組体操での安全~事故を減らすには

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やめておいた方がいい

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 2014年度あたりから、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授が「組体操の危険性」について発信しておられます。2015年には中学校で事故になったことが話題になり、マスコミでも頻繁に取り上げられるようになりました。私は、単なる組体操反対論者ではありません。自分が児童生徒の立場であれば、組体操も騎馬戦も、棒上旗取りも「やりたい」と思う部類です。事故のリスクを度外視するなら「根性や辛抱強さ、バランス感覚を身につけるためにやるのはいい」とも思います。協働的な身のこなし方も組体操の中でおぼえることができるでしょう。ただし、教員という視点で組体操をすることによって子供たちが背負うリスクや、教員の負担とリスクを冷静に考えれば、「やめておいたほうがいい」という結論に達せざるを得ません。
「肩車」「飛行機」等の二人組・三人組の技であっても、場合によっては上側の児童が足を拘束されて頭側から落ちる危険性があります。それで、大きな事故を見たこともあります。大勢が一斉にそういった技の練習をやっている場合、到底補助(教師)の数は足りません。
 肩車の上に乗って足を拘束された状況で、下の人が後ろ向きで倒れた時、どれだけ怖い状況か、教員は想像するべきです。数年前から子供たちは半身をよじってダメージを軽減するといった反射的に身を守る反応ができなくなっています。

あまり組体操の是非についてここで私の考えや経験を詳しく書き出すと長くなってしまいます。できましたらまず、下の記事をお読みください。
組体操を「廃止」に導く ~事故リスクの回避
組体操は廃止すべきだと思います。
この記事をお読みになられた上で、それでも、もし、「存続」という道を取られるのであれば、以下の記事をご参考に安全な運営に努めていただきたいと思います。また、内田准教授の著書「教育という病」に組体操事故について詳細なレポートが書かれているので、是非お読みになるといいと思います。

 少しでも子供たちが大きな事故に遭ってしまうことが避けられることを願って、ここでは組体操の事故を減らすにはどうすればよいかを列挙してみます。
また、エデュペディアには他の記事があるので、よろしければご参考にしてください。
 組体操~主旨説明・基本ルール 
 組体操のポイント
 逆立ち(補助倒立)を成功させるために

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0.組体操事故防止について 校内で議論の場を設ける

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 まず、一度、組体操の是非について、しっかりと校内で会議を設けて議論を行うべきだと思います。今までの学校現場では、組体操に関しては「子供ががんばっている姿が素晴らしい」という考えが多数を占めていました。組体操は絶対に運動会では盛り上がらなくてはならない「聖域」となってしまっていました。協力、団結、熱血、拍手、努力、涙、感動、成長、信頼・・・・ポジティブな言葉に彩られた「聖域」に対して、職員室では批判をしにくいムードがあったように思います(今でもあるかもしれません)。
組体操に対してネガティブな発言するのは多くの学校現場でたいへん勇気が必要なのではないかと思います。しかし、これだけ事故の数が多い事が明らかにされ、多くの問題点が指摘されている中、学校内で教員の意見がしっかりと交わされないままではまずいです。マスコミの論調、内田准教授の指摘(ネットでも検索すれば見ることができます)等を参考にしつつ、自由闊達な意見を交わすことが必要ではないかと思います。「廃止」「縮小」「安全対策」等について、多様な意見を取り入れてきちんとした結論を導き出しておかなければ、組体操を今のまま続けることは学校に対する不信を募らせることにもなりかねません。
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1.組体操を廃止する

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 最も事故が起こらないための手段は組体操の廃止です。他の有意義な競技・演技に置き換えることは十分できると思います。私は組体操をしない学校も経験してきました。組体操がなくても子供がひ弱に育つわけでもなければ、荒れるわけでもないし、運動会が楽しくないわけでもありません。臆せず廃止を検討してみてください。
 運動会の花形である組体操をやめたらその代替は何にするのかという反論が出てきやすいですが、ソーラン節でも、ダンスでも、やればいいと思います。運動会でやるには運動場という空間は広過ぎてソーラン節やダンスには向きませんから、できれば日を変えて体育館でやるといいと思います。体育館は子供の声や子供の出すエネルギーが充満し、反響するし、足音がそろっているのがよく聞こえるので、ダンスは体育館でやるに限ります。ダンスで十分に楽しいです。例えばボールを使ったダンスをすれば、球技をやる際の基礎的な力が身につくので、後の授業に生きてくるというメリットもあります。
 組体操がないからと言って、運動会がそれほど面白くなくなるということはないと思います。やめる勇気も必要です。
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 ただ、私がどう考えようが、あれこれと意見を言おうが、やる学校は「やり続ける」でしょう(少しは形を変えたとしても)。では、組体操を廃止する以外でどのように事故の確率を低減できるか(ゼロにすることは無理だとしても)、以下に述べていきます。
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2.簡素化をする

