1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
シリウスのホームページはこちら→ 静岡教育サークル/シリウス
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一つの花 ① 国語4年 ~父母の想い(シリウス) | EDUPEDIA
2 実践内容
一つの花を読んで問題づくりをしましょう
一つの花の意味調べ、一次感想を終えたところで、問題づくりをしました。子どもたちはこうした問題づくりが大好きで、教科書を見ながらあれやこれやと楽しそうに問題を作っています。
問題づくりといっても、読めばすぐ分かるようなクイズ的なものや読んでも全く答えが思いつかないもの(ゆみ子はどこに住んでいるのでしょうなど)、今はよくわからないけれど、みんなでよく読めばわかりそうなものなどざまざまなものがあります。子どもたちが作った問題を精選し、より学ぶ価値の高いものを探すことにしました。
【課題】班の人同士で問題を出し合いましょう。すぐに答えのわかるものには○、絶対わからないものには×、今は答えがはっきりわからないけれどみんなで勉強してみたいものには?の記号をつけましょう
それぞれの班から一つずつ、みんなで勉強してみたい問題を出し合いました。
- なぜゆみ子は防空頭巾をかぶっているのに、お母さんたちはかぶっていないのか。(0人)
- どうしてゆみ子は「一つだけ」と言っているのに、何個もほしがるのか。(0人)
- 深いため息をついているお父さんの気持ちは、どんな気持ちか。(2人)
- 小さいときにお父さんからもらったコスモスが、10年後にとんとんぶきの家の周りに生えているのはなぜか。(6人)
- どうしてお父さんは決まってゆみ子めちゃめちゃに高い高いしたのだろう。(3人)
- お母さんは、なぜ戦争に行く父さんにゆみ子の泣き顔を見せたくなかったのだろう。(7人)
- ゆみ子にコスモスの花をあげた時のお父さんの気持ちは、どんな気持ちだろう。(23人)
それぞれの班の問題を聞いた後、自分が一番学んでみたい問題を挙手をして選ばせました。その結果、次の3つの決まりました。
- 深いため息をついているお父さんの気持ちは、どんな気持ちか。
- どうしてお父さんは決まってゆみ子めちゃめちゃに高い高いしたのだろう。
- お母さんは、なぜ戦争に行く父さんにゆみ子の泣き顔を見せたくなかったのだろう。
私が学んでほしいと願っていたものとほぼ同じ問題となりました。こうして子どもの思いを生かしながら、教師の学ばせたい学習問題を導くことができたのです。
出征の写真を見て気がつくこと
静岡鉄道日吉町駅近くの静岡平和資料センターから戦争当時のものをいろいろと借りて、子どもたちに提示しました。いろいろなもの借りたので、授業の場面に合わせて、そのつど紹介をしています。赤紙(召集令状)・千人針、奉公袋(兵士が戦地へ持って行くもの)を見せました。
千人針がどんなものか知っている子もいて説明をしてくれました。千人針には「虎は千里の道を一夜で駆ける」という云われに従って、虎を類つけるのだそうです。本物が自分の手元に回ってくると食い入るように見つめていました。
静岡平和資料センターhttp://homepage2.nifty.com/shizuoka-heiwa/
さてそんな中で一枚の写真を見せました。一つの花の世界を全て物語るような写真。もちろん静岡市(丸山町)の写真です。(写真に興味がある方はご連絡ください)
丸山町の写真を見て思ったこと・気がついたことについて話し合いました。非常にたくさんのことを訴えてくるこの写真を見て子どもたちが感じたことは
- テーブルに酒や食べ物があるのに、大人は喜んでいない人がいる。
- 悲しそうに下を向いている人や、嬉しそうに旗を振っている人がいる。
- 女の人で、悲しんでいる人がいる。
- 嬉しい人もいたけれど、悲しい人もいた。
- 戦争に行く人は喜んでいない、見送りの人は喜んでいる人もいる。
