1 はじめに
環境問題をどうしても他人ごととして捉えてしまう子どもたちに対し、環境問題は自分ごとなのだという意識づけをどうやって行えばよいのでしょうか。そのヒントは、京エコロジーセンターが行っている「体験型」の環境プログラムの中にあります。
本記事は、京エコロジーセンター(京都市伏見区)の澤田雄喜さんにインタビューを行い、その内容を記事化したものです。この記事では、京エコロジーセンターが小中学生向けに行っている環境教育プログラムについてご紹介しています。このプログラムを参考に、学校の授業にも「体験」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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2 京エコロジーセンターの環境プログラム内容のご紹介
京エコロジーセンターは、小中学生を対象に、環境について学習するためのさまざまなプログラムを提供しています。今回は、そのうちの2つのプログラムを簡単にご紹介します。最初にご紹介するのは「ごみ」に関する小学校4年生向けのプログラム「ゴーゴー ごみへらし隊」、次にご紹介するのは「地球温暖化」に関する小学校5年生向けのプログラム「地球温暖化ふせぎ隊」のうちの「水」に関するコンテンツです。
「ゴーゴー ごみへらし隊」(小4向け)
このプログラムのテーマは「3R」です。子どもたちの中には、「3R」という言葉を知っているだけで、意味を理解していない子がいます。そこで、このプログラムではまず「どうしてごみを減らさなければならないのか」という問題を考えます。そして、その方法としての「3R」の言葉と意味を、体験を通して理解することを大切にしています。
3Rの本来の優先順位は、「①リデュース、②リユース、③リサイクル」です。「リデュース:ごみを抑制すること」がごみを減らすのに最も重要であり、次に必要なのが「リユース:繰り返し使うこと」です。最後に「リサイクル:どうしてもいらなくなってしまったものを他のものにつくり変えること」が置かれます。ところが、日本の教育では「リサイクル」の優先順位が最も高くなりがちです。そこで、「リデュース」「リユース」に子どもたちの意識を持っていくことをめざし、このプログラムを行います。
~プログラム内容~
①今日どんなごみを出したか思い出す。
※子どもたちはごみを出すのも無意識の行動として行っているので、まず自分もごみをたくさん出しているということを意識化させます。
②ごみを捨てたときどんな気持ちか、あるいは捨てられたごみはどんな気持ちか考える。
③捨てたものは本当にごみかどうか考える。
捨てたものが、「リデュース」「リユース」「リサイクル」のいずれかの方法で生かせないか、あるいは「やっぱりごみ」なのか考えます。
※この際に、3Rという視点を説明し、その中でも2R(リデュース、リユース)を重視するように促していきます。また、職員は問いを子どもたちに投げかけますが、答えを言うのではなく、子どもたち自身で考えさせます。最終的にどのような選択をとるかは子どもたちに委ねるのです。
④学習して発見したことや、これから自分ができることをワークシートに記入する。
「地球温暖化ふせぎ隊」(小5向け)
地球温暖化の原因となるCO2が排出される要素としては、まず「電気」「水」「ごみ」が挙げられます。そこでこのプログラムでは、項目ごとに3つのグループに分かれ、地球温暖化防止のためのグループワークを行います。
このプログラムでは、子どもたちは「電気」「水」「ごみ」の3種類すべてについて学ぶのではなく、1つの項目について学びます。これは、このプログラムで学んだことを事前・事後の活動につなげてほしいからです。ここで学んで終わりではなく、ここで学んだことや思ったことを、次は学校の授業の中や普段の会話の中で広めてほしいのです。そこで、このようなプログラムの形態をとっています。
~プログラム内容~(ここでは、「水」に関してのプログラムをご紹介します)
①朝起きてから寝るまでに水を使っている場面を思い出し、書けるだけワークシートに記入する。
※書き出した項目の中で、もったいない水の使い方をしているというものに〇を付けます。
②手洗いのときの水の使い方に関して、実際に体験する。
水を出しっぱなしにする手洗いの悪い見本を見せ、その水を水槽に溜めておいてどれだけの量の水を使ったか見えるようにします。それから、もっと水を使わずに手を洗えるかどうか、実際に子どもたちが挑戦してみます。
※そののち、①でもったいない水の使い方をしていたとした項目を見直し、解決するためにはどうしたらよいかを考えます。
③「わたしは水を大切にするときに~をします」という宣言をワークシートに記入する。
3 プログラムを行うときに大事にしていること
「無意識の意識化」
このプログラムが大事にしているのは、「無意識の意識化」です。日常の中で、当たり前のこととして無意識に行っていることを、改めて意識することを大事にしています。たとえば、部屋が暗かったら電気をつけるというのは当たり前のことです。しかし、よく考えてみると「今日はよく晴れていて日差しも入ってくるので、カーテンを開けたら電気をつけなくてもよいのではないか」と気づくかもしれません。このように、「ちょっとこう工夫してみたらいいのかな」と意識的に行動してもらうことを大事にしています。そして、意識したことを意識しただけで終わらせるのではなく、実際にやってみることが重要です。今回ご紹介したプログラムは、日常生活の中でそのようなことを少しずつ意識して行動するための「意識づけ」を行うプログラムだと思っています。
今の子どもたちは、環境問題に関する情報が様々なところで手に入るため「言葉」や「知識」はたくさん持っています。しかし、「きっと世界のどこかで起きていることなのだろう」「日本でも起きているということは知っているけれど、自分の身近なところでは起きていないだろう」というように他人ごとと捉えてしまっていることが多いです。たとえばゲリラ豪雨や台風の問題などは子どもたちも知っていますが、実はそれらの原因が地球温暖化だという話をすると「そうなんだ」と驚きます。彼らは「地球温暖化」という言葉は知っていますが、「北極や南極の氷が溶けるという問題だろう」という程度の認識しか持っていません。日本で起こっているゲリラ豪雨や台風といった問題、あるいは熱中症、スーパーの野菜が高くなることまでも温暖化の影響だということを聞いて初めて、子どもたちは温暖化の影響が自分たちの身近なところでも表れているということに気がつきます。そういうふうに意識をして、さらに生活の中で自分ができることを考えさせるということをこのプログラムでは大切にしています。
4 京エコロジーセンターのご紹介
京エコロジーセンターは、地球温暖化防止京都会議(COP3)を記念し、2002年に設立されました。環境にやさしい暮らしの提案や、環境学習、環境保全活動の輪を広げる拠点施設として、多くの方が利用しています。
1階、2階の展示コーナーには、地球規模での環境問題から、京都ならではのエコロジーの知恵まで、体験型で学べる展示がたくさんあります。3階には環境図書コーナー、屋上には色々な生き物が集まるビオトープがあります。建物には、太陽光発電、雨水利用、地熱利用、高断熱外壁をはじめ、省エネルギー・省資源型の設備を導入し、さらに、自然素材を生かした材料やリサイクル建材も活用するなど、建物全体がエコな展示となっています。
詳細はこちら→http://www.miyako-eco.jp/
(2018年2月5日現在のものです)
5 編集後記
京エコロジーセンターが実施している環境教育プログラムについてご紹介しました。体験型の学習をすることで、子どもたちは環境の問題が他人ごとではなく自分ごとなのだと気がつくのではないかと思います。学校に取り入れられる部分はぜひ取り入れてみてはいかがでしょう。子どもたちの環境に対する意識が、より研ぎ澄まされるかもしれません。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 津田)
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