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 マスコミの論調を見ていると、ピラミッドの巨大化や技の高度化の危険がさかんに指摘されています。それに加えて、演技時間が長くなることや、演技内容の煩雑化も、練習時間が足りなくなって無理が生じ、事故が起こりやすくなる原因になっています。組体操はついつい観客へのウケ狙いに走りやすく、何かとゴージャスになりやすい演目なのです。ゴージャスな内容を目指したものの、倒立の練習がなかなか進まず、練習日程が苦しくなるといった状況もよくあるパターンです。
 とにかく、ゆったりと時間をかけて、焦らず、急がずに練習・本番を進めていくことが大事です。そのために、全体的な「簡素化」が必要だと思います。
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3.音楽に合わせて進行をするのを取りやめる

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 簡素化のひとつの例です。
 音楽をつけるとよりゴージャスになって感動を生むように思い、音楽に合わせて技を進行するケースが多いです。しかし、音楽があるとまず、拍数を数えて技に合わせるのに取られる時間がもったいないです。そんな時間があれば、安全対策について考える時間とするべきです。技を取りやめたり、変更したりすることも難しくなります。また、音楽に間に合わせるために急いで技を組み立てる必要が出てきます。音楽を無くす、あるいはあくまでBGMとして流すにとどめる(音楽に合わせて進行しない)ということも、検討すべきかと思います。笛や太鼓の合図で進行すれば、教師が子供を見ながらのタイミングを計れるので、安全です。
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4.長時間だけではなく、「長期間」の取り組みとする

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運動会が近づいて慌てて取り組むのではなく、4月から順次、技を一か月に一つ完璧に完成させるぐらいのペースでやらせておきましょう。時間に余裕がない中、慌てて指導が雑になると危険度はぐっと高まります。ゆったりと時間をかけて練習するのです。
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5.小学5年生、中学2年生も組体操に参加する

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 もっと「長期間」で計画を考えてみます。
 組体操は小学6年生(中学3年生)が花形の演技として行うことが多いと思います。これに、小学5年生(中学2年生)も参加させます。人数の多い大規模校では難しいですが、小規模校なら可能です。あくまで6年生が主役ですから、難しい技は6年生がやります。5年生は逆立ちなどの基本的な技をするだけにしておきます。5年生は前半だけの参加で、途中で退場させるのもいいでしょう。
こうすることによって、来年度の技や心構え、動きが5年生時に身につきます。6年生になった時には見通しを持って練習ができるので、スムーズに練習が進みます。また、6年生は5年生の手本として、緊張感を持って頑張ることができます。
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6.1年生から組体操に向けて練習をする

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 さらに、もっと「長期間」で計画を考えてみます。6年間というスパンで組体操を完成させるのです。
 6年生でいきなり組体操をすると、「倒立」がなかなかできず、これに時間を取られてしまって他の練習が雑になることがよくあります。練習時間に余裕がなくなった状態で無理をしてタワーやピラミッドを作ることは大きくリスクを高めます。4年生で、「三点倒立」、5年生で「倒立」を必須にするのはどうでしょうか。
 組体操の種目には、1年生にもできる技がたくさんあります(幼稚園で組体操をやっている所もありますし)。ですから、1年生~5年生で、それぞれの学年で必ずできるようになっておく技を決めておきます。例えば1年生は体が柔らかいので「ブリッジ」は比較的簡単にできるようになりますので「1年生で完成する必須種目」にしておきます。これを3年生か4年生あたりで「立ちブリッジ」に進展させるのもいいでしょう。
 このようにして、6年生で組体操をすることを前提とした6年間の体育の「カリキュラム」を組んでおけば、ずいぶん余裕をもって6年生時の練習に臨めると思います。もちろん各学年の担任が、大部分の子供が決められた種目をきちんとできるようになるまで真摯に取り組むことは、大前提です。
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7.危険な技を避ける

