小学1年生にも二重跳び②(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~1年生も二重跳び2~なぜ二重跳びか~(283号~287号)」から引用・加筆させていただいたものです。
 小学校高学年でも苦戦する二重跳びを、小学1年生が跳べると思いますか?不可能だと思うでしょうか?しかも、クラスの全員が……!!もし無理だと思っているならきっとここで意見が変わるはずです!
 今回の記事は岡篤先生が小学校1年生の担任をされていた際の実践内容をもとに書かれたものです。

岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

■全校縄跳びがうまくいかず

勤務校では、全校で音楽に合わせたリズム縄跳びに取り組んでいます。係の先生が手間をかけて、色々試しながら流れを作ってくれました。そこで、隔週で火曜日にこの縄跳びをすることになりました。なわとびは、全身運動です。しかも短時間でかなりの運動量を確保できます。この取り組み自体は大賛成でした。ところが、実際にやってみると子ども達の態度はとてもほめられたものではありません。縄跳びの忘れ物は多い、集合時間には遅れてくるといった状態で、毎週叱ることから始まっていました。これでは、肝心の縄跳びも有効に活用されるはずがありません。子ども自身の縄跳びに対する構えができていないということです。

■教師も同じ

しかし、構えができていないのは実は教師も同じでした。隔週で行うということは、雨などで一週跳ぶと一ヶ月、間が開くことになります。そうなると、「今日は火曜日だけど、縄跳び集会はどうだったかな?」というはっきりしない時がでてきます。子どもも同じで、少々やる気のある子は、職員室をのぞいて「今日は、縄跳びありますか?」と尋ねてきます。
 残念ながら、ほとんどの職員がさっと応えられません。職員室の前方にある黒板を見て、「ええっ、ああ、あるね」といった具合です。教頭先生が書き忘れていて、間違えて無いと伝えてしまうことも何度かありました。こうなると、職員の方も縄跳びが面倒なものという意識がどこからか沸いてきます。何か別の行事があると、すぐに「では、今日の縄跳びは止めておきましょう」という方で流れてしまうようになりました。私も同じでした。

■一つの修正で大違い

そこで、年度末の新年度計画の場で、縄跳び集会についても取り上げてもらうことにしました。「今の状態は、毎回忘れ物はなくならず、時間に遅れてくる子がたくさんいて叱ることから始まります。そういう子は縄跳びもうまくなっていません。」
 係の先生には、少々厳しい言い方ですが、みんな実感していたことです。「縄跳び自体は先生方がよく考えて下さって上手くできているのに、それが生かせていないように思います。来年度は、止めるか、毎週にするか、どちらかにしませんか?」という提案をしました。増やすと減らすという正反対の提案をしたわけです。
 結論は、毎週やることになりました。これが正解でした。毎週ということであれば、「今日はありますか?」という質問はありえません。忘れ物もいつの間にかなくなりました。気がつくと、時間に遅れてくる子までいなくなっています。そうなると、子ども達の縄跳びの技術も高まっていくからおもしろいものです。休み時間に練習する子の姿も増えました。小さい学校なので、高学年と低学年が一緒に遊ぶのが普通の光景です。
 高学年の上手な子は、もちろん二重跳びやハヤブサができるようになっています。それを低学年が必死で練習して目指しています。それが、自然発生してきたのです。忘れ物も、遅刻も、技術の向上さえも、「毎週やる」この1点の修正で改善したわけです。私は、新年度計画の場で「やめるか、毎週か」と発言したとき、実は内心(縄跳び集会がなくなると、朝は少しゆとりができるな)とも思っていました。それだけに、係の先生が毎週への修正を決断してくれたことに敬意をいだきました。
 私は、また注文をつけることにしました。自分は何もしないのに、文句ばかりをいっているわけです。係は不愉快だったでしょう。「色々な跳び方をするのも大事だけど、子どもがあこがれるようなものを一つしぼって、それがどれくらいうまくなったかという基準もあった方がいいんじゃないかな?」このときに、私の中には二重跳びをクローズアップさせて取り組むという案が浮かんでいたのです。

■全校縄跳びに二重跳びを提案したわけ

係の先生がまた私の思いつきを取り入れてくれました。縄跳び集会のときに、二重跳びをする時間をときどきとることにしたのです。そして、二重跳びとハヤブサにしぼったカードも作ってくれました。ここから、勤務校の縄跳びのレベルが大きく向上することになりました。転任してきた先生は、たいてい休み時間の縄跳びの様子を見て、びっくりします。私が、二重跳びをクローズアップして取り組むことを考え始めたのは、3年生を担任しているときでした。
クラスのテーマを「パワーアップ」として、何かの目標を立て、それができるようになったら「パワーアップした」と掲示したり、カードにシールを貼ったりしました。その中に「全員二重跳び」を入れました。もう4年前のことです。
 最終的には、全員ができたものの、正直なところ、それほどの活気は生みませんでした。縄跳びが苦手な子は、やる気を見せず、練習時もだらだらと取り組み、だんだん全体のモチベーションも下がってきたからです。
 反省がいくつかありました。
年間を通して継続するという強い意識がなかった。
二重跳びができるようになるまでの過程を明確にしていなかった。
二重跳びができた子の次の目標がなかった。
 そういった思いがあったので、全校縄跳びについて二重跳びも入れることを提案したのです。

