主体的な支援が継続されやすくなります。

【入院中のクラス替えにおける配慮】

次年度のクラス編成をする際に、入院中の子どもへの意識が薄くなり、学年が変わるとつながりが薄くなってしまうことがあります。クラスが変わった時に、復学後の担任やクラスメイトが分かっていれば、子どもも帰る場所をイメージしやすいですし、地元校からもつながりが維持しやすいと思います。さらに、病気の子どもを理解している子どもが一緒のクラスにいると、復学後の学校生活の送りやすさにも違いが出てきます。もちろん、新しいクラスでも病気のことをどう伝えるかは、子どもや保護者の希望を優先します。

5 復学支援は入院中からスタート

目の前にはいない地元校の先生やクラスメイトの意識や行動が、遠く離れた病院にいる子どもや保護者の心に強く影響しています。入院中のつながりがほとんどなくなったケースでは

私たちが一番しんどかった時に、地元校からの応援が欲しかった
という保護者の声を聞くことがあります。

復学支援は、復学が決まってからではなく、入院当初からスタートしているという意識を持っておくことが重要です。入院初期から連携をはかろうとする姿勢は、子どものよりよい復学を志向していることの暗黙のメッセージとなります。入院中の子どもが地元校とのつながりを実感できると、

みんなは自分のことを待ってくれている

早く学校に戻ってみんなと遊んだり勉強したりしたい

治療意欲や治療への協力具合にも影響します。また、保護者の地元校に対する肯定的な感情にも結びつきます。

6 復学後の不安を軽減するために

退院後は退院が近づいてくると、子ども・保護者は、地元校では病気のことが理解されるのだろうかという不安を抱きます。退院後の子どもの心や体の状態は、入院する前と同じではありません。退院後は新たな日常に再適応すること(継続する生活規制・外来治療、将来・再発に対する不安、病気やその治療の結果がもたらす障害、周囲からの遅れなど)を余儀なくされ、病気から完全に解放されるわけではありません。その内容は、病気によってさまざまですが、保護者と担任だけでの対応は難しいことも多く、多くの関係者が大きなチームとなった支援が必要です。

【復学のタイミング】

学校行事や、時間割、曜日等を考えながら、いつ、復学すればよいかということを決めていきます。いろいろな可能性を考えながら、いろいろな情報を提供しながら慎重にすすめていく意識が大切です。

【病気の説明の方法や内容】

クラスメイトが帰ってきた子どもをからかうなどの話を聞くことは少ないですが、別のクラスの子どもたちから心無い言動があり、学校に行けなくなってしまった事例もあります。クラスメイトだけでなく他の学年の子どもたち、教職員への説明についての確認が必要な場合があるでしょう。

例えば、小児がんという病名を絶対に知らせてほしくないと考える保護者もいれば、病名をみんなに積極的に伝えてほしいと願う保護者もいます。同じ個人の中でも「必要な支援があることを知ってもらいたいので、病気のことを知ってほしい」気持ちの一方で、「皆と違うと思われたくないので、病気のことを知られたくない」と相反する気持ちを持っていることが多く、何を説明してほしいのか、何を説明してほしくないのかを、本人の気持ちも確認できると望ましいでしょう。大切なことは、子どもや保護者の気持ちを優先しながら考えることです。

【ハード面での整備】

昇降機、スロープ、送風機の設置などのハード面での整備が求められることもあり、その場合、教育委員会等と連携しながらすすめます。

【理想と現実とのギャップ】

復学直後は、子どもは退院前に描いていた理想と現実とのギャップに苦しむことがあります。思っていた以上に皆から勉強が遅れている、体力的についていくことができない、そのために、遅れを取り戻そうとして、頑張りすぎてしまうこともあり、注意深い観察が必要です。もし頑張りすぎているような様子が見られた場合、「退院してすぐなのだから、そんなに頑張らなくてもいいよ」などという先生の一言で、ホッとすることもあるでしょう。 

7 復学前の関係者間の話し合い

入院する前と復学後の配慮内容が大きく変わっている場合や、重症度の高い病気の場合には、復学前に関係者が集まっての話し合いが望まれます。担任の先生,医療スタッフ,保護者,養護教諭,管理職など,また必要に応じて,子ども本人も含めて復学後にどのような配慮が必要であるのかについて話し合います。