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 指導者、スタッフが思わず口にする「油断をするな、油断をすると大きな事故になるぞ!」という言葉は、笑えない冗談に聞こえます。思わず言ってしまう気持ちは分かりますが、そんな大きな事故になるような技を公教育の場でさせていることがおかしいのではないかと思われます。
 まず、大きな事故になりそうな危険な技は避けるべきだと思います。
 では、何が危険で何なら安全なのか・・・ということになると判断はたいへん難しいです。
 「6段ピラミッドは危険で5段ピラミッドなら安全」かというとそんなことはありません。「ピラミッドは危険で肩車なら安全」かというと、そうでもありません。「肩車」でも、バランスを崩して頭から落ちそうになりあわや大事故になりそうな場面を見たこともあります。
 その年の教師の指導力にもよりますし、その年の子供の心身がどれだけ育っているかにもよるのです。
 三段タワーで事故が起きていますが、私は三段タワーが必ずしも難しくて危険な技だとは思っていません。教師の指導が上手で、安全への配慮がしっかりしていれば、それほど大きな事故が起こるような技ではないと思います。しかし、逆に教師の指導が下手で、安全への配慮がおろそかになっていると、大きな事故が起こる危険性は高まります。
 何を危険とみなすのかは、しっかりした議論をした上で、慎重に判断することが望まれます。上手な指導と十分な安全配慮が担保できそうにないなら、やめておくべきでしょう。
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8.技の難易度を下げる(例:ピラミッド)

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技の難易度を下げれば、危険度が下がると同時に指導・練習にかかる時間を短縮できます。
例えば、平面ピラミッドは四つん這いの上に四つん這いで人が積まれていきます。図のように、5段にすると最下段中央の子供に最大3.125人分の負荷がかかってしまいます。

5段はやめておいた方がいいでしょう。難易度を下げて4段にすれば、負荷は最大2.125人分に下がります。

さらに、2段目の子供の足を、背中ではなく、地面につかせます。そうすると最下段にかかる重量は地面と背中に分散されるので、負荷は最大約1.06人分となります。見た目もそう変わらないまま、ずっと安定性がよくなります。
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9.技の難易度を下げる(例:肩車)

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肩車もそうとう危ないです。肩車をした状態で、上の子供も、下の子供も手を放して水平に手を広げるのが一般的な「決めポーズ」です。このポーズから、真っ逆さまに上の子供が落ちるのを見たことがあります。たまたまそばにいた教師が間一髪で受け止めましたが、下手をすればバックドロップ状態で、大事故です。
下の子供はずっと上の子供の足を持たせて、上の子供だけが水平に手を広げる。それで十分ではないでしょうか。
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このように「ちょっとした違い」で、ぐっと子供にかかる負荷が減ったり、安全性が高まったりする方法はたくさんあります。そういった情報をきちんと集めて工夫をして、一つ一つの危険を回避していく努力を重ねてください。
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10.ざわつきを抑え、集中力を高める

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整然とした状態と、雑然とした状態で、どちらが事故が起きにくいかというと、間違いなく前者です。練習中、どれだけ整然とした状態を保つことができるかどうかがポイントになります。練習の初めに、「休め」の姿勢で後ろで手を組ませ、1分間の黙想をさせるのもいいでしょう。黙想の最後には、深呼吸を 三回するなどもいいと思います。また、練習中にざわついて集中力がなく散漫な雰囲気の時、新しい技を始める前などの節目に短い黙想をさせるのもいいと思います。
子供の真剣さと集中力を切らさないムードをずっと保って練習を進めることは大切です。
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11.マーキングを早いうちに

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きちんと整列をさせるということも重要です。ざわつきを抑えるというのにも通じます。雑に整列をした中で練習をさせると事故が起こりやすくなります。整列をしやすくするために、マーキングをしておきましょう。早い段階できちんとマーキングをして、各自の位置をきちんと確かめさせましょう。整然とした状態で練習をさると、子供たちの集中力は自ずと高まります。
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12.サポートを要請する

