授業に使える性教育実践資料集~学校における性教育の充実のため~(堀内比佐子先生 教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー)

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作成者:大和 信治 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われたインタビューを記事化したものです。

日本性教育協会が執筆編集した「すぐ授業に使える性教育実践資料集 中学校改訂版」の執筆者グループの一人、堀内比佐子先生に、中学校の性教育について指導や組織として取り組む際のアドバイスなどを伺いました。

(2020年8月5日取材)

2 インタビュー

ーー性教育の現状

学校現場での性教育実践の現状は、残念ながら十分ではないと思っています。その原因は、性教育という教科がないからです。他の教科のように、学習指導要領がないので、指導のねらいや内容が明確に記されているわけではないため、捉え方や指導法が様々になっているからです。一方、性教育は子どもや地域の実態に即した指導が必要であり、全国画一的な指導は相応しくないという考えもあります。

それから、「学校における」性教育の歴史が非常に浅いということも挙げられます。日本性教育協会が設立された昭和の47年頃に、学校における性教育が体系づけられましたが、性教育の授業実践が積み上げられてきていないのです。だからこそ、今回の実践指導集の発刊は大きなものだろうと思います。

私が現在所属している全国性教育研究団体連絡協議会[*1]が大事にしているのは、公立学校で行う教育はすべて学習指導要領に準拠して行われる、という視点です。性教育も、同様に法的根拠に基づいて指導すべき内容を精選し、実践を目指しています。

あえて「学校における」と付けているのは、医療関係者や世間一般で考えられてる性教育とは違い、幅広い意味を含んでいるからです。一般的な性教育の捉え方は、妊娠、出産、エイズなど性感染症に対する予防教育や性の問題行動についての指導が中心です。しかし、学校ではそれだけではなく、自分の性をどうやって自認しながらアイデンティティを育てていくかなど、幅広く人間の性を捉えています。

[*1] 全国性教育研究団体連絡協議会は「我が国における人間の性に関する教育・研究団体相互の連携を密にし、その発展を図るとともに性教育の実践・発展に寄与すること」を目的として昭和56年に設立された。

ーー性教育からみた現代的な課題

最近は、学校でも性教育の大きな課題としてLGBTやSNSなどのネットの問題を取り上げることも多くなってきました。しかし、現代的な課題として学ぶことは重要ではあるのですが、それだけでなく、性教育の基本的な事柄の学習、例えば「性の成熟」による心身の変化や人との関わり、とりわけ異性との関わりなど性教育の基礎となることを学ぶことが必須です。

これまでの性教育では、男らしさ・女らしさの問題や男女交際などが主なテーマでした。しかし、今日では人間の性を男と女の二つの性だけでないという視点で捉えるようになり、結局は「人とどう関わるのか」ということが重要になっています。人との関わりは、相手の人権を認め・尊重することが基本であり、実はこれが、子どもたちがこれから人と関わる上で大切なことであり、社会生活を過ごすための基盤にもなるでしょう。


  (性に関する知識チェックプリント:本書より)

ーー教科横断で性教育を考える、カリキュラムマネジメント

現在、性教育の学習として一番基盤になるのは、保健体育の「生殖に関わる機能の成熟」でしょう。ここでは、自分の体が子どもから大人になる過程を学ぶのですが、生物学的な体の変化を学ぶだけが性教育ではありません。同時に性の成熟が意味することも学ばせる必要があります。

そうした知識に加え、自分の性をどう自認しながらアイデンティティを育てていくか、そして自分は人とどう関わり自分らしく生きていくのかといった、より幅広い捉え方が必要です。いわゆるセックス教育だけでない、セクシャリティの教育であるという認識が大切です。しかし、残念ながらこのような授業実績が積み上げられていないようです。

新しい学習指導要領で、カリキュラムマネジメントというキーワードがありますが、私たちが性教育の研究を始めた頃、すでにクロスカリキュラムの視点が大切であると共通理解を図っていました。つまり、一つの教科だけではなく多教科で扱う性に関わる内容を関連付けて指導していくということです。

例えば、社会科の公民では憲法を学び、婚姻や人権、メディアリテラシーの問題も取り上げますが、それらはすべて性教育と関係しています。道徳には「生命尊重」というテーマがありますが、命の大事さに加え、新たな生命の誕生に対する学びもできるでしょう。特別活動においては、学習指導要領に記された「自他の個性の理解と尊重」や「より良い人間関係の形成」のため、男女相互の理解と協力について、さらに思春期の不安などを学ぶことができるでしょう。