- 笑っていない人がいる。なんで旗を持っているのか。
- 嬉しがっている人と嬉しがっていない人がいる。そういう嬉しがっていない人は、自分の子どもたちが兵隊に行っている。
- 悲しくて祝わない人がいるのかなと思った。祝って元気をつけようとしているのかな。
- 家族と離れたくないから下を向いている。
- いかない人はみんな嬉しそう。
- お母さんは悲しそうな顔。大きな人ほど悲しそうな顔をしている。
- 戦争に行く人は悲しそうな顔をしている。
- 行かない人は、日の丸の旗を持って喜んでいる。
というものでした。子どもたちが対照的な表情を読み取って、不思議に思うのは自然なことです。そこで、
みんなは喜んでいるのに、戦争に行く人とお母さんが悲しい顔をしているのはなぜだろう。と尋ねました。自分の考えをもとに書いた後は、班ごとに話し合い、班としての考えをまとめました。
- 子どもが死んでしまうと、もう会えなくなってしまうから。
- 子どもが死ぬかもしれないし、生きて帰ってきてほしい。
- 最後のお別れだから。大切なものを失いたくないから。
- もし死んでしまったら悲しいし、本当は生きたくないけれど、行かなかったら殺されてしまうから悲しい顔。
- お母さんがうまれて育ててきてあげた子が戦争で死んじゃうという不安で悲しい顔をしている。
めちゃくちゃに高い高いをするお父さん
子どもたちが問題を作った中で、すぐには解けなかった問題の一つについて考えます。お父さんは、めちゃくちゃにゆみ子高い高いするところに、子どもたちはひっかかりを持ちました。そこで、
お父さんの「めちゃくちゃに高い高い」は、どんな高い高いかやってみてください。という課題を出しました。
「高い高い」と「めちゃくちゃに高い高い」を比べて、動作で表しました。「高い高い」は、自分の目の高さくらいまでなのであるが、「めちゃくちゃに高い高い」は、もう大変。自分の頭のかなり上まで手を上げていました。顔の表情も「高い高い」とは全く違う。こうして動作化してみると、子どもたちが疑問を持つことがよくわかります。
次に、どうしてお父さんは普通と違って、めちゃくちゃに高い高いをするのだろうか。という質問をしました。
まずは、自分一人で理由を考えてみました。子どもたちのノートを見ると、
〈ゆみ子を喜ばせるたいから〉〈ゆみ子がかわいそうだから〉〈大きくなって元気を出してほしいから〉〈ゆみ子や自分が心配・不安だから〉のように、大きく4つに考えが分かれていました。
〈ゆみ子を喜ばせるたいから〉
- いつも敵の飛行機が爆弾を落として、ゆみ子は恐いと思ったから、めちゃくちゃに高い高いをして、笑わせたかったと思う。
- 普通の高い高いじゃつまんないから、めちゃくちゃに高い高いをしたんだと思う。
〈ゆみ子がかわいそうだから〉
- いつもゆみ子は「一つだけちょうだい」と言っているから。
- 前のところで「喜びなんてないかもしれない」と言っていて、それでかわいそうだと思ったから。
〈大きくなって元気を出してほしいから〉
- もう少しゆみ子が大きくなると、重くてできなかったり、もし戦争に行かなくてはならない時が来るかもしれない。そうすると、もうゆみ子に高い高いすることができなくなるから。
- どんな子に育つか眺めているから。かわいく、どんな子に育つのか高いところで眺めていると思います。それで想像とかで考えていると思います。
〈ゆみ子や自分が心配・不安だから〉
- もしかしたら戦争に行って、もうゆみ子に会えなくなるかもしれないから。
- 不安だから、戦争にくかわからなくて、会えなくなるかもしれないから。
このように、まずは直感でひらめいたことを班ごとに話し合いました。考えがある程度まとまりましたが、これでは十分に深まっているとはいえまえん。やはり文章にその証拠を求めたいところなので、
お父さんがめちゃくちゃに高い高いをするのか、証拠の言葉をつけよう。と課題を出しました。
グループで話し合ったあと、個人個人でバラバラになって情報交換をしました。
〈ゆみ子を喜ばせるたいから〉
