1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
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出征するお父さん 国語4年 ~一つの花 ②(シリウス) | EDUPEDIA
2 実践内容
なぜお母さんはばんざいをしたのでしょう。
お父さんが戦争に出かけるとき、お母さんは「ばんざい」をしたり、ゆみ子に「いいわねぇ、お父ちゃん兵隊ちゃんになるんだって」と言っています。子どもたちはこの部分疑問を持ちました。
そこで、お母さんはお父さんが戦争に行くことを本当に嬉しいと思ったか。と質問しました。この問いには全員が〈嬉しくない〉と答えました。
家族が戦争に行って、死ぬかもしれないのに喜ぶ人などいなません。ここでは静岡の丸山町での出征の様子を映した写真を見せました。万歳をして笑顔の人々、うつむく家族。「一つの花」の世界がそのまま表現されています。本文にあるように、お母さんは「ばんざい」したり「いいわねえ」と言っており、子どもたちがひっかかったのもこの部分でした。
お母さんは戦争に行くのになぜ「ばんざい」と言うのだろう。と質問しました。子供たちからは
- ばんざいといってあげて元気を取り戻して欲しい。
- なるべくたくさんの人が戦争に行って、日本が勝つように。
- 前の時、お父さんは体が丈夫ではなくて、兵隊にはなれなかったけれど、兵隊になったから祝っている。
- しょんぼりして戦争に行く人を慰めている。
- 「日本のためにがんばって」という意味で言っていると思う。
という意見が出ました。
そこでお母さんの「ばんざい」は、お父さんに言っているのだろうか。それともゆみ子に言っているのだろうか。と子供たちに聞いてみると、最初は〈お父さん〉23人〈ゆみ子〉4人〈はっきりしない〉6人でした。
友だち同士で考えを深めてから話し合いをしてみると、
「お父さん」と答えた人の理由としては
* 相手の人と戦って勝ってくれればいいからばんざいをすると思う。
* 戦争に行くから「がんばって」と言いたい気持ちを軍歌や万歳をして表していると思う。
* 頑張ってきて!という意味で万歳をしている。
* ばんざいは、戦争に行く人を喜ばせてあげようと思ってやったと思う。
「ゆみこ」と答えた人の理由としては
* もう家族と会えないから万歳をしたと思う。
* ゆみ子に言っていると思う。お父さんにやってもらいたい。
* 最後に笑顔で見送ってあげたいから。
という意見が出ました。
ここで、26文と31文にお母さんのばんざいが2回あることを挙げ、お母さんは本当に嬉しくて「ばんざあい」と言ってるのでしょうか。お母さんはどうしてほしいから「ばんざあい」と言っているのでしょう?と尋ねると、
- お父さんを笑顔で見送ったあげたいから。
- 泣き顔をお父さんに見せたくないから。
- 17文「一つだけだよろこび」というのは、ばんざいのことだと思う。
- 「ゆみちゃんいいわねぇ」と言って、ゆみ子笑わせて元気にさせたい。
- 「一つだけ」と言ってゆみ子に泣かれたくなかったからあやした。
とゆみ子をあやしているお母さんの気持ちに気づき始めました。2回目の「ばんざい」から、ゆみ子のために言っていることに気づくことができたのです。
いつも決まってめちゃくちゃに高い高いするわけ
子どもたちはなぜお父さんは“そんなとき、お父さんは決まってゆみ子をめちゃくちゃに高い高いする”のだろう?というところに疑問を持ちました。子どもたちの予想は
- 高い高いをするのは、ゆみ子に忘れるさせるため。
- きっと自分が死ぬとわかっていたから
- ゆみ子のことが心配だったから「きまって」もつけたと思う。
- お父さんはゆみ子に幸せでいい子に育ってほしいから。
というような意見でした。この意見を見ていると、3つの考えに分かれていることに気づきます。
<忘れたい>
- ゆみ子にもう「一つだけちょうだい」と言ってもらいたくないから。
- 「一つだけちょうだい」を忘れさせるために。
- いやな話になったから、めちゃくちゃに高い高いをしたと思う。
<喜ばせたい>
- ゆみ子が、父母の話を聞いて変な顔をしていたからしたんじゃないか。
- 泣き顔を見たくないから。それよりも喜ぶ顔を見たいから。
- ゆみ子が大人になったとき、よろこびを与えてもらえなかったから嫌だから、今は喜びは消える
<不安な気持ちだから>
- お父さんはゆみ子に会えないと思ったから。
- 自分ももうじき戦争に行かなくてはならなくて、ゆみ子はどんな気持になるだろうと思った。
- もし戦争に行かなければならなくて、最後に高い高いをしておこうと思ったから。
ここで友だちタイムを行いました。いろいろな考えを聞いて自分とは違った見方を学びます。子どもたちが注目したのは「そんなとき」とはどんなときなのか?という点でした。
すると、お父さんがめちゃくちゃに高い高いをするのは、お父さんとお母さんが
「この子は、一生、みんなちょうだい、山ほどちょうだいと言って、~いったい、大きくなって、どんな子に育つだろう。」というような話をするときだと分かります。この時お父さんは深いため息をついて話しています。
これらのことから子どもたちは
- いやなことを忘れるために、めちゃくちゃ高い高いをすると思う。
- 少しでもいい思い出を作って、少しでも嫌な気持はなくしたいと思っている。
- 不安な気持や怖い気持を晴らしたいから。
- 16文の深いため息をついて17文みんなちょうだい、山ほどちょうだいという言葉からいやな言葉を飛ばそうと思っていると思いました。
と、「忘れたい」ために高い高いをするのではないかと考えた子が多くいました。お父さんは、「一つだけちょうだい」としか言わせることができない無力さ、無念さを忘れるためにめちゃくちゃに高い高いをしたのではないかと考えたのです。するとゆみ子のためというより、お父さん自身の問題となってきます。
- 「どうでもいいや」と思ってやってヤケクソみたいな感じだったと思う。
