スローリーディング・アクションによる言語活動の充実を目指して~「トットちゃん」の読み聞かせから (小西範明先生)

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目次

1 はじめに

この記事は、神奈川県逗子市立沼間小学校の小西範明先生が実践した「スローリーディング・アクション」について記したものです。この記事のもととなったレポートは小学館主催『わたしの教育記録』という実践レポート集において入選しました。
※『わたしの教育記録』URL: http://family.shogakukan.co.jp/teachers/education/info_contest/result/h25/

この実践は、灘中学校の橋本武氏が超スロー・リーディングにより生徒の学力を飛躍的に向上させたという成果を小西先生が知った後、それに加えて、本に登場するエピソードを児童が再現するということも追加・アレンジしたものです。

国語に苦手意識をもつ児童をどうにかしたいと思っている先生方にとって、参考となるものであると思います。これから、そのレポートに書かれたものをもとに記していきます。

2 クラスの国語力

「スローリーディング・アクション」を行うきっかけともなったできごとは、ゴールデンウィーク前に、『先生のオススメ本TO YOU』ということで、児童一人一人の特性を考え、本をそれぞれの児童に渡し、感想文を書くように課題提示をしたものの、半数以上が「書かなかった」あるいは「読めなくて書けなかった」ことです。

そこで、言語活動の充実の一歩を「全員を読書好きにすること」から目指しました。

この「スローリーディング・アクション」の実践を行う前にはクラス内で発言・発表をよくする児童は3分の1程度で、それ以外の児童は、反応が弱く、特に、一部の女の子は恥ずかしがり、全く発表しないという課題を抱えていました。

3 トットちゃんの読み聞かせを始めて

トットちゃんは1話5分以内なので、時間を見つけて読んでいけます。児童はトットちゃんを夢中になって聴いていました。騒がしい時・集中が難しいと時に『トットちゃん』を読むと「静かに」と言わなくとも静かになる、という効果が最初から見られました。物語が進むにつれて引きこまれていったのでしょう。

(1)海のものと山のもの

トットちゃんのこの章で、校長先生が提案した「お弁当のおかず」を子どもたちが考え、先生が「海のものと山のものを持たせてください」と語るシーンがあります。

「海」は魚や佃煮、「山」は牛や豚などで、栄養のバランスによい食事をという方針で冒頭の呼びかけがあります。

そこで私も、社会見学でお弁当持参の時、同様に「海のものと山のものを持たせてください」と呼びかけ、当日は「海!」「山!」と言い、子どもたちに「なにが山で、なにが海か?」を考えさせることができました。

そして、本の中に「よ~く噛めよ」と校長先生が歌うシーンが出てきますが、現場でも実際に何度も歌うことで、笑いも起きて雰囲気が良くなりました。なにより、よく噛んで食べてほしいという意図を伝えることもできます。

(2)散歩

お弁当の後、トットちゃんたちは「午後は何をしたい。」と聞かれ、口々に「散歩!」と答えて飛び出した。そして、散歩の最中、友達と話しながら黄色い菜の花を見て先生からおしべやめしべの説明を受けている。鳥のさえずりも近くに聞こえるようだ。

こんな素敵な散歩の話を読み聞かせたあと、「みんなも散歩に行かない?」と聞くと、「行きたい!」という答えが返ってきました。

そこで、この読み聞かせを理科の「生き物の観察」の導入として行うことで、より意欲的に自然を観察し体感しようとする態度を育むことができました。もちろん、トットちゃんの場面と同様に花の解説をするなどして、自然に興味関心を持たせ、学びを進めることができました。このように、本の読み聞かせと実際の授業を組み合わせることで、児童もますます意欲的になっていきます。

(3)それからさあ!

トモエのお弁当の時間に最近になって、面白いことがまた増えた。今度からこの「いただきまーす」の後に誰かさんの、「おはなし」というのが入ることになったのだ。

これはトットちゃんの校長先生が「もっと話上手になったほうがいい」という願いで、一人がみんなの輪に入って、話をすることを指示したのだ。話はなんでもよい。「話はなんにもない!」と言い張る子には、「じゃあ創ろうじゃないか」と一緒に話を考えることもあった。

この章を読み聞かせた時、冒頭であった当時のクラス児童の国語力に関する課題克服を考え、「やってみたい」と思ったので、その旨を児童たちに伝えました。すると、「やりたい」という声が口々に聞かれたため、その日から始めることにしました。

「おはなし」のルール

ルールはトットちゃんの学校と同じです。

給食最後の「★トークタイム★」

  • 出席番号1番から毎日話す。
  • 話している間は、静かに聞く。
  • 話がなかったら、「考えつかなかった」「話がないけど何か聞いてください」と言って質問に答える。

※ただし、トットちゃんの学校と違うのは実施するのが給食最後の「5分」ということです。また、児童だけではなく、教員自身が話してもいいかもしれません。

伝えることを吟味する

トークタイムをやり始めた当初は時間制限もなく、その日あったことや、最近はまっていることを自由に話していいということにしていたので、思い思いに話をしていましたが、「伝え手」として内容の吟味もしてほしいと考えたので、次のようなやり取りによって内容の吟味に挑戦させました。