@<color>{#ff2800,“喜びなんて一つだってもらえないかもしれないね”
“一つだけの喜びさ”}
* ゆみ子には喜びが一つもないから、ゆみ子を喜ばせてあげたいと思った。
* ゆみ子は一つだけの喜びなんてもらえないから、めちゃくちゃに高い高いをした。
〈ゆみ子がかわいそうだから〉
@<color>{#ff2800,“なんてかわいそうな子なのでしょうね”
“一つだけの喜びさ。いや喜びなんて一つだってもらえないかもしれない”}
* ゆみ子には、喜びがないかもしれないということだから、かわいそうだと思っている。
* お母さんが「なんてかわいそうな子なのでしょうね」と、かわいそうに思っているから、お父さんがめちゃくちゃに高い高いをするのだと思う。
〈大きくなんて元気を出してほしいから〉
“いったい大きくなってどんな子に育つのだろう”
- ゆみ子は大きくなって、どういう子に育つかわからないから、お父さんは心配している。
- この言葉を心配そうに言っていて、お父さんはゆみ子を心配させたくないから。めちゃくちゃに高い高いをしたと思う。
〈ゆみ子や自分が心配・不安だから〉
“深いため息をついて言いました。いったいどんな子に育つのだろう”
* “だろう”だから、お父さんはもう会えなくなるかもしれないと思っている。
* お父さんお母さんは、ゆみ子が大きくなんてどんな子に育つか心配しているから。
子どもたちは、自分の意見以外にも「よくわかる」「いいな」と思える考えがあることがわかったようでした。
お父さんが深いため息をついたわけ
ゆみ子をめちゃくちゃに高い高いをするときに、こんな記述があります。
「なんてかわいそうな子でしょうね。一つだけちょうだいといえば、何でももらえると思っているのね。」あるとき、お母さんが言いました。│すると、お父さんが、深いため息をついて言いました。「この子は、一生、みんなちょうだい、山ほどちょうだいと言って、両手を出すことを知らずにすごすかもしれないね。一つだけのいも。一つだけのにぎり飯。」
子どもたちが疑問に思ったのは、どうしてお父さんは深いため息をついたのだろう? ということでした。お父さんのため息に続く気持ちについて考えてみました。
【発問1】深いため息をついたとき、お父さんはどんなことを心の中で思っていたのだろう。
子どもたちの考えが大きく分けて〈ゆみ子のこと〉〈家族のこと〉〈戦争のこと〉の3つに分かれました。
〈ゆみ子のこと〉26人
- はぁーっ。なんてかわいそうな子だ。ちょうだいだなんて、もらえないことだってあるのに。この口癖をどうしたら直せるのだろう。この子をがっかりさせたくないし、あげ続けるしかないのだろうか。直らないかなぁ。
- はぁーっ。この子はなんで「一つだけ」を覚えてしまったのだろう。この子は両手を出すことを知らずに過ごしだろう。大きくなったらどんな子に育つのだろう。
〈家族のこと〉2人
- はぁーっ。この子が大きくなんても、一つだけちょうだいがあるのかな。もしこのまま戦争に行くことになったら、お母さんが大変だろうな。
- はぁーっ。今度は自分が戦争に行かなければならない。こうやって家族といられる時間を大切にしよう。
〈戦争のこと〉8人
- はぁーっ。もしかしたら自分が戦争に行ってしまうかもしれない。自分が戦争に行ったらもゆみ子と会えないかもしれない。
- はぁーっ。ゆみ子とは、あと何日くらい過ごせるかなぁ。赤紙が来たら、戦争に行かなくてはいけないし、爆弾が当たったら死んでしまう。ゆみ子が喋ればどんな言葉でも喜びさ。「一つだけちょうだい」でも一つの喜びさ。
- はぁーっ。なんで戦争に行かないといけないのだろう。オレはゆみ子とお母さんといたいのに、どうして? 戦争に行ったら、ゆみ子とお母さんは悲しむだろう。
こうしてそれぞれの考えから意見を聞きました。ここで少し深く、お父さんのため息ついて考えてみたかったので子どもたちに質問をしました。
【発問2】深いため息をついたとき、お父さんはゆみ子のことを心の中で思っていると考えて人がほとんどですが、お父さんはゆみ子のことだけを思っていたのでしょうか?
