いじめへの対処

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目次

1  指導?措置?

いじめに関してはすでに様々な対処方法が論じられており、多くの書籍も出版されています。「いじめの構造」の著者、内藤朝雄氏も、いじめに関して様々な提言をされています。下の記事もお読みください。

「いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか」 内藤 朝雄 著

内藤氏はどちらかというといじめに対しては現実的な対処が必要だと主張されているように思えます。児童生徒に対して「指導」するというより、現実に対して「措置」を行う必要を訴えられているのではないかと思います。2012年7月23日号の「アエラ」にも、NPO法人「全国いじめ被害者の会」の大沢秀明理事長の「なかよくしなさいといった『指導』ではいじめは続く。いじめを止めるために必要なのは、指導ではなく『措置』なんです」という言葉が掲載されています。“指導”には精神的・情緒的な面なニュアンスが含まれており、“措置”というより現実的な手法が求められているのでしょう。

「措置」などという表現は、理想主義的な教育の場にはそぐわないように思えるかもしれません。確かに、教師には「断固としていじめを解決する」という信念は必要であると思います。子ども達には、「弱い者に優しく」あることを求め続け、クラスとしてお互いを認め合い、「つながり」や「絆」を大切にしていく気持ちを高めていかなければならないと思います。

その一方で、「いじめの根絶は容易でない場合がある」という客観的な状況把握のもとで、「措置」を考えていくこともまた必要ではないかと思います。教師の信念や子どもの善良さだけに頼っているだけでは、実際問題として、苛酷ないじめは繰り返されてしまう事になると思います。

いじめの対処に関して自分には何ができるか、そして子どもたちにとって「ベスト(理想的)な状況」と「ベター(現実的)な状況」を精査していく必要があるでしょう。

ひとえに「いじめ」と表現しても、ケースバイケースであり、指導する側の力量にも明らかに差があります。教師は「魔法の杖などない」ということは心に留めておくべきでしょう。いじめ指導はそう簡単ではないという認識のもとで、個人のタフな自己研鑽と、教師集団の「チームとしての成長」が私たち教師に求められています。

私自信、いじめに対処する確固たる正答を持っているわけではありません。いじめは予防・対処ともケースバイケースであり、完全性・網羅性のある記事を書くだけの力はありませんので、断片的にEDUPEDIAの中でアップを試みようと思います。他のいじめに関する記事を提供されている方々のお考えと照らし合わせながら読んでいただけるとありがたいです。この記事では、どちらかと言うと、「初期の措置」側について述べてみたいと思います。

2 対処よりも予防

一旦いじめが起こってしまうと元通りの人間関係を取り戻すことはなかなか難しくなってしまいます。対処にたいへんな時間を取られます。下手をすると輪番制のいじめに発展してしまうケースも少なくありません。悪循環です。

そこで、対処よりも予防をすることに力を注ぐべきです。予防には「直接的な予防」と「間接的な予防」があります。ばっさり2つに分けることができるわけではないですが、直接と間接の2つの極があるというイメージを持ってください。

「間接的な予防」は、当たり前の日々の改善です。教師一人一人が「良い授業とよい学級経営」を行っていくと同時に、学校全体がチームとなっていじめが起こりにくい素地を丹念に作っていくこと(学校経営)です。学習や人間関係における不安(自信のなさ)や嫉妬がいじめを起こす引き金になっていることは多方面から指摘されています。ひとつひとつを丁寧にやっていくことは必須ですが、それについて丁寧に書いていくとたいへんな量になると思いますので、先を急いで割愛します。
「直接的な予防」は、いじめが発生し拡大する芽を早期に摘んでいく方法です。「現実的な予防」「措置的な予防」と呼んでもいいでしょう。

いじめの定義~何がいじめなのかをクラスで共有する

3 早期発見「AさんとB君の机が5センチほど離れている」

いじめの初期段階に見られる代表的な行動は「机を離す」です。
授業中、ふっとそういう事に気がつくことがあります。あなたなら、どうしますか?私は、「そこの2人、机はひっつける約束です。くっつけなさい。何か理由があるなら、あとで先生にいいに来なさい。」と、さらっと注意をします。