教員「先生のことについて知りたいことある?」
児童「家族」「趣味」「なんでこの学校に来たのか?」「彼女」
教員「そうだよね!だから、みんなが知りたいことを先生が話すと面白いと思わない?」「みんなも話すときには友達はどんなことを知りたいだろう。と想像して内容を考えて話すとお互いに楽しくなるよ。」
 
 このように一度、児童に聞く側の立場になって考えさせることで、伝える内容を意識させることに成功しました。

リーディングにより得られたもの

 この実践をはじめて主に3つの効果が見られました。

  • 給食最後の5分は無言で集中して話を聞くので、食事が遅い子にはしっかり食べる時間となった。
  • 普段話をしない友達の様子を聞き、質問を通して交流ができる。
  • 相手に関心を持ち、自然に聴く姿勢ができる。

ここで行われたトークの様子を実際に懇談会で動画を見せて保護者にも伝えるなどして、保護者に子どもの普段の様子や話をしている様子を見せることができました。
※どうしても話が苦手な児童の中には家庭でメモをつくって話す準備をして臨ませることもできます。

(4)戦争について

トットちゃんを読み進めていくと物語の背景に第二次世界大戦時の暮らしが色濃く出てきます。トットちゃんの学校が東京大空襲により焼けてしまうなど、それまでの楽しい話の中にも戦争と言う不条理な時代の恐ろしさを感じられます。

トットちゃんを読み終えた後、それまでの国語力の集大成として以下の活動を実施しました。

戦争を背景とした本を読んで、読書紹介発表会をしよう。

【読書発表会までの流れ】
1.図書室で戦争に関する本を借りる。
2.読み終える。
3.ポスターに書く。
4.紹介の型を覚えて練習する。

【読書紹介発表会の流れ】
1.ペアで紹介し合う。聞き手は感想メモをとる。
2.ペアをかえる。
3.感想メモをグループで共有し、まとめる。

この活動の芯

この活動の芯となる部分は、心に残っている場面を音読するところです。たとえば、ある児童は「原爆の火」という本を選び、以下の部分を音読しました。「山火事が心配なので、火は消してください。」また別の児童は「犬の戦争」という本を選び、以下の部分を音読しました。「それにしても3つも4つも落ちなければ、人間たちは戦争をやめないのだろうか。」

児童には、鬼気迫る様子が詳しく伝わるように指導しました。

この課題は全員が行い、公開授業として他の教員にも見てもらいました。

その結果、3年生担当の教員からは国語の学習が読書と関連づけられている、感想を書く時間に多くの児童が一生懸命メモをとる姿が見られた、などの感想をいただきました。

(5)手紙を書くことについて

「窓ぎわのトットちゃん」を読み終えた後、「トットちゃんに手紙を書こう」をテーマに手紙を書かせました。その内容は多岐に渡っていて、たとえば戦争のことについて質問している児童や、楽しかったことや学んだことについて質問している児童もいました。

この手紙は、A4に1枚、文と絵で丁寧に仕上げ、保護者と校長先生に許可を得て、黒柳徹子氏に郵送しました。本当に送ることを事前に伝えることで、大好きなトットちゃんに向けて一生懸命、時間をかけて書くことにつながりました。

また、この時にトットちゃん=黒柳徹子氏であると伝えると、テレビで見かけるとあの本の内容を思い出したりするようでした。

4 まとめ

この読み聞かせは、大体半年にわたって進んでいきましたが、進む過程で登場したエピソードを児童が自主的・意欲的に再現することができました。その結果、言語活動が生まれ伸びました。これは、教員が指示するよりも、大好きなトットちゃんの話にのめりこんでいたからこそ進められた実践です。

特に、メインとなる給食最後の「トークタイム」は全員がプレッシャーなく、楽しく話すという機会が均等にめぐってきて、そこに友達の話を興味深く「聴く」トレーニングにもなっています。

また、読み聞かせをすることによって児童との距離が縮まりました。さらに後半では、読みたいという児童に読ませていたので、児童同士の距離も縮まったように見受けられました。

5 引用文献

窓ぎわのトットちゃん 黒柳徹子著 講談社 1984年発行

6 編集後記

本の物語と授業を組み合わせ、リンクさせるという実践は本当に画期的で面白いと思いました。自分が子どもだったころを思い出すと、本の中のストーリーはいつも楽しく感じられ、ワクワクしたものです。本を読み終えた後、実際に先生が本の内容を実践することは、子どもだった僕がまさにしてほしかったことだろうなとしみじみ思います。

以前、小西先生と直接お話しする機会がありましたが、最近は合唱に力を入れていらっしゃるらしく、僕は、「きっと常に児童が楽しいこと。一つになれることを目指して物事を考えているんだろうな。」と、先生が楽しそうに話す姿を見て感じました。
(文責・編集:EDUPEDIA編集部 岸剛志)

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