1 はじめに
本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われた、ブックデザイナーの村山純子さんへのインタビューを記事化したものです。
「点字つき絵本の出版と普及を考える会」の活動から生まれた「さわるめいろ」の第1巻が2013年に出され、このシリーズは目の不自由な方だけでなく、福祉に関心のある方に広く愛され読み継がれてきました。
その第3弾「さわるめいろ3」がパワーアップして2019年9月に発刊されました。企画からデザインまですべて手がけている、ブックデザイナーの村山純子さんにお話を伺いました。
2 インタビュー
最新刊は、最も難しいレベルの点字迷路を収録
——「さわるめいろ」シリーズの特徴を教えてください。
点字のように隆起した点線をさわってたどり、ゴールまで進む、点字つき迷路遊びの絵本です。3つの既刊シリーズがあり、シリーズ1は、幼い子でもゴールできるように、分岐の少ない点線をたどっていく簡単な迷路から始まり、徐々に難しいものにチャレンジするような構成にしています。格子など、日本の伝統文様で迷路をデザインし、文様の線の上に迷路の隆起をつけました。
シリーズ2では、背景に色模様をつけて、模様の境界に迷路の隆起を作りました。それから、曲線の迷路を多めにしています。シリーズ1では採用しなかった「ループ」(迷い込むと同じところを回って抜け出しにくい)も少し入れています。
今回のシリーズ3は、シリーズ中、最も難しい迷路になっています。ループも積極的に入れているので、1と2を簡単に感じた子にとっても、チャレンジし甲斐があるのではないでしょうか。
(隆起を指でたどっていく)
また、背景の模様に錯視の効果を入れた迷路もあります。目が見える子に、「視覚は騙される」という感覚を体験してもらいたかったからです。「曲がってないのに曲がって見えてしまう」ということに気づくと面白いですよね
どの本も、迷路が11種類入っています。カラフルな色彩にもこだわり、「目の見える子も楽しめる」デザインにしています。
——読者の感想はいかがでした?
「さわるめいろ」は、ドイツ語版や英語版も出版されました。
「目が見えないおばあちゃんがとても気に入っています」
「私の息子たちはこの本を本屋で見つけ、両方ともそれを離さなかった。彼らは6歳と9歳です。1人は目を開けてそれをし、もう1人は目を閉じてそれをしました!」
など、海外からも感想が届いており、本当にこの絵本を作ってよかったなと思っています。おそらく、これまで海外では、このような点字の迷路はなかったと思います。子どもたちが迷路で遊んでいる写真を送ってもらうことがありますが、子どもが楽しんでいる姿を見るのが一番嬉しいです。2015年にはIBBY*障害児図書資料センター推薦図書に選ばれました。
*IBBY…International Board on Books for Young People(国際児童図書評議会)。「子どもの本を通して国際理解を」という理念のもと1953年にスイスに設立。
——この本を作ったきっかけを教えてください。
私はフリーランスのデザイナーとして小学館の図鑑NEOシリーズの『動物』や『魚』の巻のデザインを担当しています。点字つき絵本制作の依頼はNEO編集部の北川さんからいただきました。打合せの時「点字つき絵本の出版と普及を考える会」のことを伺い、会合に参加するようになりました。
この会は、出版社や印刷会社、図書館などの人たちが集まり、イベントの情報交換や、点字つき絵本制作上の課題などについて、垣根を超えて交流します。このような地道な活動を10年以上も続けていることに感動したのを覚えています。その活動の一環としてつくったのが本書です。
(開いて使えるので、誰かと一緒でも遊べるようになっている。)
——なぜ見えない人のための本として、迷路を作ったのですか?
迷路であれば、見える見えないに関わりなく楽しめる本が作れそうだと思ったからです。
本を大きく広げられるようになっているのは製本やコストの都合なのですが、結果として子どもたちがみんなで楽しめるようになりました。
ちなみに、小学館の点字雑誌「手で見る学習絵本 テルミ」の200号を記念して、「テルミのめいろ」という本も2018年に出版されています。
——本書の作成において、盲学校にはどのような協力をしてもらいましたか?
こちらで難易度を3段階くらい作って、子どもに試してもらい、「線が近くて他の道にいってしまう」などの意見をいただきました。見えづらい子はカラフルな迷路が楽しかったようです。
迷路で遊ぶとき、見える人はスタートから道をたどっていくのですが、見えない子は、まず手のひらで迷路の全体を触ってスタートやゴールの位置や全体の構成を確かめます。そして、迷ったときも全体を触って、自分が今どのあたりにいるのかを確かめながら進んでいきます。
このような捉え方の違いには驚きました。手で見ているんだ、と実感した瞬間でした。
「触ることに対する怖さ」をなくしたい
——工夫したことや、この本に込めた思いを教えてください。
見える子と見えない子で情報量のちがいを抑えるため、迷路の背景を風景等ではなく幾何形体にしました。また、全盲の方や弱視の方から目の見える方、さらに未就学の子どもから大人まで、幅広い年齢層の方が遊べるように、易しい迷路から難しい迷路へと段階をふむよう配慮しました。
絵本には読み聞かせという楽しみ方があります。一方、ひとりで本と向き合うという楽しみ方もあります。ひとりで本に夢中になる楽しさを、まだ点字が読めない見えない子にも味わってもらいたいと思いました。
この本が、目が見えない子の「触ることに対する恐怖心」を取り除くきっかけになり、触ることの初めの一歩になったらいいなと思います。
また、見える子が目を閉じて試すことで、「目が見えないってこんな感じ?」という小さな体験をしてもらえたら幸いです。目を閉じて部屋を歩くと危ないですが、この本で試しても危険はありませんから。
——これから作りたい作品のアイデアはありますか?
アイデアを考えていると、見える人しか楽しめないものになっていることがよくあります。「見ただけでは分からない」「さわらないと分からない」というものを作っていきたいです。
(取材・編集: EDUPEDIA編集部 大和、福原 撮影: 教育技術 編集部)
3 著者紹介
村山純子(むらやま・じゅんこ)さん
ブックデザイナー
シリーズ1冊目の『さわるめいろ』は、「産経児童出版文化賞 大賞」「剣淵絵本の里大賞 アルパカ賞」「造本装幀コンクール 審査員奨励賞」「IBBY障害児図書資料センター 2015年推薦図書」「JBBY賞」
2冊目の『さわるめいろ2』は「ミュンヘン国際児童図書館 国際推薦図書目録」 に選出され、国内外で大変評価されています。
4 書籍紹介
さわるめいろ3
定価:本体1900円+税/小学館
著・デザイン/村山純子
協力/点字つき絵本の出版と普及を考える会・岩田美津子
試し読みはコチラから
5 関連ページ
*[2015年のIBBY障害児図書資料センター推薦図書に選ばれた『さわるめいろ(てんじつきさわるえほん)』(著:村山純子/小学館/2013)のドイツ語版が出版されました | バリアフリー絵本]
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