その後、しっかりとAさんもしくはB君に対するクラスの子供たちの接し方を観察します。明らかにどちらかが「離されている」という上下関係の中で起こっている場合もあるし、お互いが嫌っている中である種の合意の上で「離し合っている」場合もありません。たいていの場合は、どちらが劣性であるかは少し観察すれば分かると思います。当事者の2人だけではなくクラス全体の様子をよく観察して、いじめがどの程度の状態で広がっているのかを把握しましょう。

もし、どちらかがいじめの対象になっていれば、軽く注意をした場合は、再びこちらの様子を見ながら、必ずどちらかが机を離します。あるいは次の席替え後に、他の相手がAさんもしくはB君に対して机を離します。そこで、しっかり指導します。

※このケースに対する考え方は、前述した内藤氏の「べたべたした人間関係」を作ることの是非も視野に入れて考える必要があります。見方によっては「机をくっつけることを約束にしていることが『机を離す』という行為の原因になっている」と捉える事もできます。現実的な対処として、スペースに余裕があるなら、机はひっつけないという方法もありかもしれません。

4 いじめの初期に見られる行動

予防に必要なのは、いじめの早期発見・早期指導です。初期によく見られるパターンは、

  1. 机が離される(避けられる)
  2. 給食を配る時に、後回しにされる
  3. くつなどの物を隠される
  4. 授業中の発言を笑う
  5. 批判・注意が集中する
  6. 仲良くしているようで外されている、遊びの中でいつも負け役にされる
  7. 手紙や交換日記などで非難される

教師は子ども達から発せられる様々なメッセージをキャッチできるよう、絶えずアンテナを高くしておかなくてはなりません。

5 注意されキャラの固定を避ける

こんなケースはないでしょうか?
弱い立場の子供、弱い立場になりつつある子ども(仮に、C君とします)に対して、周囲が「強く、執拗に」注意をするケースです。C君が何かするたびに周りは強い言葉で注意をします。確かにC君にも落ち度があり、注意をする側からすると「正当と思える理由」があります。

しかし、周囲の注意の中にはC君に対する悪意が含まれており、C君には受け入れがたい場合があります。

注意をされるとC君は向きになったり、イライラしたりで、さらに注意をされるような行動を取ってしまいます。こうなると悪循環にはまり、C君は「注意されキャラ」に固定されてしまいます。正義の注意はエスカレートしていき、遠くからの怒声や罵声が飛び交うようになり、クラスの雰囲気は一気に悪くなります。

こんな場合、周囲が注意をした時に
「その注意が本人のためになっていますか。注意する時には本当にその人のためになることを考えていってあげてください。さっきの注意は、C君の事を思って言っているようには思えなかったよ。あなたのストレス(あるいは意地悪な気持ち)をぶつけているだけになっていないですか?」
と、諭してあげましょう。
そして、大抵の場合は諭すだけでは収まらないので、
「本気で注意するつもりなら、小さい声で短く言ってあげてね。」
「遠くの人は注意をしないでください。クラス全体が嫌なムードになります。両隣の人だけが言ってあげてね。」

「みんなできつく注意しても、すぐにC君のやっていることがなおるとは思えません。長い目で見てあげてください。注意しなければならない時には、先生がしますから、先生に言いにきて下さい」

などと、周囲の過剰な反応をひとまず止める必要があるでしょう。「水に落ちた犬は叩け」とばかりに弱い者を叩こうとする心理をひとまずは食い止めねばなりません。

6 固着した人間関係をゆるめる

クラスの中のグループからはじかれて、一人でポツンといることがいじめの対象になってしま場合があります。新しい関係を作るのが怖くて、いじめられるのを我慢してグループにとどまるというケースも少なくありません。

いじめが起こるのは、固着した人間関係の中であることが多いように思われます。いろいろな人と混ざって遊ぶ機会、あるいは一人遊びが珍しくない状況を教師が意識的に作りだすようにしていきましょう。新しい人間関係が作りやすいように、1~3人で遊べるような小物が教室にあると、はじかれた時の駆け込み寺的な効果になることがあると思います。それが、すんなりと他のグループへ移動をするきっかけになるかもしれません。
例えば教室にたくさんの興味深い本を置くのもいいでしょう。休み時間にそれを読む習慣をつけておけば、もしも遊ぶ相手がいなくて孤立しても、本を読んでいることで気持ちを紛らしたり、孤立していることを目立たなくしたりできます。

