教育現場でのリフレクションの活用 ~「本質的な気づき」を得るための思考法~

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作成者:田中 雅浩 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事は、京都女子大学の村井尚子准教授への取材をまとめたものです。本記事では、リフレクションの紹介から、その実践方法やアドバイスについてインタビュー形式で紹介していきます。

2 インタビュー

リフレクションとは何ですか?

子どもと自分の間で起こった会話や出来事を現象学的に記述することによって振り返り、あとからその場面を考察することによって新たな気づきを得ることです。

教師が子どもと向き合ったときに、その場その場でその子どもたちに合わせて一番良い対応をするのは 難しいです。「あのときなぜ自分は子どもにあのようなことを言ったのだろうか」など、その背景をずっと掘り下げていくことにより、子どもの生活世界にいる子どもを理解しやすくなります。​​子どもとの関係の中から、自分自身の子ども観や教育観を見つめ、より良い関係作りと教師としての姿勢への見通しを深めることができる点が、​リフレクションの特徴です。

リフレクションが教師にとってなぜ必要なのですか?

学校現場では日々様々な出来事が起こり、教師はそれらに対して必ず何らかの行為(無視するという行為も含めて)をしているはずです。正解かどうかわからなくても、その場面で教師は子どもたちの未来の成長に向けて良いと考えられる行為をやっているはずなのです。

教育では、そのような長いスパンで見た時に、取るに足らないことが子どもにとってものすごく影響を与えるかもしれません。でもそれは分からないですよね。その子にとっても、「20年前にこう言われました」という笑い話になる場合もあるかもしれないし、既に深い所に沈殿していて思い出すことはないけれど大きな影響を与えているかもしれません。

教育は、不確定だけれど人間形成にとって深い営みを持っています。だからこそ、リフレクションが教師に求められているのです。

実際の教師教育の場面でリフレクションを教える際に行うアドバイスはありますか?

自分が実習の中で子どもと関わった体験の中で、後になって思い悩むようなことについて話したり、記述したりしてもらうようにしています。始めのうちは一人でリフレクションをするのはなかなか難しいので、学生さん同士でペア、あるいは3人組になって話すのも有効です。この場合は、​とにかく共感しながら、話し手の言葉に耳を傾けることがとても大切​です。聴き手は、話し手の行為の良かったところ、話し手の強みを常に意識しながら話を聞くようにします。リフレクションは、人にさせられるのではなく、自分自身で振り返ってリフレクトするものです。あくまでも、聴き手は話し手がリフレクションしやすいような状況をつくります。

—それは後から思い出して書くのですか?

できれば実習中に感じたことを記述してもらうようにしています。​因果論的に説明したり分析したりするのではなく、ありのままを書いてもらいます。例えば、その時の自分の感情とか情動、さらに言えば匂いやゾクッとした空気などの身体的なものも書いてもらいます。そして、その記述したものをもとにリフレクションを深めていきます。

—報告書のようにしてしまうのではなく、あるがままに書くのですか?

そうです。しかし実際は難しいです。書き方の練習などもあって、その記述を後から振り返ってもらうようにしています。コルトハーヘン(オランダのリフレクション研究の第一人者)は、「8つの窓」というツールを使ってリフレクションを行うことを推奨しています。

コルトハーヘンは「行為の背景には考えや感情、望みがある」と言っています。人が話す行為で伝わる考 えや感情はあくまで氷山の一角に過ぎず、実はその裏にさらにたくさんの考えや感情があるのです。これらを掘り起こしていくのが8つの窓を用いたリフレクションです。ただ彼は、そこから「本質的な気づき」を得られなければ意味がないとも言っています。「じゃあどういう言い方をすればよかったかなあ」という様々な選択肢を考えるのは「本質的気づき」ではありません。​同じ出来事は2度とは起こらないからこそ「こうすればよかった」では意味が無いのです。​「この行為自体にどういう意味があったのか」につなげていく必要があります。

細かいリフレクションを積み重ねることで、年度などの大きい時間軸でのリフレクションにつながっていくのでしょうか?

