【記事概要】
本記事は、フューチャースクール指定校である広島市立藤の木小学校が、教師のICT活用能力向上のために取り組まれた、「ICT活用実践事例共有シート」と「研修体制の工夫」を紹介します。記事作成にあたり、広島市立藤の木小学校の堀達司校長先生にお話をうかがいました。
参考URL 総務省HP フューチャースクール推進事業
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/future_school.html
【ICT活用実践事例共有シート】
ICT機器を利用した授業で良かったと思った点を中心に共有します。教師だけではなく、ICT支援員も記録を取ります。シートはファイリングして、職員室に保管します。このシートを活用することで、どの場面でICT機器を利用することが効果的なのかを共有できます。さらに、写真を挿入することで、活用のイメージがわきます。もちろん、情報量としては少ないので、このシートだけでは、授業中の活用方法は十分にわかりません。このシートを見て、面白そうだと思えば、授業をした教師に聞きに行きます。そのための手引書のようなものです。
【ICT活用実践事例共有シートの一例】
【研修体制の工夫】
ICT機器を授業に活用するためには、以下2つの研修が必要不可欠です。
①授業での効果的な活用を目的とした授業研究研修
②ICT機器自体の活用スキル向上を目的とした研修
どちらか片方の能力だけではICTを活用した授業はうまくいきません。必ず両方の研修を行う必要があります。そこで、従来の教員研修のシステムを変更し、いつでもどこでも学べる以下4つの研修体制を整備しました。以下の研修は教師の「同僚性」が前提にあります。教師同士が気軽に学び合える雰囲気になるよう工夫しました。
①模擬授業の活用
どんな場面でICT機器を利用すれば効果的なのかを理解するために、模擬授業を積極的に行います。模擬授業を担当する教師以外は児童役となります。実際に児童がICT機器を利用するのかをイメージできるようにしました。児童側の視点からも、ICT機器を利用することで、より授業が洗練されていきます。
②いつでもどこでも授業参観
効果的なICTの活用を共有できるように、日常的にICT活用が比較的得意な教師の授業を公開します。また、授業でICTを活用する場合は、職員室に「○年○組○時間目 算数」などと活用することを書いて共有しておき、教師の自由な授業参観ができるようにしておきます。あらかじめ指導の略案を配布する教師もいます。
「ちょっと10分間ドリルをやっておきなさい。何かあったら隣の教室にいるから。」などと児童に伝えて、教室を抜け出し、ICT活用における重要なポイントだけを参観します。自分の授業を1時間まるまる自習にする必要がなくなるので、気軽に参観できます。以前は自分の授業を参観されることに抵抗のある教師もいました。しかし、「うちはそういう学校だから。授業を参観させて貰えるのだから、自分の授業も公開しよう。」と意識づけることで、主体的な授業の公開を促しました。いつでもどこでも授業参観を導入したことにより、教師同士の学び合いが非常に活性化しました。
③ICT機器のスキルアップ研修
ICT活用には、機器とアプリケーションを使いこなす両方のスキルが必要です。構内のスキルの高い教師やICT支援員、アプリケーション開発業者などに講師を依頼して研修を行います。ICT活用にあたって、最低限必要なスキルは放課後や長期休業を利用して、確実に習得できるようにしました。場合によっては、長期休業期間中に1〜2時間かけて研修を行うこともありました。
④実践交流
互いの試行錯誤の実践を、放課後15分程度で行う研修です。同僚性を高めるのに最も効果がありました。
藤の木小学校では、職員室に電子黒板を設置し、職員室でいつでも教師同士が学び合える環境を整備しました。「年に一回は講師になろう。失敗も共有しよう。」を合い言葉に講師は教師の自己申告で行います。校長先生や教頭先生、ICT支援員も講師を担当します。コーヒーを飲みながら、電子黒板の前に教師が集まり、効果のあった、失敗した活用事例を教えあいます。ワイワイガヤガヤと井戸端会議のような雰囲気で、研修が楽しいひとときになりました。
【研修における3つのポイント】
①何を身につけるのかをピンポイントにする
参加者の研修に対するモチベーションは様々です。なかにはモチベーションの低い参加者もいます。モチベーションを高めるためには、まとまった時間をとるのではなく、研修内容をピンポイントにする必要があります。「今日の研修はこれができるようになろう。ここを見てください。」と研修で身につける内容をはっきりさせ、参加者が明日からやってみようと思えるような研修でなければなりません。
②形式にこだわらず、主体性を発揮した研修にする
限られた時間の中で、効果的な研修にするためには、受け身なっている研修を主体的にする必要があります。そのためには上記に上げた、研修内容をはっきりさせる、もしくは興味があるものを研修に盛り込みます。
③終わった授業をみんなで検討するのではなく、授業を行う前にみんなでしっかり検討する
従来の研修は誰かが45分の授業を行い、その後にみんなで協議していました。しかし、教育研究ほど学術的に先行研究が生きないものはありません。やった授業を協議しても、次に自分のクラスで授業をするわけではないので、あまり意味がありません。授業をやる前に教師全員で協議しておけば、実際の授業はスムーズに行えるはずです。
【編集後記】
教育の情報化は避けては通れません。学校全体で教師のICT活用能力向上に取り組む必要があります。「ある先生はICTをよく活用するけれども、ある先生はICTをあまり活用しない」といった状況は改善していかなければなりません。先生のICTスキルの差が、児童のICTスキルの差に直結するからです。クラス替えをし、ICTをよく利用した児童とそうでない児童が同じクラスになれば、授業の進行に支障をきたします。保護者からの信頼も得られないかもしれません。このような状況にならないためにも、先生同士でICT活用の事例を共有し、お互いに学び合う必要があります。そのためには同僚性を高める工夫や効果的な研修体制や活用事例の共有体制の確立など、校長先生のトップマネジメントが不可欠です。今回の取材を通して「校長先生のトップマネジメント次第で、学校は変わる」ことを勉強させて頂きました。堀校長先生どうもありがとうございました。
(取材・文責:EDUPEDIA編集部 下村太郎)
【学校紹介】
広島市立藤の木小学校
広島市の西部に位置する豊かな自然に囲まれた藤の木団地に、平成2年に開校した。現在児童数245名、学級数11。晴れた日には4階から世界遺産で有名な宮島を望むことができる。学問の木として有名な「楷の木」が学校のシンボルで、秋には美しく紅葉する。保護者・地域の方々に支えられており、PTA活動や毎日の見守り活動、学習支援ボランティア活動が充実している。
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