外国にルーツを持つ子育て家庭に情報を!~NPO法人キッズドアの新サービス「ことこと」~

0
目次

はじめに

 この記事は、2023年3月10日に行った、認定NPO法人キッズドア 木村聖子さん・髙橋信弥さんへのインタビューを記事化したものです。

 2022年12月にプレスリリースされた、外国にルーツを持つ子どもの保護者の方に情報を発信するWebサイト「ことこと」について、詳しくお話を伺いました。外国にルーツを持つ子ども・保護者に関わるすべての方と共に考えたいテーマがつまっています。

◎こんな人におすすめ!

  • 外国にルーツを持つ子どもの受け入れに、不安を感じている先生
  • 外国にルーツを持つ子どもやその保護者の方とのコミュニケーションに、苦手意識を持っている先生
  • 学校と外国にルーツを持つ家庭をつなぎたいと考えている支援者の方

 本インタビューをもとに具体的な支援方法をまとめた記事も公開しています。外国にルーツを持つ家庭を受け入れる際のヒントをすぐに知りたい方は、下記の記事をぜひご覧ください。

1 「ことこと」とは

 「ことこと」は、日本の学校と子育てにまつわる情報を、外国にルーツを持つ家庭に向けて発信するサービスです。すべての子どもと、その成長を育むすべての家庭が、子育てや学びをフェアに楽しむことができる社会を目指して作られました。

 日本の学校特有の文化を、「やさしい日本語」「英語」「中国語」の3つの言語で紹介しています。外国にルーツを持つ保護者の方だけでなく、学校の先生や支援者の方も便利に使うことができます。詳しくは下記サイトをご覧ください。

2 「Webサイト」だから、気軽に頼れる相談相手に

 日本の学校は、外国に比べて特徴的なところがたくさんあります。例えば、すべての持ち物に名前を書いたり、給食費を払ったりということです。日本の学校はお金、時間、手間のすべてがかかり、日本人の保護者の方でも苦労することがあります。

 さらに外国にルーツを持つ家庭は、日本において「経済」や「文化」、「社会関係」といった資本につながりにくいです。そのため、お金や情報、時間、人間関係といったものが不足していることが少なくありません。私たちは、こうした家庭の保護者の方を支援するために、誰もがアクセスしやすいWebサイトでの情報提供が必要だと考えました。

 「ことこと」が作られた背景には、日本の文化に馴染みがない外国にルーツを持つ家庭を支援するツールを作りたいという思いがあります。「ことこと」は、みんなが気軽に頼れて、悩みを話すことができる相手になりたいと思っています。

3 自分の中の「あたりまえ」を乗り越えたい

 日本で生まれ育った私たちは、日本の学校文化をあたりまえのものとして捉えています。自分自身の中に「あたりまえ」を持っていることが、サイトを作るうえで常に障壁となりました。この障壁を乗り越えるために、日本の中にある慣行をあたりまえだと思わずに分かりやすく文章化することを意識しています。

 具体的には、2つの工夫があります。1つは、「やさしい日本語」のような分かりやすい言葉を使うということです。使う漢字を小学校低学年に習うもののみにしたり、漢字すべてにルビをふったり、複雑な敬語を使わないようにしたりしています。もう1つは、外国語への翻訳をすべて人の手で行うことです。これは、機械が翻訳すると文章が分かりづらくなってしまうことがあるためです。

4 支援者の言葉を、誰もがアクセスできるかたちで

 プレスリリースをするとすぐに、外国にルーツを持つ方を支援する団体や、その他関係団体の方からたくさんの感謝の言葉を頂きました。その理由は、外国にルーツを持つ方と直接関わる支援者の方が持っている細かな「差分」を言語化できたためだと思います。

 例えば「お弁当」は、日本の学校特有の文化です。海外では、「お弁当」は独自の食文化として捉えられて商品として売られています。そのため、先生から「お昼ご飯に、お弁当を持ってきてください」と言われた外国にルーツを持つ保護者の方は、売り物に匹敵するクオリティのものを作らなくてはいけないと勘違いしてしまうことがあります。

 外国にルーツを持つ保護者の方が知りたいことは、「子どもに持たせるお弁当は、それほど気張って作らなくて大丈夫である」ということかもしれません。保護者の方は自分が困っていることを言語化することが難しく、外国にルーツを持つ方の支援に慣れていない先生が保護者の方の困り感を的確に把握することも難しいです。

