1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
2 実践内容
大好きなじさまを助けるために医者様まで走った豆太。そんな豆太なのに、じさまが元気になると、そのばんから「じさまぁ」と、しょんべんにじさまを起こしてしまいました。豆太はやっぱりおくびょうなままなのではないでしょうか。
このことについて考えてみました。
豆太はおくびょうなのだろうか?
山の神様のお祭りを見たあとも、豆太は「じさまぁ」と、しょんべんにじさまを起こしています。豆太はやっぱりおくびょうなのでしょうか?(おくびょう・ちがう)
〈おくびょう〉6人 〈ちがう〉5人
と、ちょうど考えが半々になりました。どうしてそう考えるのか意見を出し合いました。
〈おくびょう〉6人
- じさまが元気になってからもしょんべんにじさまを起こしているから。
- 医者様を呼びに行って勇気を出したと思ったら、そのあとまた「じさまぁ」って起こしたから。
- 「そのばんから」豆太は一人で行けないから。
- じさまが助かったから、安心して元に戻った。
〈ちがう〉5人
- 最初はおくびょうだったけれど、最後はちょっとおくびょうが直った。
- モチモチの木の山の神様の祭りを見たから。
- おくびょうに戻ったみたいだけれど、豆太は勇気を隠し持っているかもしれないから。
- 夜「じさまぁ」とじさまを起こすのは、おくびょうだからじゃなくて豆太のくせかもしれない。
- 「医者様を呼ばなくちゃ」と半日もかかるふもとの村までいけたから。
- 一度勇気を出したから、心の中に勇気が残っている。
- 勇気のある子どもしか見られない山の神様の祭りをみることができたから。
この日は途中で時間切れとなってしまいましたが、休み時間にも〈おくびょう〉なのか〈ちがう〉のか、友達同士で討論をしている様子がみられました。翌日にもう一度話し合いました。
討論を深めるためのアドバイス
意見を言うときには、文の中から証拠を見つけて言うと説得力がありますよ。
こう指示すると、文中のいろいろなところから証拠を見つけて発言をし、討論に深まりが見られました。
〈おくびょう〉6人→5人→6人
- 「弱虫でもやさしけりゃ」と書いてあって、豆太は勇気が出たんじゃなくて優しい気持ちがじさまを助けたのだと思う。
- 「人間やさしさがあればやらなきゃならねえことは、きっとやるもんだ」とじさまが言っていて、豆太があるのは勇気じゃなくて優しさ。その優しさがじさまを助けた、と思う。だから豆太はおくびょうなことはおくびょうだと思う。
- 最後の文のところに「それでも」とあるから、豆太は元に戻っちゃったと思う。
〈ちがう〉5人→6人→5人
- おくびょうに戻ったみたいだけれど、豆太は勇気を隠し持っている。
- 豆太は普段は発揮できないパワーがある。いざというときしか出せないパワーがある。だから前と同じようなおくびょうなだけではないと思う。
- 「勇気のある子どもだけ」しか見ることができないとじさまが言っていて、豆太は自分でも勇気があるとわかったから、前とはちがう。
- 豆太は最初山の神様の祭りを見ることをあきらめていた。でも、じさまが最後に「勇気のある子どもだったんだ」と言ってくれて、自分がおくびょうじゃないと思った。
- 豆太は最初「とってもだめだ」と思っていたけれど、灯を見て、自分には勇気があると思うようになった。
豆太は勇気を隠し持っている、豆太があるのは勇気じゃなくて優しさ、という発言は、私の予想を超えたものでした。子どもの思考の深さに驚き感動しました。
また、子どもたちからは、以下のようなつぶやきが起きていました。
- 優しさと勇気は、同じなのかな?
- おくびょうと弱虫とは、同じなのかな?
子どもたちの話を聞いていると、どちらとも説得力があり明確に正解を告げることができなくなってしまいました。以下のように私の考えを話しました。
みんなの話し合いを聞いていると、どちらとも説得力がありはっきり答えを出すことが難しくなってしまいました。どちらかというと私は〈ちがう〉と考えます。
豆太はおくびょうに見えるけれど、それは前と同じようなおくびょうとは違って、心の中に優しさや勇気を秘めています。そのことを豆太自身も気がつきました。
「自分にはいざというときの優しさや勇気がある」と。自分一人でせっちんに行こうと思えば行けるかもしれません。でもわざと甘えて「じさまぁ」と言っているんじゃないかな、と思います。
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
(2015年1月時点のものです)
4 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
5 編集後記
私がこの実践で特に効果的だなと感じたのは、発言の根拠を文中から見つけてくると良い、という先生のアドバイスです。想像ではなくきちんと根拠に基づいた主張をすることで、説得力が増しより伝わりやすくなります。私自身は〈ちがう〉派でしたが、〈おくびょう〉派の「おくびょうだけど優しさがある」という主張に感心させられ、なるほどと感じました。本実践に限らず、様々な場面で応用できる呼びかけだと思います。ぜひ参考になさってみてください。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 内藤かおり)
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