先生に知ってほしい!性別違和の子どもたち(第1回)

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目次

1 はじめに

この記事は、はりまメンタルクリニックの針間克己院長に取材し執筆した連載記事の第1回です。取材では、こころの診療に詳しい針間先生に、性同一性障害(本文では性別違和と表記)を持つ生徒についてのお話を伺いました。この記事では、性別違和とはどのようなものか、また、性別違和がどのようなものであるか理解するにあたっての注意点をご紹介しています。

また、第2回では、学校の先生方が性別違和の子どもたちに対応する際に気をつけるべきポイント、医療機関ではどのような対応がなされているかなどについてご紹介しております。第2回も併せてご覧ください。

先生に知ってほしい!性別違和の子どもたち 第2回

2 性別違和とは

性同一性障害とは、身体的性別(*1)と心の性別(性自認 *2)が一致しなくなっている状態を指します。近年では、性同一性障害は「障害」という言葉の重みが強いことから、アメリカを中心に「性別違和」といった疾患名での捉え方をされ始めてきています。(本記事では、性同一性障害を性別違和と表記します。)

また、性別違和と言っても、身体的性別と性自認の不一致が起きている人全てが同じ診断基準で診断され治療が行われるわけではありません。例えば、青年期から大人にかけての時期に違和感を感じたのか、または青年期に入るまでの子どもの時期に違和感を感じたのかによっても、大きく診断基準や治療内容が異なります。

補足

*1 身体的性別:英語で言えばsex。性染色体、性腺、性ホルモン、内性器、外性器などの身体的な男女の性別を指す。

*2 性自認:「自分は男性である」「自分は女性である」「自分は男性でも女性でもない」と言ったような自己の性別の認識のこと。多くの場合は性自認と身体的性別は一致しているが、性別違和では一致していない。

3 子どもの性別違和

日本では、性別違和というとき、多くの人が年齢によって変わるものではないと捉えています。しかし、先ほども述べたように、実際は小学生までと青年期以降とでは全く別物です。従って、子どもの性別違和を考えるにあたっていくつか注意すべき点があります。

〜注意すべきポイント〜

○性別違和を持つ子どもが全員大人になってからも性別違和を持ち続けるとは限らない。

子どもの性別違和は、身体的性別と性自認が一致しなくなった状態が、必ずしも大人になるまで続くわけではないという点が特徴的です。

医学的なことを言えば、そもそも子どもの性別違和と大人の性別違和は診断基準から違うのです。よって、治療といっても身体的な治療ではなく、精神的な面のサポートがメインとなります。

一方個人差はありますが青年期(中学生〜高校生ごろ)になっても見られる性別違和は大人の性別違和とほとんど同様であり、今後もずっと継続することが多く、身体的な治療も考慮されます。(身体的な治療については第2回をご参照ください)

○発達障害や別の問題が隠れている場合がある

 

性別違和を感じ、病院を受診する子どもの中には、実は発達障害など別の問題を持つ子どもも一定数います。

例えば、発達障害の傾向があって室内で大人しく遊ぶことが多い男の子が「僕は女の子なんじゃないか」と言ったときのことを考えてみましょう。この子があまり元気がないように見えるのは、性別違和が実際にあって男の子のように遊ぶことが嫌な可能性もあれば、発達障害の特性を持っていることによって周りの男の子たちと友達になれず、一緒に遊べないことが原因の可能性もあります。
 
 このような場合では、発達障害の症状に重点を置いて人間関係のサポートをするのか、それとも性別違和が実際にあり今後も続くのかなど、その子が困っている原因を慎重に見定めてサポートする必要があります。

○様々なタイプの子どもがいる

昔、金八先生のドラマで、性別違和の子を演じる上戸彩が男子制服を着て、「俺は男だー!」とカミングアウトしたシーンがありました。このように性別違和はドラマでは印象的なシーンになることも多く、「性別違和の人」というとそういうイメージにつられて、画一的なイメージを持つ人もいるのですが、実際には様々なタイプの子どもがいます。

例えば、性別違和であることを自ら先生や友人、家族にカミングアウトしていくタイプ、逆に極力他人には性別違和であるということを知られたくないと感じるタイプなど、感じること、考えることは子どもによって様々です。また、性自認と一致しない服装を身につけることを避けたいと感じる子、トイレだけが性自認と一致しないものを使うのを避けたい子など、学校生活を送る上でも様々な感じ方をします。したがって、先生が生徒から「実は私は性別違和なんです」と言われた時は、その子に応じた対応をする必要があるのです。

第2回の記事では、治療はどのように行われるか、性別違和の子どもにどのような対応をすることが良いかについて紹介していきたいと思います。

4 プロフィール

針間克己(はりまかつき)先生
東京大学医学部卒業。東京大学大学院医学部博士課程終了。医学博士。
「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の立法に際して発足した国会議員による性同一性障害勉強会に招かれ、性同一性障害に関する医学的概念の講義をおこなった。
性犯罪者処遇プログラムの専門家として、テレビなどマスメディアへの出演もする。
(プロフィールは2018年3月9日時点のものです。)

5 編集後記

子どもの性別違和は青年期・大人の性別違和と全く異なる特徴を持つこと、また発達障害や他の問題が隠れているということが多いというお話が印象的でした。子どもの性別違和の特徴を知ること、また様々なタイプの子どもがいることなどを知ることで子どもの性別違和への理解がより深まるのではないかと思います。(取材・編集 EDUPEDIA編集部 出井めぐみ)

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