田園調布学園が取り組む女子の理数科目に対する苦手意識を持たせないための3つの工夫!(教育図鑑)

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目次

1 はじめに

本記事は、以前EDUPEDIAで取材させて頂きました教育図鑑から引用させて頂いたものです。

転載元はこちらです。

田園調布学園が取り組む女子の理数科目に対する苦手意識を持たせないための3つの工夫!

本記事では、女子生徒にありがちな理数科目への苦手意識について、どのように指導すれば苦手意識を持たないようになるか、その方法について紹介しています。

【田園調布学園中等部・高等部について】

上位私大が合格者を絞った2018年度入試の中で“早慶上理合格者数85→123名”と合格者数を伸ばした数少ない女子校です。

なお、教育図鑑HPには、田園調布学園中等部に関する記事(卒業生による母校インタビュー【先生、在校生、保護者etc.】制服イラスト、編集部によるレポートなど)が数多く掲載されています。そちらもぜひご覧ください。記事はこちら

【教育図鑑について】

教育図鑑は過去EDUPEDIAが取材し紹介した記事がありますので、詳しくは『受験生と教育機関をマッチング!学校・塾をえらぶための百科事典(教育図鑑株式会社 矢野一輝さん)』からご覧ください。

2 実践内容

【イントロダクション】

今回お話を伺った入先生は、中等部・高等部の理科を担当されています。

4年生大学に進学する女子のなかで理系進学者は約3割。近年、女子の理系進学熱が高まっていますが、田園調布学園は高3での理系選択率は43%と、理系人気が高い学校です。

データに表れているだけでなく、率直な感想として、田園調布学園の生徒には(女子にありがちな)理系に対する抵抗感のような空気が感じられないような気がします。

その理由は?生徒のみなさんはなぜ理科に興味を持ったのか?

入先生にお話を伺って、その答えはこれからご紹介する3つのポイントにあるのでは、と思いました。

1.なにが目標かわかって行う実験

中等部の理科では、実験の前に「実験ルーブリック(※注釈)」という紙を配布します。ここには、その日の実験の目標や評価の観点などが記載されているので、生徒たちはやるべきことが明確になった上で実験を行います。そして実験終了後に、「実験ルーブリック」の達成度を自己評価します。

下の写真をご覧ください、「考察」の目標項目には「人に説明することができる」とあります。この実験を行う目標は“水圧と水の深さの関係について人に説明できる”ようにすること。わかりやすい目標です。

※入先生によるとルーブリックとは、指針という意味。

実験ルーブリックは、「どちらでもない」と曖昧な自己評価にならないよう4段階評価になっている

理科に苦手意識を持つ最大の理由は、実験の目的がわからない、何をしていいのかわからない、というところにあるそうです。生徒はずっとかたわらにルーブリックを置いて、目標を確認しながら実験を行います。

以前は、レポートが白紙の生徒や、友達のレポートを写したり班員に任せがちだったりする生徒もいましたが、「実験ルーブリック」を導入してからは、何をしていいかわからない、という生徒はほとんどいなくなったそうです。その結果、レポートの質も上がったといいます。

また、実験後の自己評価によって、自分の弱点や理解できていないところが明確になるため、先生に質問したり、その分野について調べてから次の授業に臨んだりする生徒が増えたそうです。

2.全員参加で、一体感と学習意欲を高める実験

中等部3年生のとある物理の授業では、1番から40番までの生徒がそれぞれ異なる条件下(40人がそれぞれ異なる質量の台車で実験したり、異なる斜面の角度で実験したりします)で実験を行い、その結果を自宅でパソコンを使って、「スプレッドシート」(※注釈)に入力します。

40人全員のデータが集まると、ある一定の法則が見えてくるので、それを元に考察し、レポートを作成します。

※「スプレッドシート」とは: Googleが無料で提供している表計算ソフト。複数の人が離れた場所からアクセスし、同時に編集することができる。


実際に使ったスプレッドシート  ※生徒は色のついた列にデータを入力します。

入先生曰く、理科に苦手意識がある生徒は、実験への参加意識が薄くなりがちとのこと。

そこで、パソコンなどのツールをうまく活用して、全員参加型の実験を実施したそうです。

スプレッドシートは複数人が同時に開けるので、誰かが入力していると「〇〇ちゃんが今入力した」というのが分かり、みんなで同じことをしているという一体感、共有感が強くなるようです。自分も入力することで、実験に参加している意識が高まるため、学習意欲の向上にも繋がっているそうです。

実際、入力したデータを見て自分の班のデータが全体の傾向と違うことに気づき、実験のやり直しを希望した生徒たちもいたそうで、学習意欲が高いことが伺えます。

この実験の特徴は、学校→家→学校と長時間にわたって反芻することで、興味を持続させたり、長期的な記憶に繋げたりしている点です。

反復、反芻することで学習効果が高まることはよく知られていますが、一方で反復や反芻は根気が必要なつらい作業です。

本来であれば辛い作業になりがちな学習を、自然に楽しみながらできるということが効果を上げている原因のひとつではないかと思います。

また、別のメリットもあります。あらかじめ自宅でパソコンに入力しているため、授業では集計作業が不要となり、考察に時間を充てられます。そのため、じっくりと検証する力や思考力を養うことにも繋がっているようです。

3.教科をまたいで考える授業

「ビデオデッキを分解したことありますか?」ビデオデッキの基盤を持つ笑顔の入先生

田園調布学園には、複数の教科をまたいで行う授業がありますが、中でも興味深いのが、物理と数学の先生がタッグを組んだ、高等部の授業です。

まず1時限目に、数学の先生が、大学で学ぶ高度な方程式を教えます。そして2時限目の物理の実験では、先に習った方程式を使って電気容量を求める、という教科横断型の授業です。

