【中道圭人先生インタビュー】「特異な才能」と学校③~乳幼児・児童の発達の専門家に聞く~

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目次

はじめに

 この記事は、2023年11月28日に行った、千葉大学教育学部教授である中道圭人先生へのインタビューを記事化したものです。

 高い知的能力と困難さを併せ持つ「ギフテッド」。NPO法人ROJEが2022年度に立ち上げたギフテッドプロジェクト「sprinG」では、ギフテッド特性があり学校に馴染みづらい子ども、そしてその保護者の支援活動を実施しています。(ギフテッドの子どもについての詳しい情報はこちらの記事もご覧ください。)

 sprinGでは、 2023年度より、文部科学省から「令和5年度特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」の委託を受け、特異な才能のある子どもと関わる教職員向けの勉強会と個別相談の受付を開始しました。

 本記事では、教職員向け個別相談を担当し、実際に現場の先生方に向けてアドバイスを行っている千葉大学教授の中道圭人先生に、特異な才能のある子どもに必要な支援、そして学校に求められていることについてインタビューした内容をお伝えします。

◎こんな人におすすめ!
・特異な才能のある子どもの教育や支援について、不安を感じている先生
・特異な才能のある子どもの困難や、必要な配慮を知りたい先生
・特異な才能のある子どもの学校適応をサポートしたい支援者の方
・特異な才能のある子どもの支援について知りたい保護者の方

Q.ご専門について教えてください。

 千葉大学の「乳幼児教育コース」という、幼稚園や小学校の先生を育てるコースに所属しています。専門は乳幼児・児童の発達心理学で、特に認知の発達や対人関係などを扱っています。幼稚園教諭免許も有しており、教育の側から心理学へと入った経歴を持ちます。

 学校の先生方からの相談に乗る際は、小学校低学年までの子どもへの支援を中心に担当しています。「実行機能」(目標に向かって計画を立て、自分の行動を制御する機能)や知的な問題など、これまでさまざまな相談に乗ってきました。「集団でうまく指示が通らない」といった困り事への支援について話をすることも多いです。

 一方、研究者としては、「思考の発達」や「自己制御」(仲間とのかかわりの中でどう自分をコントロールするか)、「幼稚園での生活や家庭での養育環境がどのように認知・社会的発達に影響するか」といったテーマで研究を行っています。

 「ギフテッド」という概念との出会いは、就学前の発達障害の子どもへのプログラム開発を行っていたときでした。対象となる子どもたちの中には、高い知的能力を持つ子どもも含まれていることが分かったのです。そこから、そのような子どもへの支援についてもしっかり検討する必要があるということで「ギフテッド支援」とのかかわりが生まれました。

Q. 発達障害の子どもとの関わりがあるということですが、ギフテッドと発達障害はどのように異なるのでしょうか。

 まず、ギフテッド自体は障害ではないということをお伝えしたいです。もちろんギフテッド特性と発達障害の特性を併せ持つ「2E」と呼ばれる子どももいますが、診断の基準を厳密にみると、両者はかなり異なっています。

 たとえば、ギフテッドの子どもと発達障害の子どもでは、衝動性が出る理由に違いがあることが多いです。同じように「授業中に落ち着きがない」という困り事でも、ADHDの子どもでは「多すぎる刺激に反応してしまう」、ギフテッドの子どもは「授業が退屈で集中できない」という理由であることがあります。このような場合、両者の解決方法は異なるものになるでしょう。

 ギフテッドが障害ではないということは、教育システムの観点から考えると、今の特別支援教育の枠組みの中でギフテッドの子どもたちを支援することは難しいということでもあります。

 ただ、「障害でないから、ギフテッドには支援は要らない」というわけではありません。日本で現在「ギフテッド」がクローズアップされているのは、子ども・保護者・教員が困難さを抱えているからです。IQ値だけで全てが語れるわけではもちろんないのですが、分かりやすく言うと、IQ130の人はIQ70の人と同様に「正規分布の端」であり、平均から大きく外れています。そのため、知的ギフテッドにも特有のニーズが発生していることは間違いないでしょう。

 だからこそ、現在の教育では彼らのニーズも満たせる「個別最適な学び」が目指されているのです。

Q.「個別最適な学び」への懸念として、個々の子どもがバラバラになってしまう「孤立した学び」になるのでは、というものがあります。この点についてどのように考えますか。

 現在の日本は、能力にかかわらず年齢で学年を区切るシステムを採用しています。このシステムがある限り、ご指摘のような「孤立した学び」に陥るリスクは存在すると考えています。

 しかし、日本の仕組みが完全に悪いというわけではありません。欧米諸国のような「年齢に関係なく飛び級・留年させる」という制度では、知的能力と心の成熟度合いが異なる「非同期発達」の状態にある子どもが、飛び級後の人間関係で困難を抱えるリスクがあります。日本のように、さまざまな特性・背景を持つクラスメイトと関わりながら育っていくことにもメリットはあるでしょう。

 そのため、学級集団の多様性を保ちつつも子どもが自分で自分の学び方を選択できるあり方こそが、日本で理想的な「個別最適な学び」だと思います。

Q.小学校入学時、もしくはその前から困り感を抱えるギフテッドの子どもたちも少なくないと思います。低年齢のギフテッドの子どもに対して、どのような支援が考えられるでしょうか。

 前提として、就学前や児童期の段階では、ギフテッドであるかどうかを判断するのは難しいと思っています。低年齢の子どもは発達のばらつきが大きく、成長のタイミングは1人1人異なるからです。

 しかし、低年齢のギフテッドには、特に情緒の問題で大きな支援ニーズがあるのも事実です。私としては、就学前の施設と小学校の連携が重要だと考えます。入学の段階でギフテッドの可能性がある子どもを把握しておくことで、適切なサポートが可能になるのではないでしょうか。

Q.最後に、先生方に伝えたいことを教えてください。

 知的能力という一側面だけでなく、その子どもを全人的に見てあげてほしいと思います。ギフテッドの子どもであっても他の子どもたちと同様に嬉しい・悲しいと感じますし、「ギフテッドだから」と大人びた振る舞いを要求されて疲れてしまう子どももいます。

 また、保護者や教員による支援も大事ですが、同世代の子どもとの繋がりも必要です。ギフテッドの子どもたちがずっと関わっていくのは、(先に死んでしまう)支援者ではなく同世代の人々だからです。

 加えて、もしクラスにギフテッドの子どもがいた場合は、担任として安心できる環境を用意してあげてほしいです。1人しかいない担任の先生から否定・排除されてしまったら、その子は孤立してしまいます。学習上のサポートなど、なかなか難しいこともあるとは思いますが、ギフテッドの子どもたちが「自分はひとりぼっちだ」と感じないようなクラスが増えることを願っています。

 そのために、私たちもできる限り先生方をサポートしていけたらと思いますので、ぜひ気軽に個別相談もご利用ください。

プロフィール

中道圭人先生

千葉大学教育学部 教授
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究修了。博士(教育学)。公認心理師。常葉大学,静岡大学を経て現職。専門は,幼児・児童の発達心理学・教育心理学。

NPO法人ROJE ギフテッドプロジェクトsprinG

ギフテッド特性があり、学校に馴染みづらいと感じている小・中学生やその保護者に向けた居場所づくりに取り組む。児童精神科医や特別支援教育を専門とする大学講師といった専門職と、教育に志のある大学生が中心となって運営している。

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