ボディパーカッション誕生秘話 (山田俊之先生)

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作成者: 山田俊之さん

山田俊之(福岡県久留米市立小森野小学校教頭・NPO 法人ボディパーカッション協会理事長)

1.1 A男の右手を私の左手で握って授業をした

「せんせーい A男くんが暴れています!早く来て下さい」。女の子が金切り声を上げて叫んで職員室に入ってきた。これで、10日間続いたことになる。……小学校4年生の担任になって職員朝礼の時、毎日のようにクラスの子ども達が呼びにきていた。

私は慌てて階段を駆け上がって2階の教室まで全速力で行く。誰か怪我をしていないだろうか。教室の扉を開けるまでは不安で一杯になる。ドアを開けて教室を見渡すと、A男が教室のほぼ中央に立っており、その周りには誰もいない。A男を中心に同心円を描くように遠巻きにみんなが見ている。一人の女の子が教室の隅で泣いていた。A男は大きく肩で息をしてまだ興奮状態が続いている。

「どうした!」と私が開くと、A男は一点を見つめたまま冒に涙を溜めて何も答えない。周りの子ども達にどうしたのか開いてみると、A男がいつものように急に怒りだして、自分の机を蹴倒したり、いすを蹴ったりしたようだった。少し興奮状態から落ち着くのを見て、A男の肩を抱くようにして聞いた。「A男どうしたんだ」。A男は「えりちゃんが消しゴムを貸してくれなかった」とぽつりと言った。教室の隅で泣いているえりちゃんに聞いてみると「A男くんの言ったことがよく聞こえなかった」と泣きながら答えた。

A男はきつく叱ると教室から出て行き運動場を逃げ回ってしまう。数日前は私と1時間ほど学校中をデッド・ヒートした後、午前中はずっと暴れるA男の右手を私の左手で握って授業を行った。私の左手は感覚がなくなっていた。しかし、興奮が静まると何事もなかったように自分の席で給食を食べていた。

1.2 A男が集中できればみんなも楽しいはずだ!!

今から15年ほど前のことだ。私の勤務していた小学校は田畑があたり一面に広がる田園地帯の中に唯一ある3階建ての校舎である。周りに高い建物がないので、学校がすぐそばに見えていても、歩いたらなかなか着かない。のどかな農村地帯で1学年1クラスの小規模を小学校である。1年生の時からほとんど同じ顔触れだ。だから、A男のことはある程度慣れっこになっていたが、A男は小学校3年生頃から特に気性が激しくなったようだ。そんなA男を見ていて「誰もが参加できる楽しい授業をしたい!」という思いが強くなっていった。また、それが一番実現できるのは音楽の授業ではないかと考えていた。

それまで私は、音楽の先生というより、学校の体育館で社会教育として行っていた小学生の「ミニバスケットボール・クラブ」の方に熱中していた。毎日の練習はもちろんのこと、日曜日ごとに練習試合や公式戦に明け暮れていて、まるで音楽とは無関係のいわゆる体育系教師生活を送っていたのである。当時は一教師として、勉強が著手で運動も苦手を子どもはどこで自分の存在価値を見つけるのだろう、と悩んでいる頃だった。そして、A男がまさにこれに当てはまる生徒だった。音楽の時間にもなかなか集中できず、歌や合奏に興味を示さなかった。

しかしある日、私はすごいことを発見してしまった。A男が、昼休みの音楽放送の時、ポップス関の演奏に合わせて「手でリズムを取っている」ではないか!「これだ! これだ!」これをヒントにすれば、A男をなんとか授業に参加させられるのではないか。さっそく、夏休みに入り、教材作りを考えた。テーマは「リズム」。内容は、集中していなければ参加できない「リズム遊び」だ。A男は授業中、注意散漫でなかなか集中して物事を持続できない。だから、体で表現することの楽しさを伝え、具体的にやって見せる。……これが一番説得力がある。そして、A男が集中できれば他のみんなもできる。A男が楽しければみんなも楽しいはずである。

1.3 「山ちゃんの楽しいリズムスクール」誕生!

その結果、考えついたのがこれから紹介する簡単なリズム遊びです。子ども達にとって (大人にとっても同じですが)一番つらいことは、友達から認められなかったり、疎外感を味わうことです。だから、A男が自ら存在感を感じることができる内容にしよう。そう思って作成したリズム遊びが「山ちゃんの楽しいリズムスクール」です。

1.4 「リズム遊び」のポイント

  1. リーダー(指導者)に集中しなければできない
  2. 体験して楽しく、見て楽しめ、誰もが参加できる
  3. 教材を教師白身が理解し楽しめる

これらのポイントをふまえて次のようなリズム遊びを考えました。あまりにも幼稚だと思われるかもしれませんが、読者のみなさんもぜひ試してみて頂きたいと思います。単純なリズム遊びなのにびっくりするくらい子ども達は先生(リーダー)の方に集中します。それは、集中しないと、このリズム遊びに参加できないからです。

具体例1 <ハンカチリズム>(図1)

  • 体(手拍子)で速さを学習する

ハンカチを速く回したら⇒速く手をたたくハンカチを遅く回したら⇒ゆっくり手をたたく

具体例2 <手回しリズム>(図2)

  • 体(手拍子)で音の強さや弱さを学習する

腕全体を回したら⇒ffで手をたたく肘から回したら⇒fで手をたたく手首から回したら⇒pで手をたたく指を回したら⇒ppで手をたたく

具体例3 <手合わせリズム>(図3)

