外国籍の子ども・外国にルーツを持つ子どもへの支援〜今できること、知っておきたいこと〜

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目次

1 外国にルーツを持つ子どもに、先生は何ができるか

ロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降、現地での厳しい状況が日々ニュースで報道され、多くの人の関心を集めています。このような状況で重要になるのが、外国にルーツを持つ子どもたちへの配慮です。現在、日本には12万人以上の学齢相当の外国人の子どもがおり、外国にルーツを持つ日本国籍の子どももたくさんいます。しかし、彼らを取り巻く状況には多くの課題があります。

外国にルーツを持つ子どもたちに対して、教育現場ではどのようなサポートができるのでしょうか。多文化共生教育やホリスティック教育などを研究しておられる、文教大学国際学部国際理解学科准教授の孫美幸先生にお話を伺いました。本記事はその際のインタビューをまとめたものです。
(インタビュー日:2022年3月9日)

2 外国にルーツを持つ子どもたちの困難

外国にルーツを持つ子どもたちは、さまざまな障壁に直面しています。それらをどうにかして一つ一つ取り除いていくことが大切です。

言語の壁

まず、一般的に言えることとして、言語の壁があります。会話に使っている言葉・学校で使われる言葉・自宅で使っている言葉がすべて違うと、それだけで子どもにとっては非常にストレスなんです。子どもが学校で日本語で会話できていたり、通訳の支援が入っていたりすると、それだけで先生も安心してしまわれるかもしれません。しかし、そうではなく、表面上は見えない壁の部分をどこまでサポートしたり、聴いたりできるかということが問われると思います。

文化の壁

また、文化的な壁もあります。給食一つとっても、宗教的な理由に限らず、文化圏が異なると食べられないものがあります。中国から来た知人は味噌汁が食べられなくて悩んでいましたが、学校では一律で「残してはいけません。全部食べましょう。」と指導されていて、仕方なく牛乳と一緒に流し込んでいたそうです。「味噌汁はもう飲まなくていいよ。」と言われていたら、彼女はどれだけ楽だったか……。だから、学校の裁量で支援できる部分に柔軟に対応できたら良いのにな、と思いますね。

手続きの壁

さらに、子どもに限りませんが、さまざまな手続きの壁があります。私は日本で生まれ育った特別永住者なのですが、それでも手続きは非常に大変です。例えば、何かしらの更新手続きの際に韓国から戸籍を取り寄せるんですが、韓国語のままだと役所の方が読めないので、申請者自身で、または翻訳料金を払って第三者にお願いして日本語に翻訳する必要があるんです。外国から移住した、永住者でない人はもっと大変だと思います。だから、細々した手続きにNGOが付き添ってくれるなどのサポートがあれば、それだけでもすごく助かります。

3 ロシアやウクライナにルーツのある子どもへの支援

外国にルーツを持つ子どもへの差別

ロシアやウクライナにルーツを持つ子どもの現状のように、ルーツの国が有事の際や、ネガティブなイメージを持たれてしまったとき、子どもたちは更なる困難に直面することがあります。昔から、そのような国にルーツを持つ子どもに対して、あからさまな差別が行われてきました。例えば北朝鮮の核に関して報道された際に、朝鮮学校の女子生徒の制服のチョゴリが切られるような事件が数多く起きていたんです。そのようなあからさまな暴力に対する防御の意味もあって、今では通学の際にチョゴリの制服を着ることはなくなっています。

また、暴力に限らず、小学校などでは名前に関するからかいもすごく多いですよね。大学生になっても、小さい頃に名前をからかわれたことを覚えている子もいます。そして、現代のネット社会ならではの怖さもあります。子どもたちがネットやメディアで発されてる情報を鵜呑みにして、言葉に出してしまうんですね。

外国にルーツを持つ子どもへの差別に対する対応

こうした差別に対して、まず大人たちが毅然とした態度できちんと言うことはとても重要です。偏ったニュースなどをそのまま鵜呑みにしないということや、目の前にいる子どもたちの存在そのものはすごく大事だということを伝えるんです。

そして、子どもたちがものごとを複数の視点から見られるようにサポートする必要があります。ただ、学校の先生は本当に忙しいので、学校で全て担うのではなく、コミュニティの知恵を借りることが大事です。NGOや相談機関は、これまでの対応の仕方などさまざまなノウハウを持っています。どの地方自治体にも、国際交流協会という組織があると思うのですが、相談事業や異文化理解、手続きの際に役所に付き添うボランティアの派遣など、幅広く活動しています。行政による発信が偏っていてあまり認知されていないかもしれませんが、本当にノウハウを持っているので、学校の先生方もぜひ繋がっておくべきだと思います。

研究者として現場の実践に関わっていると「もっと学校をこうした方がいい」と簡単に言っていたんですが、保護者になってみて、学校の先生はものすごく細かく一人一人の子どもをケアされているなと感じるんです。だからこそ、先生たちの負担をこれ以上増やすと本当に倒れてしまうし、広く助けを求めて、繋がって知恵を出し合ってサポートしていくことが大事だと思います。

4 避難民への支援

今後日本でウクライナからの避難民を受け入れていくことになった場合、避難民に対する支援が求められます。避難民に対するケアは、緊急のケアと長期的なケアで内容が異なってきます。今戦火を逃れて来る人たちは極限の状態で、ものすごく怖い思いをしてる子どもたちも多いはずです。彼らには、まず緊急のケアとして、母語と母文化でホッとできる環境が必要です。

日本は災害の経験が多くあるので、いわゆる難民ではないけれど、住む土地を追われたり、すごく怖い経験をしたりした際の支援に関するノウハウを持っていますよね。自分が避難民だったら何が必要で、大変な状況の経験で何が役に立ったかを自分たちの視点から考えることがすごく大事だと思います。

そして、避難民の子どもが学校に来たなら、そこでもホッとできる空間を作ってほしいと思います。学校でも、保健室や相談室などさまざまな逃げ場がありますよね。「朝1、2時間目は保健室にいて、みんなで遊ぶ時間は一緒に過ごす」など、学校なりに融通を利かせていただけたら子どもはすごく安心すると思います。

5 最後に

ロシアとウクライナの問題に関して、学校の先生方には、自分たちがどれだけロシアとウクライナのことを知ってるだろうか、ということを考えてほしいです。ロシアもウクライナも一枚岩じゃなくて、多民族多言語多文化国家です。同じ国でもどの地域なのかによって、背景も違うし、言葉も違う。こうした多様性があるということをわかって接してほしいと思います。

6 プロフィール

孫美幸先生
文教大学国際学部国際理解学科 准教授。2000年京都市公立中学校で初めての外国籍教員として採用。2004年退職後大学院に進学し、2010年立命館大学大学院社会学研究科博士課程修了。2019年より現職。多文化共生教育を学校の先生方と一緒に創りながら、「境界」に生きる自分のアイデンティティや暮らしを家族や友人たちと楽しむ日々。近著に『深化する多文化共生教育 ホリスティックな学びを創る』(明石書店2020年)がある。
(2022年3月9日現在のものです。)

書籍紹介

『深化する多文化共生教育 ホリスティックな学びを創る』(明石書店2020年)

7 編集後記

自分の知らない、知り得ない困難を支援する上では、虚心坦懐に生身の当事者に向き合うこと、蓄積されてきた知見に頼ることが大切だと感じました。教える立場の人間こそ、知らないことに謙虚でありたいなと思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 横田)

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