これまでに説明したのは後ろ向きのリフレクションで、実は​前向きのリフレクション​というものも存在します。これは5年ほど先の将来に自分がなりたい先生像を設定し、そんな先生になるにはどんな積み上げが必要だろうか逆算的に考えるというものです。これを行うことで将来を含めた長い時間軸でのリフレクションが可能になります。

上の図は学びの樹というリフレクションシートです。以下のように記入していきます。

・木の葉っぱ:自分の強みを生かしながら、どのような教師や保育者になりたいかを考えて葉を一つ一つ描いていく

・幹の上部:理想の教師や保育者になるためにこれから何を学んでいく必要があるかを書き入れる

・幹の下部:理想の教師や保育者になるためにここまでの学生生活で既に学んだことを書き入れる

・根っこ:普段共に学んでいる友人から指摘してもらった自分の強みを書いた根っこを一本一本描く

前向きなリフレクションは本当の意味のリフレクションとは少し違うかもしれませんね(笑)。しかし、例えば 現場2年目の先生が7年目くらいにはどんな先生になっていたいかを考えて、そこからこの1年はどうしようか、この1週間はどうしようか、と考えていくことも大事だと思いますし、リフレクションの本質的な部分はここにも生きていると思います。

将来のビジョンもなしに今日どうしよう、明日どうしようとなると、そこに埋没してしまうかもしれません。目の前のことに追われて病んでしまわないようにするためにも、将来はこういう風になりたいなってことを考えつつマスを埋めていくのは有効だと思いますよ。

リフレクションの精度を上げるためのコツはありますか?

積み重ねが大切ですね。リフレクションを重ねるほど自分の中で枠組みが出来上がって、時間を取らなくても自然とリフレクションできるようになります。リフレクション癖ともいわれますね(笑)。自然とリフレクションできるようになるのは本当に難しいですが、リフレクションはあくまで「考え方」なので、比較的少ないトレーニングでも結果が出るものだと思います。

現職の教師が日常的にできるような振り返りのアドバイスはありますか?

最も大切なのは、価値が葛藤する場面や「あれでよかったのかな」とひっかかる場面をリフレクションすることです。さらには子どもとの関係だけではなく、保護者や同僚との関係の中で、もやっとしたことについてもリフレクションしてみると面白いです。そこから学びを得る訓練をしてみましょう。

「指導案通りに授業したいが上手くいかなかった」、そういうときの自分のとった行動を振り返ってみて、なぜその行動をしたのか、子どもの側に立ってそのときの状況はどうだったのか考えてみる。それが第一関門です。

現場に向けてメッセージをお願いします。

やっぱり現場の先生って大変だと思います。毎日何かに追われていて、こなすだけの毎日になるかもしれません。ただ時々原点に帰って自分の子ども観や教育観というものを考えることでまた元気が湧いてくるのではないかなと思うし、それが大切だとも思います。あと、先ほど紹介した5年先の自分のビジョンを持って、どんな先生になりたいか、そのために何を身につけていこうか、という風に前向きのリフレクションをしていただけるといいなと思います。

REFLECT(一般社団法人学び続ける教育者のための協会)では、教育に携わる人のリフレクションのワークショップを実施しています。詳しくはこちらの​ホームページ​をご覧ください。​facebook​はこちらになります。

3 プロフィール

村井 尚子(むらい なおこ) 京都女子大学 発達教育学部 准教授

専門は現象学的教育学、教師教育。 子どもの生活世界における経験の現象学的記述の研究および教育者・保育者の養成課程から現職研修の一貫した学びのあり方の探究。

4 参考書籍

 

5 編集後記

 ただ「ああすれば良かった」と振り返るだけでなく、そこから一生ものの気づきを得られるのがリフレクションの最大の特徴だと思いました。思考方法であるが故に手軽に実践でき、また活躍の場も子どもとの接し方だけに限られない点も魅力的です。「8つの窓」の用紙をダウンロードして、現場で活用して頂けたら幸いです。
(文責:EDUPEDIA編集部 田中雅浩)

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