【是永かな子先生インタビュー】「特異な才能」と学校②~北欧の事例から考える~

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目次

はじめに

この記事は、2023年8月11日に行った、高知大学教職大学院教授である是永かな子先生へのインタビューを記事化したものです。

高い知的能力と困難さを併せ持つ「ギフテッド」。NPO法人ROJEが2022年度に立ち上げたギフテッドプロジェクト「sprinG」では、ギフテッド特性があり学校に馴染みづらい子ども、そしてその保護者の支援活動を実施しています。

さらに、sprinGでは、 2023年度より、文部科学省から「令和5年度特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」の委託を受け、特異な才能のある子どもと関わる教職員向けの勉強会と個別相談の受付を開始しました。

本記事では、教職員向け個別相談を担当し、実際に現場の先生方に向けてアドバイスを行っている高知大学教授の是永かな子先生に、特異な才能のある子どもに必要な支援、そして学校に求められていることについて伺った内容をお伝えします。(同じく教職員向け個別相談を担当している伊藤駿先生へのインタビューはこちら

◎こんな人におすすめ!
・特異な才能のある子どもの教育や支援について、不安を感じている先生
・特異な才能のある子どもの困難や、必要な配慮を知りたい先生
・特異な才能のある子どもの学校適応をサポートしたい支援者の方
・特異な才能のある子どもの支援について知りたい保護者の方

Q.ご専門について教えてください。

北欧の特別ニーズ教育を専門に研究しています。
北欧の仕組みも参考にしながら、幼稚園〜高校で、(ギフテッド傾向のある子どもたちも含めた)特別な支援が必要な子どもへの教育相談にも乗っています。

北欧諸国では、それぞれ考え方に違いはあるものの、ギフテッドの子どもへの対応が学校でも積極的に行われています。

例えば、デンマークでは制度の中にギフテッド教育が組み込まれており、特別学校や特別学級としてギフテッドの子どもを集めるギフテッド学校・学級が存在しています。

一方スウェーデンでは、ギフテッド教育はした方が良いという前提はありつつも、ギフテッドの子どもを集めて分離することはしないという方針で、一つの学級の中で多様な子どもたちが過ごすことを大事にしています。そのため、使う教科書を子どもによって変えるなどの工夫をしています。

日本でも、「個別最適な学び」「協働的な学び」が始まり、いろいろな学び方や目標、内容があって良い、と言われるようになってきました。私としては、「やるべき課題ができた子は自分がしたいと思う学習に進める」という、スウェーデンのような環境を日本でも目指していけたら良いなと思っています。インクルーシブ教育は個のニーズを追求していくことなので、ギフテッド教育にもその扉を開けてほしいと期待しています。

Q. 個のニーズに応じた支援は重要ですが、教育現場では人的・物的資源の不足が指摘されています。どうすれば良いでしょうか。

人手不足と言われていますが、実際は、一人の大人が担当する児童生徒数もしくは一学級あたりの児童生徒数は、日本も世界と変わりません。人や物を増やすよりも、考え方を変えることの方が効果があるのではないかと思っています。

日本の先生の良いところは「teaching」に熱心なところです。日本の先生の教えることへの熱意は世界的にも評価されています。

しかし、ギフテッドの子どもに対しては、教えることを一部分でも「手放す」、つまりある程度自律的に学ばせることを提案したいと思います。極論、タブレットや上学年の教科書を渡して、好きに勉強してと言ってしまっても良いかもしれません。

テストなどは同じ時間に同じ内容を受けないといけないと思いますが、先生や学校の判断で上級学年の内容を学べるように変えていける部分もあるのではないでしょうか。

あえて「手放す」指導によって、自分のペースでどんどん学ぶ子を受け入れてもらえたらと思います。

Q.「ギフテッドの支援では優越感、特別感が生まれてしまうのでは」という懸念もあります。

そうですね。ただ、「通常学級でうまく学べていないから、特別ニーズに合った教育をします。支援があれば通常学級で学べるのであれば、支援をしましょう。」ということであって、それ以上でも以下でもないと思います。

障害児教育は、世界的には1990年代に「特別ニーズ教育」に転換しています。つまり障害の有無にかかわらず「特別なニーズがある子」に対しての教育を考えようということです。その時点で、当然ギフテッドも対象に含まれます。

