1 はじめに
本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「周囲の言動や音に過敏に反応し、他者との関係性に困難さを有するアスペルガー症候群の中学2年の生徒に対する合理的配慮の事例」 に掲載されている事例をご紹介します。
アスペルガー症候群を持っている子どもが在籍し、どのような合理的配慮が必要かお悩みの先生は是非ご一読ください。
※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
◎「発達障害支援法」改正、押さえておきたい7つのポイントまとめ
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〈事例の概要〉
A生徒は、アスペルガー症候群で、私立のB中学校の通常の学級に在籍し、全教科の授業を通常の学級で受けています。
○学習面
どの教科の授業においても落ち着いて前向きに取り組み、疑問点を残さないよう積極的に質問もしています。また、理解が早く、国語や英語を中心に成績では優秀でした。しかし、指名による発言や音読などは緊張する様子があります。
○生活面
不安感が強く、初めてのことや心配なことがあると、必要以上に考えすぎてしまう傾向があります。対人関係では、どのような状況であっても他人を受け入れ穏やかに接するため、集団になじめない生徒やよりどころを求める生徒がA生徒のもとに集まってきています。しかし、実際にはうまく対応できず、自分で抱え込むことで受けるストレスは大きいようでした。また、自分とは関係ないところで起こっている問題までも気に病む傾向があります。
○合理的配慮とその成果
- 他人との距離のとり方を本人が納得できる形で説明する
- A生徒の思いを話すことによって気持ちを整理させる
- 別室で一人になる時間をつくる
という合理的配慮を行いました。このことにより、少しずつ落ち着いて学校生活を過ごせるようになってきています。
2 生徒の実態
A生徒は、通常の学級に在籍する私立中学校の2年生です。小学校2年生のときにアスペルガー症候群との診断を受けています。小学校3、4年生の時は通級による指導を受け、自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍していたこともあります。
集団の中に入れないことや、様々なことが気になることで自分を責めることが多くあります。また、規範意識が非常に強く、ルールを破ることや人を傷つける言動に過敏に反応してしまう様子がみられます。さらに、自分の失敗をいつまでも気に病んだり、周囲で起こっていることに対してストレスを溜めたりするため、一人でゆっくり休む時間や教員が話を聞く時間が必要となります。自身が別室で休むことを気にして無理をして教室に戻り、状態が悪化することもしばしば見られました。その他に、聴覚過敏で騒がしい雰囲気に耐えることが難しいという状態です。
3 本事例に関する基礎的環境整備
学級担任を中心に、インクルーシブ教育担当教員、養護教諭、スクールカウンセラー、外部の専門家など、全教職員が協力して支援にあたっています。
- 月1回の校内支援委員会には、B中学校教職員のほか、週1日勤務のスクールカウンセラー、外部の専門家も交えて、支援の方法や振り返り、今後の課題などを話し合います。
- B中学校では、特別な教育的支援を必要とする生徒の指導・支援にあたって、個別の指導計画、個別の教育支援計画を作成しています。
- ユニバーサルデザインを意識した授業づくりを心がけ、視覚的な教材の提示などに取り組んでいます。また、グループでの学習も進めています。
- 相談室を設置しており、カウンセラーや担任との面談の場や、A生徒が疲れたときに静かに休むための別室としての機能を持たせています。
4 合意形成のプロセス
支援に関するA生徒本人及び保護者からの申し出
保護者からはB中学校入学時に
- 周囲のことが気になりすぎて、全てを自分のこととして捉え抱え込む傾向がある
- そのことを上手に処理できずにストレスをためることがあるため、疲れたときに静かな状態で休憩できる部屋を準備して欲しい
という申し出がありました。
また、入学後にA生徒からも同様の申し出がありました。
支援を決定するまでのプロセス
支援を決定するために、
- 職員会議および校内支援委員会にてA生徒の実態を共有し
- 外部専門家の指導・助言を受けながら
- 支援の方法について話し合い
休憩できる別室を設けることにしました。
5 A生徒に関する合理的配慮の実際
A生徒への働きかけ
- 当該学年の履修内容を理解するために十分な学力がある教科については、積極的に検定等を受けるように促したり発展的な内容の問題集や課題を解くように勧めたりしています。また、家庭学習の頑張りが形に残るよう「勉強ノート」に毎日取り組ませ、家庭学習に対する心配を取り除くように働きかけています。
- ストレスを感じる関係性にある友人とは距離をとるよう伝えたり、一方的な関わりを押しつけられる場合は、教員に報告させるようにしたりしました。
- 理想や目標の設定が高く、できない自分を責めたり、自分と同じ目標を、他の級友にも求めてしまったりする傾向があるので、考え方や価値観は人それぞれであるということを理解させるようにしました。
環境的な合理的配慮
- 外部の専門家などが、教職員に対して発達障害のある生徒に係る研修を行っています。また、スクールカウンセラーを配置し、生徒の心理面に関する相談を受けています。
- A生徒が使用する教室の机や椅子の足全てにテニスボールをはめ込み、音を軽減させています。
6 本事例の成果と課題
○成果
A生徒は、疲れたときには別室で休み、話を聞いてもらうことで落ち着くことができるようになりました。また、「嫌なことを嫌だと伝えることは決して悪いことではない」と考えられるようになり、ストレスを感じる関係性にある友達とは距離をとって関わることができるようになってきました。さらに、テニスボールを利用して音を軽減することで、環境の静穏が保たれ、落ち着いて授業を受けられるようになりました。
○課題
課題としては、周囲で起こっていることを見聞きして、「関わる・関わらない」を判断できる力をつけること、他の生徒に自分ができる関わり方をすることが挙げられます。
7 出典
インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。
インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。
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9 編集後記
今回の事例は対応を学校全体で協議し、適切な合理的配慮を行えたことで、子どもの生活環境を整えることができたのではないでしょうか。課題を抱える生徒への合理的配慮にお悩みの先生方のお役に立てれば幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 福山浩平)
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