- どんな子になるだろうと考えすぎて、頭の中はめちゃくちゃになってしまった。
このあたりがお父さんの正直な気持なのではないかとも考えられます。
お父さんはなぜコスモスの花をあげたのだろう
次に、お父さんはなぜコスモスの花をあげたのだろうという点について話し合いました。
「これをお父さんだと思って大事に育ててね、という意味だと思う」という意見が出た後、友だちタイムをとって考えを深めた後に全員で話し合いました。
〈喜ばせるため〉
* ゆみこが嬉しがるかな。
* 38文でゆみ子がきゃっきゃっと笑って39文でお父さんがにっこりしたから。
* お父さんは笑顔で見送られたいから。
〈お父さんの代わり(忘れないでほしい)〉
* 37文“大事にするんだよ”と言っていて、これがプレゼントみたいな感じ。
* 35文に“忘れられたように咲いている”
それぞれ証拠になる文を出し合いましたが、決定的な証拠は見つかりません。そこで一番当てはまらないものを考えさせてみると「〈喜ばす〉ならコスモスの花じゃなくてもっと喜ばせる物をあげるはず」「今から戦争に行こうと言っている人が喜ばせるというのはおかしい」という意見が出ました。
そして、36文に気づいた人たちから
- 36文“あわてて”とあるからお父さんは早く泣き止んでほしかったと思う。
- 他は何かないかなとあたりを見ていたら、ちょうどコスモスがあった
から泣き止むようにコスモスをあげたと思う。
という意見にたどり着き、ゆみ子が泣かないようにコスモスの花を入れたのではないかという考えが多くの支持を集めました。
確かに、お父さんの代わりに忘れないようにするのであれば、その辺りのコスモスではなく、別の何かしっかりしたものを渡すこと補足説明しました。
十年後のゆみ子はどんな気持で暮らしていたか
<「兵隊ちゃん」として出征したお父さんは帰ってこなかった。それから10年がたち、ゆみ子は、お母さんと二人で暮らしている。>このゆみ子のことを考えました。
10年後のゆみ子はどんな気持で暮らしているのだろう。
と質問すると、
- ゆみ子は、なんでお父さんがいないだろうと考えているかもしれない。
- 「お母さん」とゆみ子は言っているから悲しい感じで生活はしていないと思う。
- 何でお父さんが私にはいないだろう、どんな人かなと思っている。
- コスモスに囲まれているから楽しそうに暮らしている。
というように、子どもたちが感じていること気持が、嬉しい・幸せ・楽しい・寂しい・悲しい・何でだろうといったものだと分かりました。
そこでこうした気持を〈うした(嬉・楽・幸)〉と〈さかな(寂・悲・何)〉の二つに分け、友だちタイムを通して友だちの考えを聞き、どうしてそう思ったのか教科書から証拠見つけるように指示をしました。
友だちタイムではいろいろな人の考えを聞くようすすめています。友だちの考えを聞くことで自分の考えが深まるようです。聞き取ったことはカードにまとめていきます。
友だちタイムを通して出た意見は
- 戦争に行くから「がんばって」といいたい気持を軍歌やばんざいで表していると思う。
- 42文にお父さんのことを覚えていないとあるから、お父さんはどうなのだろうと思わなければ幸せだと思います。
というものでした。友だちタイムで自分の意見を深めたところで、「10年後のゆみ子は、〈うした(嬉・楽・幸)〉と〈さかな(寂・悲・何)〉のどちらが気持の方がより強いか」との尋ねました。
最初の人数は〈うした〉16人〈さかな〉10人〈どちらでもない〉7人でしたが、意見を深めていくうちに、
〈うした(嬉・楽・幸)〉27人
* 42文でお父さんが死んでしまったということは知らないから、お母さんと2人で仲よく暮らしていると思う。
* 48文で「スキップをしながら」とあってスキップは嬉しいときにするから。
* 42文で「知らないのかもしれません」とあって、あんまりお父さんのことが気になっていない(気にしすぎていない)感じがするから。
* 46文「お肉と魚のどっちがいい」とゆみ子が聞いていて、戦争の時は、どっちがいいなんて聞けなくて「一つだけちょうだい」と言っていた。どっちがいいと聞けるぐらいだから幸せだと思う。
* 戦争をしていないから。
〈さかな(寂・悲・何)〉6人
* お母さんとゆみ子の二人だから、寂しいと思う。
* 42文で「お父さんの顔を覚えていません」とあるから、何でお父さんがいないだろうと思っている。
となり、クラス全体としては10年後のゆみ子は、嬉しい・幸せ・悲しい気持の方が強いのではないかということになった。
そして<このたくさん咲いたコスモスは、お父さんが手渡してくれたコスモスですか?>と尋ねてみると これにはすぐに「違う」との返事。お母さんとゆみ子がお父さんと別れてからコスモスの花を大事に育ててきたから、今たくさんのコスモスが咲いていることを話して授業を終えました。
子どもに見せたい戦争映画
戦争への理解を深めるために、子ども用のアニメ映画を見せようと思っています。出征兵士がテーマだといいのですが。
きけわだつみのこえ(1995)
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id86634/
火垂るの墓(1988)
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id150436/
火垂るの墓(2008)
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id330066/
出征兵士を送る歌/朝日映画社製作
夜のプラットホーム:出征兵士を送る人びとの本当の心の唄
http://nnagoyan.seesaa.net/article/25420723.html
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。

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