【自由に配れる保健だより付き】未来の子どもたちが危ない!?抗生物質の正しい使い方を考える(笠井正志先生)

1 はじめに

誰もが一度は飲んだことがある「抗生物質(正式には抗菌薬)」。

実は今、その抗生物質の使い方が問題視され始めています。間違った使い方がされすぎるせいで「今の子どもたちだけでなく、未来の子どもたちの健康を脅かす。」と言われています。今や抗生物質の使い方は世界的な問題になっており、今年(2016年)5月に行われた伊勢志摩サミットでも議題となったほどです。

また、平成20年度の学習指導要領に「くすり教育」が盛り込まれたのはご存知でしょうか。学校現場においても、薬や病気について正しい知識を知り、広めていくことは非常に重要になっています。

そこで、「抗生物質のない時代に戻ってしまうかもしれない」と警鐘をならし、抗生物質の適正使用に関する啓発活動を行っている兵庫県立こども病院感染症内科の笠井正志先生にインタビューを行いました。

2 基礎知識

  • そもそも風邪の原因は、ウイルスです。
  • 抗生物質は細菌には効きますが、ウイルスには効かないので、風邪に効果はありません。
  • しかし、親の「子どもが辛そうにしているので薬を出してほしい」という気持ちや、病院の評判が落ちることを恐れて、医師は抗生物質を出してしまうことがあります。

3 インタビュー

——笠井先生は、「抗生物質の無い時代に戻ってしまうのではないか」と懸念していますが、これはどういう意味ですか?

世の中には『耐性菌』と言って、抗生物質が効かない菌が存在します。抗生物質を乱用していると、この『耐性菌』が増えてしまって抗生物質が効かなくなってしまうのです。
 全ての細菌が抗生物質に耐性をもってしまうと、現在行われている外科手術などの近代医療ができなくなる可能性があります。

手術というのは、実は抗生物質のおかげで安全に実行出来るようになったのです。抗生物質が発明される前は、手術後に合併する感染症によって命を落とす人が多くいました。しかし、抗生物質が誕生したおかげで感染症が治せるようになり、手術を行う方が病気を治せる可能性が高くなりました。
 今は使うことの出来る抗生物質が多くあるので問題になってませんが、このまま抗生物質を乱用し続けるとかつてのような時代に戻ってしまう可能性があります。

他にも、抗がん剤治療や臓器移植などの近代医療、先進医療が出来なくなる可能性があります。病気になっても治療が出来ずに、「生きるか死ぬか」という時代に戻る可能性があるのです。このまま抗生物質を不適切に使い続けると、数十年後にはそのような時代に逆戻りしてしまうかもしれません。

——抗生物質の乱用をすると、何故『耐性菌』が増えてしまうのですか?

簡単に言うと、体にいる細菌(常在細菌)に対してダメージを与えてしまうからです。常在細菌とは、人が生きるために欠かせない良い菌のことで、すべての人が持っています。
 私たちの体の細胞数は37兆個ですが、細菌はお腹の中だけでも約100兆個(1000兆個という意見もあります)もいます。つまり、人間は細菌と共存・共栄しているのです。

さて、そんな細菌の中にはもともと抗生物質の効かない耐性菌もいるのですが、他の細菌の方が数多くいるので目立ちません。しかし、抗生物質を使うと多くの細菌は死にますが、耐性菌は抗生物質が効かないので生き残ってしまいます。耐性菌が生き残ったとき、同時に、耐性菌と競合していた良い細菌が減っているので、耐性菌ばかりがどんどん繁殖していってしまうのです。

このようにして抗生物質は、細菌と共存・共栄している私たちのバランスを壊し、耐性菌という大きな敵をつくりだしてしまうのです。

——常在細菌は具体的に体の中でどういう役割をしているのですか。

そうですね、まずは耐性菌の前に常在細菌のことについて説明しましょう。最初に述べたように耐性菌もかなり問題なのですが、この常在細菌がいなくなることだけでも体に悪い影響が出てしまいます。

常在細菌には、大きく分けて2つの役割があります。

1つ目は、バリアの機能です。常在細菌は、体の中にいない細菌が体内に入ってきたときにバリアになってくれます。要するに、他の細菌が外から入ってきたときに「もうこの体の中は満員だから」と入れないようにするイメージです。

2つ目は、免疫の学習機能です。体の中にいる細菌は正常な免疫を学ぶためにも使われているのです。体には100兆もの細菌が存在し、しかもその種類は何千にものぼるので、免疫反応をたくさん学ぶことが出来ます。
 このような免疫を学習する場所は特に腸内ですが、抗生物質を使ってしまうと、細菌は大きくダメージを受けてしまいます。こうなってしまうと正常な免疫が十分に学べない結果、「ある免疫が過剰に反応してしまう病気」にかかる危険性が高くなってしまうのです。