親が子どもを思う気持ちは今も昔も変わりません。今の時代も親は子どもが健やかに育つことを願っています。しかし、ゆみ子のお父さんのように、これほど深いため息をついているでしょうか。お父さんに深いため息をつかせているその先にあるものに注目させたいと考えました。
【発問3】もう一度文章を読み直して、お父さんの深いため息は、ゆみ子のことだけか考えてみましょう。
このように問うことで、ゆみ子だけのことではなく、お母さんのことを含めた家族のことを思ってのため息であることが分かりました。
- もう戦争の赤紙が来たら、家族のみんなに会えない。その時が最後になるから、めちゃくちゃ高い高いをしたと思う。
- 戦争に行くと、お母さんが一人だし、ゆみ子の大きくなった姿が見られないから。
- 自分が戦争に行っている間、ゆみ子やお母さんは食べる物がなくなったり外で寝ることになるかもしれない、それで死んじゃうかもしれないことを心配している。
- 戦争に行ったら、ゆみ子だけでなく、お母さんとも2度と会えないかもしれないし。お母さんが一人でゆみ子を育てなくてはいけないから。
- 家族のことで、お母さんが大変になることもため息の理由にあると思った。
- ゆみ子は爆弾で死なないかな。死んだら嫌だな、ゆみ子は生きてほしいよ。
お父さんは花にどんな思いを込めたのでしょう
子どもたちの考えたもの中に「どうしてお父さんはコスモスの花をゆみ子にあげたのだろう」というものがありました。
お父さんは、プラットホームのはしっぽのごみ捨て場のような所、わすれられたようにさいているコスモスの花を見つけたのです。あわてて帰ってきたお父さんの手には一輪のコスモスの花がありました。「ゆみ。さあ、一つだけあげよう。一つだけのお花、大事にするんだようー。」
一つの花におけるクライマックスの場面です。このときお父さんは、どんな気持ちでコスモスを渡したのか。お父さんの気持ちについて考えてみました。
【発問1】ひとことで言うと、お父さんは一つの花にどんな気持ちを込めたのだろう。
子どもたちから出された考えは、〈強く生きてほしい〉〈きれいになってほしい〉〈また会えるように〉〈お父さんの代わりとして〉〈悲しい気持ち〉〈喜んでほしい〉の6つに分かれました。
〈強く生きてほしい〉14人
- お父さんが死んでしまったら、ゆみ子、お母さんを守ってね。
- 戦争に耐えて大きく花のように育ってほしい。
〈きれいになってほしい〉1人
- ゆみ子が大きくなって、このコスモスの花のようにきれいになってほしい。
〈また会えるように〉3人
- 死なないで。また会えますようにと願った。
〈お父さんの代わりとして〉9人
- 自分が戦争に行っても、この花をお父さんだと思って枯らさないようにしてほしい。
- お父さんがいないから、コスモスがお父さんの代わりだよ。
〈悲しい気持ち〉2人
- とうとう戦争に行くことになってしまったと悲しくて「もう、ゆみ子に会えないんだ」という思い出を悲しみに込めた。
〈喜んでほしい〉3人
- ゆみ子が泣くのを見たら悲しい気持ちになるから。コスモスをあげたら、泣くのをやめてうれしかったから。
- もうゆみ子と会えるのが最後になるかもしれないから。一つの花をあげて喜んでいるところを見たかった。
【発問4】どうしてそう思ったのか証拠になる文章をさがしましょう。
子どもたちはどんな言葉からこのようなお父さんの気持ちを感じたのか、根拠となる文章を探しました。
- ゆみ。さあ一つだけあげよう。一つだけのお花、大事にするんだよ〈また会えるように〉
- みんなおやりよ、母さん。おにぎりを〈悲しい気持ち〉
- いったい大きくなってどんな子に育つのだろう〈強く生きてほしい〉
- わすれさられたようにさいていたコスモスの花〈お父さんの代わりに〉
このように根拠となる文を見つけた後、同じ考えの者同士が集まって意見交換をし、さらに考えを深め合いました。こうしてグループごと考えを深め合ったところで、
【課題1】違うグループの人とも、情報交換をして「なるほどな」「わかるな」というところを見つけよう。
お父さんがコスモスの花に込めた気持ちは、いろいろな思いが混じり合っていて決して一つではないはずです。そんなお父さんの気持ちに迫るために、違うグループの友だちとも情報交換をしました。図のように、気持ちの重なる共感できる部分を話し合うことで見つけていきました。
最後に、<友だちの「なるほど」を取り入れて、お父さんが伝えたかったことをまとめましょう。>として締めくくりました。
- ゆみ子の握っている“一つの花を見つめながら”は、一つの花を持って、この花のように生きてほしいと思ったのと、「一つだけの花大事にするんだよ」は、大事にして、命も大切にして生きてほしいのだと思いました。
- お父さんの伝えたかったことは、強く生きてほしいことと、ゆみ子にもっともっと喜んで笑ってほしいことだと思う。コスモスの花で、ゆみ子にお父さんの気持ちが伝わってゆみ子が喜んだと思う。
- 「ゆみ、さああげよう。一つだけのお花、大事にするんだようー。」という文は、お父さんはこの花の中にずっといるから、この花も大事にしてお母さんも大事にしてほしい、という気持ちだと思いました。“
- プラットホームのはしの方で、わすれられたようにさいていたコスモスの花”という文では、ゆみ子が忘れられても、この花のように強く生きてほしいと思ったと思う。
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。

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