物理の知識だけでは正確な理論値を出せませんが、数学の知識を掛け合わせることで、より正確な数値が出せるそうです。

授業後、生徒たちに感想を聞いたところ、自分たちの持っている数学の知識で物理の問題を解くことができたことに驚いたり、教科間の壁がないことに気付いたり、より広い視野で問題を捉えたりするようになった、といった声が多かったようです。

ある生徒は、この授業がきっかけで、物理で表されるグラフが数学的にはどういう式で表されるんだろう、と考えることにも注目して勉強するようになったそうです。結果、どんどん学力を伸ばして、理系のトップ校である東京工業大学に進学しました。

入先生のわかりやすい説明を、動画でご覧ください!

生徒が、この授業を機に大きく成長したエピソードも話してくださいました。

「数学と物理には壁がない」 生徒の探究心を引き出した教科横断型授業

3 教育図鑑編集部から

今回取材した授業は一見シンプルに見えるかもしれません。しかし実際はインストラクションの基本構成を踏まえた合理的な授業構成だと思います。

※インストラクション:受け手が理解できるように説明することとその方法。受け手ができるようになるように/行動を起こすことができるように説明することとその方法。現在では、単に“教える”“説明する”だけでなく、一般的なコミュニケーション・情報伝達においても重要な手段・能力とされている。

インストラクションの基本構成は、

1.送り手(givers)、

2.受け手(takers)、

3.コンテンツ(content)、

4.チャンネル(channel)、

5.コンテクスト(context)

の5つで成り立っているのですが(R.S.Wurman,1994)、

今回例に挙げた授業にはこの5要素それぞれの明確な把握と、5要素を組み合わせる工夫があるように思いました。

田園調布学園における5要素のポイントは以下のとおり。

1.送り手

教育内容の伝え方(=教え方)の練度、 “送り手チーム” 共同する先生方の力量に対する信頼

2.受け手

“どのようなプロセスをたどらせると理解するのか”、など生徒の性質・特徴の把握

3.コンテンツ

「伝えるべきこと」「理解してほしいこと」「覚えつづけていてほしいこと」などの把握と“送り手チーム”内での目標共有

4.チャネル:

ネットワーク上で共有されたスプレッドシートなどツール特性の理解

5.コンテクスト:

教室→自宅→発表の場という場面の移り変わりと、そこで交わされるコミュニケーション【共感】と発見【驚き】、興味を持続させる仕組み。

※一般にコンテクストは文脈と訳されますが、インストラクションにおけるコンテクストは、メッセージが交わされたり届けられたりする「場面」と「背景」を含んでいます。

我々編集部はイー・ラーニングe-Learningの分野を中心にブレンディド・ラーニングblended-Learningなど比較的新しい教育手法を検証してきました。(田園調布学園の事例はブレンディド・ラーニングに分類されます。)しかしながら、中学、高等学校で行われている授業の場合、企業などで行われているセミナーをそのままコピーした内容や、パソコンやインターネットの要素を付け加えたに過ぎない授業などが多く見られることは否定できません。

それに対し田園調布学園の試みはインストラクションの基本に則った上で、インターネットやPCを効果的に取り入れた決して多くない成功例ではないかという感想を持っています。

成功の理由は、授業設計された先生方がインストラクションの基本構成の1〜5の要素の重要性を把握されていることにあるのでしょう。特に生徒の特質“どのようなプロセスをたどらせると理解するのか”についての深い理解があることから、今後も効果的なブレンディド・ラーニングが数多く生まれる可能性があると思います。

e-Learning:パソコンやインターネットなど情報技術を用いて行う学習の方法。

blended-Learning:集合研修とeラーニングを組み合わせ、双方のメリットを活かした研修や学習の方法。

(教育図鑑編集部・久保 彩)

4 教育図鑑編集後記

田園調布学園の授業には、理科に苦手意識を持たせない、理科を好きになってもらう、そんな工夫が沢山散りばめられていました。

先生たちの工夫のおかげで、田園調布学園の生徒たちには理系に対する抵抗感がないのでしょう。

中学生の頃、よく父親に数学を教えてもらっていて、それを当たり前に思っていました。しかし、理系科目が苦手な私は、子供に教えるなんて到底できません。

もし田園調布学園の面白い授業を受けていたら、理系科目を好きになって我が子に教えていたかもと思うと、田園調布学園の生徒たちがちょっぴり羨ましいです。

苦手意識が強まるか払拭できるかは、本人の努力だけじゃなくて、先生がどれだけ面白さを教えてくれるかが重要な気がします。

田園調布学園では理科が苦手な生徒の傾向をしっかり把握し、その具体的な対策も為されているので、苦手意識を壊す効果があると感じました。

ほかにも、私が学生だった頃はパソコンを使った授業はほとんど無かったので、パソコンやアプリを積極的に活用しているのが新鮮でした。

田園調布学園では、中等部1年生でもパワーポイントなどを使って資料作成やプレゼンテーションをしており、若いうちから将来必要なスキルが身に付けられる恵まれた環境です。

そして、何より印象的だったのは、先生たちが生き生きしていること。

授業でハンダ付けした部品を受験のお守りにしていた生徒のエピソードや、生徒たちの課題研究の様子など楽しそうにお話しされていて、こちらまでパワーをもらう、そんなインタビューでした。

ハンダ付けにまつわる、生徒と先生のほっこりエピソード

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