■5段階の縄跳びカード

もちろん、クラスでも再挑戦してみたいという気はありました。一年生を担任したことをきっかけに、再スタートしました。
 まず、二重跳びの項目を入れた縄跳びカードを作りました。6月10日から始めたのですが、その日のうちに二重跳びが1回できた子が、7人中2人もいました。このときのカードは、まだ二重跳びに絞りきれておらず、他に、1かいとび、かけあしとび、よこふりとび、の項目がありました。それぞれに種目によって数は違いますが、5段階に分けています。
 その欄から少しあけて、特別な目標も作っています。例えば、1回跳びは5段階目が100回ですが、特別な目標は200回です。この特別な目標というのは、5段目で十分だと私は思っているのですが、得意な子がそれを6月の時点でクリアしてしまっている項目もあるので、「特別」に設定したというものです。続けて6段階目に設定すると、苦手な子はとうてい「全部はできない」ということになってしまいます。
少し間をあけておけば、「これは、特別だからできなくてもいい目標だよ」という言葉に説得力がでるのではないかと考えたわけです。
 私の指導の基本的な発想は、出来ない子を何とか伸ばし、全体を引き上げるという「底上げ」です。ただし、得意な子も意欲を失わず挑戦し続けることが出来る場をつくことで、全体にもよい刺激を与え苦手な子もがんばり出すという好循環が生まれます。特別な目標はその現れでもあります。

■二重跳びの成果

この年の7人は、3月の時点で、全員が2回以上は二重跳びができるようになりました。6月中に1回目ができたのが4人でした。その後は、3人とも3学期に入ってからでした。
 この年の取り組みからいくつかの成果と課題が出ました。まず、一年生が全員二重跳びができる、しかも20回以上出来る子が7人中4人いるという状態が、以前書いたように、想像以上に職場の先生たちから評価されたということです。
 私は、自分の中で基準がなかったし、特別な指導をしたわけでもないので、一般的にどういう状況になるのかは分かっていませんでした。しかし、少なくとも子ども達が周りの先生からほめられるという一点をとっても、この方向で二重跳びに取り組むことはそれなりの意義がありそうだと感じました。
 その他にも、いくつかの実践的な知見を得ることができました。それが2年目の取り組みの基盤となりました。この経験を生かしたことにより、1年目は、7人中2人が1回だけできたハヤブサが、2年目は、5人中3人が10回以上できるというところまで伸びたのです。

■分かったこと羅列

一年目に分かったことがいくつかあります。
・得意な子は、一年生でもすぐに二重跳びができる。
苦手な子でも、継続して取り組めばできるようになる。
ただし、苦手な子は、自分からは練習したがらないので、教師の働きかけや場の設定によって大きく進み具合が変わってくる。
・得意な子は、休み時間や放課後に自分から練習するのでどんどんうまくなっていく。
子どものモチベーションには波があり、それは伸びと一致している。
縄跳びカードの内容は、ねらいと子どもの実態に合わせることで効果は増す。
・二重跳びの基本は一回跳びであり、一回跳びで100回連続跳べることが二重跳び1回の目安になる。
・30秒跳びは、縄を速く回す練習になり、80回が二重跳び1回の目安になる。
・ジャンピングボードを使って二重跳びを疑似体験させることは効果的である。
・膝を曲げて何とか跳べている子が膝を伸ばして跳べるようになると回数が増える。
・縄を片手で持って、二重跳びのタイミングで回す練習は音を意識させることがポイントである。
・ジャンプして空中で2度手を叩く練習は、跳ぶ直前に踏ん張る感覚をつかませるとよい。
・ハヤブサは、二重跳び20回が目安となる。
 2年目は、これらのことを整理して、意図的に取り組んだといえます。

■一年間継続するということ

まず、二重跳びに一年間継続して取り組むということです。そのために、体育の始まりは準備運動を兼ねて、縄跳びをすることしました。これを一年間続けました。
 また、時間が取れるときは、1回15分程度体育のない日に縄跳びだけをすることもよくありました。それも難しいときは、休み時間の前に5分早く外に出て、縄跳びをやって終わりということもしました。すると、休み時間も続けてやる子が出てくるからです。もちろん、休み時間だから強制はしません。
 この体育以外の縄跳びは、音楽会の練習が始まる9月から11月始めは、あまりやりませんでした。私も子どもも忙しくなり、無理に詰め込むことはストレスになると分かっていたからです。すると、見事に子どもが休み時間に縄跳びをする機会は減っていき、技の伸びのペースも落ちました。縄跳びが得意な子は、自分でどんどんやっていきます。授業での設定や教師の励ましによる支えが重要なのは、やはり苦手な子の方だということです。

小学1年生にも二重跳び① (岡篤先生)

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
 1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。(2017年3月20日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

 苦手な子だけに注視するのではなく、得意な子のモチベーションも維持できるよう工夫をすることで、全体の活気を生み出すのだということが伝わってきました。全体を持ち上げ、全ての生徒が同じ目標に向かって努力し続けられる環境づくりをする必要があると改めて感じました。
 生徒が主体的に頑張ろう!と思える環境作りは、先生側のちょっとした気配りと心構えで大きく変わるということが分かります。
 
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 井上渚沙 )

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