超スモールステップ~指なぞりで音読を得意に~(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「≪まぐまぐ!≫~<579号~582号>」から引用・加筆させていただいたものです。
指なぞりで音読ができるようになる指導内容を実際の指導例から紹介しています。

岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

きっかけ

子どもが本を読んでいるときに、指で文字をなぞっている場面を見ることがあります。以前は、「そんなことをしなくても読めるようにならないと時間がかかってしかたない」と思っていました。それが、「この子は、まだ目の動きにゆとりがないから、その分指が必要なんだ」と考えるようになりました。
さらに最近では、「読んでいるところを指でなぞることはできる子だ」とも浮かぶようになりました。

音読がとても苦手な子

そう思うようになったきっかけは、やはり音読がとても苦手な子を指導したときのことです。1年生の女の子でした。その子に暴言暴力はないものの、やはり授業についていけないと周りにも影響を及ぼします。その子に付き添って音読の練習をさせていました。前述のように、私は読むところを指でなぞるという行為に、あまりよい印象はありませんでした。しかし、そうはいっていられない状況だったので、「指でなぞっていいから読んでごらん」といってみました。
ところが、仕方なくやらせた指でなぞるという行為がその子はできなかったのです。まず、読んでいるところがすぐに見つかりません。これくらいの子がいることは、「言葉探し」をしていたくらいですから分かっていました。それでも、読んでいる場所を教えて、そこに指を置かせても、すぐにまた分からなくなってしまうのです。読むことに集中して指が止まったり、指だけどんどん進めてしまったりしてしまいます。指でなぞることも練習が必要だと悟りました。

一文字を意識させる

指なぞりもまずは題名からです。これが出来ない子は、細かい指の動きを苦手としているので、「題名を押さえなさい」ではなく、「題名の一文字目を押さえなさい」と指示します。そういったにもかかわらず、題名の下の方を押さえたていたり、真ん中あたりの字の上から押さえていたりします。そのような時は「1文字目は何ですか?『く』ですね」と確認します。
「では、先生が読みますよ。読んだところに合わせて指を動かします」と、この時点でもう動いています。じっとすることも苦手なわけです。ということは、しばらくの間はかなりゆっくり正確に指をなぞらせることをする必要があります。
というより、そういう子のためにこの作業を取り入れているわけです。「今、『く』ですね。いくよ。『じ』『ら』」とゆっくり1文字ずつ読んでいきます。あれほど確認したのに、もう題名の「くじらぐも」の最後まで指が動いています。さらに、勝手に次の行にいってどんどん進んでいる場合もあります。これでは、読んでいるところが分からなくなるはずです。
これを何とかしないと音読もできるようになりません。「今、『ら』を押さえている人!」と手を挙げさせます。周りの子が手を挙げているのを見てはっと我に返って、慌てて「ら」を探しているはずです。みんなと同じようにやりたい、という気持ちも持っているということです。できるだけ毎日、指なぞりの機会を作ります。これは言葉探しと違って、それほど特別な時間をとるわけではありません。範読のときに「今、どこを押さえてるかな?」とコメントを入れたり、他の子の音読のときに、「指なぞり、してるかな?」と声をかけたりすればよいくらいです。それでも、指なぞりが必要のない子もいます。

必要のない子にはどうするか

指なぞりをしてみて感じたことは、この練習がけっこう有効な子が他にもいたということです。一番苦手な子が特に目立っていたわけです。その子ほどではないけれど、指なぞりを練習した方が結局音読も早く上手になる、という子もいました。
これは、指なぞりだけに限らず、様々なことに当てはまります。
算数であっても、体育であっても、一番苦手な目につく子のために手立てを考えたとします。しかし、その手立ては多くの場合、対象とした子だけでなく、その周辺の子にも実は有効だったということがよくあります。1人のためにすることは、決して一人のためだけではないのです。
とはいうものの、やはり指なぞりの練習が必要のない子もいることは間違いありません。「やってもやらなくてもいい」というと、得てして必要な子がやらなくなるものです。指なぞりが必要な子は、指なぞりが課題になっている子です。つまり、めんどうなことをさせられています。「どちらでもいいなら、やらない」となっては意味がありません。 出来れば全員そろってというのが、やりやすい体制です。本当に苦手なことができるようになるまでは、半年かかると考えた方がよいでしょう。指なぞりも半年かける覚悟で指導するわけです。
では、指なぞりが必要でない子に飽きさせないためには、どうしたらいいか。変化をつけるということが大切になってきます。

スピードを意識させる

指なぞりに変化をつけるには、わざと途中で止めるという方法があります。「4時間目のことです。」という文の「4時間」で止めるのです。 最初は、ほとんどの子が先へ指を動かしています。自分の指が先に行っていることに気付かない子も少なくありません。「今、指はどこにありますか?」と尋ねられて、はっとするのです。それをくり返すと、何となく指を動かすのではだめだということが分かってきます。読んでいる言葉に注意しながら指も動かすということが実感できるようになります。
あくまで主なターゲットは、指なぞりがスムーズにできない子です。はじめは、ゆっくり確実にすすめていきます。どの子もある程度集中して、正しくできるようになったら、スピードの変化もつけます。「1ねん2くみの」までは、普通の速さで読みます。「子どもたちが」から少しずつ速く読んでいって「たいそうをしていると、空に、大きなくじらがあらわれました」と、どんどんスピードを上げていきます。子ども達の中には、「えっ、えっ?」と戸惑う子もいれば、笑顔になってますます集中していく子もいます。ゲーム感覚で楽しんでいます。これも、苦手な子にとっては、貴重なトレーニングの場になっています。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記

児童・生徒指導というものは、小さなことの積み重ねです。ささやかな指導がちりも積もれば山となって、子どもたちを変えていくことができます。さらに、一人の子への指導のつもりが、いつのまにか周りに波及していき、学級全体への指導になっていることもあります。教師のきめ細やかな指導が教育現場ではいつも必要とされているのです。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 笠井真由)

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