——現在、抗生物質が原因の病気は増えているのですか。

免疫やアレルギーなどで異常が起きている病気が増え始めています。

アレルギーとは「免疫が必要以上に反応してしまう病気」のことです。花粉症や食物アレルギーなどの病気が増えている理由の一つに、抗生物質の不適切利用があると言われています。他にも、乳児期の抗生物質の使用が18歳の時の喘息発症に繋がっている可能性があるとも言われています。

また、クローン病や過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎などの病気が最近増えていますが、これらの原因もおそらく抗生物質です。抗生物質を使い続けると免疫系がおかしくなり、腸管を攻撃してしまっているのです。

本来なら細菌は共存・共栄していたものだったのに、いい情報をくれる細菌がみんな死んでしまうと免疫系が異常に反応してしまうのです。これが、良い細菌が少なくなることによる病気発症のメカニズムです。

しかし一番最初に述べたように、もちろん体に悪い耐性菌が増えることによる病気、つまり感染症もあります。感染症の原因が耐性菌だと、治りにくいばかりか、治らずに死んでしまう恐れさえあるのです。

——耐性菌にはどのようなものがありますか?

例えば、黄色ブドウ球菌。これは、普段皮膚の上にいて、普段は人を守ってくれているのですが、傷が出来ると化膿する原因になります。他には、緑膿菌です。台所のぬめりなどですね。普通の人は緑膿菌にやられることはまずありませんが、抗がん剤治療などをしていて免疫が落ちている人には非常に問題になります。

——耐性菌に関して、何か対策は始まっているのですか。

私たち感染症科の医者仲間は、昨年度から本格的に抗生物質の適正使用の啓発運動を始めました。また、国も昨年、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを作成しています。

実は耐性菌の問題は今から30年ほど前の1980年代ごろから盛んに言われるようになっていたのですが、実行力のある対策は特に打たれずにきました。本格的に対策を始めたのは昨年(2015年)からです。
 そのきっかけとなったのは今年(2016年)開催の伊勢志摩サミットです。サミットで大きな問題として取り上げられたのは、テロ・貧困・耐性菌の3つでした。それをきっかけに対策が始まり、アクションプランが出来ました。

——G7にも取り上げられるということは、世界的にも問題なのですか。

耐性菌は世界的にも問題になっています。

1950年代から耐性菌が増え始めます。例えば、インドでは水から耐性菌が出てきます。日本は水がきれいで飲むことが出来ますが、他の国では水を飲むことが出来ません。水道に耐性菌がいるからです。私達が抗生物質を飲み、お腹の中で耐性菌が増え、そして便で出す。こうして水も耐性菌で汚染されてしまいます。

また、家畜も耐性菌が増えている原因の一つです。実は家畜を早く太らせるためには抗生物質が有効なのです。なぜかというと、お腹の中では、家畜自身と細菌とで栄養を取り合っているので、細菌を殺してしまえば全ての栄養を家畜が摂取すること出来るようになるのです。
 そうすると当然家畜には耐性菌が増えますが、その耐性菌を伴った屎尿が川に流れ、上水として不十分な消毒で、我々の口に入ります。そうして、子どもたちの多くが耐性菌を体内に持ってしまうのです。

このように抗生物質は使っている人だけの問題ではなく、周りにも影響を与える環境問題になっているのです。なので、とにかく多くの方に適正使用について知っていただきたいと考えています。

——それでは、風邪などの病気にはどのように対処するべきなのですか。やはり病院に行くべきなのですか。

病院を受診することに問題はありません。

ただ、風邪は「病院に行ったら1週間で治る、家で寝ていたら7日で治る」と言われています。つまり、病院に行っても行かなくても一緒ということです。
 それでも病院に行くことのメリットとしては、症状緩和のための薬(抗生物質ではありません)や、風邪ではない違う病気を見つけてもらえることなどにあるでしょう。

しかし、病院に行くことにはデメリットもあります。1つ目は、待合室にいる他の患者さんから別の病気をもらう可能性があります。2つ目は弱い薬をもらったせいで、副作用が起こる可能性もあります。

これらのデメリットを考慮した上で、デメリットを超えたメリットがあると判断したなら、病院に行くべきです。

——どのようなときに病院に行くと判断すれば良いのですか。

子ども、特にとても小さな子の場合、見るべきポイントがあります。それは、「食べる」「寝る」「遊ぶ」が1つでも出来なくなることです。食べることが出来ないと、脱水になり、重症になるかもしれません。咳き込んで寝られないときもあります。遊べない時は意識が悪いということなので、重症である場合が多いです。

このようなサインがあれば、病院に行くことのメリットはデメリットよりも上回ります。

——病院に行ったとき、保護者が気を付けなければいけないことはありますか?

