外国人児童のいる教室3国際教室での指導と支援~すべての子どもが成長できるように~(教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー第39回 菊池聡先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われたインタビューを記事化したものです。

2021年3月に小学館より発刊された『学級担任のための外国人児童指導ハンドブック』の著者であり、長年、外国人児童への日本語教育と支援に取り組む菊池聡先生に、日本における外国人児童生徒への関わりについて伺いました。
(2021年3月21日取材)

本インタビューは、4部構成です。

  1. 外国人児童の多様化する背景と未来
  2. 外国人児童のいる学級づくり
  3. 国際教室での指導と支援
  4. 多文化共生教育が盛んな国と日本の違い

表記「外国人児童」について

本記事で取り上げている、日本語指導を必要とする児童生徒の中には、「外国籍児童」のみならず、「外国につながる児童(外国にルーツがある日本国籍児童)」も多くいます。文部科学省では、「外国籍及び外国につながる児童」と定義づけしていますが、その両方を総称する呼び名はありません。

菊池先生の著書では、このような背景を踏まえ、「外国籍及び外国につながる児童生徒」を「外国人児童生徒」、またそのうち小学校に通う学齢期の子どもについて、「外国人児童」という呼称を用いています。本記事でも、それにならい、「外国人児童」の表記を使用します。

2 国際教室での指導と支援

国際教室はどんな先生が担当していますか。

私が勤務している自治体では、外国籍及び外国につながる児童生徒数(小・中・義務教育学校、R2.7.1現在)が1万人を超え、国際教室を担当する教員の配置校数が約170校(R2現在)と4年前の80校(H28現在)から倍に増加しました。教室の担当者も児童の数に応じて配置できるようになりました。しかし、担当者に特別な資格や条件が決められてないため、年度を跨いで継続して担当することが確約されているわけではありません。したがって学校によっては、長く指導に関わってきた非常勤講師やボランティアの協力がなければ成り立たない現状の学校もあるようです。

外国人児童生徒の日本語の習得や教科指導、不適応等の問題等に配慮するため、国際教室や日本語指導教室を設けている。取り出し指導や補充的な指導、チームティーチングによる指導など、様々な指導形態によって日本語指導や適応指導等を行う。

教育の特別区の中には、外国籍でも教員になることができる自治体もあると聞いたことがあります。公務員として採用されて、ポルトガル語で日本語の指導や支援ができるんですよ。このように、日本語指導に関わる資格や条件を少し柔軟にしてほしいなと思っています。

私は、教員免許はありますが、民間の日本語学校で指導することはできません。このあたりを文科省と文化庁がうまく連携できるといいですよね。

文化庁からの派遣教員として日本語教師の条件を持っている人が子ども達の指導をできるようにするのはどうでしょうか。逆に、国際教室を10年経験した先生は日本語教師の資格が取得できるようになれば、日本語学校で日本語指導の経験を積むことができ、先生の勉強にもなります。このような省庁を超えた免許制度の改革を期待したいです。

現在、日本語教師としての資質・能力を証明するための条件として、一般的に以下の三つが挙げられる。

・大学の日本語教師養成課程修了

・日本語教師養成研修(420単位時間以上)修了

・日本語教育能力検定試験合格

日本語指導では、どのような教材を使っていますか。

外国人児童が多く在籍している外国人集住地域である愛知県、静岡県、三重県、神奈川県大和市などでは、独自で日本語テキストや教材を作成している自治体もあります。日本語が話せない児童が入学、転入してきた時にどんな教材を使って何を教えるかというカリキュラムも用意されています。

東海地区に多いスペイン語やポルトガル語圏の児童向けの日本語テキストでは、登場人物の名前に「カルロス」や「ロベルト」のような馴染みのある名前が使われています。「おはようございます」のような挨拶のコミュニケーションから始まり、学校生活で使う日本語の学習を通してどんどん学んでいく。

外国人児童が少ない分散地域では、一般化された日本語テキスト(「ひろこさんのたのしいにほんご」など)を使って、専門性のない教員も日本語の指導ができます。

外国につながる子供向けの教材が知りたい!(文部科学省)

ひろこさんのたのしいにほんご

日本語指導において大切なことは何ですか。

ただ、日本語テキストを順番に行う学習は、児童にとっては興味や関心がない話題であることがあります。学習内容を設定する際には、子ども自身にとって必要性がある話題であることが、日本語をより定着させるためには大切なのです。

学校での子ども達の様子を見て、教材を選ぶことが大切です。例えば、友達に誘われたのに、上手く返事ができなかった場面を見つけたら、「誘いに対する返事の仕方」の場を設定して、体験を通して日本語の学習をします。日本人の子ども達には、「〜君はこれを勉強したから、今度遊ぼうって誘ってみてくれる?」と伝えたりします。

このように、子ども達の生活に即した場面を想起し、体験を通してその場にふさわしいことばを学ぶことによって、より日本語が定着するのです。日本語を学習する際には、学校や学級での具体的な生活の場面や様子を想起して学習を組み立てることが大切になります。また、そのような場面を意図的に作ることも必要です。

全人教育としての日本語指導

今後、子ども達は生活の中で日本語を使って買い物もするし、電話をすることもあるでしょう。小学校を卒業したら、携帯電話を持って日本語でメッセージを打ちます。アルバイトをしたい時には、履歴書を書かなければなりません。時には、気持ちを伝える「ラブレター」を書くこともあるでしょう。このように、日本語を教えるということは、ただ単にことばや文法を教えるのではなく、子ども達の数年先、数十年先の日本語を使った生活を想像してカリキュラムを組んだり、指導したりすることが大切になってきます。つまり学習者の生活の全てを意識することが、「全人教育」としての言語教育、日本語教育の重要な要素であるのです。

「日本語指導担当教師の役割」(外国人児童生徒受け入れの手引き 第3章)

3 プロフィール

菊池 聡(きくち・さとし)


神奈川県公立小学校教諭(国際教室担当)
学校という組織の枠を超え、幼稚園・保育園から中学・高校との連携、地域のボランティア団体などとの協働を進める。多文化共生と、日本語教育を含めた子どもたちの教育、という視点から地域づくりに取り組む。

4 著書紹介

『学級担任のための外国人児童指導ハンドブック』著/菊池 聡

外国人児童のいる教室で起こりがちなトラブルやエピソードを4コママンガで紹介しながら、外国人児童指導における様々な悩みに具体的に答え、全ての子供がともに学び成長していける教室をどのようにつくればよいかを易しく解説しています。

日本語がわからない子供とのコミュニケーションの取り方や日本語指導、学習指導、外国人児童のいる学級のつくり方など、具体的な指導アイディアも満載で、多文化共生時代の学級担任の強い味方となる1冊です。

試し読みはこちらから

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  4. 多文化共生教育が盛んな国と日本の違い

外国人子女教育、帰国・外国人児童生徒教区等に関するホームページ

外国につながりのある児童生徒の学習を支援する情報検索サイト

生活者としての外国人のための日本語学習サイト

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