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 ややもすれば職員間に、「6年は6年担任の責任で勝手に何とかしてくれよ」「6年生、下手な指導で何やってるんだよ」といった、冷たいムードが漂っていることがあります。
まず、「6年生は小学校6年間の集大成であり、6年生の成功は、学校全体の責任である」という意識を学校全体で共有しましょう。組体操だけではなく、他の行事、日々の6年生の姿に学校全体が、責任を負っているのだという「想い」を持っていることはたいへん大事だと思います。
6年担任の口からこのことを言うのは難しいので、管理職や他の学年がきちんと言葉に出すべきだと思います。6年生や組体操の指揮者に責任を押し付けるのはもう、やめにしなければなりません。
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 練習の際には、空き時間の教員にはなるべく練習のサポートを要請するように事前に言っておきましょう。特に、部分練習が終わり、全体で動いているときには危険が増します。場合によっては授業中であっても「先生方、10分ほど6年生の組体操に時間をお貸しください」と、 全校放送をして、自習にしてもらってでもサポートを要請しても構わないと思います。
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逆にもし、十分な人手がないなら、練習であろうと本番であろうと、タワーやピラミッドを一挙に立ち上げるのはやめて、一部ずつ立ち上げるべきです。
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13.安全に関して慎重すぎるほどに丁寧な説明をする

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例えば、「飛行機」の技(2人の支えている子供の上で、腕立て伏せのポーズで1人の子供がのっかる技)で。上の子供がぐらついているときに、いつまでも足を支えている側の子供が足を持っていると、上の子供は腕の方が耐えられなくなって頭の方から落下します。
「落下しそうになったら足側を支えている子供は素早く足を地面に置いてあげます」「落下しそうになったら、上の子供は前の子供にしがみつきなさい」
など、具体的な場面を見せて、指導しながら丁寧に説明していきましょう。最近の子供には「何かにしがみついてでも何とかする」というメンタリティーがありません。情けない気もしますが、安全第一と考えて、丁寧な指導をしていくことが必要です。
 ある年のこと、一通り肩車の説明をして、「ではやってみましょう」と指示を出したら、成功した子供たちが勝手に動き回り始め、肩車同士で押し合いを始めました。それまでにそんな無茶をする学年はなかったので、驚きました。くどいようでも、「肩車に成功したら5を数え、いったん上に乗っている友達を下して、座って待ちなさい」ぐらいの指示を出した方がいいでしょう。もちろん、その前に「安全な下し方」の指示も忘れずに…
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14.ブレーキになるよう、安全目標を文面にする

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運動会の実施計画書の「目標」の項には、「練習中・本番での事故発生をできる限り抑える。特に組体操等は高度化・巨大化を自粛し、安全確保に十分留意し、事故を起こさない。」ぐらいの厳しさで覚書を毎年引き継いで明記しておく必要があると思います。文面にしておけば、高度化・巨大化へのブレーキになると思います。きちんと文面に書いておかなければ、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、これだけ事故が起こっていることが報道されていることを忘れて、ずるずると巨大化・ゴージャス化を促進させる教員が出てきてブレーキがかからなくなります。
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15.マニュアルを共有する

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学校に組体操のマニュアルがありますでしょうか?一つ一つの技の指導方法、安全確保の方法も十分に検討せぬまま指導をしている学校が、残念ながら結構あると思われます。大けがが出るような技もあるのに、どこか無責任になってしまっていることはないでしょうか。指導時間がなくなって行き当たりばったりの指導に流れがちになってしまっていることはないでしょうか。マニュアル本を手に入れるも入れないも、その年の6年生スタッフ個人に任せ、まわりの職員は知らんぷりでは困ります。口承だけではなく、きちんと文面化・図式化をしてどんどん脚注が書き足されたその学校独自のマニュアル(本)があって当然です。毎年度の成功と失敗をきちん伝承していくために、本をひとつ買って、そこにさらに毎年のスタッフが注意事項やコツを書き込んでいくのもいいでしょう。
例えば、6人・3人・1人で組む三段タワーであれば、「補助は最低3人が120度ずつに配置されているのが望ましい」などです。メモをどんどん残していきましょう。こうしたノウハウを惜しみなく蓄積し、共有していくべきです。

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