一斉授業・画一教材といった通常の教育形態で十分に学習できない子たちのために、特別ニーズ教育があるのです。

日本は、障害のある子への支援という認識が強く、ここが世界から遅れている部分だと思います。

それぞれの子どもの学び、そして「楽しかった」という時間を学校で保障するために、ギフテッドの子どもに対しても「自由に学べる空間」を提供してほしいです。

ギフテッドの子どもへの教育保障の根拠は、その子どもが通常の学級の一斉指導で十分に学べていないという状況がある、ということで十分です。先生方には、これを理解した上で、周りの子どもに「なぜ違う学びをしているのか」に関して説明をし続けることをお願いしたいです。

「ギフテッドだから」ではなくて、ニーズがあるから支援をしているんだということにならないと、「ギフテッド」がスティグマ(※)になってしまいます。これは絶対に避けなければなりません。

※スティグマ:社会的な偏見や差別の対象となる特徴や属性を指す言葉

Q.ギフテッドに限らず、特別ニーズ教育・インクルーシブ教育はどんな形が理想だとお考えですか。

発達障害のある子、特異な才能のある子、不登校の子、貧困家庭の子、ヤングケアラー、外国にルーツがある子など、多様な子どもがいますが、どの子に対しても「諦めない」教育が理想かな、と。

これを具体的に考えていくと、個人的には、一斉授業の時間は短くなると思います。スウェーデンでも、一斉指導の時間はせいぜい全体の半分です。

具体的には、スウェーデンでは短い一斉指導でまず「難易度2」のレベルを示し、その後、子どもたちは難易度3、2、1から自分の課題を決めて取り組みます。

先生は、難易度1に取り組む子を重点的に見て、難易度3、2の子どもたちはそれぞれ協力しながら学びを進め、必要に応じて先生に聞きに行きます。

日本の学校では、「ミニ先生」と言って「できた子はできていない子に教えてあげて」という指示を出すことが多いと思います。しかし、「できている子同士はお互いにより難しい課題について探求していて」という指示があっても良いでしょうし、そもそもこの指示では、できていない子は自ら助けを求めて動くことができません。

逆に、困っている子にこそ「自分から動いて助けを求めに行きなさい」と声をかけ、助けを求める力をつけられるようにした方が、その子にとって良いのではないでしょうか。

「ミニ先生」は先生が助かる方法であって、子ども自身の「自分で助けを求める力をつける機会」「一緒に学びあう相手を決める権利」を奪っているのではないか、と感じてしまいます。さらには、教えて「あげて」、声をかけて「くれた」、という表現によって、教室の中の序列化が始まってしまい、インクルーシブな場ではなくなっていってしまいます。

子ども同士が対等な関係を維持することができ、且つそれぞれのレベルに合った学びが保障されている教室を実現するために、先生方には良い意味で一斉指導に対して一部分を「手放す」という選択肢を持っていただけたらと思います。

Q. 読者の先生に一言お願いします。

目の前の子どもを「尊重」するのではなく、「尊敬」するという観点を大事にしていただきたいです。

尊重と尊敬には大きな違いがあります。実は、「尊重」は下に見ている相手に対して使う言葉なのです。校長先生を尊重するとは言いませんが、子どもに対しては一人ひとりを尊重しようとはよく言いますよね。

一人ひとりの子どもを「尊敬」した延長線上に、ギフテッド対応もあるはずです。

どんな子どもも自分で目の前の課題を乗り越えていける存在だと認識し、尊敬することによって、個々の学びの具体化が始まるのではないでしょうか。

目の前の子どもへの対応に迷ったときは、ぜひ個別相談もご利用ください。先生方の力になれるよう、一緒に考えていきたいと思います。

プロフィール

是永かな子先生

高知大学教職大学院 教授
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科学校教育学専攻発達支援講座修了博士(教育学)。
専門は北欧における特別ニーズ教育のシステムと実践、日本における特別支援教育や特別ニーズ教育の制度化。

NPO法人ROJE ギフテッドプロジェクトsprinG

ギフテッド特性があり、学校に馴染みづらいと感じている小・中学生やその保護者に向けた居場所づくりに取り組む。児童精神科医や特別支援教育を専門とする大学講師といった専門職と、教育に志のある大学生が中心となって運営している。

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