基礎的学習活動を支援するICT活用

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作成者:Mayuko Shibukawa (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

平成26年6月5日~6月7日、New Education Expoが開催されました。本稿では、7日に行われた「基礎的学習活動を支援するICT活用~特別支援教育・普通教室の事例紹介~」の中にありました明晴学園の教育実践をご紹介します。

明晴学園は2008年に構造改革特区によりできた私立のろう学校(特別支援学校)で、聞こえない子(ろう児、難聴児)がすべての教科を手話で学ぶ“手話の学校”です。

2 バイリンガル・バイカルチュラルろう教育

明晴学園は教育課程の特例校として認可されており、日本で唯一バイリンガル・バイカルチュラル教育を行っています。

バイリンガル教育~手話と日本語~

バイリンガル教育とは、第1言語を手話、第2言語を日本語として、授業を行うことです。手話は、日本語や英語とおなじ自然言語で、言語としてすべての力をもっています。

ろう児にとって、自然に身につけ、自由に使えるただ1つのことばである手話を第1言語(母語)とし、その手話をもとに第2言語である日本語の読み書きを習得するのです。

バイカルチュラル教育~ろう文化と聴文化~

ろう児は手話を身につける過程で、ろう文化とよばれる独自の文化を身につけます。その一方、ろう児は社会の多数派である聴者(聞こえる者)の文化を知り、尊重することを学びます。

音声でわからない授業も手話でならわかります。わかる言葉、わかる授業で、子どもたちは当然ながら聞こえる子と同じ学力、知力を身につけるのです。

3 さまざまな見える工夫

ろう児の言語である手話は「視覚言語」です。

これまでのろう教育は、ろう児でも補聴器や人工内耳等の機器を用い、少しの音を聞き取る訓練をし、音声を習得させようとしてきました。しかし近年では、メールやインターネットなどの視覚情報によって、音がなくても社会参加は可能です。

そこで、聞こえない子どもを「目の子ども」そして「手話を使う子ども」として、手話を教室内言語と位置づけ、明晴学園ではさまざまな見える工夫をしています。

教室環境

  • 授業のチャイムはフラッシュライトで。(写真1参照)
  • 校内放送は廊下に設置されているモニターを使って放送。
  • 緊急時のお知らせは教室に設置されているICTで子どもたちへ伝達。
  • 生徒同士の発言が見えるような机の配置。
  • 教室は壁のないオープンスペースを使用。(写真2参照)


【写真1】


【写真2】

授業風景

授業でも、視覚教材やICT教材を積極的に活用しています。
1. 小学校1年生(日本語)

国語教科書の「くじらぐも」の物語を先生が手話に翻訳します。

手話を見て、子どもたちは内容理解を行います。
2. 小学校4年生(算数科)

角の大きさの表し方を学ぶ授業では、角学習サイトを使用して、実際に分度器を操作しながら学習しま

す。(写真3参照)

http://homepage2.nifty.com/in/san/4/kaku/1234tyokaku.html
3. 手話科

独自教材「ハルミブック」を使用し、手話の文法や物語の読解などを学びます。


【写真3】

4 ろう高校生への保障

明晴学園は、幼稚部・小学部・中学部の中学部までの一貫教育を行っています。それ以降は、普通高校に通うようになります。

普通高校に通うろう高校生のために、ICTで支援する遠隔パソコン文字通訳システムがあります。明晴学園の卒業生は、NPO法人バイリンガル・バイカルチュラル教育センターのT-TAC Captionを利用したろう高校生への遠隔文字情報支援~在宅入力遠隔パソコン文字通訳~を活用し、普通高校での授業を受けています。

在宅入力遠隔パソコン文字通訳の仕組み

遠隔パソコン文字通訳は、先生の声を生徒のスマートフォンに文字で表示するシステムです。このシステムは生徒と先生、文字通訳者(情報支援者)の3つの立場から成り立ちます。
1. 生徒はスマートフォンに『T-TAC Caption』というアプリをインストールします。
2. たとえば授業で、先生が生徒たちに「今日は教科書ではなくプリントを使います。ここも試験に出るよ。」と伝えます。
3. その先生の音声は、アプリを通じて、遠隔地の文字通訳者に送られます。
4. 文字通訳者は、送られてきた音声をパソコンに文字で打ち込み、利用者(高校生)のスマートフォンに表示させます。
・文字通訳者は複数人でチームを組み、利用者が希望する時間に支援をします。
・文字通訳者は全国(世界)どこにいても、支援できます。

普通高校へ通うろう高校生に対する現状の情報保障

現在、普通高校に通っている聴覚障害の高校生の数は全国で推定2,500名ですが、パソコンノートテイクなど授業の情報を支援する制度は何もありません。

小学校から大学までの情報保障の現状は以下のとおりです。
* 小中学校(義務教育)
→特別支援学校(難聴学級)による公的支援制度がある。たとえばノートテイクや個別指導など。
* 高等学校
→情報保障の制度がない。
* 大学
→障害学生在籍数に応じた補助金制度
→学生ボランティアによるノートテイク、PCテイク、手話通訳
→日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク

2016年に障害者差別解消法が施行され、合理的配慮が義務化されます。これは職場だけでなく教育現場にも適用されるので、公立高校は義務化、私立高校は努力目標となります。
  

こうした現状で、明晴学園は、聞こえない・聞こえにくい高校生にとって合理的な配慮として遠隔パソコン文字通訳を挙げ、誰もが利用できるような制度になるよう活動中です。

5 編集後記

手話のみで学校生活を送るという独自の教育課程は非常に興味深かったです。聞こえなくても障碍者ではなく「目の子ども」であり、明晴学園は子どもたちが自然にできる方法で、のびのびと成長できる場だと想像できました。

中学を卒業したろう高校生への情報保障としても、T-TAC Captionの今後は気になります。この制度がより多くの高校生へ普及することが望ましいですし、ほかにも、ろう高校生への支援を考える必要があると感じました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 澁川万結子)

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