8 担任の先生をサポートする視点

病気の子どもと学校とをつなぐ中心的な役割は担任の先生です。ただ、担任の先生も子どもの病気や入院に衝撃を受け、迷いや不安を抱えながら孤立していることがあります。同学年の担任の先生や、養護教諭、管理職、特別支援教育コーディネーターなどが、担任が問題を一人で抱え込まないような言葉かけ、体制を作っていくことが大切です。

9 主要な連携相手とポイント

【院内学級の先生】

院内学級の先生は、地元校の先生との連携を強く望んでいます。入院当初から地元校から院内学級の先生に対して、入院する前の学習状況、性格、友人関係の特徴などが伝えられておくと、院内学級の先生が子どもと関わるうえで参考となります。

復学時には、院内学級の先生から、入院中にどんな勉強をしたのか、どのくらい遅れているのかなどの情報提供を受けていれば、復学後にフォローしやすくなります(入院中は学習に遅れがみられやすい一方で、少人数指導のため、地元校よりも進んでいる状態で復帰することもあります)。

院内学級の先生は、過去の経験から、復学後に生じやすい問題を知っていることも多く、復学後の集団生活では把握しにくい心の悩みなどを、同じ立場の教師から得ておくことは支援に役立ちます。

【医療関係者】

復学後の生活について、保護者からの「普通に接してやってください」という言葉に担任の先生が戸惑われることがあります。ここでの「普通」は、基本的には「特別扱いしないで欲しい」の意味合いです。実際には継続した治療・管理が求められ、保護者と一緒に医療関係者からも、学校で必要な配慮(運動・食事規制、免疫力が低下していること、病気のクラスメイトなどへの伝え方など)についての正しい情報が詳しく伝えられたり、アドバイスを受けられたりする機会があると望ましいでしょう。

また、復学後は病気がよくなるにつれて,免疫力や体力が向上したり,制限内容が緩和・解除されたりしていくことも多いので、必要な管理以上の内容が課せられないように、保護者や医療者との継続した連携によって、配慮を変更していくことも必要です。

【養護教諭】

担任の先生は年度ごとに変わることも多いですが、養護教諭は、病気の子どもと比較的継続した関わりをしやすい存在です。復学後の子どもは保健室を利用する機会も多く、養護教諭が子どもの病気を理解し、困ったことがある時は相談に乗ってくれるという感覚は、子ども・家族だけでなく担任の先生の安心感につながるでしょう。

また、感染症予防のための教育(学内全体での手洗い・うがいの習慣など)や感染症(水ぼうそうやインフルエンザ等)の学校全体での流行状況の把握等は、養護教諭との連携が不可欠です。

10 病気の子どもの教育を学ぶ機会 

病気や入院というリスクはすべての子どもに発生しうるものですし、病気※の子どもの約85%は、通常の学級に在籍しています。「病弱教育」は接していただくと、すぐに重要性が理解されやすい分野ですが、その存在が知られていないためか、今まであまり注目されることがありませんでした。最近では、「病弱教育」に関する講義を開講している大学も増えていますが、多くは特別支援教育に係る免許状を取得する中に位置づけられています。これからは、退院後の子どもたちが帰る学校(入院する前に通っている学校)の先生たちが、病気の子どもの教育について学ぶ機会が増えて欲しいと思います。

※正確には小児慢性特定疾患

11 子どもがいること 学校があること

子どもであれば当たり前と思っていた学校に通うことが出来なくなったとき、学校という存在の大きさに気づきやすいのかもしれません。学校現場での課題がクローズアップされやすい時代の中でも、入院中の子どもの「学び」に対する思いや「学校」に対する思いはとても深いものです。

学校に戻るために、命がけで病気に立ち向かっている子どもがいること、ひとり長い夜を過ごしている子どもがいること、そして学校とは、病気を治した後の未来の象徴となりうる場所であることを先生方にも知っておいていただければと思います。

12 執筆者プロフィール

平賀 健太郎  博士(心理学)

大阪教育大学 教育学部 特別支援教育講座 准教授 

専門は病弱教育。病気の子どもやその家族の想い、彼らを支えている関係者が抱いている想いを、病弱教育に直接関わらない先生方にお伝えすることがライフワークの一つ。

復学支援に取り組む原点は、NPO法人エスビューローとの出会い。
http://www.es-bureau.org/

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