小学校高学年のいじめは低学年のいじめとは違い、巧妙化・陰湿化します。
子どもたちの発達段階だけでなく、子どもたちを取り巻く社会環境も、いじめの巧妙化・陰湿化に寄与しています。
また高学年のいじめは、子どもたちの生命や人生に関わります。
いじめの芽を生やさない土壌、いじめの芽が出ない学級を高学年担当の先生たちは意識する必要があり、社会性を育てる視点が大切です。
高学年のいじめの原因

この章では、高学年のいじめの原因となる要素を解説します。
思春期の心理的変化
高学年の子どもは、思春期に差し掛かる頃であり、身体的、精神的に大きな変化を迎えます。
自己認識が強まり、自尊心の形成が重要な時期です。
子どもが自分に自信を持てない、または他者と異なる部分を感じると、それを外的に表現したり、他者を見下したりして自分を保とうとする場合があり、その過程でいじめが起こることも珍しくありません。
グループや集団の力関係
友達関係やグループ形成が子どもにとってますます重要になる高学年。
集団内での力関係がいじめを生む原因になります。
強いリーダーや人気者が、グループ内での優位性を保つために他の子どもを排除したり、支配的な態度を取ったりするのはよくあるいじめのケースです。
また、誰かがその集団に適応しようとするあまり、いじめの対象となってしまうこともあります。
競争心と嫉妬
学業やスポーツ、その他の活動での競争が激しくなると、他人の成功や評価に嫉妬心を抱く子どもも出てきます。
これがいじめの動機となり、優越感を得るために他者を攻撃することが起こり得ます。
優等生タイプの子、チームのキャプテン・リーダーがいじめの標的になる可能性も含まれています。
家庭環境
家庭環境が子どもに与える影響は大きいです。
家庭内でのストレスや暴力、親からの過度な期待や放任などが影響し、子どもがそのフラストレーションや不安を他の子どもに向け、いじめに発展してしまう場合があります。
SNSやネット上での影響
高学年になると、スマートフォンやPCの利用率が高まり、SNSやインターネットを利用する機会が増えます。
オンライン上での誹謗中傷や悪意のあるコメント、画像や動画の拡散などが現実世界のいじめを助長することがあります。
匿名で嫌がらせを受けるケースもあります。
ネットいじめは、学校で把握しにくく、子どもや家庭からの情報で発覚することが多いです。
高学年では、子どもたちのネットリテラシーを高める必要性が高まっています。
社会的な期待とプレッシャー
特に学業やスポーツ、中学受験など、社会が持つ期待が子どもたちにプレッシャーを与えることがあります。
プレッシャーがストレスとなり、他者を攻撃し、自分の立場を守ろうとする側面が高学年の子どもたちにはあります。
このように、高学年の子どもは思春期という発達段階に、人間関係の変化やインターネットの利用といった環境の変化が加わり、プレッシャーやストレスを抱えやすくなっています。
高学年の場合はどんなこともいじめの動機になり得るという視点で子どもと接しましょう。
高学年のいじめの特徴
陰湿ないじめが増える
高学年では以下のような陰湿ないじめが増えます。
- 物隠し
- 噂話で悪口
- ネットいじめ
先生や親にバレないように陰でコソコソといじめをするようになります。
そのため、叱責や懲罰といった外的な抑制力よりも、「いじめはいけない」「弱いものを助ける」といった子どもの内面を育てる視点が重要になってきます。
傍観者と無力感
高学年になるといじめや悪口に対して「ダメ!」と言えなくなる傾向にあります。
その理由は、以下のものが考えられます。
- 仕返しを恐れる
- 自分を守ることで精一杯
- 「大人に言ったら自分が弱いと思われる」「相手がもっとひどくなるのではないか」といった心理的な壁
これらは、子どもが成長し自己防衛を学んだ結果であるともいえます。
ただ、「あまり干渉しない方がいい」「無関心でいよう」という心理の高まりは、いじめを防止するにはマイナスに働き、多くの傍観者を生む結果になります。
また、いじめをする者は支配力が強く、無力感が周囲の子たちには漂います。
こうした支配や無力感を打破する心の強い学級・子どもを育てていくことが高学年のいじめ予防のポイントです。
高学年のいじめ予防対策
ここからは高学年のいじめ予防対策を解説します。
子どもたちのストレスを減らす
高学年の子どもたちはいろいろなプレッシャーやストレスを受けながら生活しています。
子どもたちに寄り添い、プレッシャーやストレスを軽減をする意識で生徒指導や学級経営に取り組みましょう。
子どもたちのプレッシャーやストレスを軽減すると、以下のメリットがあります。
- 安心して学校生活を送れる
- 先生や友達が話を聞いてくれる
- 学校に居心地良さを感じる
- 不安が少なくなる
「いじめをしない」というメッセージを伝えることも大切ですが、子どもたちの心の安定・安心に目を向けることも大切です。
思春期の子どもを理解する
思春期の子どもを理解するのはとても難しいです。
なぜなら、思春期は嵐だからです。
- 感情を爆発させたかと思えば、少し時間が経つとケロッとしている
- よい時と悪い時の差が激しい
- ささいなことでイライラする
こんな子どもの様子に振り回されたり、一喜一憂したりしていると疲弊してしまいます。
イライラしたり、落ち込んだりする様子を受け止めながら、共感的に子どもの気持ちを理解することが大切です。
大げさに言えば、大人を扱うように子どもと接していきます。
頭ごなしな指導ではなく、対話を通した指導を心掛けましょう。
コミュニケーションスキルを育てる
子どもたちが対話をできるようにコミュニケーションスキルを育てる視点をもちましょう。
いじめ予防に即効性はありません。
誰もがより良い人間関係を意識すれば、いじめは起こりにくくなります。
高学年では、気持ちの良い人との関わり方を学ばせましょう。
例えば、授業中にある子の発言に対してポジティブな反応(コメント)をする機会を設け、人と関わる良さを体感させていきます。
T「Aさんの発言をどう思いましたか?」
C「Aさんは、自分には無いことを見つけていてすごいと思いました」
C「つなぎ言葉を使っていて、わかりやすかったです」
現在の子どもたちは人間関係が希薄化し、良い関わり方を知らない場合が多いです。
授業を含めた日常生活の中で、コミュニケーションスキルを高め、良い関わり方を学ばせていきましょう。
人と関わる大切さよさを実感させる
良好な人間関係の築き方を学ぶと、人間関係でストレスが減り、誰とでも関われるようになります。
また、自己肯定感や学級の所属感が高まり、子どもたちの間の壁が薄くなります。
変に人と比べたり、人を羨んだりするのではなく、共に学び合い、高め合う関係へと発展していきます。
また、「自分は自分、他人は他人」といった自分も他人も大切に、適度な距離感で関わり合えるようにもなります。
ぜひ、子どもたちのコミュニケーション(対話)量を増やし、人と関わるよさを進んで実感させていきましょう。
専門家の力を借りる
専門家を招いた出前授業も高学年の子どもたちには有効です。
特にネットいじめは、学校よりも警察や弁護士、企業(通信業など)やNPO法人の方が詳しい場合があります。
学校だけの力だけでなく、地域の力も活用していじめの芽を大きくしない工夫が重要です。
高学年の先生方は「子どもを育てる」というより「人を育てる」という視点を強くするとよいです。
「人としてどのように生きていくか」「人として正しい行いとは何か」
そのようなことを子どもに考えさせ、コミュニケーションスキルと社会性を育て、いじめを予防する視点をもってほしいです。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。
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