7 こじれたら、離す

子どもの関係が悪くなった場合、修復を試みたいのは教師として当然の心情です。しかし、無理に修復をしようとして関係がさらに悪化する場合があります。「ごめんね。」「いいよ。」で、表面的に仲直りをさせてみても、憎悪の念が消えておらず、結局水面下でさらに上下関係が強くなったり、周囲を巻き込んで敵対関係が拡大してしまったりしてしまうケースもあります。お互いが仲が良いふりを演じながら上下関係があり、いたぶり続ける依存関係型のいじめになってしまうと被害が見えにくくなり、見過ごしがちになります。特に女の子の場合は心の奥では感情のリセットが効きにくいのに反して、表面的には仲良くなろうと努力をします。その結果、関係をさらに悪化させるケースがあります。

トラブルがこじれて解消ができていなければ、「ひとまず、離れる」を提案してみるのも方法ではないかと思います。物理的(距離・時間)に間を取ることは、大人の社会でも有効だと思います。
「今はまだ、君たちの間で仲良くなれるだけの気持ちになりきれないみたいだね。お互い、一緒にいるとトラブルになってしまう事が多いみたいだから、しばらくの間、離れておくようにしたらどうだろう?」「時間がたったら気持ちが変わって、また仲良くなれる時が来るかもしれないからね。」
と、促してみます。親にもそのように伝えるのがいいと思います。あくまで、子どもサイドに立ってベターな選択肢を示しましょう。くれぐれも、
「お前ら仲良くできないなら離れておけ!」
的な乱暴な処置をしてはいけません。

こうして「距離をとる」約束を取り付けておけば、再びトラブルが起こった時に、「どうしてトラぶった、どっちが悪い」という事を考えさせる前に、「どうして近づいた?お互いにもうしばらく離れておきなさい?」という観点から指導をすることができます。

8 報復の禁止

いじめの初期段階では、両者が対等である場合も多いです。ところが、同じ子供の間でトラブルが繰り返されると必ず「強対弱」「一対多」へと関係性は変化していきます。危険な関係に発展していきそうな子どもに対しては、「報復の禁止」をしておくとよいと思います。報復をすると、必ず、「どちらが先に手を出した」かで揉めることになります。いじめる側は必ず「相手が先に手を出した」と言います。けがが発生した場合にも、いじめる側の親が「相手が先に手を出した」を主張し、学校が双方の間に挟まってしんどい思いをすることが少なくありません。

子ども間の憎しみの感情が増幅する前に、「報復の禁止」をクラス全体に、特に揉めている両者に宣言しておけば、「言い返したこと」「手を出したこと」そのものを叱ることができます。たいていの場合、「報復の報復の報復の・・・・・報復」となっていることが多いので、「どちらが先に手を出したかは分かりませんが、どちらも、やり返したことは間違いないね。それがだめなのです。絶対に、何かされたら先に先生に言いに来なさい」と、両者を叱ることができます。いじめる側の、「あいつが●●だから、▼▼したんだ」という大義を一切認めません。そして、もう一度、「しばらくの間、離れておきなさい」を指導します。

9 教師がチームで対策することを示す

担任一人でいじめ指導に当たるのは、精神的にしんどいです。教室は密室であり、出口がありません。いじめが深化し始めると、担任一人の力では関係性を変えることができなくなる場合も少なくありません。「担任といじめられている子どもの2人で孤立」してしまうような状況が生まれてしまうケースもあります。

そんな場合は、複数の教師が情報を交換しチームとして加害側に対峙する必要があります。トラブルが起こった場合には、複数の教師で別々の部屋で同時に事情を聞きだした方がよい状況もあると思います。

多くの教師が関わる事によって、いじめている側に、たくさんの目で見られていることを示しましょう。多くの大人が認めない行為であり、たくさんの教師や保護者から信用を失う結果になることを認識させましょう。

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