学級活動の内容(2)ウ 思春期の不安や悩みの解決,性的な発達への対応

 心や体に関する正しい理解を基に,適切な行動をとり,悩みや不安に向き合い乗り越えようとすること。

 この内容は,思春期の心と体の発達や性に関する知識を理解し,適切に活用して,自己の悩みや不安を解消しながら自他の人格を尊重した行動ができるようにすることである。中学生は,自我の目覚めとともに,独立の欲求が高まり,自己を内省し始める時期である。その一方,自我の発達は未熟な面もあり,自信を失ったり自己嫌悪に陥ったりすることも少なくない。この時期は,個人差はあるものの,人間関係の複雑化に起因する悩みや異性への関心も高くなる。中学生にとって,性を考えることは,大人として自立するための大切な過程であるが,自分の存在に価値や自信がもてないなど,時には様々な心の葛藤や遊びに傾斜する心と結び付き,性的な逸脱行動も危惧されることから,個々の生徒理解に基づく適切な指導が大切である。

「【特別活動編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説」p54より引用

ーー組織で取り組む性教育

先生の年齢差だけでなく、未婚・既婚、性別などに関わらず、性教育についての考え方に個人差はあると思いますが、大事なのは、学校における性教育の概念、目的やねらいの共通理解を図ることです。それには、学校として性教育をどう実施するのかを考える校長先生や養護、保健体育科の先生のリーダーシップが欠かせません。

そして、中学校では、全教員が教科指導、道徳科や特別活動(学級活動)また、日々の学校生活において思春期真っ只中の生徒と関わっている事を認識して、連携を図りながら指導に当たる必要があります。

本来は、年度初めの時点で年間カリキュラムに性教育のプログラムが計画されるのが理想です。しかし、学校現場が忙しく、体制が整わなかったとしても子どもの成長は待ったなしです。先生は同じ学年を何回も繰り返すことはできるけれども、子どもの中学3年間は1回しかありません。そこで、本書では、1年間の教育課程の中に性教育のプログラムを設定するサンプルとして、各教科等で実践できる内容を一部ですが提案しています。ただし、本の実践がそのまま、どこの学校でも使えるということではなく、学校や子どもの実態、地域の状況に合わせて運用していくことが必要です。

ーー性の個別指導

学校における性教育は集団での授業と個別指導の二つが必要です。現場を見ると、性教育の授業をきちっとやっていると、生徒もちゃんと相談してくれるようです。授業で先生が真剣勝負すれば、性はいやらしく、恥ずかしいことではないことが伝わります。その前提として、性教育の授業は真面目に取り組むこと、自分のこととして受け止めること等を生徒に伝えておくことが大事です。

とはいえ、特に中学生は性に関する興味・関心、知識の量など個人差が大きいので、個別な指導が必要な生徒もたくさんいます。集団授業では突き詰めたところまでは話はしませんし、その必要もないですよね。個別の指導に関して、私が教員の頃は生徒との雑談の中で「誰と誰が付き合ってる」といった情報がよく入ってきました。場合によっては「どこまで進んでるの?」など聞くこともありました。このような性の話ができる信頼関係を築くことが大事です。また、担任以外にも養護の先生などが保健室で聞いた話から悩みや人間関係の状況が分かることもあります。

残念なことですが、中学生でも、誰にも相談できず、中絶するか迷っているうちに時期が過ぎて孤立出産して、最終的に数時間で死なせてしまうような悲惨な状況が、数は少ないけれども存在します。最近では緊急避妊薬の話題がありましたが、万が一の場合は、そのような対応もしてあげないといけないかもしれません。

  (悩みを友だちに相談するロールプレイングシート:本書より)

ーー外部機関に相談する

学校での対応が難しい場合は、外部機関を活用する事もできます。例えば、「性に関することは保健所で教えてくれるよ」「詳しく知りたいなら産婦人科を紹介するよ」など、相談機関を紹介することも大事なことだと思います。先生が生徒の質問にすべて答えなければならないことはなく、生徒にその手立て(方法)を教えてやればよいこともあります。

先日の毎日新聞の記事に、「コロナ禍の休校中に10代が妊娠したのではないかという悩み相談がとても増えた」とありました。それは、豊島区にあるNPO法人の相談窓口でのことですが、やはり学校の先生には相談しづらいということも当然あるわけです。