「どうして抗生物質が必要なのですか?」と医師に聞くことが出来るような「医療リテラシー」を高めることです。抗生物質は子どもの健康を害する可能性がある薬なので、その薬を服用する必要性を医師に確認して欲しいのです。
 もちろん、世の中には細菌による病気もあります。風邪だと思っていたら実は違っていて、抗生物質が必要な病気が隠れている可能性もあります。ですので、抗生物質を出してもらうたびに、その理由を教えてもらいながら医療リテラシーを高めていってください。

また、医師は風邪に抗生物質が効かないと分かっていても、診察中に保護者に「抗生物質が不要だ」ということを伝える時間が無いことや、「あの病院は抗生物質をくれない」と評判が落ちること恐れて、患者に不要な抗生物質を処方してしまうこともあります。そういう理由からも、保護者は、医師に「抗生物質が必要なのか」をきちんと確認することが重要です。

——子どもたちは抗生物質や薬に関する知識について、どのようなことを知るべきですか。

「出された薬は頑張って飲みきること」です。途中で薬を飲むことを止めてしまうことは、飲まないことよりもはるかに問題です。途中で薬を飲むことを止めてしまうと、中途半端に残った細菌により病気が再発してしまう恐れがあるからです。しかも再発したときには、耐性菌が生まれて治りにくくなってしまう可能性もあります。
 「出されたものを全て飲むこと」が適正使用の第一歩です。

抗生物質の適正使用とは、抗生物質を使わないことではありません。薬を出されたことには必ず意味があるので、最後まで飲むことが重要です。

——学校の先生方はどのような考え方を持つべきでしょうか。

私の知り合いにも学校の先生がいます。その人に「抗生物質は細菌感染症にしか効かないから多くの場合必要ありません」と伝えているのですが、同僚の学校の先生の中にも知らない人は未だに多いようです。咳が1週間、2週間と長引いていると、「何故病院に行って抗生物質をもらわないのか」と同僚の先生から怒られることがあるということを聞きました。

抗生物質を貰うか、貰わないかの基準は「細菌感染症かどうか」ということです。抗生物質を飲んでも風邪は治りません。その咳の原因が細菌感染症であれば抗生物質は効きますが、ただのウイルス性の風邪であればなんの症状も改善させてはくれません。(免疫によって自然に治ったのが、薬のおかげのように見えることもたくさんありますが。)また、そもそも咳は、元の病気が治ったとしても気道の荒れなどを原因に2週間ほど長引くものです。

学校の先生方には、ぜひこの記事に書いてあるような正しい医療に関する知識を持ってもらいたいと思っています。それが子どもたちのためにも繋がっていくと思います。

4 クラスの子どもたちやその保護者に抗生物質について正しく伝えるために

この記事を読んでクラスの子どもたちに抗生物質について伝えたいと思った先生方のために、配布自由の保健だよりを作成しました。子どもたちの自身にはまずは自分の体を考えて欲しいと思ったので、主に常在細菌が壊されることによって起こる健康の問題について記載しています。耐性菌については必要に応じて先生の方から説明してあげてください。どちらにせよ、「抗生物質は必要がなければ避けましょう。飲むときは適切に飲みましょう。」というメッセージに変わりはありません。

また、このプリントはダウンロード、印刷、配布など、完全フリーで使用していただけます。一人でも多くの人に正しい知識が伝わり、みんなが抗生物質による健康被害から守られることを願っています。

正しい知識が一つでも多くのクラスに行き渡るよう、よろしければぜひお知り合いの先生方のにも広めてください。

ダウンロードはこちらからどうぞ。

⇒⇒【保健だより】かぜに抗生物質は体に悪い?

5 プロフィール

笠井正志 先生 

兵庫県立こども病院感染症内科科長
平成10年富山医科薬科大学卒業。

所属学会 
日本小児科学会(専門医、指導医)
日本集中治療医学会(専門医)
日本小児感染症学会(評議員)
日本環境感染学会(評議員)
ヨーロッパ小児感染症学会

6 編集後記

秋から冬にかけて、風邪をひく子どもは増えていくかと思います。そのような中で、教員の方がより正確に病気や薬に対して知識を持ち、適切に対処できるようになることは非常に重要なことだと思いました。

(EDUPEDIA編集部 宮嶋隼司)

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