外国にルーツのある子どもへの学習・生活支援 ~Minamiこども教室の取り組み

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目次

1 はじめに

本記事は、外国にルーツのある子どもへの支援などを行っているMinamiこども教室の実行委員、原めぐみさんへのインタビューを記事化したものです。(取材は2021年10月23日に実施)取材では主に、外国にルーツのある子どもへの学習支援・生活支援についてお話をお聞きしました。

2 Minamiこども教室とは

設立のきっかけは外国籍女性による実子刺殺自殺未遂事件

Minamiこども教室は、2012年に大阪中央区で起きた外国籍女性による実子刺殺自殺未遂事件をきっかけに設立されました。中央区は従来から外国人が多い地域でしたが、大阪市内の他の区に比べると外国人に対する突出した支援がないことがこの事件で明らかになり、具体的なアクションができる団体としてMinamiこども教室が設立されました。

設立当初は支援対象を小学校3年生から小学校6年生の10名に限定していましたが、徐々に拡大していき、2021年3月時点では小学生50人、中学生34人、高校生15人、その他2人の101人が登録しています。

4点を軸にしたMinamiこども教室の活動

Minamiこども教室は、「教室活動」「生活支援」「発信活動」「次世代育成」に重点を置いて活動しています。まず、「教室活動」では教室で子どもの学習や進路支援を行うほか、小中学校との連携、教育委員会や文部科学省への提言にも力を入れています。次に、「生活支援」では在留資格や生活困窮などの問題に対して、同行支援、専門機関や役所との連携・協力を行っています。また、「発信活動」では、Minamiこども教室での取り組みを積極的にメディアで発信することを心がけています。さらに、「次世代育成」においては、大学生ボランティアや見学者を積極的に受け入れています。

3 外国にルーツのある子どもへの学習支援

自己肯定感を上げるためにも学習支援が大切

外国にルーツがあることに引け目を感じる子どもは多いです。「ハーフあるある」で盛り上がる様子も見られますが、やはり何か感じるところはあるようです。家庭の経済力などから将来を悲観してしまう傾向もあります。

そうした子どもの自己肯定感を上げるには、自分だけを見てくれる環境が大切です。そういった観点からも、Minamiこども教室では設立当初から一対一の支援を行っています。1年ほどで大阪弁を喋れるようになる子どもでも、読み書きになると5年から7年ほど学習しなければ完全には習得できないと言われています。そこで、本読み一つにしても、きちんと聞いてもらい、分からないところは尋ねることができるような環境づくりを心がけています。

ほかにも週に1回の宿題支援では、家庭環境の関係で宿題をする時間が取れず、学習に前向きになれない子どもなどが、週に1日だけでも宿題で花丸をもらい、自己肯定感を上げることをねらいとしています。

外国にルーツのある子どもへの受験サポート

大阪では、同和教育や在日外国人教育を行ってきたという歴史もあり、「15の春を泣かせない」というスローガンを掲げて、中学校教員や教育委員会が外国にルーツのある子どもへの受験サポートを丁寧に行っています。そのような大阪でさえ、外国にルーツのある子どもの高校進学率は7割から8割で、日本がルーツの子どもと比べてまだまだ格差があります。

その原因として、外国にルーツのある子どもには受験に関する情報が不足しているということがあります。そのためMinamiこども教室では、中学校3年生の保護者を対象にガイダンスを行い、私立・公立の違い、奨学金制度、専願・併願の仕組み、学校の特色、外国にルーツのある子どものための入試制度などの情報を提供しています。

4 外国にルーツのある子どもへの生活支援

学習支援だけでなく、背景に迫る支援も

Minamiこども教室は設立当初から、子どもの学習だけでなく、生活も見ていくことを方針としています。具体的には、24時間体制で動くことのできない学校に代わり、土日や夜間のSOSに対応してきました。

ここには大阪市立南小学校との連携も関わってきます。先ほど述べた外国籍女性による実子刺殺自殺未遂事件で亡くなったのは、南小学校の児童でした。この事件を受けて南小学校も、学校だけでは抱えきれない大きな問題の存在に気づき、地域やNPO法人に協力を求めるとともに、情報をオープンにしてくれました。これをきっかけに、南小学校とMinamiこども教室との補完関係が築かれたと思います。

また、このような方針の源流には、同和教育や在日外国人教育があると思います。南小学校の元校長先生は人権教育をご自身の信念としてこられた先生で、また、Minamiこども教室の実行委員長である金光敏は在日コリアンの3世として在日コリアンの社会運動に関わってきました。この2人の活動に共感したスタッフがこの方針を引き継いで活動しているという一面もあります。

コロナ禍による支障は主に生活面に

外国にルーツのある子どもを持つ多くの家庭では、普段から、外国にいる親戚とSkypeなどで連絡を取っていたこともあり、オンラインの環境は比較的整っていました。そのため、コロナ禍の学習面への影響はそれほど大きくなかったと思います。しかし、生活面には支障が出たようです。休校によって食生活や生活習慣が乱れた子どもがいました。また、保護者の多くが飲食店やホテルなどで働いて生計を立てていたので、家計への影響も大きかったと思います。

5 先生ができること

外国にルーツのある子どもと関わる先生は積極的に情報収集を

外国にルーツのある子どもと関わる先生は自ら情報にアプローチすることが必要だと考えます。在留資格やビザによって子どもが奨学金を取れるかどうかが変わってきたり、進路指導ひとつ取っても、日本にルーツのある子どもと同じように指導することは難しかったりするからです。そのため、Minamiこども教室では、外国にルーツのある子どもと関わる際に必要な情報を少しでもアップデートできるような教員研修を主催しています。

6 最後に

外国にルーツのある子どもの学習や生活の支援に困っている先生は、Minamiこども教室(minami.kodomo.k★gmail.com)までお問い合わせください。
※お問い合わせの際は、メールアドレスの★を@に変えて送信ください。

Minamiこども教室実行委員長金光敏さんの著書『大阪ミナミの子どもたち:歓楽街で暮らす親と子を支える夜間教室の日々』

7 プロフィール

原めぐみさん

Minamiこども教室副実行委員長、和歌山工業高等専門学校准教授
 2016年博士号取得(大阪大学・人間科学)。共著に『多文化共生の実験室:大阪から考える』(2022年)、論文に「ヤングケアラーになる移民の子どもたち:大阪・ミナミのケーススタディ」(『多民族社会における宗教と文化』2021年)。

8 編集後記

原さんへのインタビューを通して、Minamiこども教室が外国にルーツのある子どもの困難に真摯に向き合い、一人ひとりをサポートしてきたことがわかりました。現在、日本の学校に通う外国にルーツのある子どもの数は増加傾向にあります。表には見えにくい彼ら特有の問題にしっかり対応していくことが、今後の教育現場では一層大切になるのではないかと考えました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 萱場)

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