 一方で支援者の方は、保護者の方が何に困っていてどんな情報を欲しているかをよく理解しています。そして「ことこと」は、誰もがアクセスできるかたちで支援者の方が提供するような情報を掲載しています。外国にルーツを持つ保護者の方へ日本の学校文化を説明するときや、普段のおしゃべりの種として使っていただきたいです。

5 学校の先生へメッセージ

 最初は相手のことが分からないということを前提にして、伝えたり理解しようとしたりすることがとても大切です。持っている「あたりまえ」はみんなそれぞれ違いますし、文化や言葉が異なればなおさら違います。分からないことだらけの中で、何か一つでも伝えたり分かったりしようとする姿勢を持つことで、お互いを尊重し、尊敬する気持ちも生まれるのではないでしょうか。「違う」ということをお互いに「かっこいい」と思えるようになるといいなと思います。

 また「ことこと」のような情報サービスが、多様性を考える入口になってくれたらうれしいです。「ことこと」の情報を見ることで多様な「あたりまえ」を感じたり、実際に外国にルーツを持つ方とコミュニケーションを取ってみたりしてほしいです。

6 関連記事

外国にルーツを持つ子どもを受け入れるときに知っておきたい! 保護者対応の4つのこと

 今回のインタビューをもとに、具体的な支援方法をまとめた記事です。外国にルーツを持つ家庭を受け入れる際のヒントをすぐに知りたい方におすすめです。

外国籍の子ども・外国にルーツを持つ子どもへの支援〜今できること、知っておきたいこと

 文教大学国際学部国際理解学科 准教授 孫美幸先生(2022年3月9日時点)へのインタビューを記事化したものです。学校の先生が実践できる外国にルーツを持つ子どもの支援について伺いました。

外国にルーツのある子どもへの学習・生活支援 ~Minamiこども教室の取り組み

 外国にルーツを持つ子どもの支援を行うMinamiこども教室へのインタビューを記事化したものです。Minamiこども教室は「教室活動」「生活支援」「発信活動」「次世代育成」に重点を置いて活動しています。記事には、学校の先生が外国にルーツを持つ子どもの支援を行う際のヒントもつまっています。

「外国人児童のいる教室」シリーズ(教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー第39回 菊池聡先生)

 横浜市立小学校教諭 菊池聡先生(2021年3月21日時点)へのインタビューを記事化したシリーズです。外国にルーツを持つ子どもが増えている背景から、実際の支援海外の多文化共生教育に至るまで、多様なトピックを扱っています。

7 プロフィール(2023年3月18日現在)

情報サービス「ことこと」

日本で暮らす海外ルーツの子育て家庭をサポートする情報サービス。「やさしい日本語」、英語、中国語の3か国語で展開されている。

認定NPO法人 キッズドア

2009年設⽴以来、⽇本の⼦どもの貧困課題の解決に取り組む。困窮家庭の⼩学⽣〜⾼校⽣・⾼校中退した若者を対象に、無料学習会や勉強とともに⾷事等の⽣活⽀援も⾏う居場所型学習会を展開する。2022年に情報提供サービス「ことこと」を開設した。

木村 聖子(きむら・せいこ)

 認定NPO法人キッズドア 調査室 専門社会調査士。情報サービス「ことこと」チーフディレクター。レコード会社、広告制作会社などを経て、2012年にフリーランスになる。現在は働きながら、大学院にて社会学の視点から貧困について研究している。

髙橋 信弥(たかはし・しんや)

 認定NPO法人キッズドア 事業戦略部 部長。2020年 同団体に入職。江戸川区共育プラザ中央の立ち上げを行い、同施設の館長を務めたのち現職。

編集後記

 今回の取材を通じて、困っているけれど支援が受けられていない人々に、どのように支援を届けるか考える必要性を強く感じました。外国にルーツを持つ家庭に限らず、「誰に話せばいいか分からない」「困っているのは私だけかもしれない」と1人で悩みを抱える人はたくさんいるのかもしれません。彼らの困りが顕在化しないから放っておくのではなく、少しでも多くの人に手を差し伸べられる状態を作りたいと思いました。また学校という場を、子どもやその家庭の多様な困りを発見し、手を差し伸べるきっかけになるような場所にしていきたいとも感じました。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 柳川悠月)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

興味がある分野は、平和教育・国語教育・日本語教育です。2か月に1記事を目標に頑張ります。ねこを飼っています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次