このように、実は表に出ないだけで、妊娠したのではないかという性の悩みは意外に多いです。産婦人科医からは、「学校で避妊など指導しているのか」と聞かれることもあります。数は少ないですが、学校が知らない中、産婦人科で中絶手術をしていたといった例もあります。

学校で避妊を教えることも必要かもしれませんが、そもそも中学生期に性交する必要性があるのか、リスクも含めて生徒自身に考えさせることも必要と思うのです。それ以前に、「好きな人」ができた時に、お互いの意思を尊重し合える関係性が大事であることをしっかりと学習させることが大事でしょう。

養護の先生は、自分の学校の近くに親しい産婦人科医との交流があると、生徒にも紹介しやすいでしょう。しかし、この問題は個への配慮が特に必要なため、親との関係性や管理職との調整など、複雑な面もあります。生徒を傷つけないよう、慎重にやらなければいけません。

ーー外部機関との協力

外部機関との連携や情報収集には、養護の先生同士のネットワークといった人脈が大事になると思います。最近は学校にカウンセラーがいますが、相談が難しいこともあります。お互いを全く知らないから相談できる部分と、お互いの関係性があるから話せる部分の両方あると思います。

外部機関との協力では、産婦人科医などを外部指導員として招聘して、先生では難しい専門的な講話をお願いすることも効果的です。そこから、産科医とのつながりができることもあります。

難しいのは、「この悩みはここに相談すればいい」といった情報を生徒にうまく知らせる方法です。「性の悩みはここで相談しましょう」というのは、公の保健だよりには書きにくいですよね。だから個別指導が大事になるのです。

ーー難しい性教育の実践研究

まずは、学校における性教育が正しく理解されてないということが大きいです。

ただ先生方は多忙です。忙しいから自分の教科はしっかり教材研究するけれども、性教育のような責任の所在が曖昧なものに対しては、その重要性の認識が甘いと思います。また、日本人の性に対するイメージは、あまりいい印象がなく、性というとなんとなく抵抗感があるのは、日本の性文化や歴史、風習、さらに国民性などが関係していると思います。できれば「生徒への指導」などは避けて通りたいという思いはあるでしょう。

しかし、先生方は皆通ってきた道ですし、人生の先輩でもあります。学校における性教育の概念が正しく捉えられていれば、性教育はそれほど難しいとは思いません。

ーー今後の性教育の展開

平成の初めの頃はエイズの問題がありましたが、今ではエイズの治療薬が開発され、不治の病ではなくなりました。また、最近では、インターネット・SNSやLGBT(SOGI)の問題、性感染症も梅毒が復活してきているなど、子どもたちを取り巻く性に関する社会環境は日々変わってきています。つまり、先生方は性に関して新しい情報を常に学ぶ必要があるということです。

そのために、まず人間の性や学校における性教育を正しく理解する研修が必要と思います。そして、管理職は自校の教育課程の編成において、性教育をしっかり位置づけてほしいです。また、保健学習の中心となる保健体育科の先生は、大学で自分の専門の運動を中心に学び、人間の性(セクシャリティ)についてはあまり学んできていないと思います。なので、保健体育科の先生になる人は、少なくとも人間の性について大学で学んで来てほしいです。もちろん現場に入ってからも、中心となって指導する先生が、性教育について学べる場所が必要ですし、その学びを校内にも共有してもらいたいです。

大きな視点ですと、性教育をシステム化するためには、文科省が教育プログラムと指導のプロセスを提示するようなことも必要かもしれません。一部の先生方の熱意だけでは難しいでしょう。最後に、「性教育」の授業は、夢のある将来へ向けての楽しい授業であることを願っています。

3 先生のプロフィール

堀内 比佐子(ほりうち・ひさこ)
全国性教育研究団体連絡協議会 事務局長。
元東京都公立中学校女性校長会 会長。
(2020年8月5日 時点)

4 著書紹介

堀内比佐子先生が共同執筆した本
『すぐ授業に使える性教育実践資料集 中学校改訂版』(日本性教育協会・編 小学館)

〈 編集者からのおすすめ情報 〉
本書は、ロングセラーの『性教育実践資料集』の中学校の改訂新版です。これまで多くの学校・教室で使われてきた指導案を、現代の性教育環境にあわせて改訂しており、性教育・指導の実践経験が浅い先生でも、しっかりとした指導ができるようになっています。

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5 編集後記

ネット上にさまざまな性の情報が溢れる中、学校で性教育を行う意義を改めて考えさせられました。今回の実践集が、1人でも多くの先生や生徒に届いてほしいです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 大和信治  撮影:教育技術 編集部)

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