1 はじめに
本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われたインタビューを記事化したものです。
2021年3月に小学館より発刊された『学級担任のための外国人児童指導ハンドブック』の著者であり、長年、外国人児童への日本語教育と支援に取り組む菊池聡先生に、日本における外国人児童生徒への関わりについて伺いました。
(2021年3月21日取材)
本インタビューは、4部構成です。
表記「外国人児童」について
本記事で取り上げている、日本語指導を必要とする児童生徒の中には、「外国籍児童」のみならず、「外国につながる児童(外国にルーツがある日本国籍児童)」も多くいます。文部科学省では、「外国籍及び外国につながる児童」と定義づけしていますが、その両方を総称する呼び名はありません。
菊池先生の著書では、このような背景を踏まえ、「外国籍及び外国につながる児童生徒」を「外国人児童生徒」、またそのうち小学校に通う学齢期の子どもについて、「外国人児童」という呼称を用いています。本記事でも、それにならい、「外国人児童」の表記を使用します。
2 多文化共生教育が盛んな国と日本の違い
学校は違いを排除する場所じゃない
私が茶髪にしたのは、ずいぶん前のことです。不登校気味のアメリカ系フィリピン人の子がいました。顔も髪も茶色く、「ブラウン」と言われてからかわれていたんですよ。そこで、私も髪を染めて、日焼けサロンで肌を黒くしました。そして子ども達に、「先生も色が違うけど、からかうの?そんなことは問題じゃない、人間としてもっと見ることがあるんじゃないの?」と日本人の子達に言いました。しかし結局からかわれていた子は学校に来なくなってしまいました。からかいの程度が酷く、すでに遅かったのかもしれません。
アメリカでは、学校は教育を提供するところで、洋服や身なりは気にしません。子ども達の中にはアクセサリーをつけている子もいるし、先生はコーヒーを飲みながら授業します。日本は、躾や身なりを気にして、一律に違いを排除しようとすることがあります。もし日本が他文化を受け入れるのであれば、校則なども柔軟に変えていかなければいけないと思います。
日本人も意識の持ち方で変わることができる
感染症が流行する前は、学校に黒いマスクをしてきてはいけない雰囲気がありましたね。でも今は、マスク自体が生活に欠かせないものになりました。黒いマスクはテレビでもよく見かけるので、学校につけて来ても誰も何も言わなくなりました。日本人も意識の持ち方で変わることができると思います。頑なにならず、もっと自由に、いいものを求めませんかと呼びかけています。
外国人を日本人にするのではない
例えば、習い事で言うと、日本の子達は一つの習い事に打ち込みますね。アメリカの場合、野球ができるのが9月から11月の三ヶ月間だけなので、冬にはアイスホッケーなど別のスポーツをします。いろいろなことを経験させながら人間性を高めていくという流れが、教育というか国民の意識の中にあるみたいですね。
日本では、一つのことに集中させることが多い気がしますね。日本の子ども達に、いろいろな見方や考え方を提供することが、私達教員ができることだと思っています。
外国人が日本の学校に来たら、その子を日本人にするのではなく、その子の文化を見せてもらい、私たちも体験することで、お互いにより豊かな経験を積むことができます。日本の自分達もより多様に視野を広げるチャンスなんですよね。「楽しいじゃん、いろいろな考え方があった方が」と、その子の良さを認めて一緒にやっていこうじゃないかという雰囲気づくりが大事です。
多文化共生について子ども達が自ら学び考え、解決できるように
私は、大学で授業をしたり、多文化共生の本を書いたりしています。教員を目指す世代に多文化共生の知識を伝えることで、将来が豊かになるんじゃないかという気がしています。
一番の夢は、学校の図書館に多文化共生に触れた本を置くことです。目の前に外国の子どもがいたらどうすればいいの、何をしたらいいの、という知恵を授けるような本を置きたいです。そうすることで、どの学校でも、子ども達が自ら多文化共生についての情報にアクセスし、学び考え、解決することができるになることを願っています。
3 プロフィール
菊池 聡(きくち・さとし)
神奈川県公立小学校教諭(国際教室担当)
学校という組織の枠を超え、幼稚園・保育園から中学・高校との連携、地域のボランティア団体などとの協働を進める。多文化共生と、日本語教育を含めた子どもたちの教育、という視点から地域づくりに取り組む。
4 著書紹介
『学級担任のための外国人児童指導ハンドブック』著/菊池 聡
外国人児童のいる教室で起こりがちなトラブルやエピソードを4コママンガで紹介しながら、外国人児童指導における様々な悩みに具体的に答え、全ての子供がともに学び成長していける教室をどのようにつくればよいかを易しく解説しています。
日本語がわからない子供とのコミュニケーションの取り方や日本語指導、学習指導、外国人児童のいる学級のつくり方など、具体的な指導アイディアも満載で、多文化共生時代の学級担任の強い味方となる1冊です。
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