  • 手拍子で集中力を養い、リズムを作る楽しさを味わう

伸ばした両腕が交錯したら手をたたく

これが発展して<まねっこリズム><みなさんリズム>などができました。(以上、「楽しいボディパーカッション①リズムで遊ぼう」(音楽之友社)をご参照下さい)

「リズム遊び」が「リズム学習」につながったこの時、次のようなことを教師が心掛けることにしました。

<言語的なこと>

発問‥できるだけ分かりやすい言葉で問いかける。指示‥具体的に体を使ってお手本を見せる。説明‥言葉は少なく、感覚(五感)で理解できるようにする。

<非言語的なこと>

姿勢‥子どもと同じ感覚と視線で授業をする。動作‥リラックスして心も体も自然体を心掛ける。表情‥できるだけ受容的態度や笑顔を心掛ける。

これらの「リズム遊び」はA男を中心に予想以上に子ども達が喜んでくれました。子ども連は体を使って表現することが楽しく、夢中になっていったようです。そしてそれは、次の「リズム学習」を考えることにつながりました。子ども達が音楽を学習する際に、理論を学習したり楽譜を読んだりすることは、音楽を楽しもうという気持ちにブレーキをかけると考えています。そこで、子ども達が音楽を感覚的にとらえながら音楽の埋論や楽譜を学ぶことができたら素晴らしいのではないかと考えました。そして、この「山ちゃんの楽しいリズムスクール」は以下のようなリズム学習プリントに発展しました。(図4)

また、この学習をする際、A男が集中できるためのポイントとして、次のようなことが挙げられます。

  • 集中できるように15分以内で終わる
  • 「音を楽しむ」を基本に、リズム打ちを動作化して体で表現する
  • 書くことを少なくし、音符が全く読めないことを前提にする

その他のポイントとしては、次のようなこともあります。

  • 音楽的な学習もできるよう、自己評価と感想を書く
  • 他の生徒にも達成感が味わえる教材にする

1.5 一番大切な「教師自ら授業を楽しむ」こと

A男と「リズム遊び」を始めて「リズム学習プリント」終了までに約半年を費やしました。この間にA男は落ち着きを取り戻し、他の教科の授業に対しても参加する姿勢を見せてくれるようになりました。それは、このリズム学習によって「自分が参加できる場」ができ、「周りの子ども達がA男を認めてくれる場(雰囲気)」ができたことも大きな一因ではないでしょうか。

そして「リズム学習プリント」によって他の子ども達も次のような感想を言ってくれました。 「笛を吹くのが簡単になった」「勉強でこんなに楽しいことをしたのは初めて」「音符の長さがわかったので、今度は音の高さ低さを勉強したい」「ピアノを習っているので楽譜の読み方は知っていたが、前よりスムーズに読めるようになった」

予想以上の結果でした。私も楽しめました。そして、同僚の先生方の前でこの授業を公開した時、A男が自然に参加していることに私自身、驚きとともに喜びが沸きあがってきたのを覚えています。

そして、これが「ボディパーカッション」誕生のきっかけになるとは夢にも思いませんで.した。A男からの最大のプレゼントになりました。現在、A男は20代半ばの立派な青年となって働いていることをご報告しておきます。

音楽は感覚が大切です。みなさんも、ぜひ「ハンカチリズム」や「手回しリズム」「手合わせリズム」「まねっこリズム」「みなさんリズム」などを体験されることをお勧めします。体で感じることが一番です。単純なリズム打ちだけでも熱中し、自己表現の喜びにつながります。そして、一番大切なことは『教師自ら授業を楽しむ』ということではないでしょうか。

1.6 プロフィール

山田俊之(やまだ・としゆき)福岡県久留米市立小森野小学校教頭。九州大学大学院人間環境学府教育システム専攻修士課程修了。NPO 法人ボディパーカッション協会理事長。1986 年小学校4 年生を担任し、あるキレル子どもをきっかけに、友達同士でリズムアンサンブルを創り上げる「ボディパーカッション教育」を考案する。その後、小学校、養護学校、聾学校、適応指導教室(不登校施設)、精神科入院病棟でボディパーカッション教育の実践を重ねる。2001 年、2004 年、2006 年、NHK交響楽団第一コンサートマスター篠崎史紀氏との共同企画で、N響トップメンバーと聾学校生徒(聴覚障害)・小中学生によるボディパーカッションの共演を指導、その指揮を勤める。主な著書「ボディパーカッション入門」(音楽之友社)他多数。現在、九州大学大学院博士後期課程で次世代の教育者へ伝えるため「子どものコミュニケーション能力を高めるボディパーカッション教育」をテーマに理論研究を行っている。

参考書籍 「ボディパーカッション入門」(2000、音楽之友社) 「楽しいボディパーカッション①リズムで遊ぼう」(2001、音楽之友社) 「楽しいボディパーカッション②山ちゃんのリズムスクール」(2002、音楽之友社) 「楽しいボディパーカッション③リズムで発表会」(2004、音楽之友社) 「ザ・ボディパーカッション ほかほかパン屋さん」(2007、音楽之友社) 「ザ・ボディパーカッション ケチャ風お茶漬け」(2007、音楽之友社) 「ザ・ボディパーカッション B 級グルメパーティ」(2010、音楽之友社) 「ボディパーカッションdeクラスづくり」(2011、明治図書) 特別支援指導用教材「楽しいボディパーカッション」(2011、音楽之友社)

1.7 引用元

小学館発行「教育技術」誌より引用

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